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第9章 未来のために
276.セーズ(13)
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結局、保護した6人がどこの誰か判らないまま寝る時間になってしまい、普段は食事当番の関係で俺が一番最初に夜の見張りにつくところバルドルさんとドーガさん、それからヒユナさんが付くことになった。
その次がエニスさん、ウーガさん、そして師匠。
最後、朝食の準備を兼ねて俺とクルトさん。
そして今日に限っては神力80%で巨大化した風神、雷神、チルルが見張り担当の人とずっと一緒にいることになった。念のため、というやつだ。
神力を漂わせておけば魔物が来ないし、まだ見ず知らずの成人男性、しかも金級冒険者6人が敵でないとは言い切れないからね。
――そんな感じに結構警戒を強めていたんだけど、俺とクルトさんが交代で起きて来たときも6人は眠ったままだった。
師匠曰く、一人だけ目を覚ましたのでお粥を食べさせたけど、その後また寝てしまった、と。
お礼と、謝罪と、自分がパーティリーダーのモーリだという名乗りはあったらしく、どの人か確認したら、恐らく全員を引き摺って道の上から運んでいたんだろう、仲間の下敷きになって気を失っていた人物だった。
「引き摺ったのはたぶん仲間を守ろうとしたからだろうし、お礼も謝罪もあったなら、たぶん悪い人たちじゃないよ」
「ですね」
クルトさんに同意して、彼の好みに合わせたホットカフェラテを差し出した。
風神、雷神、チルルには神力多めの魔力を。
保護した6人はその後も眠ったままだったが、風神たちのおかげで魔物も近付いて来ることもなく、久々にクルトさんと二人で過ごす時間はものすごく楽しかった。
「バルドルさんと結婚しても引っ越したりしませんか?」
「いまのところその予定はないよ。レイナルドさんにも許可貰ったし」
「良かった! あ、良かったって言ったらダメなのかな……?」
「ふふっ。全然。バルはウーガ達のことが心配で目を離せないって言うし、俺もまだまだ冒険したい」
「冒険! しましょうね!」
新しい約束に浮かれている間にも空はだんだん白んできて朝の訪れを知らせる。
「そろそろ朝ごはんの準備します。鍋を運ぶの手伝ってください」
「ん、任せて」
焚き火の火力を少し強めて、トライポッドに吊るす鍋には外から持ち込んでいるカット済み野菜と、ブイヨン、それから森で取れる果実なんだけど食感が豆腐みたいで、栄養価も高いそれを一口サイズに切って投入、あとは煮込むだけ。
パンは真ん中に切れ目を入れたコッペパンみたいなやつで、昨日採取したハーブや葉物、果物はクルトさんが手で千切ったり皮を剥いたりして皿に。
俺はキノコ、肉をそれぞれ別に焼いて、同じく更に盛っていく。
後は食べたい具を自分でパンに挟んでもらうという、いつものスタイルだ。
保護した人たちもそろそろ目を覚ますだろうからお粥も温め直し。
匂いに誘われたのか、それともクルトさんが心配だったか、普段より早いタイミングでバルドルさんが起きて来る。
「おはよ」
「おはようございます、ちゃんと眠れましたか?」
「ああ、まぁ……」
嘘ですね、完全な寝不足顔です。
クルトさんもそれが判ったみたいで苦笑している。
「休める時にちゃんと休まないと」
「……ん」
聞いているのかどうか、クルトさんに抱き着いてスリスリしているバルドルさん。
俺は顔がニヤニヤしてしまいそうだけど心配するのも無理ないので、必死で顔の筋肉を固めていた。
と、そこに。
「……美味しそうな匂いするし……カワイ子ちゃんもいるのに……超強ぇオスの匂い付けてる……ここは主神様の御許じゃない……真っ白い魔物まで……俺は主神様の御許に還れなかったのか……」
「へ?」
前半はともかく後半の意味がさっぱり理解出来ないことを声に出しながら、テントの入口で四つん這いになって泣いている、雰囲気はチャラいけど筋肉もりもりの人。
師匠が話をした人とは違うからまだ名前も判らないが目を覚ましてくれたことにホッとした。
バルドルさんとクルトさんもそちらに気付いたようで、さすがに体を離して警戒態勢を取っているし、風神、雷神も何かあればすぐに動けるよう態勢を低くしている。
俺は二人に目配せしてから名無しさんに近付く。
「おはようございます、僧侶です。体の調子はどうですか?」
この世界の人は僧侶には手を出せない。
だから最初に接触するのは僧侶の役目。
「え、僧侶……ぁ……、あ!」
その人は涙でぐしゃぐしゃになった顔に驚きの色を浮かべ、忙しなく周りを見始めた。複数のテント、焚き火、食事の準備、それから同じテントで寝ている仲間――。
「あのっ、こいつ、こいつだけじゃなくて、俺の仲間、あと4人いてっ」
「大丈夫ですよ、貴方も入れて6人。全員生きてます」
「生き……生きて、る?」
「はい。生きてますよ」
「……生き……ぁ……あっ……ありが……っ」
その人は、四つん這いのまま、顔を地面に擦り付けるようにして繰り返す。
「ありがと……っ……ありがとう……!」
涙と鼻水でさっきよりも顔をぐしゃぐしゃにしながら、何度も、何度もお礼を言われて、こっちまで泣きそうになってしまった。
助けられて良かった、改めてそう思った。
その次がエニスさん、ウーガさん、そして師匠。
最後、朝食の準備を兼ねて俺とクルトさん。
そして今日に限っては神力80%で巨大化した風神、雷神、チルルが見張り担当の人とずっと一緒にいることになった。念のため、というやつだ。
神力を漂わせておけば魔物が来ないし、まだ見ず知らずの成人男性、しかも金級冒険者6人が敵でないとは言い切れないからね。
――そんな感じに結構警戒を強めていたんだけど、俺とクルトさんが交代で起きて来たときも6人は眠ったままだった。
師匠曰く、一人だけ目を覚ましたのでお粥を食べさせたけど、その後また寝てしまった、と。
お礼と、謝罪と、自分がパーティリーダーのモーリだという名乗りはあったらしく、どの人か確認したら、恐らく全員を引き摺って道の上から運んでいたんだろう、仲間の下敷きになって気を失っていた人物だった。
「引き摺ったのはたぶん仲間を守ろうとしたからだろうし、お礼も謝罪もあったなら、たぶん悪い人たちじゃないよ」
「ですね」
クルトさんに同意して、彼の好みに合わせたホットカフェラテを差し出した。
風神、雷神、チルルには神力多めの魔力を。
保護した6人はその後も眠ったままだったが、風神たちのおかげで魔物も近付いて来ることもなく、久々にクルトさんと二人で過ごす時間はものすごく楽しかった。
「バルドルさんと結婚しても引っ越したりしませんか?」
「いまのところその予定はないよ。レイナルドさんにも許可貰ったし」
「良かった! あ、良かったって言ったらダメなのかな……?」
「ふふっ。全然。バルはウーガ達のことが心配で目を離せないって言うし、俺もまだまだ冒険したい」
「冒険! しましょうね!」
新しい約束に浮かれている間にも空はだんだん白んできて朝の訪れを知らせる。
「そろそろ朝ごはんの準備します。鍋を運ぶの手伝ってください」
「ん、任せて」
焚き火の火力を少し強めて、トライポッドに吊るす鍋には外から持ち込んでいるカット済み野菜と、ブイヨン、それから森で取れる果実なんだけど食感が豆腐みたいで、栄養価も高いそれを一口サイズに切って投入、あとは煮込むだけ。
パンは真ん中に切れ目を入れたコッペパンみたいなやつで、昨日採取したハーブや葉物、果物はクルトさんが手で千切ったり皮を剥いたりして皿に。
俺はキノコ、肉をそれぞれ別に焼いて、同じく更に盛っていく。
後は食べたい具を自分でパンに挟んでもらうという、いつものスタイルだ。
保護した人たちもそろそろ目を覚ますだろうからお粥も温め直し。
匂いに誘われたのか、それともクルトさんが心配だったか、普段より早いタイミングでバルドルさんが起きて来る。
「おはよ」
「おはようございます、ちゃんと眠れましたか?」
「ああ、まぁ……」
嘘ですね、完全な寝不足顔です。
クルトさんもそれが判ったみたいで苦笑している。
「休める時にちゃんと休まないと」
「……ん」
聞いているのかどうか、クルトさんに抱き着いてスリスリしているバルドルさん。
俺は顔がニヤニヤしてしまいそうだけど心配するのも無理ないので、必死で顔の筋肉を固めていた。
と、そこに。
「……美味しそうな匂いするし……カワイ子ちゃんもいるのに……超強ぇオスの匂い付けてる……ここは主神様の御許じゃない……真っ白い魔物まで……俺は主神様の御許に還れなかったのか……」
「へ?」
前半はともかく後半の意味がさっぱり理解出来ないことを声に出しながら、テントの入口で四つん這いになって泣いている、雰囲気はチャラいけど筋肉もりもりの人。
師匠が話をした人とは違うからまだ名前も判らないが目を覚ましてくれたことにホッとした。
バルドルさんとクルトさんもそちらに気付いたようで、さすがに体を離して警戒態勢を取っているし、風神、雷神も何かあればすぐに動けるよう態勢を低くしている。
俺は二人に目配せしてから名無しさんに近付く。
「おはようございます、僧侶です。体の調子はどうですか?」
この世界の人は僧侶には手を出せない。
だから最初に接触するのは僧侶の役目。
「え、僧侶……ぁ……、あ!」
その人は涙でぐしゃぐしゃになった顔に驚きの色を浮かべ、忙しなく周りを見始めた。複数のテント、焚き火、食事の準備、それから同じテントで寝ている仲間――。
「あのっ、こいつ、こいつだけじゃなくて、俺の仲間、あと4人いてっ」
「大丈夫ですよ、貴方も入れて6人。全員生きてます」
「生き……生きて、る?」
「はい。生きてますよ」
「……生き……ぁ……あっ……ありが……っ」
その人は、四つん這いのまま、顔を地面に擦り付けるようにして繰り返す。
「ありがと……っ……ありがとう……!」
涙と鼻水でさっきよりも顔をぐしゃぐしゃにしながら、何度も、何度もお礼を言われて、こっちまで泣きそうになってしまった。
助けられて良かった、改めてそう思った。
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