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第9章 未来のために
閑話:里帰り(11)
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side:ウーガ
墓参りに行くと決めた日の朝、集合場所に集まったいつものメンバーは、でも普段とは違う荷物を抱えていた。酒だ。墓に何を持って行くかって考えて、結局は全員が同じことを考えたってこと。よく一緒に飲んだもんね。
「二人とも酔っ払いそうだな」
「良いんじゃね? 父さんたちは酒なんか持って行かないだろうからさ」
ドーガは血が繋がっていないあの人を躊躇いなく「父さん」と呼ぶ。それが羨ましいような、悔しいような、変な気分。前にドーガに直接言ったら「兄貴はガイ兄が好き過ぎるからだ」って言われた。最初はどういう意味なのか判らなかったけど、おっちゃんを「父さん」って呼ぶたびに気持ちがぐちゃぐちゃになるのがガインとの関係を否定してるみたいに思えるからだって気付いた時には笑っちゃったよ。
ガインが死んじゃった後だったから猶更だ。
最初は一目惚れ。
この人だと互いに自覚したら後はなるようになった。
とっくに成人していたし、お互いの愛情に疑いなんてなく、血の繋がりもなかった。自分がソッチ側だってことはそれこそ判っていたから雌雄別の儀を受けるのも当然。
これに関しては性癖次第で当然の権利だから誰も何も言わなかった。
ただ、既に親が婚姻の儀を受けたことで家族になっていたオレとガインが婚姻の儀を受けることは出来なくて、これに関してだけは親も、バルドルたちも、いつも何か言いたそうにしていたっけ。
本人は気にしてなかったんだけどね。
主神様の祝福は終ぞ与えられなかったけど気持ちの上では番だった。
それに婚姻の儀が絶対じゃないのも判ってンだもん。
相手が人族だったとはいえ、主神様の祝福を貰った母親は相手の都合で捨てられたし、番じゃないけど祝福を貰った母親とおっちゃんは毎日楽しいって笑ってる。
久々の里帰りで、両親と妹三人が笑顔で食卓を囲んでいるのを見たばかりだから猶更そう思う。
「ガインとリヒターの墓は隣同士なんだ。家族で話し合ってそうした」
バルドルがクルトに説明している。
どんな規模の町村でも教会の奥に墓地がある。普通は体が埋められるけど二人の墓に埋まっているのは辛うじて残っていた装備品だけだ。
……ああ、なんか湿っぽくなるなぁ。
「ねえねえ、話は変わるけど昨日の夕飯はどうだった? バルドルのお姉さん、強かったっしょ?」
「うちの妹たちもそうだけどこの村の女は強いからなぁ」
ドーガが乗って来てくれる。
察してくれたんだろうな。
クルトは少し困ったように笑う。
「強かったかどうかは判らないかな。昨日はお姉さんの子どもたちがものすごくて」
「あれは酷かった」
バルドルが憎々し気に言う。
これにはエニスも珍しく興味深そう。
「何があった」
「初対面のお客さんがよっぽど珍しかったのか興奮し過ぎてな」
「ああ、普段は近所のおっちゃんおばちゃんばっかりだし?」
「クルトを質問攻めにしたあげく、自分たちの新しい友達だと思い込んだみたいで……注意したら泣き叫ぶわ暴れ回るわ……」
思い出すだけで頭が痛くなったのか、バルドルが額の辺りを抑えて眉間に深い皺を作った。
「そりゃ大変だったな」
「さすがの姉貴も恐縮しっ放しだったんでまぁ……あぁでも子ども叱り飛ばしてたからどれだけ怖いかはクルトにも伝わったかな」
「ふはっ。それはそれで」
「緊張する間も無かったから助かったよ」
クルトが苦笑交じりにそんな感想を言うから俺たちも笑うしかない。
なんにせよクルトとバルドルの家族との顔合わせが済んで笑っていられるってことは上々の結果だったってことで仲間としても喜んでいいことだ。
「じゃあ次はバルドルがクルトの家族に挨拶だね」
「ああ」
「行くの、インセクツ大陸」
「いや。クルトの家族が次の界渡りの祝日にトゥルヌソルまで来てくれることになってる」
「まじで!」
聞けばクルトから手紙で知らせて、移動費も滞在費も全部こっちで持つからって相談したところ是非にと返信があったそうだ。
「反対はされなかったんだ?」
「手紙ではな」
「あははっ、次は緊張しまくるバルドルが見れるんだ!」
「喜ぶな」
「だって面白いに決まってんじゃん」
これはガインとリヒターにも報告しなきゃ、って。そう思ったら少しだけ足が軽くなった。
左右に並び、ガインとリヒターの名前が刻まれた二つの石碑が、二人の墓標。ここに埋められている人はみんなお揃い。周りは雑草が無造作に生えているけどお参りに来る人が多い墓は、その周囲だけ綺麗に整えられているんで、違いがはっきりと見て判るようになっている。
うちの場合は身内だけじゃなくバルドルやエニスの家族も頻繁に来てくれているから雑草が刈られているだけじゃなくキレイな花まで咲いていた。
それを見て「退屈はしてなさそうだな」って笑ったバルドルが、正面に立つ。
クルトはその横。
俺。
バルドルの反対隣にはエニス、そしてドーガ。
「誰の酒からいく?」
「リーダーを継いだバルドルだろ」
「良いの持って来たんじゃないの?」
「あいつらが好きだった安酒だ」
言いながら、二人の墓碑に酒を掛ける。
「……しばらく顔見せに来れなくて悪かったな。だが、なったぞ金級」
「ちょっとズルした感じだけどね」
「な」
ドーガと二人で突っ込んだら笑いが広がる。
バルドルも苦笑交じりに続けた。
「事情はどうあれ正式な金級だ。おかげであの頃には想像もつかなかったような毎日だ……それに今日は紹介したい人がいる。番のクルトだ」
「クルトといいます。初めまして」
「バルドルがベタ惚れしてる」
「そうそう、バルドルって後追いしちゃうタイプだったんだよー」
「ちょっと黙ってろ!」
横から口を挟んだら怒られた。
でも照れ隠しだって丸判りだから笑うよね。
酒を掛けながら話し掛ける。
乾いたら違う酒を。
本当はもう一人仲間がいるんだ。
レンて言って、主神様の伴侶。しかも実は異世界から来たんだって。いろいろ規格外過ぎて振り回されていることも多いけど、毎日楽しい。
その繋がりでレイナルドパーティや、グランツェパーティと共闘することになった。
ここで予定を終えたら金級ダンジョン「セーズ」の初踏破を目指すんだ。
ドーガは好きな子が出来たよ。
オレはもふもふの抱き枕を手に入れて毎晩安眠……ほどではないけど、まぁ一人でも眠れるようになったかな。昨夜はまたドーガに巻き付いたけど。
オセアン大陸に行った。
マーヘ大陸にも行って来た。ついでに大陸一つ制圧して来ちゃった。
あ、ちなみにいまプラーントゥ大陸には獄鬼が出ないんだよ、レンの影響で。規格外も極まってるよね。
ガイン。
リヒター。
もし二人がいたら。
いまも一緒に冒険していたら、どんなだったかな。
酒がなくなるまで、……最後の酒が乾くまで、たくさん話した。
話しても話しても言いたいことは尽きなくて。
ガイン
ガイン
もし今もあんたが生きてたら――。
墓参りに行くと決めた日の朝、集合場所に集まったいつものメンバーは、でも普段とは違う荷物を抱えていた。酒だ。墓に何を持って行くかって考えて、結局は全員が同じことを考えたってこと。よく一緒に飲んだもんね。
「二人とも酔っ払いそうだな」
「良いんじゃね? 父さんたちは酒なんか持って行かないだろうからさ」
ドーガは血が繋がっていないあの人を躊躇いなく「父さん」と呼ぶ。それが羨ましいような、悔しいような、変な気分。前にドーガに直接言ったら「兄貴はガイ兄が好き過ぎるからだ」って言われた。最初はどういう意味なのか判らなかったけど、おっちゃんを「父さん」って呼ぶたびに気持ちがぐちゃぐちゃになるのがガインとの関係を否定してるみたいに思えるからだって気付いた時には笑っちゃったよ。
ガインが死んじゃった後だったから猶更だ。
最初は一目惚れ。
この人だと互いに自覚したら後はなるようになった。
とっくに成人していたし、お互いの愛情に疑いなんてなく、血の繋がりもなかった。自分がソッチ側だってことはそれこそ判っていたから雌雄別の儀を受けるのも当然。
これに関しては性癖次第で当然の権利だから誰も何も言わなかった。
ただ、既に親が婚姻の儀を受けたことで家族になっていたオレとガインが婚姻の儀を受けることは出来なくて、これに関してだけは親も、バルドルたちも、いつも何か言いたそうにしていたっけ。
本人は気にしてなかったんだけどね。
主神様の祝福は終ぞ与えられなかったけど気持ちの上では番だった。
それに婚姻の儀が絶対じゃないのも判ってンだもん。
相手が人族だったとはいえ、主神様の祝福を貰った母親は相手の都合で捨てられたし、番じゃないけど祝福を貰った母親とおっちゃんは毎日楽しいって笑ってる。
久々の里帰りで、両親と妹三人が笑顔で食卓を囲んでいるのを見たばかりだから猶更そう思う。
「ガインとリヒターの墓は隣同士なんだ。家族で話し合ってそうした」
バルドルがクルトに説明している。
どんな規模の町村でも教会の奥に墓地がある。普通は体が埋められるけど二人の墓に埋まっているのは辛うじて残っていた装備品だけだ。
……ああ、なんか湿っぽくなるなぁ。
「ねえねえ、話は変わるけど昨日の夕飯はどうだった? バルドルのお姉さん、強かったっしょ?」
「うちの妹たちもそうだけどこの村の女は強いからなぁ」
ドーガが乗って来てくれる。
察してくれたんだろうな。
クルトは少し困ったように笑う。
「強かったかどうかは判らないかな。昨日はお姉さんの子どもたちがものすごくて」
「あれは酷かった」
バルドルが憎々し気に言う。
これにはエニスも珍しく興味深そう。
「何があった」
「初対面のお客さんがよっぽど珍しかったのか興奮し過ぎてな」
「ああ、普段は近所のおっちゃんおばちゃんばっかりだし?」
「クルトを質問攻めにしたあげく、自分たちの新しい友達だと思い込んだみたいで……注意したら泣き叫ぶわ暴れ回るわ……」
思い出すだけで頭が痛くなったのか、バルドルが額の辺りを抑えて眉間に深い皺を作った。
「そりゃ大変だったな」
「さすがの姉貴も恐縮しっ放しだったんでまぁ……あぁでも子ども叱り飛ばしてたからどれだけ怖いかはクルトにも伝わったかな」
「ふはっ。それはそれで」
「緊張する間も無かったから助かったよ」
クルトが苦笑交じりにそんな感想を言うから俺たちも笑うしかない。
なんにせよクルトとバルドルの家族との顔合わせが済んで笑っていられるってことは上々の結果だったってことで仲間としても喜んでいいことだ。
「じゃあ次はバルドルがクルトの家族に挨拶だね」
「ああ」
「行くの、インセクツ大陸」
「いや。クルトの家族が次の界渡りの祝日にトゥルヌソルまで来てくれることになってる」
「まじで!」
聞けばクルトから手紙で知らせて、移動費も滞在費も全部こっちで持つからって相談したところ是非にと返信があったそうだ。
「反対はされなかったんだ?」
「手紙ではな」
「あははっ、次は緊張しまくるバルドルが見れるんだ!」
「喜ぶな」
「だって面白いに決まってんじゃん」
これはガインとリヒターにも報告しなきゃ、って。そう思ったら少しだけ足が軽くなった。
左右に並び、ガインとリヒターの名前が刻まれた二つの石碑が、二人の墓標。ここに埋められている人はみんなお揃い。周りは雑草が無造作に生えているけどお参りに来る人が多い墓は、その周囲だけ綺麗に整えられているんで、違いがはっきりと見て判るようになっている。
うちの場合は身内だけじゃなくバルドルやエニスの家族も頻繁に来てくれているから雑草が刈られているだけじゃなくキレイな花まで咲いていた。
それを見て「退屈はしてなさそうだな」って笑ったバルドルが、正面に立つ。
クルトはその横。
俺。
バルドルの反対隣にはエニス、そしてドーガ。
「誰の酒からいく?」
「リーダーを継いだバルドルだろ」
「良いの持って来たんじゃないの?」
「あいつらが好きだった安酒だ」
言いながら、二人の墓碑に酒を掛ける。
「……しばらく顔見せに来れなくて悪かったな。だが、なったぞ金級」
「ちょっとズルした感じだけどね」
「な」
ドーガと二人で突っ込んだら笑いが広がる。
バルドルも苦笑交じりに続けた。
「事情はどうあれ正式な金級だ。おかげであの頃には想像もつかなかったような毎日だ……それに今日は紹介したい人がいる。番のクルトだ」
「クルトといいます。初めまして」
「バルドルがベタ惚れしてる」
「そうそう、バルドルって後追いしちゃうタイプだったんだよー」
「ちょっと黙ってろ!」
横から口を挟んだら怒られた。
でも照れ隠しだって丸判りだから笑うよね。
酒を掛けながら話し掛ける。
乾いたら違う酒を。
本当はもう一人仲間がいるんだ。
レンて言って、主神様の伴侶。しかも実は異世界から来たんだって。いろいろ規格外過ぎて振り回されていることも多いけど、毎日楽しい。
その繋がりでレイナルドパーティや、グランツェパーティと共闘することになった。
ここで予定を終えたら金級ダンジョン「セーズ」の初踏破を目指すんだ。
ドーガは好きな子が出来たよ。
オレはもふもふの抱き枕を手に入れて毎晩安眠……ほどではないけど、まぁ一人でも眠れるようになったかな。昨夜はまたドーガに巻き付いたけど。
オセアン大陸に行った。
マーヘ大陸にも行って来た。ついでに大陸一つ制圧して来ちゃった。
あ、ちなみにいまプラーントゥ大陸には獄鬼が出ないんだよ、レンの影響で。規格外も極まってるよね。
ガイン。
リヒター。
もし二人がいたら。
いまも一緒に冒険していたら、どんなだったかな。
酒がなくなるまで、……最後の酒が乾くまで、たくさん話した。
話しても話しても言いたいことは尽きなくて。
ガイン
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もし今もあんたが生きてたら――。
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