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第9章 未来のために
271.セーズ(8)
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それから7日間、魔力と神力のバランスを微妙に調整しながら獄鬼除けで魔物を遠ざけられるか実験した結果――。
「レンね」
「レンだな」
「実はそうじゃないかと思っていた」
「オレもオレも~」
「「がうっ」」
「ホ~」
皆が真顔で頷き、魔豹たちにまで同意されたように、俺が少しでも獄鬼除けに神力を交えて起動すると魔物側に明らかな変化が見て取れるようになり、神力が3割を超えた辺りからはほぼ襲われなくなった。魔力と神力を半々で注入したら完璧だ。
一方、師匠が神力9割で起動しても魔物は平然と襲って来たことから、たぶん俺の神力限定で効果ありという結論に至ったというわけだ。
……他のパーティでは使えないじゃん!
しかもダンジョンにまで俺が異分子だって言われているみたいでっちょっとショックです!
「そう都合良くはいかないってことね」
残念そうだけど、一つ結果が見えたことにとても満足そうな師匠。
「被害を抑えたいって希望は叶いませんね」
「そうでもないんじゃない?」
残念そうなヒユナさんに、師匠が笑う。
「ダンジョンに挑んだ冒険者が、ここにはこんな魔物が出るって情報をギルドに伝える。ギルドはそういう情報を集約して売る。情報を購入した冒険者は自分たちの安全をきちんと考えてダンジョンに挑む――こうすることで次の被害を確実に減らしていくんだから、50以上の魔物の群れに襲われることもあるって知らせるだけでも予防にはなるでしょ。あとは情報を勝った冒険者たちが自分の力を過信しないこと」
「そう、ですね……」
「レイナルドたちだって、そういう危険があるって判ったからグランツェパーティとバルドルパーティに同盟を求めたんでしょうし。このメンバーで挑むのを許可したのも、レンがいることを考慮した上でいろいろ学べっていう親心かも」
「おやごころ……」
苦い顔したバルドルさんとエニスさん。
ウーガさんがカラカラ笑っている。
確かに応援領域と僧侶3人がいれば最悪の事態にはほぼなり得ない。厳しい道程になるのはダンジョンなら当然だし、……俺の神力が魔物除けにもなるのはさすがに想定外かな。
「さて、じゃあ今後の予定だけど」
師匠が場を仕切るのは年功序列というか、最終的にバルドルさんが決定権を持っているのは確かなのでみんな普通に受け入れている。
俺たちがいま居るのは第5階層。
後半は俺の神力で移動していたので魔物に襲われることがなく順調すぎるくらい順調に進んだから8日目にして此処まで来れた。
「一つは普通に進んで、魔物の相手もしながら30日前後を費やして15階層を目指す。一つはレンの神力で完全に魔物を除けてひたすら進んで時間短縮。もう一つ加えるとしたら神力を調整してたまに魔物と戦闘ってところかしら」
「あ、あの」
真っ先に手を挙げたのはヒユナさんだった。
珍しい。
「出来れば早く進んで、グランツェさんたちがここに入る前に一度合流したいです。グランツェさんたちは4人で、私がこちらにいるってことは僧侶が不在になるので、その、出来れば、レンくんの獄鬼除けを渡したいです……!」
「それは確かに」
「僧侶がいないのは不安だよね」
ドーガさんとウーガさんが順に言うのを聞いて、思い付く。
「俺が同行したらいいんじゃ? そしたらテントもあるし」
「もう一度最初から歩くってこと?」
「ですです。そしたら風神たちも一緒だから戦力も増えるでしょう?」
俺はテント経由でリーデン様に会えるので寂しくないし、何ならグランツェさんたちが第15階層に到達するまではバルドルさん達の故郷で待っていてもらって、その後は合流して一緒に攻略を進めても良い。
「それに15階層までの道案内も出来ますしね」
「ふむ……」
バルドルさんたちが顔を見合わせて思案顔。
「レンと一緒に故郷に行けないのは寂しんだけどなぁ~」
「だがグランツェたちの安全を確保出来るなら……僧侶が同行するだけでも全然違うし、それがレンなら猶更だ」
「だな」
「レンくんがグランツェさんたちと同行するなら私も一緒に行きます」
元気に挙手するヒユナさん。
「だって私のパーティメンバーのことですし、私が皆さんの故郷にお邪魔する理由なんてありませんしね」
「ぐっ」
ドーガさんが胸を抑えています。
南無。
師匠はとても楽し気だ。
「あんたたちは数年振りの里帰りなんでしょ。しっかり親に顔を見せなさいよ」
「くっ……!」
いまにも血の涙を流しそうな雰囲気に同郷者たちが呆れている。そんな反応するくらいならさっさと告れとでも言いたげだ。
そんな彼らを横目に、やっぱり場を取り仕切る師匠。
「じゃあ最速で15階層を目指してグランツェパーティと外で合流を目指すってことで良いのかしら?」
「良いんじゃないか。その後で誰がグランツェパーティと合流するかは、あっちのメンバーとも相談した方がいいだろうし、そもそも連絡手段がないんじゃ外で会えるかどうかなんて運次第だ」
「確かに」
ダンジョンと外ではメッセンジャーが飛ばないし、通信の魔道具は一つのものを二つに分けて持つという、その表現自体が獣人族には受け入れ難く広がっていない。
やっぱりどこにいても連絡を取り合える方法を早々に確立させたいね。
ともあれ、最速ゼロ戦闘で俺たちは15階層を目指すことに決まったのだった。
「レンね」
「レンだな」
「実はそうじゃないかと思っていた」
「オレもオレも~」
「「がうっ」」
「ホ~」
皆が真顔で頷き、魔豹たちにまで同意されたように、俺が少しでも獄鬼除けに神力を交えて起動すると魔物側に明らかな変化が見て取れるようになり、神力が3割を超えた辺りからはほぼ襲われなくなった。魔力と神力を半々で注入したら完璧だ。
一方、師匠が神力9割で起動しても魔物は平然と襲って来たことから、たぶん俺の神力限定で効果ありという結論に至ったというわけだ。
……他のパーティでは使えないじゃん!
しかもダンジョンにまで俺が異分子だって言われているみたいでっちょっとショックです!
「そう都合良くはいかないってことね」
残念そうだけど、一つ結果が見えたことにとても満足そうな師匠。
「被害を抑えたいって希望は叶いませんね」
「そうでもないんじゃない?」
残念そうなヒユナさんに、師匠が笑う。
「ダンジョンに挑んだ冒険者が、ここにはこんな魔物が出るって情報をギルドに伝える。ギルドはそういう情報を集約して売る。情報を購入した冒険者は自分たちの安全をきちんと考えてダンジョンに挑む――こうすることで次の被害を確実に減らしていくんだから、50以上の魔物の群れに襲われることもあるって知らせるだけでも予防にはなるでしょ。あとは情報を勝った冒険者たちが自分の力を過信しないこと」
「そう、ですね……」
「レイナルドたちだって、そういう危険があるって判ったからグランツェパーティとバルドルパーティに同盟を求めたんでしょうし。このメンバーで挑むのを許可したのも、レンがいることを考慮した上でいろいろ学べっていう親心かも」
「おやごころ……」
苦い顔したバルドルさんとエニスさん。
ウーガさんがカラカラ笑っている。
確かに応援領域と僧侶3人がいれば最悪の事態にはほぼなり得ない。厳しい道程になるのはダンジョンなら当然だし、……俺の神力が魔物除けにもなるのはさすがに想定外かな。
「さて、じゃあ今後の予定だけど」
師匠が場を仕切るのは年功序列というか、最終的にバルドルさんが決定権を持っているのは確かなのでみんな普通に受け入れている。
俺たちがいま居るのは第5階層。
後半は俺の神力で移動していたので魔物に襲われることがなく順調すぎるくらい順調に進んだから8日目にして此処まで来れた。
「一つは普通に進んで、魔物の相手もしながら30日前後を費やして15階層を目指す。一つはレンの神力で完全に魔物を除けてひたすら進んで時間短縮。もう一つ加えるとしたら神力を調整してたまに魔物と戦闘ってところかしら」
「あ、あの」
真っ先に手を挙げたのはヒユナさんだった。
珍しい。
「出来れば早く進んで、グランツェさんたちがここに入る前に一度合流したいです。グランツェさんたちは4人で、私がこちらにいるってことは僧侶が不在になるので、その、出来れば、レンくんの獄鬼除けを渡したいです……!」
「それは確かに」
「僧侶がいないのは不安だよね」
ドーガさんとウーガさんが順に言うのを聞いて、思い付く。
「俺が同行したらいいんじゃ? そしたらテントもあるし」
「もう一度最初から歩くってこと?」
「ですです。そしたら風神たちも一緒だから戦力も増えるでしょう?」
俺はテント経由でリーデン様に会えるので寂しくないし、何ならグランツェさんたちが第15階層に到達するまではバルドルさん達の故郷で待っていてもらって、その後は合流して一緒に攻略を進めても良い。
「それに15階層までの道案内も出来ますしね」
「ふむ……」
バルドルさんたちが顔を見合わせて思案顔。
「レンと一緒に故郷に行けないのは寂しんだけどなぁ~」
「だがグランツェたちの安全を確保出来るなら……僧侶が同行するだけでも全然違うし、それがレンなら猶更だ」
「だな」
「レンくんがグランツェさんたちと同行するなら私も一緒に行きます」
元気に挙手するヒユナさん。
「だって私のパーティメンバーのことですし、私が皆さんの故郷にお邪魔する理由なんてありませんしね」
「ぐっ」
ドーガさんが胸を抑えています。
南無。
師匠はとても楽し気だ。
「あんたたちは数年振りの里帰りなんでしょ。しっかり親に顔を見せなさいよ」
「くっ……!」
いまにも血の涙を流しそうな雰囲気に同郷者たちが呆れている。そんな反応するくらいならさっさと告れとでも言いたげだ。
そんな彼らを横目に、やっぱり場を取り仕切る師匠。
「じゃあ最速で15階層を目指してグランツェパーティと外で合流を目指すってことで良いのかしら?」
「良いんじゃないか。その後で誰がグランツェパーティと合流するかは、あっちのメンバーとも相談した方がいいだろうし、そもそも連絡手段がないんじゃ外で会えるかどうかなんて運次第だ」
「確かに」
ダンジョンと外ではメッセンジャーが飛ばないし、通信の魔道具は一つのものを二つに分けて持つという、その表現自体が獣人族には受け入れ難く広がっていない。
やっぱりどこにいても連絡を取り合える方法を早々に確立させたいね。
ともあれ、最速ゼロ戦闘で俺たちは15階層を目指すことに決まったのだった。
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