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第9章 未来のために
閑話:モーリパーティの絶望と救い
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side:モーリ
終わった、と思った。
金級ダンジョン、セーズへの2度目の挑戦。前回は申告していた日数を過ぎて捜索隊が派遣され、彼らとともに15階層まで移動しての、脱出。
当然ながら魔力登録は出来ず、俺たちは失敗という結果に終わってしまった。
だからこそ当時の失敗や不足を懸命に補い満を持しての2度目の挑戦だったというのに、また俺たちは失敗した。前回に比べれば確かに順調だったし魔物に後れを取ることもなかったのだが、荷物の一つを魔物に持っていかれてしまったことで予定が狂ったんだ。
ダンジョンの森で取れる木の実や野草、果実、キノコなんかも仲間内で分担して学んだし、ドロップする魔物肉の調理方法も、わざわざ銀級ダンジョンで現地調達して特訓した。ただ、調理に関しては仲間全員センスがなかった。どう頑張っても、調味料を工夫しても、苦く仕上がって食べられるものにならないのだ。
野営の環境も少しでも良くなればと試行錯誤したものだ。
だというのに、5日分の食料を入れていた荷物を魔物に持っていかれた。
食料を節約するために森で採取をしたが、そこで毒にあたった。付け焼き刃の知識では完全に見分けられないと反省する良い機会になったが、全員で腹を下して大惨事。本当にひどかった。
また同じ目に遭うよりは、と。
第1階層に戻るより第15階層を目指す方が掛かる日数が短かったこともあり苦味に耐えながら魔物肉で食い繋ぎ、水だけを頼りにしながら第13階層まで進んだが、そこで厄介な魔物と遭遇した。
安らかなる眠りを与える蝶だ。
両羽の波模様が獲物を催眠状態にするという、見た目以上に厄介な生態だが、心身ともに健全であればそれほど脅威ではない。
問題は、俺たちの状態が健全ではなかったことだ。
群がった連中が羽を動かすたびに波模様が視界でぐわんぐわんと動き意識が刈り取られそうになる。
もうダメだと思った。
しかし魔物が急に何かに怯えた様子を見せたと思ったら一斉に逃げ出した。助かったと思うと同時、仲間を隠さなければ、と。
テントが無理なら、せめて草原に埋もれていれば魔物の目から逃げることが出来るはず――そう考えたのは確かだが、結局は自分も気を失ってしまった。
後で聞いた話、バルドルパーティが俺たちを保護してくれたのはそのすぐ後だ。
幸運だったという他なかった。
目を覚ましたとき、辺りは真っ暗で自分がどこにいるかも判らなかったが、すぐ隣から人の息遣いを感じ、それがパーティの仲間のものだと確認して頭が真っ白になった。
嬉しいなんて可愛い感情ではない。
真っ先に襲って来たのは驚愕という名の衝撃。
生きていることに、ただ、ただ、驚いた。
現状が信じられずに辺りを警戒してみれば離れた場所から人の話し声がした。
自分たちがテントに寝かされていたことに再び驚きながら四つん這いになって出入り口から外を覗くと、まず巨大な獣が目に入って、ヒュッと喉が鳴った。
けれど笑い声がするし、他の仲間がどこにいるかも不安だったから、意を決して外へ出た。
立ち上がろうとして、初めて自分の足腰に力が入らないことに気付いて転ぶ。
その物音で彼らが反応した。
「起きたの?」
「っ……」
「あぁ驚かせたならごめんなさいね。僧侶のセルリーよ。拠点はトゥルヌソル。よろしくね」
「そう、りょ」
「ええ。体調はどう?」
「お腹空いてるならスープ飲む? お粥って言うのもあるけどー」
緊張感のない声は弓術師のウーガと後に名乗られた青年だった。
仲間が無事だったこと。
全員が救われて、休ませてもらってること。
そして温かで美味しいスープで腹が満たされたことによりまた眠くなってしまった俺は、話は次に目を覚ました時に……という彼らの言葉に甘えたのだ。
次に目を覚ましたのは仲間の「美味ぇ!」という泣き叫ぶ声が聞こえたからだ。
その後の展開は俺たちには信じられないものだったが、セルリーの弟子だという僧侶レンと、剣士エニスが、真っ白な魔豹に騎乗して第15階層まで進み、これから派遣されるだろう俺たちの捜索隊を止めて来るという。
そしてこれは実現し、翌日の夕方に戻って来たエニス、レンから、体調が戻り次第、一緒に第15階層に向かおうと誘いを受けた。
いろいろ切羽詰まっていた俺たちはありがたくその申し出を受け入れ、7の月下旬、金級ダンジョン「セーズ」の第一関門を突破したのだった。
突破はしたが、正直な感想を言えば不完全燃焼というか、俺たちパーティは素直に喜べない。
バルドルパーティに助けてもらわなければ第13階層で死んでいただろうし、……彼らは自分たちに遭遇した幸運も実力の内だなんて笑っていたが、俺たちがその言葉に甘えるのは違う。
第二関門……第30階層を目指すのは当分先になりそうだ。
まずは同行している間にレンが教えてくれた魔物肉の美味しい調理方法を自分のものにするところから始めなければならないし、それ以上に、神がかった効果を齎したという上級の体力回復薬含む諸々の支払いを頑張らなければならないからな!
終わった、と思った。
金級ダンジョン、セーズへの2度目の挑戦。前回は申告していた日数を過ぎて捜索隊が派遣され、彼らとともに15階層まで移動しての、脱出。
当然ながら魔力登録は出来ず、俺たちは失敗という結果に終わってしまった。
だからこそ当時の失敗や不足を懸命に補い満を持しての2度目の挑戦だったというのに、また俺たちは失敗した。前回に比べれば確かに順調だったし魔物に後れを取ることもなかったのだが、荷物の一つを魔物に持っていかれてしまったことで予定が狂ったんだ。
ダンジョンの森で取れる木の実や野草、果実、キノコなんかも仲間内で分担して学んだし、ドロップする魔物肉の調理方法も、わざわざ銀級ダンジョンで現地調達して特訓した。ただ、調理に関しては仲間全員センスがなかった。どう頑張っても、調味料を工夫しても、苦く仕上がって食べられるものにならないのだ。
野営の環境も少しでも良くなればと試行錯誤したものだ。
だというのに、5日分の食料を入れていた荷物を魔物に持っていかれた。
食料を節約するために森で採取をしたが、そこで毒にあたった。付け焼き刃の知識では完全に見分けられないと反省する良い機会になったが、全員で腹を下して大惨事。本当にひどかった。
また同じ目に遭うよりは、と。
第1階層に戻るより第15階層を目指す方が掛かる日数が短かったこともあり苦味に耐えながら魔物肉で食い繋ぎ、水だけを頼りにしながら第13階層まで進んだが、そこで厄介な魔物と遭遇した。
安らかなる眠りを与える蝶だ。
両羽の波模様が獲物を催眠状態にするという、見た目以上に厄介な生態だが、心身ともに健全であればそれほど脅威ではない。
問題は、俺たちの状態が健全ではなかったことだ。
群がった連中が羽を動かすたびに波模様が視界でぐわんぐわんと動き意識が刈り取られそうになる。
もうダメだと思った。
しかし魔物が急に何かに怯えた様子を見せたと思ったら一斉に逃げ出した。助かったと思うと同時、仲間を隠さなければ、と。
テントが無理なら、せめて草原に埋もれていれば魔物の目から逃げることが出来るはず――そう考えたのは確かだが、結局は自分も気を失ってしまった。
後で聞いた話、バルドルパーティが俺たちを保護してくれたのはそのすぐ後だ。
幸運だったという他なかった。
目を覚ましたとき、辺りは真っ暗で自分がどこにいるかも判らなかったが、すぐ隣から人の息遣いを感じ、それがパーティの仲間のものだと確認して頭が真っ白になった。
嬉しいなんて可愛い感情ではない。
真っ先に襲って来たのは驚愕という名の衝撃。
生きていることに、ただ、ただ、驚いた。
現状が信じられずに辺りを警戒してみれば離れた場所から人の話し声がした。
自分たちがテントに寝かされていたことに再び驚きながら四つん這いになって出入り口から外を覗くと、まず巨大な獣が目に入って、ヒュッと喉が鳴った。
けれど笑い声がするし、他の仲間がどこにいるかも不安だったから、意を決して外へ出た。
立ち上がろうとして、初めて自分の足腰に力が入らないことに気付いて転ぶ。
その物音で彼らが反応した。
「起きたの?」
「っ……」
「あぁ驚かせたならごめんなさいね。僧侶のセルリーよ。拠点はトゥルヌソル。よろしくね」
「そう、りょ」
「ええ。体調はどう?」
「お腹空いてるならスープ飲む? お粥って言うのもあるけどー」
緊張感のない声は弓術師のウーガと後に名乗られた青年だった。
仲間が無事だったこと。
全員が救われて、休ませてもらってること。
そして温かで美味しいスープで腹が満たされたことによりまた眠くなってしまった俺は、話は次に目を覚ました時に……という彼らの言葉に甘えたのだ。
次に目を覚ましたのは仲間の「美味ぇ!」という泣き叫ぶ声が聞こえたからだ。
その後の展開は俺たちには信じられないものだったが、セルリーの弟子だという僧侶レンと、剣士エニスが、真っ白な魔豹に騎乗して第15階層まで進み、これから派遣されるだろう俺たちの捜索隊を止めて来るという。
そしてこれは実現し、翌日の夕方に戻って来たエニス、レンから、体調が戻り次第、一緒に第15階層に向かおうと誘いを受けた。
いろいろ切羽詰まっていた俺たちはありがたくその申し出を受け入れ、7の月下旬、金級ダンジョン「セーズ」の第一関門を突破したのだった。
突破はしたが、正直な感想を言えば不完全燃焼というか、俺たちパーティは素直に喜べない。
バルドルパーティに助けてもらわなければ第13階層で死んでいただろうし、……彼らは自分たちに遭遇した幸運も実力の内だなんて笑っていたが、俺たちがその言葉に甘えるのは違う。
第二関門……第30階層を目指すのは当分先になりそうだ。
まずは同行している間にレンが教えてくれた魔物肉の美味しい調理方法を自分のものにするところから始めなければならないし、それ以上に、神がかった効果を齎したという上級の体力回復薬含む諸々の支払いを頑張らなければならないからな!
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