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第8章 金級ダンジョン攻略
249.来るべき時
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ケヴィンさんの協力も得て、ゼスが監視小屋にいない日を計算して金級ダンジョン「トラントゥトロワ」の攻略を再開した俺たちは、それから約2カ月掛けて最下層60階のボスまで到達した。
「魔法武器が欲しいなら、貢献度を上げた方が出る確立が上がる。ボス戦は元々のパーティごとに分かれて挑もうと思うが、どうだ?」
第59階層と60階層を繋ぐ門の前でレイナルドさんが言う。
つまりレイナルドパーティ、グランツェパーティ、バルドルパーティだ。
「不安なら適当に入れ替えるが」
「いや、問題ない」
レイナルドさんから視線を向けられたバルドルさんが即答する。
「しんどくなったらレンの応援領域に頼っても良いぞ?」
完全に揶揄いの表情で意地悪なことを言ったのはゲンジャルさんだけど、それに煽られてイラッとする人はいなかった。
むしろウーガさんとドーガさんなんて楽しそうだし、クルトさんとエニスさんは笑ってるし、バルドルさんは真面目な顔で「不要だ」って言いきった。
俺もそう思う。
「そうやって意地悪なことばかり言っていると皆に嫌われますよ」
「意地悪じゃなくて師匠としての激励だろ」
「そんなの受け取る側次第ですからね」
「レンに同意~」
「いや、俺はそういう意味で言ったんじゃ――」
ミッシェルさんがニヤニヤと背後へ。
こちらはこちらで兄を揶揄う気が満々だ。
レイナルドさんが軽く息を吐く。
「なら、あとは順番だな。最初は誰が行く?」
リーダー同士の話し合いで、最初がバルドルパーティ、次にグランツェパーティ、最後がレイナルドパーティに決まった。
ボス戦は、60階層に入ったメンバーが戦闘を開始した時点で他者の入場が出来なくなる。
ここには俺たち以外の挑戦者がいないのであまり気を遣わずに済むが、混んでいる場合は時間を掛ければ掛けるほど責められるような気がするらしい。幸い俺にはそんな経験もないのだけど。
「焦る必要はない。おまえたちは充分に強い。無茶はせず、確実に勝って来い」
「はい」
「行ってらっしゃい」
年上組に見送られて、まずはエニスさん、それからクルトさん、俺、ウーガさん、ドーガさんが60階層に移動して、最後にバルドルさん。
「初の金級ボスですね」
「それを言ったら銀級ボスと初めて戦ったのもつい最近だがな」
マーヘ大陸の制圧戦に強制参加させると言う名目で特別昇級した俺たちだ。初めて銀級ボスと戦った日から1年も経っていないなんて普通なら考えられない。
「だよねー」
「まさか金級ダンジョンのボスに挑む日が来るなんて考えもしなかった」
ウーガさんが右手を差し出すと、ドーガさんがそんなことを言いながらお兄さんの手に自分の手を重ねた。
「……気付いてるか? このダンジョンをクリアしたらレイナルドたちは白金級冒険者だぞ」
「あ」
「マジか」
「マジで」
兄弟の手に、エニスさんが手を重ねる。
「しかも、俺たちにもそこまで上って来いだからな」
「マジかー!」
それって嬉しそうな笑顔で言うセリフかなと思ったけど、顔に出てる方が本音なんだから仕方ないね。俺も3人の手に手を重ねた。
「勝ちますよ、応援領域無しで」
「だね」
クルトさんも笑ってる。
緊張なんて全然していない自然体だ。
そしてバルドルさんも。
「勝つぞ」
「おう!」
「多少の怪我はすぐに治しますが自分から危険なことするのはなるべく禁止で」
「痛いのヤだしね~」
ウーガさんが言って、まるで念じるように力む。
「むむむっ、魔弓出ろーおー!」
「念じたら出るのか?」
「出るわけない」
「兄貴は魔弓より抱き枕出ろって願掛けした方がいいぞ」
かもしれない。
極寒地帯でふわっふわの抱き枕代わりになる魔物を求めていたウーガさんだけど、実際に白き氷の凶熊を倒して入手した魔石をドーガさんが顕現して添い寝してもらったところ、魔物の体調が悪化して30分も保たなかった。
原因は、部屋の気温。
極寒地帯で生息している魔物は温かな部屋では生きていけないのではないかという予測が立てられた。
ちなみに魔力を提供したドーガさんは、その30分のために魔力枯渇に陥って昏睡しており、ウーガさんはそんな意識不明の弟を抱き枕にしていました。
やっぱり魔豹を顕現するのが良さそうなので、今回の攻略が終わったら覚悟を決めてユキとツキの魔石の顕現を頑張ろうと思っている。レイナルドさんにも気を遣わせてるしね。俺の前では絶対にハナを出そうとしないんだから。
「――よし、いくか」
今一度互いに重ねた手を見つめて気持ちを一つにする。
さぁいこう。
金級ボスとの初対決だ。
金級ダンジョン「トラントゥトロワ」の最終ボスは氷属性の攻撃魔法を使う体長3メートル以上の巨大な白梟――死を齎す怪鳥《ウネコエラ》。
氷塊に鎮座していた魔物はこちらが戦闘態勢に入ると同時、その巨大な翼を広げて制空権を取る。
「来るぞ!」
バルドルさんの声。
当時に魔物の背後に次々と浮かぶ氷の塊は鋭利な切っ先を地上に向け、落ちた。
「!!」
俺たちは走る。
次々と足元に突き刺さる氷塊はすぐに消えるわけでなく、かといって落下する氷刃の数は尽きず、俺たちは避けるために逃げるしかないのに、逃げ場は制限されていく。
そろそろ反撃したい。
逃げながらでも考えられる。
俺の拘禁は対象が少しでも地面に触れていないと発動しないけど――。
「ドーガ!」
「頼んだ!」
バルドルさんとドーガさん、二人の声が聞こえるや否やボスに対し直線上に並び止まった。
降り注ぐ氷刃によって冷たい白煙が視界を覆う。
でも、それは同時に俺たちの反撃の狼煙でもあった。
「火矢!!」
「魔法武器が欲しいなら、貢献度を上げた方が出る確立が上がる。ボス戦は元々のパーティごとに分かれて挑もうと思うが、どうだ?」
第59階層と60階層を繋ぐ門の前でレイナルドさんが言う。
つまりレイナルドパーティ、グランツェパーティ、バルドルパーティだ。
「不安なら適当に入れ替えるが」
「いや、問題ない」
レイナルドさんから視線を向けられたバルドルさんが即答する。
「しんどくなったらレンの応援領域に頼っても良いぞ?」
完全に揶揄いの表情で意地悪なことを言ったのはゲンジャルさんだけど、それに煽られてイラッとする人はいなかった。
むしろウーガさんとドーガさんなんて楽しそうだし、クルトさんとエニスさんは笑ってるし、バルドルさんは真面目な顔で「不要だ」って言いきった。
俺もそう思う。
「そうやって意地悪なことばかり言っていると皆に嫌われますよ」
「意地悪じゃなくて師匠としての激励だろ」
「そんなの受け取る側次第ですからね」
「レンに同意~」
「いや、俺はそういう意味で言ったんじゃ――」
ミッシェルさんがニヤニヤと背後へ。
こちらはこちらで兄を揶揄う気が満々だ。
レイナルドさんが軽く息を吐く。
「なら、あとは順番だな。最初は誰が行く?」
リーダー同士の話し合いで、最初がバルドルパーティ、次にグランツェパーティ、最後がレイナルドパーティに決まった。
ボス戦は、60階層に入ったメンバーが戦闘を開始した時点で他者の入場が出来なくなる。
ここには俺たち以外の挑戦者がいないのであまり気を遣わずに済むが、混んでいる場合は時間を掛ければ掛けるほど責められるような気がするらしい。幸い俺にはそんな経験もないのだけど。
「焦る必要はない。おまえたちは充分に強い。無茶はせず、確実に勝って来い」
「はい」
「行ってらっしゃい」
年上組に見送られて、まずはエニスさん、それからクルトさん、俺、ウーガさん、ドーガさんが60階層に移動して、最後にバルドルさん。
「初の金級ボスですね」
「それを言ったら銀級ボスと初めて戦ったのもつい最近だがな」
マーヘ大陸の制圧戦に強制参加させると言う名目で特別昇級した俺たちだ。初めて銀級ボスと戦った日から1年も経っていないなんて普通なら考えられない。
「だよねー」
「まさか金級ダンジョンのボスに挑む日が来るなんて考えもしなかった」
ウーガさんが右手を差し出すと、ドーガさんがそんなことを言いながらお兄さんの手に自分の手を重ねた。
「……気付いてるか? このダンジョンをクリアしたらレイナルドたちは白金級冒険者だぞ」
「あ」
「マジか」
「マジで」
兄弟の手に、エニスさんが手を重ねる。
「しかも、俺たちにもそこまで上って来いだからな」
「マジかー!」
それって嬉しそうな笑顔で言うセリフかなと思ったけど、顔に出てる方が本音なんだから仕方ないね。俺も3人の手に手を重ねた。
「勝ちますよ、応援領域無しで」
「だね」
クルトさんも笑ってる。
緊張なんて全然していない自然体だ。
そしてバルドルさんも。
「勝つぞ」
「おう!」
「多少の怪我はすぐに治しますが自分から危険なことするのはなるべく禁止で」
「痛いのヤだしね~」
ウーガさんが言って、まるで念じるように力む。
「むむむっ、魔弓出ろーおー!」
「念じたら出るのか?」
「出るわけない」
「兄貴は魔弓より抱き枕出ろって願掛けした方がいいぞ」
かもしれない。
極寒地帯でふわっふわの抱き枕代わりになる魔物を求めていたウーガさんだけど、実際に白き氷の凶熊を倒して入手した魔石をドーガさんが顕現して添い寝してもらったところ、魔物の体調が悪化して30分も保たなかった。
原因は、部屋の気温。
極寒地帯で生息している魔物は温かな部屋では生きていけないのではないかという予測が立てられた。
ちなみに魔力を提供したドーガさんは、その30分のために魔力枯渇に陥って昏睡しており、ウーガさんはそんな意識不明の弟を抱き枕にしていました。
やっぱり魔豹を顕現するのが良さそうなので、今回の攻略が終わったら覚悟を決めてユキとツキの魔石の顕現を頑張ろうと思っている。レイナルドさんにも気を遣わせてるしね。俺の前では絶対にハナを出そうとしないんだから。
「――よし、いくか」
今一度互いに重ねた手を見つめて気持ちを一つにする。
さぁいこう。
金級ボスとの初対決だ。
金級ダンジョン「トラントゥトロワ」の最終ボスは氷属性の攻撃魔法を使う体長3メートル以上の巨大な白梟――死を齎す怪鳥《ウネコエラ》。
氷塊に鎮座していた魔物はこちらが戦闘態勢に入ると同時、その巨大な翼を広げて制空権を取る。
「来るぞ!」
バルドルさんの声。
当時に魔物の背後に次々と浮かぶ氷の塊は鋭利な切っ先を地上に向け、落ちた。
「!!」
俺たちは走る。
次々と足元に突き刺さる氷塊はすぐに消えるわけでなく、かといって落下する氷刃の数は尽きず、俺たちは避けるために逃げるしかないのに、逃げ場は制限されていく。
そろそろ反撃したい。
逃げながらでも考えられる。
俺の拘禁は対象が少しでも地面に触れていないと発動しないけど――。
「ドーガ!」
「頼んだ!」
バルドルさんとドーガさん、二人の声が聞こえるや否やボスに対し直線上に並び止まった。
降り注ぐ氷刃によって冷たい白煙が視界を覆う。
でも、それは同時に俺たちの反撃の狼煙でもあった。
「火矢!!」
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