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第9章 未来のために

266.セーズ(3)

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「川の上流に向かって歩く」と事前に購入した情報で知っていたけれど、文字として読むと実際に体を動かすとでは当然だけど全然違う。
 此処に来るまで体力作りと筋トレをサボらず続けて来たから疲労は大したことないが、不定期に襲ってくる魔物が、とにかく強い。

「バルドルさん、ここの監視小屋の職員さん達から他にも挑戦中の冒険者がいるか聞けましたか?」
「ああ。7日前に一組、10日前に一組入ってるそうだ」

 つまり中には生後7日の若い魔物もいるはずなのだが、どれも手強い。同じ金級オーァルダンジョンなのに「トラントゥトロワ」とは大違いだ。

「さすが最難関……」
「え?」

 聞き取れなかったクルトさんが視線で「もう一度」と言っているが、レイナルドさん以外にも話して良いのか判断がつかないので笑って誤魔化しておく。
 俺がこういう反応をするのはほぼ主神様関連なので、クルトさんたちは察した表情で引いてくれた。

「あ。またお客さん」

 周囲を警戒していたウーガさんが声を上げて弓を構える。
 ドーガさんは魔力を練り、バルドルさん、エニスさん、クルトさんは剣を抜く。

「クルト、おまえが前回来た時もこのくらいの頻度で来たか?」
「ああ」
「ならこれが普通か」

 バルドルさんが思案顔で低く呟く。
 昼食後に移動を始めてまだ1時間程度だというのに襲撃はこれで4度目だ。さすがに頻度が高過ぎると俺も思ったし、もしかしたら魔豹ゲパールや白梟を連れ込んだせいかと心配していたんだけど、そういうわけではないらしい。

「来るよ!」

 ウーガさんの声に僧侶3人も杖を構える。
 耳を澄ます、――地上から来る。
 それなら!
 目線だけで意思確認、師匠とヒユナさんと一緒に魔力を練る。

「見えた!」
拘禁デティニア!」
「ギャンッ!」
「ギャフッ」
「ガルルルル!」

 木々の合間から敵影が見えた瞬間に僧侶3人で術を発動した。地上からの襲撃だからこそ出来る拘束魔法だ。前列の魔物が動きを封じられたことで後続が衝突、動きが鈍る。
 そこに飛び込んだ風神、雷神、チルル。
 拘束された魔物を切り倒していく剣士たち。
 拘束されず両サイドに散った連中をウーガさんの矢とドーガさんの魔法が次々と屠っていく。
 それで済めばいいのだけど、ヒユナさんと師匠の拘禁デティニアはあまり長く保たない。俺も今までより神力の比率を上げないと抑え切れない。
 これまではただ一閃で首を落としていたバルドルさんやエニスさんの手数も増えているし、魔法で戦うドーガさんはもちろん、魔法武器を使っているクルトさんとウーガさんの魔力消費も相当だ。
 終わってみれば全員が無傷ではあるものの、回数が重なれば疲労する。

「ふぅ」

 魔石やドロップ品を拾い終えたら体を伸ばして息を吐く。
 以前は戦闘後と言ったらウーガさんが放った矢を拾い集めて再利用できるものを選別するという作業もあったが、魔法弓を手に入れた今回からはそれがない。代わりに魔力の使い過ぎで回復薬が毎回必要になるのだが……。

「今夜は就寝前に調薬ね。素材はここで調達出来るし」
「ですね」
「素材採取も頑張ります」

 と、調薬出来てしまう僧侶が3人も同行しているので薬の大量消費も大した問題ではなく。困るのはトイレ休憩の回数が増えるくらいだ。

「クルト、確認なんだが」

 バルドルさんとクルトさんが前方を見据えながら相談中。
 ヒユナさんは魔力回復薬を配り、俺と師匠は足元の草木を確認して使えそうなものを採取。

「ウーガ、顔色が悪いが」
「へーきへーき、ちょっと魔力使い過ぎただけ」

 エニスさんがウーガさんを気遣う。
 魔力というならドーガさんもだけど、ドーガさんはヒユナさんに薬を貰って超ご機嫌だからしばらくは疲れも感じなさそう。

「まだ魔弓を使い始めて間もないんだ、無理するな」
「ん。気を付ける」

 聞くともなしに聞こえてしまった遣り取りで俺も心配になってきたので、雷神になるべくウーガさんの側にいてくれるよう頼む。
 そうこうしている内に話し合いを終えたバルドルさんが全員を集合させる。

「いまクルトから話を聞いたんだが、この、森と川に挟まれた道を抜けるまであと2時間は歩かないとならない。その間ずっとこの調子で襲撃されるとさすがにキツイ。金級オーァルの魔物相手にどこまで効果があるか判らないが、魔物除けを使ってみるのはどうだ」
「いいんじゃない?」

 即答は師匠だ。

「移動距離を稼ぐには魔物との戦闘を避けるのが一番良いもの」
「俺も賛成です」

 さっきのエニスさんとウーガさんの会話を思い出しながら、魔物除けを使うに1票。その後も賛成ばかりが増えて、先頭のクルトさん、殿のバルドルさんが一つずつ魔物除けを持つことになった。

「効果があれば良いわね」
「無いこともあるんですか?」

 師匠に聞いてみると、彼女は軽く肩を竦める。

「あれ、基本的に獣型には効くのよ。でも賢い魔物はそれを排除すれば人を襲えるのを知っているし、使っている冒険者は弱いと判断するかも?」
「え……」

 師匠のセリフに鳥肌が立った。
 それ、まさかフラグじゃないですよね……?
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