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第8章 金級ダンジョン攻略
254.9カ月ぶりの
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「あぁ……癒される……」
「もう離れたくない……」
「はあぁ……」
腹にも尻にも人に張り付かれた巨大な白梟――チルルの表情が心なしか煩わしそうに見える。
ずんぐりむっくりなもっふもふの、大きな目が細められている。
見えるわけないのに眉毛は八の字を書いている気がした。
「えー……と、皆さん。そろそろこの子を魔石に戻そうかな、と」
「え、やだ!」
即答は背中にしがみついていたミッシェルさん。
腹にしがみついたウーガさんも「このまま部屋に連れて帰りたい……!」って。
「いくらなんでもこのままは無理ですよ。重すぎて船が沈みます」
さすがに沈むは言い過ぎかもしれないが、乗せている重量が増すほど船が動くために必要な魔力も増えるし、速度を維持しようと思ったらなおさらだ。
ミッシェルさん達もさすがにそういった事情は理解しているようで心底不服と言いたげな顔をしつつもチルルから離れてくれた。
途端に「ふしゅ~」って息を吐くチルル。
なかなか感情豊かな子らしい。
あとは神力を返してもらえば魔石に戻るのだけど……。
「今から君の名前はチルルだ。俺たちに力を貸してくれると嬉しい」
「ホゥ」
「その大きさのままだと運航に障るから、一度魔石に戻すよ。陸に着いたらまた会おうね」
「ホ?」
頭を傾げるチルル。
うん、いまの動きは梟っぽい……って思った次の瞬間。
「ホーロロロ」
「え……」
鳴き声と同時、チルルの体内を巡っていた俺の神力が流れを変えて一か所に恐縮される。で、その動きが落ち着いたと思ったらチルルは肩に乗せて歩けるまで小さくなっていた。
船もふわっと浮き上がる。
「うそ……」
「マジで」
「ホゥ」
ばさりと翼をはためかせて、チルルは俺の右肩に乗る。
爪が少し食い込んだ気がして痛かったがケガをするほどではないと思う。
「魔物って、大きさも変幻自在?」
「そんな話は聞いたこともないが……神力なら出来るのかもな」
「あ……そっか」
神力は神様の力であって、皆が使える魔力とはそもそも別物だ。巨大化するなら小型化もするってことでいいのかな……?
「自分から小さくなったってことは、魔石に戻りたくなかったのかも」
ふとクルトさんが呟く。
「レンくんと一緒にいたいんだね」
「え……」
「ぐるる」
急に風神と雷神が体を摺り寄せて来た。
「ぐるっ」
「ぶるる」
「ホー」
もふもふ。
ぬくぬく。
「……!」
やばい。幸せ過ぎて死ねる。
結局2頭と1羽は顕現したそのまま、俺に懐いているのかと思いきやウーガさんと一緒に寝て欲しいと頼んだら雷神は嬉しそうに彼にくっついていた。
一方の風神は、その背にチルルを乗せている。
確かめてみたら肩に跡がついていたので助かるが、風神の背中が大丈夫なのか少し心配だ。
そして何となく魔石に戻りたくないと言う意思を感じる。
チルルがこの環境下でどれくらい過ごせるのかといった情報は知っておきたいというのもあったので、船内で2泊する間、2頭と1羽+レイナルドさんの魔豹もずっと顕現したままだった。
ということで、結論。
神力で顕現した子は、その姿を維持出来る時間において気温等と言った環境は影響しない。例が少ないからたぶんだけど。
プラーントゥ大陸・港町ローザルゴーザにはほぼ予定通りに到着した。
船を降りて港町らしい昼食を皆で食べ、用意してもらった馬車に荷物を積み込んだら俺たちはそれを護衛する形でトゥルヌソルに向けて出発した。
オセアン大陸に向かったのは去年の10月――「界渡りの祝日」を終えた直後だったからおよそ9カ月振り。
夏本番を迎える土地は緑鮮やかな景色が目に楽しく、歩いているだけでも薄っすらと汗ばむ陽気だ。
「マーヘ大陸のことがなかったら他の大陸にもダンジョン攻略に向かうはずだったことを考えると、予定よりずっと早い帰還になったな」
「だな」
そう、特例での昇級がなければバルドルパーティ6人は鉄級や銅級、銀級ダンジョン攻略を目的に移動を続けなければならなかった。此処に戻って来るのは何年後になるかな、なんて話もしていたのに1年も掛けずに戻って来たばかりか、魔豹や死を齎す怪鳥を味方にし、メッセンジャーや通信具など、こちらの人にとっては画期的な魔道具まで開発。
うん、なかなか濃ゆい9カ月だった。
「俺らが昇級したの、すぐに知れ渡るんだろうな」
「マーヘ大陸の制圧戦にはトゥルヌソルからも援軍が来ていたからとっくに知れ渡ってんじゃないか?」
「あー……ギルド行くのイヤだねぇ」
「だからって行かないわけにいかないだろ」
「むしろさっさと済ませてしまえ」
俺もそれが良いと思う。
なんせこれから9月まで、約2カ月間は何だかんだでここで冒険者稼業をするんだから。
「あ、ほら見えて来たわよ。トゥルヌソルの門が」
「ほんとだ」
「帰って来たな!」
「はい!」
言っていたら、門の前にいる衛兵の皆さんもこっちに気付いたらしい。見れば誰なのか判るのか、あちらが大きく手を振ってくれている。
帰って来た。
そう思えることが嬉しかった。
「もう離れたくない……」
「はあぁ……」
腹にも尻にも人に張り付かれた巨大な白梟――チルルの表情が心なしか煩わしそうに見える。
ずんぐりむっくりなもっふもふの、大きな目が細められている。
見えるわけないのに眉毛は八の字を書いている気がした。
「えー……と、皆さん。そろそろこの子を魔石に戻そうかな、と」
「え、やだ!」
即答は背中にしがみついていたミッシェルさん。
腹にしがみついたウーガさんも「このまま部屋に連れて帰りたい……!」って。
「いくらなんでもこのままは無理ですよ。重すぎて船が沈みます」
さすがに沈むは言い過ぎかもしれないが、乗せている重量が増すほど船が動くために必要な魔力も増えるし、速度を維持しようと思ったらなおさらだ。
ミッシェルさん達もさすがにそういった事情は理解しているようで心底不服と言いたげな顔をしつつもチルルから離れてくれた。
途端に「ふしゅ~」って息を吐くチルル。
なかなか感情豊かな子らしい。
あとは神力を返してもらえば魔石に戻るのだけど……。
「今から君の名前はチルルだ。俺たちに力を貸してくれると嬉しい」
「ホゥ」
「その大きさのままだと運航に障るから、一度魔石に戻すよ。陸に着いたらまた会おうね」
「ホ?」
頭を傾げるチルル。
うん、いまの動きは梟っぽい……って思った次の瞬間。
「ホーロロロ」
「え……」
鳴き声と同時、チルルの体内を巡っていた俺の神力が流れを変えて一か所に恐縮される。で、その動きが落ち着いたと思ったらチルルは肩に乗せて歩けるまで小さくなっていた。
船もふわっと浮き上がる。
「うそ……」
「マジで」
「ホゥ」
ばさりと翼をはためかせて、チルルは俺の右肩に乗る。
爪が少し食い込んだ気がして痛かったがケガをするほどではないと思う。
「魔物って、大きさも変幻自在?」
「そんな話は聞いたこともないが……神力なら出来るのかもな」
「あ……そっか」
神力は神様の力であって、皆が使える魔力とはそもそも別物だ。巨大化するなら小型化もするってことでいいのかな……?
「自分から小さくなったってことは、魔石に戻りたくなかったのかも」
ふとクルトさんが呟く。
「レンくんと一緒にいたいんだね」
「え……」
「ぐるる」
急に風神と雷神が体を摺り寄せて来た。
「ぐるっ」
「ぶるる」
「ホー」
もふもふ。
ぬくぬく。
「……!」
やばい。幸せ過ぎて死ねる。
結局2頭と1羽は顕現したそのまま、俺に懐いているのかと思いきやウーガさんと一緒に寝て欲しいと頼んだら雷神は嬉しそうに彼にくっついていた。
一方の風神は、その背にチルルを乗せている。
確かめてみたら肩に跡がついていたので助かるが、風神の背中が大丈夫なのか少し心配だ。
そして何となく魔石に戻りたくないと言う意思を感じる。
チルルがこの環境下でどれくらい過ごせるのかといった情報は知っておきたいというのもあったので、船内で2泊する間、2頭と1羽+レイナルドさんの魔豹もずっと顕現したままだった。
ということで、結論。
神力で顕現した子は、その姿を維持出来る時間において気温等と言った環境は影響しない。例が少ないからたぶんだけど。
プラーントゥ大陸・港町ローザルゴーザにはほぼ予定通りに到着した。
船を降りて港町らしい昼食を皆で食べ、用意してもらった馬車に荷物を積み込んだら俺たちはそれを護衛する形でトゥルヌソルに向けて出発した。
オセアン大陸に向かったのは去年の10月――「界渡りの祝日」を終えた直後だったからおよそ9カ月振り。
夏本番を迎える土地は緑鮮やかな景色が目に楽しく、歩いているだけでも薄っすらと汗ばむ陽気だ。
「マーヘ大陸のことがなかったら他の大陸にもダンジョン攻略に向かうはずだったことを考えると、予定よりずっと早い帰還になったな」
「だな」
そう、特例での昇級がなければバルドルパーティ6人は鉄級や銅級、銀級ダンジョン攻略を目的に移動を続けなければならなかった。此処に戻って来るのは何年後になるかな、なんて話もしていたのに1年も掛けずに戻って来たばかりか、魔豹や死を齎す怪鳥を味方にし、メッセンジャーや通信具など、こちらの人にとっては画期的な魔道具まで開発。
うん、なかなか濃ゆい9カ月だった。
「俺らが昇級したの、すぐに知れ渡るんだろうな」
「マーヘ大陸の制圧戦にはトゥルヌソルからも援軍が来ていたからとっくに知れ渡ってんじゃないか?」
「あー……ギルド行くのイヤだねぇ」
「だからって行かないわけにいかないだろ」
「むしろさっさと済ませてしまえ」
俺もそれが良いと思う。
なんせこれから9月まで、約2カ月間は何だかんだでここで冒険者稼業をするんだから。
「あ、ほら見えて来たわよ。トゥルヌソルの門が」
「ほんとだ」
「帰って来たな!」
「はい!」
言っていたら、門の前にいる衛兵の皆さんもこっちに気付いたらしい。見れば誰なのか判るのか、あちらが大きく手を振ってくれている。
帰って来た。
そう思えることが嬉しかった。
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