生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら

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第8章 金級ダンジョン攻略

255.ギルドマスター

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 トゥルヌソルの街門で衛兵たちの大歓迎を受け、商い通りでも絶えず声を掛けられる上に「持ってきな!」と果物や飲み物を渡されてしまい、冒険者ギルドに着く頃には皆の両腕が物で溢れていた。
 そこに、さらに掛けられるたくさんの声。

「レイナルドパーティが帰って来た!」
「グランツェパーティも一緒だ!」
「……バルドルパーティも金級オーァルに昇級したって、あれマジだったのか?」

 歓迎に交じる悪意の籠った言葉、視線。丁度、今日の仕事を終えた冒険者たちが戻って来る時間帯だったこともありホールはそれなりに混雑している。
 ちらと見上げたバルドルさんは俺に気付いて軽く肩を竦めていた。
 そこに――。

「お帰りなさい皆さん!」

 カウンターの向こうから声を掛けてくれたのはサブマスターのララさんだ。
 彼女を見たら勝手に顔が緩んだ。

「ララさん! ご無沙汰してますっ」
「お元気そうで何よりです。マーヘ大陸ではご活躍だったと聞いていますよ」
「はいっ、みんな凄かったです」
「ふふっ。そして……そちらがレンくんが発見したという味方になった魔物ですね」

 ララさんの視線が風神、雷神、チルルに注がれる。
 レイナルドさんの魔豹ゲパールは既に魔石に戻っているからだ。

「魔石に魔力を込めたら魔物が顕現するなんてって、こっちでも大騒ぎだったのよ。一時期魔石の買い取りが極端に減ったりね」
「え……自分以外に連れ歩いている人はまだ見てないですけど」
「そりゃそうよ。維持するのにどれだけの魔力が必要だと思っているの」
「あ」

 そうか、その問題があったんだっけ。戦力になりそうな魔物は銀級アルジョン以上で、そういう魔物を顕現しようと思ったら魔法使い並みの魔力量が必要だ。
 仲間が受け入れてくれているからといって、俺みたいにペット感覚で連れ歩く方がおかしいのを忘れていた。

「買い取りが減ったのが一時的で済んだなら良かった、です?」
「そうね。ふふっ」
「ララ」

 こちらの会話が一段落ついたタイミングで、レイナルドさんが彼女を呼ぶ。
 そして――。

「そいつが新しいギルドマスターか」
「え……」

 言われて、初めてララさんの2歩くらい後ろに長身の獣人族ビーストの男性が立っていたことに気付いた。しかも「新しいギルドマスター」と言われて驚く。
 俺も驚いたけど他の面々はもっと驚いていた。

「新し……え?」
「ハーマイトシュシュ―は?」

 モーガンさんが身を乗り出すようにして問う。
 ララさんは一瞬俯いたようだったけど、瞬きする間に気持ちを切り替えたみたいだった。

「前任のハーマイトシュシューは3の月の終わりに主神様の御許へお渡りになりました」
「――」
「こちらは王都フロレゾンのギルドから転属となったリカルド・ゲッターです」
「いま紹介に与ったリカルドだ。よろしくな」
「そうか、おまえが来たか」

 レイナルドさんとリカルドさんが親し気な様子で握手する。
 その後で、リカルドさんは俺を見る。

「話題の伴侶殿にお会い出来て光栄だ。よろしくな」
「え。あ、こちらこそよろしくお願いします」
「ん。ゲンジャル達は久々だな。そっちはグランツェパーティか。おまえたちの活躍も聞いている」

 そうして金級オーァル冒険者と新任のギルドマスターが顔合わせをしている間に、モーガンさんがレイナルドさんの肩を掴んだ。

「レイナルド、おまえ、ハーマイトシュシューのこと……」
「ああ、知ってた。お節介な規格外がいるからな」
「あ……」

 モーガンさんの視線が俺を向く。
 はい、お節介な規格外です。かと言って会わせてあげられたわけでもなく……役に立てたかどうかはいまだに自信がない。
 一方のモーガンさんはというと、それで納得したのか、納得せざるを得ないと諦めたのか、レイナルドさんの肩を一度だけ叩いてグランツェさんの隣に戻った。そうして気付けばララさんも、ディゼルさんも、オクティバさんも、バルドルパーティんの皆も、何とも言えない顔でレイナルドさんを見ていた。
 ハーマイトシュシューさんがレイナルドさんの恋人だったって知ってるから。
 ゲンジャルさんたちの態度が変わらないのは、貴族たるもの感情を表に出すなっていうルールなのか、もしくは事前に聞いて知っていたのか悩むところだ。

「さて……おまえたち16人で金級オーァルダンジョン「セーズ」に挑むってことで良いのか?」
「いや、17人だ。僧侶のセルリーが加わる」
「そうか……まぁ此処には僧侶が多いから構わんか。いつからだ?」
「俺たちは一度王都に行かないとならないから、9の月、一日を予定している」
「了解した。それまでは各自自由行動か」
「ああ」
「ならグランツェパーティには一つ仕事を頼みたいんだが」
「もちろんだ」

 即答するグランツェさんに軽く頷いて見せたリカルドさんは、次いでバルドルさんにも。

「おまえたちも金級オーァルだ。いつ指名依頼が来るとも限らん。トゥルヌソルから出る時は事前に報告を」
「判った」
「よし。ギルドからの話はこんなところだが、何かあるか?」
「トラントゥトロワの素材なんかを買い取ってくれ。あとは俺たちの昇級手続きだ」
「昇級……」

 その単語を口に乗せた後でリカルドさんの目が見開かれる。

「そうかっ、おまえたち白金級プラティヌになったのか!」

 その声にギルド全体から歓声が沸いた。
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