274 / 335
第8章 金級ダンジョン攻略
249.来るべき時
しおりを挟む
ケヴィンさんの協力も得て、ゼスが監視小屋にいない日を計算して金級ダンジョン「トラントゥトロワ」の攻略を再開した俺たちは、それから約2カ月掛けて最下層60階のボスまで到達した。
「魔法武器が欲しいなら、貢献度を上げた方が出る確立が上がる。ボス戦は元々のパーティごとに分かれて挑もうと思うが、どうだ?」
第59階層と60階層を繋ぐ門の前でレイナルドさんが言う。
つまりレイナルドパーティ、グランツェパーティ、バルドルパーティだ。
「不安なら適当に入れ替えるが」
「いや、問題ない」
レイナルドさんから視線を向けられたバルドルさんが即答する。
「しんどくなったらレンの応援領域に頼っても良いぞ?」
完全に揶揄いの表情で意地悪なことを言ったのはゲンジャルさんだけど、それに煽られてイラッとする人はいなかった。
むしろウーガさんとドーガさんなんて楽しそうだし、クルトさんとエニスさんは笑ってるし、バルドルさんは真面目な顔で「不要だ」って言いきった。
俺もそう思う。
「そうやって意地悪なことばかり言っていると皆に嫌われますよ」
「意地悪じゃなくて師匠としての激励だろ」
「そんなの受け取る側次第ですからね」
「レンに同意~」
「いや、俺はそういう意味で言ったんじゃ――」
ミッシェルさんがニヤニヤと背後へ。
こちらはこちらで兄を揶揄う気が満々だ。
レイナルドさんが軽く息を吐く。
「なら、あとは順番だな。最初は誰が行く?」
リーダー同士の話し合いで、最初がバルドルパーティ、次にグランツェパーティ、最後がレイナルドパーティに決まった。
ボス戦は、60階層に入ったメンバーが戦闘を開始した時点で他者の入場が出来なくなる。
ここには俺たち以外の挑戦者がいないのであまり気を遣わずに済むが、混んでいる場合は時間を掛ければ掛けるほど責められるような気がするらしい。幸い俺にはそんな経験もないのだけど。
「焦る必要はない。おまえたちは充分に強い。無茶はせず、確実に勝って来い」
「はい」
「行ってらっしゃい」
年上組に見送られて、まずはエニスさん、それからクルトさん、俺、ウーガさん、ドーガさんが60階層に移動して、最後にバルドルさん。
「初の金級ボスですね」
「それを言ったら銀級ボスと初めて戦ったのもつい最近だがな」
マーヘ大陸の制圧戦に強制参加させると言う名目で特別昇級した俺たちだ。初めて銀級ボスと戦った日から1年も経っていないなんて普通なら考えられない。
「だよねー」
「まさか金級ダンジョンのボスに挑む日が来るなんて考えもしなかった」
ウーガさんが右手を差し出すと、ドーガさんがそんなことを言いながらお兄さんの手に自分の手を重ねた。
「……気付いてるか? このダンジョンをクリアしたらレイナルドたちは白金級冒険者だぞ」
「あ」
「マジか」
「マジで」
兄弟の手に、エニスさんが手を重ねる。
「しかも、俺たちにもそこまで上って来いだからな」
「マジかー!」
それって嬉しそうな笑顔で言うセリフかなと思ったけど、顔に出てる方が本音なんだから仕方ないね。俺も3人の手に手を重ねた。
「勝ちますよ、応援領域無しで」
「だね」
クルトさんも笑ってる。
緊張なんて全然していない自然体だ。
そしてバルドルさんも。
「勝つぞ」
「おう!」
「多少の怪我はすぐに治しますが自分から危険なことするのはなるべく禁止で」
「痛いのヤだしね~」
ウーガさんが言って、まるで念じるように力む。
「むむむっ、魔弓出ろーおー!」
「念じたら出るのか?」
「出るわけない」
「兄貴は魔弓より抱き枕出ろって願掛けした方がいいぞ」
かもしれない。
極寒地帯でふわっふわの抱き枕代わりになる魔物を求めていたウーガさんだけど、実際に白き氷の凶熊を倒して入手した魔石をドーガさんが顕現して添い寝してもらったところ、魔物の体調が悪化して30分も保たなかった。
原因は、部屋の気温。
極寒地帯で生息している魔物は温かな部屋では生きていけないのではないかという予測が立てられた。
ちなみに魔力を提供したドーガさんは、その30分のために魔力枯渇に陥って昏睡しており、ウーガさんはそんな意識不明の弟を抱き枕にしていました。
やっぱり魔豹を顕現するのが良さそうなので、今回の攻略が終わったら覚悟を決めてユキとツキの魔石の顕現を頑張ろうと思っている。レイナルドさんにも気を遣わせてるしね。俺の前では絶対にハナを出そうとしないんだから。
「――よし、いくか」
今一度互いに重ねた手を見つめて気持ちを一つにする。
さぁいこう。
金級ボスとの初対決だ。
金級ダンジョン「トラントゥトロワ」の最終ボスは氷属性の攻撃魔法を使う体長3メートル以上の巨大な白梟――死を齎す怪鳥《ウネコエラ》。
氷塊に鎮座していた魔物はこちらが戦闘態勢に入ると同時、その巨大な翼を広げて制空権を取る。
「来るぞ!」
バルドルさんの声。
当時に魔物の背後に次々と浮かぶ氷の塊は鋭利な切っ先を地上に向け、落ちた。
「!!」
俺たちは走る。
次々と足元に突き刺さる氷塊はすぐに消えるわけでなく、かといって落下する氷刃の数は尽きず、俺たちは避けるために逃げるしかないのに、逃げ場は制限されていく。
そろそろ反撃したい。
逃げながらでも考えられる。
俺の拘禁は対象が少しでも地面に触れていないと発動しないけど――。
「ドーガ!」
「頼んだ!」
バルドルさんとドーガさん、二人の声が聞こえるや否やボスに対し直線上に並び止まった。
降り注ぐ氷刃によって冷たい白煙が視界を覆う。
でも、それは同時に俺たちの反撃の狼煙でもあった。
「火矢!!」
「魔法武器が欲しいなら、貢献度を上げた方が出る確立が上がる。ボス戦は元々のパーティごとに分かれて挑もうと思うが、どうだ?」
第59階層と60階層を繋ぐ門の前でレイナルドさんが言う。
つまりレイナルドパーティ、グランツェパーティ、バルドルパーティだ。
「不安なら適当に入れ替えるが」
「いや、問題ない」
レイナルドさんから視線を向けられたバルドルさんが即答する。
「しんどくなったらレンの応援領域に頼っても良いぞ?」
完全に揶揄いの表情で意地悪なことを言ったのはゲンジャルさんだけど、それに煽られてイラッとする人はいなかった。
むしろウーガさんとドーガさんなんて楽しそうだし、クルトさんとエニスさんは笑ってるし、バルドルさんは真面目な顔で「不要だ」って言いきった。
俺もそう思う。
「そうやって意地悪なことばかり言っていると皆に嫌われますよ」
「意地悪じゃなくて師匠としての激励だろ」
「そんなの受け取る側次第ですからね」
「レンに同意~」
「いや、俺はそういう意味で言ったんじゃ――」
ミッシェルさんがニヤニヤと背後へ。
こちらはこちらで兄を揶揄う気が満々だ。
レイナルドさんが軽く息を吐く。
「なら、あとは順番だな。最初は誰が行く?」
リーダー同士の話し合いで、最初がバルドルパーティ、次にグランツェパーティ、最後がレイナルドパーティに決まった。
ボス戦は、60階層に入ったメンバーが戦闘を開始した時点で他者の入場が出来なくなる。
ここには俺たち以外の挑戦者がいないのであまり気を遣わずに済むが、混んでいる場合は時間を掛ければ掛けるほど責められるような気がするらしい。幸い俺にはそんな経験もないのだけど。
「焦る必要はない。おまえたちは充分に強い。無茶はせず、確実に勝って来い」
「はい」
「行ってらっしゃい」
年上組に見送られて、まずはエニスさん、それからクルトさん、俺、ウーガさん、ドーガさんが60階層に移動して、最後にバルドルさん。
「初の金級ボスですね」
「それを言ったら銀級ボスと初めて戦ったのもつい最近だがな」
マーヘ大陸の制圧戦に強制参加させると言う名目で特別昇級した俺たちだ。初めて銀級ボスと戦った日から1年も経っていないなんて普通なら考えられない。
「だよねー」
「まさか金級ダンジョンのボスに挑む日が来るなんて考えもしなかった」
ウーガさんが右手を差し出すと、ドーガさんがそんなことを言いながらお兄さんの手に自分の手を重ねた。
「……気付いてるか? このダンジョンをクリアしたらレイナルドたちは白金級冒険者だぞ」
「あ」
「マジか」
「マジで」
兄弟の手に、エニスさんが手を重ねる。
「しかも、俺たちにもそこまで上って来いだからな」
「マジかー!」
それって嬉しそうな笑顔で言うセリフかなと思ったけど、顔に出てる方が本音なんだから仕方ないね。俺も3人の手に手を重ねた。
「勝ちますよ、応援領域無しで」
「だね」
クルトさんも笑ってる。
緊張なんて全然していない自然体だ。
そしてバルドルさんも。
「勝つぞ」
「おう!」
「多少の怪我はすぐに治しますが自分から危険なことするのはなるべく禁止で」
「痛いのヤだしね~」
ウーガさんが言って、まるで念じるように力む。
「むむむっ、魔弓出ろーおー!」
「念じたら出るのか?」
「出るわけない」
「兄貴は魔弓より抱き枕出ろって願掛けした方がいいぞ」
かもしれない。
極寒地帯でふわっふわの抱き枕代わりになる魔物を求めていたウーガさんだけど、実際に白き氷の凶熊を倒して入手した魔石をドーガさんが顕現して添い寝してもらったところ、魔物の体調が悪化して30分も保たなかった。
原因は、部屋の気温。
極寒地帯で生息している魔物は温かな部屋では生きていけないのではないかという予測が立てられた。
ちなみに魔力を提供したドーガさんは、その30分のために魔力枯渇に陥って昏睡しており、ウーガさんはそんな意識不明の弟を抱き枕にしていました。
やっぱり魔豹を顕現するのが良さそうなので、今回の攻略が終わったら覚悟を決めてユキとツキの魔石の顕現を頑張ろうと思っている。レイナルドさんにも気を遣わせてるしね。俺の前では絶対にハナを出そうとしないんだから。
「――よし、いくか」
今一度互いに重ねた手を見つめて気持ちを一つにする。
さぁいこう。
金級ボスとの初対決だ。
金級ダンジョン「トラントゥトロワ」の最終ボスは氷属性の攻撃魔法を使う体長3メートル以上の巨大な白梟――死を齎す怪鳥《ウネコエラ》。
氷塊に鎮座していた魔物はこちらが戦闘態勢に入ると同時、その巨大な翼を広げて制空権を取る。
「来るぞ!」
バルドルさんの声。
当時に魔物の背後に次々と浮かぶ氷の塊は鋭利な切っ先を地上に向け、落ちた。
「!!」
俺たちは走る。
次々と足元に突き刺さる氷塊はすぐに消えるわけでなく、かといって落下する氷刃の数は尽きず、俺たちは避けるために逃げるしかないのに、逃げ場は制限されていく。
そろそろ反撃したい。
逃げながらでも考えられる。
俺の拘禁は対象が少しでも地面に触れていないと発動しないけど――。
「ドーガ!」
「頼んだ!」
バルドルさんとドーガさん、二人の声が聞こえるや否やボスに対し直線上に並び止まった。
降り注ぐ氷刃によって冷たい白煙が視界を覆う。
でも、それは同時に俺たちの反撃の狼煙でもあった。
「火矢!!」
51
お気に入りに追加
561
あなたにおすすめの小説

迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる