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第9章 未来のために

263.滝つぼダイブ

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 バルドルさん、エニスさん、ウーガさん、ドーガさん、クルトさん、ヒユナさん、そして師匠と俺。
 魔豹ゲパールの風神、雷神。白梟のチルルももちろん一緒に朝早くにトゥルヌソルを出発した後は経験者のクルトさんが道案内だ。

「ヒユナさんも「セーズ」に入場したことはあるんですよね?」
「うん。グランツェさんたちと10日間掛けて4階層まで進んだんだけど、復路に掛かる日数のことも考えて、そのまま最初の転移陣がある15階層まで進むのと、帰るのと、どっちが良いかってなった時に帰ることも選んじゃって」
「10日間で4階層? 進むだけじゃなく探索もしてたんですか?」
「ううん、レイナルドさん達がギルドに渡した情報通りに真っ直ぐ正しい順路を通って行ったつもりでも何故か迷ったりして、それだけ掛かったの。もうとにかく広くて」
「うわぁ……」

 広さだけでも2週間で15階層まで到達した「トラントゥトロワ」とは比べ物にならなさそうだ。

「クルトも4階層までだったか」
「ん。でも俺の場合はいつかレンくんを連れてまた1階層から進まないとならないって前提があったから4階層に留まって金策していたんだよ」

 銀級アルジョンのクルトさんを連れて行ったのは、彼が巨額の借金返済を前倒しでしていけるようレイナルドさんたちが協力したからで、それ以前に、時期が来たら俺を連れて行くっていうのがレイナルドさん達の中では確定事項だったってこと。

「初回はどれくらいの期間で申請するんですか?」
「30日間だ。それから、15階層に着くまでは戻らないと事前に言っておく」
「事前申告で捜索隊が出ないようになるんですか?」
「まず職員が15階層の転移陣から様子見に来るらしい。それで13階層までの間に合流できれば問題無し。合流できなければ捜索隊の派遣になる」
「へえ」
「つまり30日間で最低でも13階層までは行っとけってことか」
「だね」
「僧侶3人が同行していて、更にレイナルドの名前もあっての裏技みたいなもんだがな」
「あはは~」

 それは仕方ない。
 使えるものは使っていきましょう。

「多少の散策はしても構わないのかしら」
「せっかくの金級オーァルですし、素材採取したいですね」
「予定を圧迫しない範囲でな」

 バルドルさんが苦笑交じりに頷いてくれた。「トラントゥトロワ」では一切余所見が出来なかったので今回こそは「進む」以外も楽しみたいと思う。もちろん仲間が許してくれる範囲でだけど。
 トゥルヌソルの東門から北上し、緩やかな山道を登っていくこと約4時間。
 間もなくお昼という時分になってどこのダンジョンにもある監視小屋が見えて来た。深い森が途切れた山間の平地。同時に耳を打つ流水音。
 あ、そういえば「セーズ」の入口って確か……。

「うわぁ……!」

 森を抜けた途端に視界に飛び込んできた光景に誰からともなく感嘆の声が出た。
 監視小屋の向こう、唐突に平地が途切れたその先にあったのはナイアガラもびっくりしそうな幅広い滝だった。対岸の森が米粒に見えるくらい広く雄大な川から勢いよく流れ落ちる水。水しぶきがまるで霧のように辺りに広がっているから森の中より空気が冷えている。

「……まさかこの滝に飛び込むんですか」
「そうだよ」
「私、心臓止まるんじゃないかしら」
「師匠冗談に聞こえません!」

 監視小屋を通り過ぎて滝つぼを覗き込むと、木の洞にあったトラントゥトロワの入口とは全然違う、直径100メートル以上ありそうな巨大な転移陣が宙に浮いていた。もしかして転移陣の大きさがダンジョンの広さと比例してたりするのかな。だとしたら10倍以上だね。……え?

「あそこに飛び込むのはまだ判るとして、戻って来るのはどこになるんだ? まさかここに戻って来て落ちるのか?」
「まさか」

 クルトさんが笑う。

「いまは想像出来ないと思うけど、戻って来た時はあの転移陣から此処まで階段が出来るんだ」
「は?」
「判る。そうなるよね。でも本当だから戻って来た時を楽しみにしてて」

 うんうんって頷いているクルトさんの近くでヒユナさんも重々しく頷いている。
 本当にそうなるんだろうけど、本音を言うと「ええぇぇ?」である。

「ダンジョンは不思議のカタマリ……」
「ほんとにね。それより」

 師匠はそう言ってバルドルさんに背後を指し示す。

「監視小屋の職員が待ってるわよ」
「あ」

 雄大な景色と転移陣の位置に興奮していて、手続きのことが完全に頭から抜けていた。
 職員さんたちも「初めてのときは皆さん似たような感じですよ」だって。
 それからこれまで通りの手続きを経て俺たちは「セーズ」への入場許可を得た。

「くれぐれも命は大事にしてくださいね」

 トゥルヌソルから派遣されているという職員さんたちとはそっちのギルドでも何度も顔を合わせていた。冒険者よりギルド職員の方が内情に詳しいということもあって、遣り取りは終始和やかに進んだ。

「じゃあ行ってくる」
「お気をつけて」

 職員二人に見送られ、いよいよ崖の縁に立つ。

「……飛び込むんですね?」
「大丈夫、あれだけ広い転移陣なんだからどこに跳んでも絶対ダンジョンの中に行けるから」
「いやー判っててもなかなか」
「じゃあお手本代わりに、お先に」
「あ」

 地面を蹴って崖の向こうに跳んだクルトさんが、驚いている俺たちの目の前で足から吸い込まれるようにして転移陣の向こうに消えてしまった。

「じゃあ次は私が」

 ヒユナさんも躊躇がない。
 さすが経験者。
 で。

「ここでビビったら男が廃る!」

 ヒユナさんを追いかけるようにして飛び込んだドーガさんに、ウーガさんが大笑いし出した。

「なんだろな。今回のダンジョン攻略中はドーガの大活躍が見られそうな気がする」
「逆にやる気が空回りして盛大にポカするよ」
「ポカに一票」
「私もそっちかしらね」

 師匠も容赦ない。

「まぁでもヒユナちゃんも飛んだんだし、オレらがビビってられないってのは賛成だね」

 ウーガさんが言って、飛ぶ。
 俺は俺で足元の魔豹ゲパールたちと、風神の背中に乗っているチルルを見る。ここに来て跳ばないなんて選択肢がないのは判っていてもやっぱり怖い。
 しがみつかせてもらったら少しは恐怖も緩和するかな……って。

「あの、師匠」
「ん?」
「雷神の背中に乗りませんか?」
「え?」
「心臓止まられると困るので、雷神に乗って目を瞑っていたら少しはマシかも」

 言ったら、エニスさんとバルドルさんも「それだ」って顔。

「セルリーさん、それでいきましょう。貴女に何かあったら困ります」
「あらそう? 遠慮しないけど」
「しなくていいですから」

 くすくすと楽し気な師匠に、俺もつい顔が綻ぶ。安全第一。雷神に師匠のことをお願いして、その背中に乗ってもらったら、バルドルさんとエニスさんがにやりと笑う。

「おまえもフージンの背中に乗って来い」
「レンになにかあったら世界が滅亡しそうだからな」
「ぐふっ」

 お見通しですかそうですか!
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