307 / 335
第9章 未来のために
閑話:里帰り(1)
しおりを挟む
side:バルドル
「え、セルリーさんもダンジョン?」
ウーガの驚いた声に、見た目からは実年齢など想像も出来ない歴戦の僧侶が頷いている。
「あなた達の実家に私が行く理由がないし、レン、ヒユナと一緒に居た方が教えられることもあるし」
「えええ」
「なによ、そんなに私と一緒にいたいの?」
「だってクルトはバルドルのところに行くし、レンはいないし、セルリーさんがいればうちもお客さん招けて楽しかったのにさぁ……ドーガ、ちょっと気張ってヒユナちゃんにお嫁さんになっふがっ」
「何言ってんだクソ兄貴!」
弟に口を塞がれたウーガが苦しそうにふがふが言っている。
いまのは自業自得なんでスルーだ。
こっちはこっちで、ギルドから派遣されている監視員、モーリパーティ、それからいま合流したばかりのグランツェパーティとダンジョンの報告をしているところだしな。
「……魔物が群れで襲ってくるという報告が増えていますね」
「そんなにか?」
「ええ。金級冒険者は思慮深い方が多いので幸い死亡者は出ていませんが」
ちらりと視線を送られたモーリが気まずそうに視線を逸らした。
第13階層まで来ていて、進むか戻るかの選択を迫られれば第15階層まで進むことを選ぶのは当然だが、俺たちの到着が遅れていたら全員が意識のないまま魔物の餌になっていた未来も有り得たんだ。ここにいる間はチクチク言われても仕方がないと諦めるしかない。
「入場の際に最低人数を設けた方が良いかもしれないな」
「トゥルヌソルに持ち帰って検討します。……グランツェパーティはこの後、入場されるんですか?」
「ああ。俺たちは……僧侶3人が同行してくれるから」
「安定性抜群だ」
苦笑交じりに応えるグランツェに、今日まで僧侶3人と攻略していた俺からも一言。
更に二頭の魔豹と、トラントゥトロワのボスだった白梟もいる。レイナルドたちとの合流は8の月、28日だ。残り30日。……30階層まで到達しておくのはさすがに無理そうだな。
トゥルヌソルに戻るというモーリパーティと別れ、グランツェパーティがダンジョンへの入場手続きを終えた後は身内の話になる。
「俺たちのためにかなり無理をさせただろう。ありがとう」
「いや。大きな声では言えないがレンのおかげで魔物との交戦を最小限に抑えられたんで無理なんてことはなかったぞ」
「そうそう、遠足してる気分だったし」
ウーガが言って、皆が笑う。
「レンのおかげってことはまた何かしたのか?」
「その言い方はどうかと思います!」
グランツェに、レンが噛みつく。
だが他の連中は楽し気だ。
「中に入ってからゆっくり説明してあげるわ」
「ですね。あと、道案内は私たちに任せてください」
「頼もしいな」
セルリー、ヒユナ、モーガン。
「バルドルたちはこれから里帰りか」
オクティバ。
「ああ。あまり長居するつもりはないから、2週間くらいで向こうを出たら此処に戻って、グランツェたちが15階層に着くまで14階層を拠点に魔物狩りしていようかと思ってる」
「へえ。そりゃいい」
エニス、ディゼル。
更にセルリーの目が輝いている。
「あらあら、それなら14階層を開拓しておいてちょうだい。14はレイナルド達が順調に当たりを引いたから他の場所はほぼ未調査なのよ」
「え。それって未発見の鉱脈や、開いてない宝箱があるかもしれないってこと⁈」
「そうよ、やる気出るでしょ?」
「出る出る!」
ウーガとセルリーが子どもみたいにはしゃぐのを見て、また乗せられてるなぁと呆れていたら、隣でクルト。
「宝探しってわくわくするよね……!」
「ああ」
即答。
するとエニスから白い目で見られた。
視線がうるさいと思ったのは初めてである。
ヒユナが戻ったバルドルパーティと、セルリー、レン、魔豹たちが滝つぼに飛び込むのを見送ってから俺たちも移動を始める。
モーリパーティが向かったトゥルヌソルとは反対側、更に山を登る方の道だ。
「実家かぁ……実家なぁ。みんな元気かな」
「何も知らせがないんだから元気なんじゃね?」
言い合う兄弟の家族は両親と妹が3人。
うちは両親と、年齢の離れた既婚の姉が近所に住んでいる。旦那と娘2人、息子1人だったか。俺にとっては姪っ子と甥っ子だ。
エニスの家には、いまは両親だけだったはず。姉が4人いるが全員婚姻の儀を受けた相手のところに移住し、大陸のあちこちに散っていると聞いた。
「帰ったら、とりあえず2、3日はゆっくりして……地元のギルドで何かしら依頼を受けるか?」
「だねぇ。たまの里帰りだし困りごとがあるなら手伝お」
それがいいと盛り上がる仲間たちから、隣を歩くクルトに視線を移す。
楽しそうに見えて、いつもより口数が少ない。
「もしかして緊張しているか?」
「……そりゃあ、ね」
少し強張った笑い方も可愛い。
が、こういうところでそう伝えたら怒られるので叫ぶのは心の中だけにしておく。
緊張するなと言っても無理だろうし、俺が大丈夫だと伝えても気休めでしかないのは判る。うちの両親なら俺が婚姻の儀を受けると報告するだけで大喜びしそうだが、実際に会ってみないとな。
「クルトならすぐに気に入られると思う」
「そうかな……」
「ん。けど少しでも家に居辛いと思ったら外に宿取っても良いし、遠慮したり気を遣ったりはするなよ。俺たちは家族になるんだから」
伝えたら、クルトは僅かに目を瞠った後で嬉しそうに笑ってくれた。
うん。
おまえが笑顔でいてくれたら、俺はそれで充分だ。
「え、セルリーさんもダンジョン?」
ウーガの驚いた声に、見た目からは実年齢など想像も出来ない歴戦の僧侶が頷いている。
「あなた達の実家に私が行く理由がないし、レン、ヒユナと一緒に居た方が教えられることもあるし」
「えええ」
「なによ、そんなに私と一緒にいたいの?」
「だってクルトはバルドルのところに行くし、レンはいないし、セルリーさんがいればうちもお客さん招けて楽しかったのにさぁ……ドーガ、ちょっと気張ってヒユナちゃんにお嫁さんになっふがっ」
「何言ってんだクソ兄貴!」
弟に口を塞がれたウーガが苦しそうにふがふが言っている。
いまのは自業自得なんでスルーだ。
こっちはこっちで、ギルドから派遣されている監視員、モーリパーティ、それからいま合流したばかりのグランツェパーティとダンジョンの報告をしているところだしな。
「……魔物が群れで襲ってくるという報告が増えていますね」
「そんなにか?」
「ええ。金級冒険者は思慮深い方が多いので幸い死亡者は出ていませんが」
ちらりと視線を送られたモーリが気まずそうに視線を逸らした。
第13階層まで来ていて、進むか戻るかの選択を迫られれば第15階層まで進むことを選ぶのは当然だが、俺たちの到着が遅れていたら全員が意識のないまま魔物の餌になっていた未来も有り得たんだ。ここにいる間はチクチク言われても仕方がないと諦めるしかない。
「入場の際に最低人数を設けた方が良いかもしれないな」
「トゥルヌソルに持ち帰って検討します。……グランツェパーティはこの後、入場されるんですか?」
「ああ。俺たちは……僧侶3人が同行してくれるから」
「安定性抜群だ」
苦笑交じりに応えるグランツェに、今日まで僧侶3人と攻略していた俺からも一言。
更に二頭の魔豹と、トラントゥトロワのボスだった白梟もいる。レイナルドたちとの合流は8の月、28日だ。残り30日。……30階層まで到達しておくのはさすがに無理そうだな。
トゥルヌソルに戻るというモーリパーティと別れ、グランツェパーティがダンジョンへの入場手続きを終えた後は身内の話になる。
「俺たちのためにかなり無理をさせただろう。ありがとう」
「いや。大きな声では言えないがレンのおかげで魔物との交戦を最小限に抑えられたんで無理なんてことはなかったぞ」
「そうそう、遠足してる気分だったし」
ウーガが言って、皆が笑う。
「レンのおかげってことはまた何かしたのか?」
「その言い方はどうかと思います!」
グランツェに、レンが噛みつく。
だが他の連中は楽し気だ。
「中に入ってからゆっくり説明してあげるわ」
「ですね。あと、道案内は私たちに任せてください」
「頼もしいな」
セルリー、ヒユナ、モーガン。
「バルドルたちはこれから里帰りか」
オクティバ。
「ああ。あまり長居するつもりはないから、2週間くらいで向こうを出たら此処に戻って、グランツェたちが15階層に着くまで14階層を拠点に魔物狩りしていようかと思ってる」
「へえ。そりゃいい」
エニス、ディゼル。
更にセルリーの目が輝いている。
「あらあら、それなら14階層を開拓しておいてちょうだい。14はレイナルド達が順調に当たりを引いたから他の場所はほぼ未調査なのよ」
「え。それって未発見の鉱脈や、開いてない宝箱があるかもしれないってこと⁈」
「そうよ、やる気出るでしょ?」
「出る出る!」
ウーガとセルリーが子どもみたいにはしゃぐのを見て、また乗せられてるなぁと呆れていたら、隣でクルト。
「宝探しってわくわくするよね……!」
「ああ」
即答。
するとエニスから白い目で見られた。
視線がうるさいと思ったのは初めてである。
ヒユナが戻ったバルドルパーティと、セルリー、レン、魔豹たちが滝つぼに飛び込むのを見送ってから俺たちも移動を始める。
モーリパーティが向かったトゥルヌソルとは反対側、更に山を登る方の道だ。
「実家かぁ……実家なぁ。みんな元気かな」
「何も知らせがないんだから元気なんじゃね?」
言い合う兄弟の家族は両親と妹が3人。
うちは両親と、年齢の離れた既婚の姉が近所に住んでいる。旦那と娘2人、息子1人だったか。俺にとっては姪っ子と甥っ子だ。
エニスの家には、いまは両親だけだったはず。姉が4人いるが全員婚姻の儀を受けた相手のところに移住し、大陸のあちこちに散っていると聞いた。
「帰ったら、とりあえず2、3日はゆっくりして……地元のギルドで何かしら依頼を受けるか?」
「だねぇ。たまの里帰りだし困りごとがあるなら手伝お」
それがいいと盛り上がる仲間たちから、隣を歩くクルトに視線を移す。
楽しそうに見えて、いつもより口数が少ない。
「もしかして緊張しているか?」
「……そりゃあ、ね」
少し強張った笑い方も可愛い。
が、こういうところでそう伝えたら怒られるので叫ぶのは心の中だけにしておく。
緊張するなと言っても無理だろうし、俺が大丈夫だと伝えても気休めでしかないのは判る。うちの両親なら俺が婚姻の儀を受けると報告するだけで大喜びしそうだが、実際に会ってみないとな。
「クルトならすぐに気に入られると思う」
「そうかな……」
「ん。けど少しでも家に居辛いと思ったら外に宿取っても良いし、遠慮したり気を遣ったりはするなよ。俺たちは家族になるんだから」
伝えたら、クルトは僅かに目を瞠った後で嬉しそうに笑ってくれた。
うん。
おまえが笑顔でいてくれたら、俺はそれで充分だ。
62
お気に入りに追加
561
あなたにおすすめの小説
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
地味顔陰キャな俺。異世界で公爵サマに拾われ、でろでろに甘やかされる
冷凍湖
BL
人生だめだめな陰キャくんがありがちな展開で異世界にトリップしてしまい、公爵サマに拾われてめちゃくちゃ甘やかされるウルトラハッピーエンド
アルファポリスさんに登録させてもらって、異世界がめっちゃ流行ってることを知り、びっくりしつつも書きたくなったので、勢いのまま書いてみることにしました。
他の話と違って書き溜めてないので更新頻度が自分でも読めませんが、とにかくハッピーエンドになります。します!
6/3
ふわっふわな話の流れしか考えずに書き始めたので、サイレント修正する場合があります。
公爵サマ要素全然出てこなくて自分でも、んん?って感じです(笑)。でもちゃんと公爵ですので、公爵っぽさが出てくるまでは、「あー、公爵なんだなあー」と広い心で見ていただけると嬉しいです、すみません……!
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる