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第9章 未来のために
262.準備期間
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俺の失言で話し合いがしばらく脱線してしまったものの、結論を言えばバルドルパーティ+師匠&ヒユナさんの8名で金級ダンジョン「セーズ」に挑むことになった。
指名依頼はあくまでグランツェさんに来ているもので、しかも怪我する危険もないから、それなら先にダンジョンに挑んで少しでもレイナルドパーティに追いついておいて欲しいそうだ。
これにはヒユナさんが女性だって理由も大きい。
グランツェパーティには雌体のメンバーはいても女性はヒユナさん一人。
やっぱりいろいろ気を遣うし、俺の神具『野営用テント』があればその大半は問題なくなるからね。
「世界中から集めても100人に満たない僧侶を3人も連れてダンジョンか」
唖然としてそんなことを呟いたのは何気に常識人のバルドルさんだ。
またやっかまれる理由が増えたなんて言ってたけど、……まぁ、うん、仕方ないよ。ドーガさんが大喜びだし。ただし僧侶の回復魔法でダンジョンを強行突破なんて難癖付けられるという新しい可能性が浮上した。
結局、一度やっかまれたら、重箱の隅突くみたいに文句言ってくる奴はいるし、そういう奴は結果出しても変わらない。
実力見せつけて相手黙らせようぜって話から始まった未踏破ダンジョン「セーズ」への挑戦だけど、もうそういう面倒は全部気にしないことにした。
考えるだけ無駄。
俺たちはやるべきことをやる。
それだけでいい。
師匠は「花火」開発チームの引継ぎに当初の予定通り5日間費やした後、こちらに合流。
ヒユナさんは指名依頼に同行しなくて良かったので初日からこちらに加わって野菜や肉の下拵えなど手伝ってくれた。
レイナルドパーティは、マーヘ大陸から持ち帰ったあれこれと一緒に王都に出発したし、グランツェパーティも指名依頼でトゥルヌソルに不在。
あれ?と思ったので野菜を切りながら聞いてみる。
「金級冒険者って、確かダンジョンから予定通りに出て来ない冒険者を捜索しに行ったり、緊急依頼は優先的に請け負う義務がありますよね。3つもトゥルヌソルから出てしまって大丈夫なんですか?」
「他にもいるから問題ないわね。何のためにゲンジャル達が夫婦でトゥルヌソルにいると思ってるの」
「……ゲンジャルさんの奥さんたちがどうかしたんですか?」
師匠の言葉が理解し切れなくて聞き返したら驚かれた。
「なんで知らないの……あ、判った。最近この大陸じゃ獄鬼の被害がないからだわ。あの子たちは此処から動かないものね。ふふっ。レイナルドパーティの番はみんな金級よ」
「えっ」
「番が「セーズ」攻略や王都関連の任務に就く場合に代わりを担うの。他にもあの子たちと無関係な金級も多いし心配無用よ」
「そ、う……ですか」
衝撃の事実に声が震えた。
まさかそんな形で代理が控えていたこともびっくりだし、師匠がレイナルドさんたちをあの子呼ばわりするのは何度聞いても慣れない。年齢差考えたら当然なんだけど。
「まぁでも、冒険者以外の裏の顔までは私も知らないんだけどね?」
「んぐっ」
そんなの俺も知りませんよ。っていうか師匠その言い方だとレイナルドさんが国の要職に就いてることは薄々気付いてらっしゃる……?
その意味深な笑顔は止めてください……っ、俺は何も喋りません!
そんなこんなで準備期間に充てた7日間は賑やかかつあっという間に過ぎて、いよいよ明日早朝に「セーズ」に向けて出発するという前夜、パーティメンバーが集まった広間で「相談なんだが」と声を発したのはバルドルだった。
「レイナルドパーティと合流するまでに、もし「セーズ」の30階層に到達して、更に余裕があったらさ、トゥルヌソルに戻って来る前に実家寄りたいんだ」
「ご実家?」
「こっからだと3日くらい掛かる。「セーズ」からだと山道通って一日半ってところか。普通ならダンジョン帰りに最寄り以外の町に向かうなんて考えないんだが」
あ、はい。
神具『野営用テント』ですよね判ります。
「僧侶3人は、トゥルヌソルに直帰したいならエニスが護衛で付く。ウーガとドーガもまぁ帰って良いんだが、出来れば連れて行きたい。里帰りなんて6年振りだからさ」
言われて納得した。
バルドルさん、ウーガさん、ドーガさんは同郷で、エニスさんだけギァリッグ大陸だと聞いた覚えがあったからだ。というかこのタイミングでの里帰りということは目的は一つしかない。
バルドルさんのご家族にクルトさんがご挨拶ってことですね?
平然を装いつつ口数が少なくなっているクルトさんが可愛いです。
によによ。
「俺や師匠がどうこうより、バルドルさんたちの実家がある町ってどんなところなんですか? 泊まれる宿はありますか?」
「宿もあるけど俺の実家に泊まれば」
「うちでもいいよー?」
ウーガさんが言う。
「まぁバルドルが言った話はあくまで余裕持って30階層まで到達した場合だから。余裕なければ界渡りの祝日までに二人で行くってさ」
エニスさんが軽く肩を竦める。
マーヘ大陸の「トラントゥトロワ」と比べるには難易度が違い過ぎるが、レイナルドパーティと合流するまで2カ月弱。
未踏破ダンジョンの攻略開始である。
指名依頼はあくまでグランツェさんに来ているもので、しかも怪我する危険もないから、それなら先にダンジョンに挑んで少しでもレイナルドパーティに追いついておいて欲しいそうだ。
これにはヒユナさんが女性だって理由も大きい。
グランツェパーティには雌体のメンバーはいても女性はヒユナさん一人。
やっぱりいろいろ気を遣うし、俺の神具『野営用テント』があればその大半は問題なくなるからね。
「世界中から集めても100人に満たない僧侶を3人も連れてダンジョンか」
唖然としてそんなことを呟いたのは何気に常識人のバルドルさんだ。
またやっかまれる理由が増えたなんて言ってたけど、……まぁ、うん、仕方ないよ。ドーガさんが大喜びだし。ただし僧侶の回復魔法でダンジョンを強行突破なんて難癖付けられるという新しい可能性が浮上した。
結局、一度やっかまれたら、重箱の隅突くみたいに文句言ってくる奴はいるし、そういう奴は結果出しても変わらない。
実力見せつけて相手黙らせようぜって話から始まった未踏破ダンジョン「セーズ」への挑戦だけど、もうそういう面倒は全部気にしないことにした。
考えるだけ無駄。
俺たちはやるべきことをやる。
それだけでいい。
師匠は「花火」開発チームの引継ぎに当初の予定通り5日間費やした後、こちらに合流。
ヒユナさんは指名依頼に同行しなくて良かったので初日からこちらに加わって野菜や肉の下拵えなど手伝ってくれた。
レイナルドパーティは、マーヘ大陸から持ち帰ったあれこれと一緒に王都に出発したし、グランツェパーティも指名依頼でトゥルヌソルに不在。
あれ?と思ったので野菜を切りながら聞いてみる。
「金級冒険者って、確かダンジョンから予定通りに出て来ない冒険者を捜索しに行ったり、緊急依頼は優先的に請け負う義務がありますよね。3つもトゥルヌソルから出てしまって大丈夫なんですか?」
「他にもいるから問題ないわね。何のためにゲンジャル達が夫婦でトゥルヌソルにいると思ってるの」
「……ゲンジャルさんの奥さんたちがどうかしたんですか?」
師匠の言葉が理解し切れなくて聞き返したら驚かれた。
「なんで知らないの……あ、判った。最近この大陸じゃ獄鬼の被害がないからだわ。あの子たちは此処から動かないものね。ふふっ。レイナルドパーティの番はみんな金級よ」
「えっ」
「番が「セーズ」攻略や王都関連の任務に就く場合に代わりを担うの。他にもあの子たちと無関係な金級も多いし心配無用よ」
「そ、う……ですか」
衝撃の事実に声が震えた。
まさかそんな形で代理が控えていたこともびっくりだし、師匠がレイナルドさんたちをあの子呼ばわりするのは何度聞いても慣れない。年齢差考えたら当然なんだけど。
「まぁでも、冒険者以外の裏の顔までは私も知らないんだけどね?」
「んぐっ」
そんなの俺も知りませんよ。っていうか師匠その言い方だとレイナルドさんが国の要職に就いてることは薄々気付いてらっしゃる……?
その意味深な笑顔は止めてください……っ、俺は何も喋りません!
そんなこんなで準備期間に充てた7日間は賑やかかつあっという間に過ぎて、いよいよ明日早朝に「セーズ」に向けて出発するという前夜、パーティメンバーが集まった広間で「相談なんだが」と声を発したのはバルドルだった。
「レイナルドパーティと合流するまでに、もし「セーズ」の30階層に到達して、更に余裕があったらさ、トゥルヌソルに戻って来る前に実家寄りたいんだ」
「ご実家?」
「こっからだと3日くらい掛かる。「セーズ」からだと山道通って一日半ってところか。普通ならダンジョン帰りに最寄り以外の町に向かうなんて考えないんだが」
あ、はい。
神具『野営用テント』ですよね判ります。
「僧侶3人は、トゥルヌソルに直帰したいならエニスが護衛で付く。ウーガとドーガもまぁ帰って良いんだが、出来れば連れて行きたい。里帰りなんて6年振りだからさ」
言われて納得した。
バルドルさん、ウーガさん、ドーガさんは同郷で、エニスさんだけギァリッグ大陸だと聞いた覚えがあったからだ。というかこのタイミングでの里帰りということは目的は一つしかない。
バルドルさんのご家族にクルトさんがご挨拶ってことですね?
平然を装いつつ口数が少なくなっているクルトさんが可愛いです。
によによ。
「俺や師匠がどうこうより、バルドルさんたちの実家がある町ってどんなところなんですか? 泊まれる宿はありますか?」
「宿もあるけど俺の実家に泊まれば」
「うちでもいいよー?」
ウーガさんが言う。
「まぁバルドルが言った話はあくまで余裕持って30階層まで到達した場合だから。余裕なければ界渡りの祝日までに二人で行くってさ」
エニスさんが軽く肩を竦める。
マーヘ大陸の「トラントゥトロワ」と比べるには難易度が違い過ぎるが、レイナルドパーティと合流するまで2カ月弱。
未踏破ダンジョンの攻略開始である。
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