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第9章 未来のために
267.セーズ(4)
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師匠が恐ろしいフラグを立てた気がして気が気じゃなかったその後の移動だったけど、なんと1時間近く襲撃がなかった。
おかしい。
いや、ありがたいのだけども!
「半分は過ぎたからね」
クルトさんが先頭からそう声を掛けて来る。
歩くだけなら森と川からマイナスイオン……こっちの世界ではそれを魔力と言うのかもしれないが、それを浴びまくりの気持ち良い散歩同然だから、気力も体力も回復するというものだ。
おかしい。
もう一度呟く。
平和過ぎて不安を感じていたら、それがフラグを揺らしたんだろうか。
「あ」
警戒していたウーガさんが森を凝視する。
その反応でそれぞれが魔力感知を発動してそれに気付く。
「ちょ、敵の数が多い!」
「群れだっ、全部で20!」
バルドルさんたちが剣を抜く。
「風神雷神!」
名を呼ぶと同時、二頭の魔豹が森に向かって激しく咆哮した。
「グルアァァアアアア!」
「っ……」
こちらもビビる苛烈さは大気を震わせ魔物の足を躊躇わせた。
その一種の隙が俺たちには貴重だった。
見えた敵影にウーガさんの魔弓が唸る。
ドーガさんの魔法が放たれる。
「ギャギャギャッ!」
「ギャアアア!!」
「拘禁!」
「はあああっ!」
「拘禁!」
僧侶が抑えた魔物を剣士が斬り伏せる。
僧侶を狙う魔物を魔豹と白梟が噛み千切る。
遠距離攻撃は森から飛び出してくる魔物を確実に減らしていたが、まさか。
「まだ増えてる!」
「頭上8!」
ハッと頭上を仰いだクルトさん。
青空から滑空して来るのは、鳥。
「――風破斬!」
クルトさんの魔剣から複数の風の刃が放たれて敵を狙うが落とせたのは1羽。あとは翼を傷付けただけで、羽が舞う。
更にもう一撃放つが落とせたのは2羽だけ。
「避けろ!!」
「うわっ」
まるで槍のような嘴を武器に空から突進してくる鳥。
森からも獣型の魔物が飛び掛かって来る。
「痛っ……!」
「あっ」
血だ。
血が。
「レン! ぁっ、ああ!」
「ウーガさん!」
空から滑空してきた鳥の嘴に腕を裂かれたクルトさんが。
森から飛び掛かって来た魔物に川に堕とされそうになっているドーガさんが。
俺を庇って背中を抉られたウーガさんが。
「まだ増えるぞ!」
エニスさんの緊迫した声。
「くそ!」
バルドルさんの焦った顔。
これは、もう。
「――……っ!」
広がれ応援領域。
大事な人たちにこれ以上怪我させて堪るか……!
俺の気持ちがそのまま反映する応援領域による変化には皆もすぐに気付いたんだろう。
「拘禁!」
師匠の唱えた魔法が複数の魔物を一斉に拘束した。
傷ついた腕で放ったクルトさんの魔剣の一撃が空からの襲撃者を一掃した。
ヒユナさんの治癒が皆を癒す。
森の魔物たちはエニスさんとバルドルさんが追い払い、気付けば加勢に来ると思われた魔物の気配も離れて散った。勝てないと察したんだろうか。
「ウーガさんっ、ウーガさん大丈夫ですか?」
ヒユナさんの治癒で怪我は治ったはずなのに、覆いかぶさるようにしてぐったりとしているウーガさんに慌てて声を掛けると、脱力して間延びした声がする。
「……ぇー? あー……魔力切れ~」
「あ、そっか」
ウーガさんにはそちらの方が問題だったのかと気付き、ウエストポーチから急いで魔力回復用の薬を取り出して飲ませていると、クルトさんの声。
「ドーガ、大丈夫か」
「あ……なんとか」
クルトさんに川から引き上げられているドーガさんの足元には二つに分かれた魔物の死体。やったのはクルトさんだろう。
ローブは裂かれているけど怪我はなさそう。
ヒユナさんの治癒の範囲内だったんだろう。
「全員無事だな?」
「ああ」
バルドルさんの確認にエニスさんが周りを見て頷く。
そうしてようやく安堵の息が零れた。
「あぁくそっ。無事なのが一番だって判ってはいるが、こんな序盤から応援領域に頼ることになるなんて……」
「気持ちは判るが今回は数が異常だった」
「うん。氾濫を疑っても良いくらいだと思う」
宥めるエニスさんに、クルトさんが同意する。
前回もこんな一斉に襲い掛かられたことはなかった、と。
「金級の魔物はやっぱり賢いんでしょうね」
師匠が口を挟む。
「数で押せば勝てると思ったんじゃないかしら。魔物除けで、逆に刺激してしまったのかも」
「……そんなことありますか?」
「さぁ。そんなデータを取ったこともないからあくまで推測よ。でも、レンに育てられてどんどん賢くなっていくこの子たちを見ていると、ね」
あぁ……とみんなの視線が魔豹たちに集まる。
そうなるとダンジョンの中で長く生き延びている魔物ほど強く賢いってことになり……そんなの、厄介なことこの上ないね。
「とりあえず少し休憩しませんか。ドーガさんも着替えた方がいいでしょうし。テント出しますね」
「ああ……」
皆の顔に反省と悔しさが入り混じる。
俺もつい感情的になって応援領域を使ってしまったことを反省しなければならない。この人たちなら実力で耐えきったかもしれないのに。
謝るべきか。
どう切り出そうかと考え始めてしまった俺は、そのとき、ドーガさんがどんな顔をしていたのかきちんと見ているべきだったんだ。
おかしい。
いや、ありがたいのだけども!
「半分は過ぎたからね」
クルトさんが先頭からそう声を掛けて来る。
歩くだけなら森と川からマイナスイオン……こっちの世界ではそれを魔力と言うのかもしれないが、それを浴びまくりの気持ち良い散歩同然だから、気力も体力も回復するというものだ。
おかしい。
もう一度呟く。
平和過ぎて不安を感じていたら、それがフラグを揺らしたんだろうか。
「あ」
警戒していたウーガさんが森を凝視する。
その反応でそれぞれが魔力感知を発動してそれに気付く。
「ちょ、敵の数が多い!」
「群れだっ、全部で20!」
バルドルさんたちが剣を抜く。
「風神雷神!」
名を呼ぶと同時、二頭の魔豹が森に向かって激しく咆哮した。
「グルアァァアアアア!」
「っ……」
こちらもビビる苛烈さは大気を震わせ魔物の足を躊躇わせた。
その一種の隙が俺たちには貴重だった。
見えた敵影にウーガさんの魔弓が唸る。
ドーガさんの魔法が放たれる。
「ギャギャギャッ!」
「ギャアアア!!」
「拘禁!」
「はあああっ!」
「拘禁!」
僧侶が抑えた魔物を剣士が斬り伏せる。
僧侶を狙う魔物を魔豹と白梟が噛み千切る。
遠距離攻撃は森から飛び出してくる魔物を確実に減らしていたが、まさか。
「まだ増えてる!」
「頭上8!」
ハッと頭上を仰いだクルトさん。
青空から滑空して来るのは、鳥。
「――風破斬!」
クルトさんの魔剣から複数の風の刃が放たれて敵を狙うが落とせたのは1羽。あとは翼を傷付けただけで、羽が舞う。
更にもう一撃放つが落とせたのは2羽だけ。
「避けろ!!」
「うわっ」
まるで槍のような嘴を武器に空から突進してくる鳥。
森からも獣型の魔物が飛び掛かって来る。
「痛っ……!」
「あっ」
血だ。
血が。
「レン! ぁっ、ああ!」
「ウーガさん!」
空から滑空してきた鳥の嘴に腕を裂かれたクルトさんが。
森から飛び掛かって来た魔物に川に堕とされそうになっているドーガさんが。
俺を庇って背中を抉られたウーガさんが。
「まだ増えるぞ!」
エニスさんの緊迫した声。
「くそ!」
バルドルさんの焦った顔。
これは、もう。
「――……っ!」
広がれ応援領域。
大事な人たちにこれ以上怪我させて堪るか……!
俺の気持ちがそのまま反映する応援領域による変化には皆もすぐに気付いたんだろう。
「拘禁!」
師匠の唱えた魔法が複数の魔物を一斉に拘束した。
傷ついた腕で放ったクルトさんの魔剣の一撃が空からの襲撃者を一掃した。
ヒユナさんの治癒が皆を癒す。
森の魔物たちはエニスさんとバルドルさんが追い払い、気付けば加勢に来ると思われた魔物の気配も離れて散った。勝てないと察したんだろうか。
「ウーガさんっ、ウーガさん大丈夫ですか?」
ヒユナさんの治癒で怪我は治ったはずなのに、覆いかぶさるようにしてぐったりとしているウーガさんに慌てて声を掛けると、脱力して間延びした声がする。
「……ぇー? あー……魔力切れ~」
「あ、そっか」
ウーガさんにはそちらの方が問題だったのかと気付き、ウエストポーチから急いで魔力回復用の薬を取り出して飲ませていると、クルトさんの声。
「ドーガ、大丈夫か」
「あ……なんとか」
クルトさんに川から引き上げられているドーガさんの足元には二つに分かれた魔物の死体。やったのはクルトさんだろう。
ローブは裂かれているけど怪我はなさそう。
ヒユナさんの治癒の範囲内だったんだろう。
「全員無事だな?」
「ああ」
バルドルさんの確認にエニスさんが周りを見て頷く。
そうしてようやく安堵の息が零れた。
「あぁくそっ。無事なのが一番だって判ってはいるが、こんな序盤から応援領域に頼ることになるなんて……」
「気持ちは判るが今回は数が異常だった」
「うん。氾濫を疑っても良いくらいだと思う」
宥めるエニスさんに、クルトさんが同意する。
前回もこんな一斉に襲い掛かられたことはなかった、と。
「金級の魔物はやっぱり賢いんでしょうね」
師匠が口を挟む。
「数で押せば勝てると思ったんじゃないかしら。魔物除けで、逆に刺激してしまったのかも」
「……そんなことありますか?」
「さぁ。そんなデータを取ったこともないからあくまで推測よ。でも、レンに育てられてどんどん賢くなっていくこの子たちを見ていると、ね」
あぁ……とみんなの視線が魔豹たちに集まる。
そうなるとダンジョンの中で長く生き延びている魔物ほど強く賢いってことになり……そんなの、厄介なことこの上ないね。
「とりあえず少し休憩しませんか。ドーガさんも着替えた方がいいでしょうし。テント出しますね」
「ああ……」
皆の顔に反省と悔しさが入り混じる。
俺もつい感情的になって応援領域を使ってしまったことを反省しなければならない。この人たちなら実力で耐えきったかもしれないのに。
謝るべきか。
どう切り出そうかと考え始めてしまった俺は、そのとき、ドーガさんがどんな顔をしていたのかきちんと見ているべきだったんだ。
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