生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら

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第9章 未来のために

273.セーズ(10)

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 荷物の多さは貴重な魔道具でどうこうしてますということにして、他所のパーティと一緒に夕飯を食べると言うのは情報の収集と共有にとても効果的だ。

「ってことは皆さんの目的はココなんですね」

 聞けば彼らは第15階層に到達済み且つ転移陣にも登録済みで、第15階層から戻る恰好でここ、第10階層にある鉱物の採取が目的なんだそうだ。
 この湖付近に拠点を置き、20分ほど移動した先にある洞窟とを行き来しながら手持ちの収納箱がいっぱいになったら外へ出る。その繰り返しだと。

「レイナルド達が見つけた設計図の材料でな。その内トゥルヌソルの市場から出回るようになるんじゃないかな」
「へえ! 楽しみです」

 それが何かはまだ秘密らしく。
 そういえば出逢ったばかりの頃に水筒か何かの件で意味深なことを言われた覚えがあるようなないような……、まぁいいか。

「他にももう一組、おっさんたちより先に潜ってるパーティがいるはずなんだが」
「ああ、それはおまえら同様、第15階層を目指しているパーティだな。ありゃ何日前だ……3……4日前か? 随分くたびれた様子でここで一泊して先に進んでったぜ」
「10日前に入って、此処を通ったのが4日前か……」

 俺たちだって此処に来るまで2週間掛かっている。それプラス10日で、今頃は第12階層あたりを進んでいるのだと考えればかなり疲弊しているだろうことが簡単に想像できる。こちらを敵視するタイプでなければ今回と同じように対応しようと思う。

「ふむ……そう考えると、おまえらのペースは随分は速いな?」
「幸いあまり魔物と遭遇しないんだ」
「ってことは10日前の奴らが連戦してるかもな」

 エニスさんの、嘘じゃないけど本当の事でもないセリフを、おじさんたちは特に疑うでもなく受け入れる。
 誕生してからの期間によって魔物の強弱が変わるのは確かだ。賢いと言われる金級オーァル以上の魔物なら、能力が相応に育つまで冒険者の前に出て来ないという可能性はあるかもしれない。
 ……あ、てことは今なら戦闘して来た第1階層から第5階層くらいまでならグランツェパーティも戦闘少な目で移動できるかも? なんで連絡の取りようがないのかな!

「はぁ~。それにしてもこのスープ美味いな」
「これ味付けに特別なことはしてるのか?」
「ダンジョンに来る前に、家でいろんな素材を煮込んだスープを瓶詰にして持って来てます」
「お、おう……すげぇ手間掛かってんだな」
「ダンジョンの中でこそ美味しいものが食べたいので」
「それ判るわー」
「俺、このスープのおかげであと10日くらいは頑張れそう」

 マジか、って皆が笑う。

「お肉は皆さんのドロップ品でもあるんですからいっぱい食べてくださいね」
「おう、ありがとよ!」
「あの肉がこんなに美味くなるんだなぁ」
「俺らが焼いたら黒くしかならんもんな」

 黒くなるのは焦げたってことかな。
 絶対に美味しくならないって逆に自信持って言ってたのはバルドルさんたちだったか、レイナルドさんたちだったか。

「皆さんの料理って焚き火でするんですよね?」
「料理っつったってドロップした肉を焼くくらいだぞ。あとは干し肉やドライフルーツ……」
「せめて森で木の実を取ったりとか」
「食っちゃダメなものの区別が付くならなぁ」

 そこは覚えて!
 ダンジョンの中でも健康的な生活を送るために食は大事。パーティメンバーと手分けして覚えておけば、場合によっては用意した食料が不足しても食い繋げるし……って思ったんだけど。
 肉の焼き方が、まるで薪を火にくべるみたいに燃えている木の上に直置きしてて、絶句。
 いや。
 うん。
 ……うん。
 干し肉とドライフルーツを作って販売してくれる人たちに心から感謝したら良いと思います。




 夜の見張りはそれぞれ担当して。
 朝も食事は一緒に取って空の青色がまだ薄いうちに出発した。

「外で会ったら、今度は酒でも」
「おう!」

 陽気に別れて、いざ第11階層を目指す。
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