上 下
281 / 335
第8章 金級ダンジョン攻略

閑話:会いに行く(1) side:レイナルド

しおりを挟む
 ギルドホールで大勢から祝いの言葉を投げかけられながら昇級手続きを終え、レイナルドパーティ5人が揃って白金級プラティヌ冒険者になった。
 レンたちからも口々に祝われた。
 確かにめでたいことだろう。
 世界に冒険者は何十万人といても、白金級プラティヌ冒険者はせいぜい1%。
 最上の神銀級ヴレィ・アルジョンに至ってはたった4人しかいないのだ。
 だが俺が――俺たちが目指しているのはプラーントゥ大陸に存在する金級オーァルダンジョンの踏破。そして同じく此処にある未踏破の白金級プラティヌ神銀級ヴレィ・アルジョンダンジョンの踏破。
 そのためには一緒に神銀級ヴレィ・アルジョンまで昇級してくれる仲間が必要であり、それがグランツェパーティ、バルドルパーティであって欲しい。
 移動費はどうにでもなる。
 他大陸の金級オーァル以上のダンジョンへの入場許可も俺なら取れる。

「次はおまえたちの番だぞ」

 言ってやったらグランツェたちは一様に驚いた顔をしたが、すぐに強気な笑みを浮かべて見せた。
 任せておけ。
 そう言っているようにも見えた。
 バルドルたちは自分が金級オーァルになったこともいまだ自覚が薄そうだが、こうしてトゥルヌソルに戻って他にも大勢の冒険者がいるギルドに出入りするようになれば嫌でも自覚するだろう。

「さ。船でも言ったがこれから2カ月弱はそれぞれ自由だ。9の月の一日から「セーズ」に挑むとして、その3日前にクランハウス集合。時間は追って知らせる」
「はい!」
「了解」
「それから、俺たちは「セーズ」の31階層までは攻略済みなんで、おまえたちも腕試しがしたいなら行って来い。ただし絶対に無理はせず、常識の範囲でな」

 セリフの最後はレンに視線を向ける。
 本人も理解しているらしく少し後ろめたそうな表情で苦笑いしている。

「じゃあここで解散だ。長旅お疲れさん」
「お疲れさまでした!」
「お疲れ」
「くーっ!」

 両腕を思いっきり頭上に伸ばしてくぐもった声を漏らしたのはウーガだ。

「久々のトゥルヌソル! 遊ぶぞーっ」
「遊ぶのはとりあえず二日間な。その後はパーティで今後の予定を決めるぞ」
「はいはい判ってるって」
「俺たちは帰ろう。エレインが待ってる」
「だね」
「たぶん頻繁に会うだろうけど、とりあえずは「来月末に、また」?」
「ははっ。ああ、またな」
「俺は師匠に会いに行ってきます」
「私も行く!」
「あ、じゃあ、俺が護衛でついていくよ」
「え……ドーガさん、良いんですか?」
「もちろん!」

 それぞれがこの後の予定を確認し合う。

「俺はクランハウス帰る。嫁に会いてぇ」

 ゲンジャルが言い、ウォーカーとミッシェルが頷く。

「私たちも少し休みたいし一緒に戻るわ」

 アッシュとヴァンもか。
 となると、俺は。

「……俺は用があるんで少し出て来る。明日はギルドの連中と話し合いがあるから、王都への移動は明後日以降だな」
「おう」
「ならまた後でな」

 仲間をギルドホールで見送った俺は、最後に建物を出て町の北西――教会の更に奥に広がる森へ足を運んだ。
 滅多に人が近付かない深い森の更に奥。
 通称「森人族エルフの森」。

「あ……あ、レイナルド様?」
「よ」

 樹上から此方に気付いた森人族エルフの男が微かにしか音を立てず傍に降り立った。
 彼の名前はラファエラーノ。
 この森の番人の一人だ。

「お戻りになっていたんですね!」
「ああ。ついさっきな」
「2カ月くらい前だったか、クールという少年が森に森人族エルフの木を植えていきましたよ。本人はその後で王都に旅立ってしまいましたが」
「ああ、兄の邸で働いている」
「そうでしたか」

 応じながらラファエラーノが移動する先についていくと、しばらくして土地に根付いたばかりだろう細い木の側で立ち止まった。
 さすがに木の見分けまではつかないがクールに持たせ、ここに植えさせたエトワールの木だと思う。

「あまりにも弱弱しくて根付くか心配でしたが、さすが主神様の伴侶殿に愛された土地ですね。どんどん元気になっていって、いまではこの通りですよ」
「そうか」

 マーヘ大陸で木へ変化した光景を見ていた身として、大地にきちんと根付くか心配していたが此処に植えさせたのは正解だったらしい。
 さすがというべきか、レン様様だ。
 本人は気にするだろうから言わないが。

「……少し森を歩いてもいいか?」
「構いません。見廻りの最中なのでご案内は出来ず恐縮ですが」
「ああ、問題ない」

 ラファエラーノは軽く、しかし丁寧に一礼すると音もなく消えた。跳躍で樹上に移動したからだ。……まぁ気を遣わせたんだろうな。
 彼の気配が遠ざかるのを感じつつ、上着の内ポケットから握ればすっかり隠れてしまう魔道具を取り出した。
 通信用だと、レンから渡された一対の魔石の片割れ。
 最後に会った時にハーマイトシュシューに渡し、最期の日に互いの言葉を届けたもの。

「さて……」

 それに魔力を流すと離れた場所にある片割れが反応する。
 通信の魔道具なのだから当然だ。
 そして最期の瞬間まで彼の手元にあったもの。例え地面に転がっていたとしてもその近くには彼の木があるはずだ。

「……花でも持って来るべきだったな」

 ぽつりと零し、魔道具の反応を追うように再び森を歩き始めた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...