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第9章 未来のために

268.セーズ(5)

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 神具『野営用テント』まで出して本格的な休憩を取った後、再び川沿いを上流に向かって歩くこと約1時間。右手に川、左手に森だった景色がすっかり変わり、視界一杯に大きな湖が広がった。
 その奥にまた森が広がっていたが、俺たちの進路は森が途切れた左側。
 見晴らしが良すぎる平原だ。

「……あれきり、魔物は近付いて来なかったな」

 ぽつりと零すのは殿にいたバルドルさん。
 休憩を終えていざ再出発って時に魔物除けをどうするかって話し合った結果、師匠の「試しましょう」で引き続きそれを使うことになったのだ。
 気は進まないけど応援領域クラウーズがあれば氾濫を疑うような群れに襲われても対処可能だって判ったのも、実験する後押しになったと言える。

「あの数で押しても勝てないと魔物側が判断したのか、単純に付近の魔物がいなくなったのか」

 思案顔でぶつぶつと呟いている師匠。
 1時間前の乱戦では結局48もの魔石を拾ったので、つまりそういうこと。たくさん拘束したし、怪我も多かった。

「周辺に魔物がいないわけじゃないですよ」

 俺が魔力感知の範囲を広げて伝える。

「レンの感知可能範囲って?」
「いまは300メートル圏内に」
「え……それ以上でも調べられるんですか?」

 ヒユナさんが目を瞬かせるから「やろうと思えば」と頷いておく。
 その日の気分や体調、周辺の魔力濃度にもよるから正確にどれくらいとは言い切れないが頑張れば1キロくらいはいけると思う。神力を使えばもちろん倍以上に広げられるし。でも感知する魔力が増えるほど悪酔いに似た酩酊状態になるのでやりません。

「レンが感知できる魔物が此方に近付いてくる気配は?」
「いまのところ無いです」
「ふむ……」
魔豹ゲパールたちを警戒している可能性もあるんじゃ?」

 ウーガさんから意見が。

「このダンジョンにはいないはずの魔物が人の味方をしてるんだもん」
「それなら最初から警戒して近付いて来ないで欲しかったな」

 エニスさんが忌々しそうに言うと、先頭でクルトさんが「確かに」と笑った。
 ダンジョンの魔物は人を見たら襲うようになっている、とはリーデン様のずっと以前に教えてくれた内緒の話。言い換えれば姿を見せなければ襲って来ないとも取れる。
 もしくは気付かない限り?
 けどこれに関してはもう手遅れだ。あれだけ戦闘を繰り返したんだから付近の魔物はこちらに気付いていないわけがない。
 となると、やっぱり俺たちに近付きたくない何かがある?
 魔物除け。
 でもさっきはこれを付けてて襲われたよね。
 しかも50頭以上の群れに。
 そのせいで焦って一気に応援領域クラウーズを広げてしまって……。

「あ……」
「ん?」

 ふとした思い付きに声が出たら、ウーガさんが聞き返してくる。

「なんか気付いた?」
「え、っと。もしかしたら応援領域クラウーズに使った神力のせいかも」
「んん?」
「今すぐに広げないとって思ったから神力も遠慮なく使ったんです。それに気付いたから魔物が近付いて来なくなった可能性もあるかな、と。それに神力が原因なら、最後、逃げた魔物がいたのも説明出来るし」
「魔物は神力を避けるってこと?」
「でも僧侶を連れていたら魔物に襲われないなんて、それが本当ならとっくに話題になってますよね?」
「んー……否定はし切れないけど、この子の神力は他の子に比べて規格外だし」

 そこで「ああ」って納得顔されるとさすがに居た堪れない。
 まったく気にしないのが俺たちの師匠なんですが。

「そう、ね……うん、それは検証してみる価値はあるわ」
「検証?」
「神力で魔物を寄せ付けないようになるならダンジョンの攻略事情が大きく変わるでしょ。特に31階層から先は魔物との戦闘を避けられるなら次の階層への道の探索に集中できるし」
「あ」
「確かに!」

 テンションが上がる僧侶3人と、複雑な顔をしているバルドルさんたち。
 これは、あれですよ。
 また自分たちだけズルいとかそういう。

「あー……まぁ、そうか。怪我人どころか死人が出なくなる可能性もあるなら検証する価値はあるのか」

 ん?

「ダンジョンは何が起きるか判らないからな……さっきの、群れで来られたのもヤバかった」
「だねぇ。仲間置いて逃げるのも、……逃がして死ぬのもろくなもんじゃないだろうし」
「だなぁ……」

 バルドルさん、エニスさん、ウーガさん、ドーガさん。
 順番に言われて、俺はやっと思い出した。
 この人たちはダンジョンで大事な仲間を失っているんだってこと。
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