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第8章 金級ダンジョン攻略
247.火薬
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身体強化にもいろいろと種類があって、ウォーカーさんはタンクだから岩のように体を硬くするのが得意。一方のエニスさんは剣士だから筋力と俊敏さを底上げするので、地面を蹴って跳躍、枝を掴んだら腕で自分の体を引き上げるという動作をいとも簡単にやってのける。
あとはバランスよく枝を歩いてツリーハウスへ。
「エニスさん、どうですかー?」
「かなり頑丈な造りだ。レンとウォーカーが乗っても問題ない」
「となると、やはり梯子が欲しいな……」
「縄梯子を作ってみますか?」
縄なら、討伐後の魔獣を吊ったり締めたりするための頑丈なものが皆のバックパックに入っている。体重を掛けても折れないだろう枝も足元を探せばいくらでも見つかりそうだし、ツリーハウスから地上までの高さがまちまちなことを考えても簡単に調節出来る縄梯子は使い勝手が良いだろう。
「そうと決まれば……」
まずは頑丈な枝探しだ。
エニスさも降りて来て、1時間弱で素人ながら使える縄梯子を完成させた俺たちは、他のグループより遅れて小屋の探索を開始した。メッセンジャーでたまにやり取りをしているが今の時点で「これ!」と思うような発見はどこからもないみたいだ。
「これって机ですよね……? 何か作業をしていたんでしょうか」
座布団や座椅子に座って使ったら丁度良さそうな高さの台が、壁に沿ってL字型に設けられていた。
作業机と言われたら納得だ。
「埃や土で汚れているが……これは焦げ跡かな」
「んー……それっぽいな」
「魔力は感じないです」
ここで作業していた誰かが撤収してからどれくらいの時間が経過したのかは判らない。魔法で焦げたのか、それ以外の原因なのか結論を出すことは出来ない。
あとはゴミと、撤収の時に不要と判断されたのだろう羽ペンや木箱、壺。
「ん……この壺……たまご……じゃないか。温泉の匂い……あ、硫黄だっけ」
「いおー?」
「それが火薬の材料なのか?」
エニスさんとウォーカーさんに尋ねられて、焦る。
「どうやって火薬が出来るかなんて調べたこともないので、硫黄が材料かは判りません。昔住んでいた場所の近くにその名前の山があったんで、匂いが気になっただけです」
なるほど、と二人は納得してくれたようだけど、俺は申し訳なくなった。とはいえ火薬なんて必要としたこともない。
身近な火薬って言ったら花火くらい?
けどそれも、打ち上げを遠目に眺めた記憶があるくらいで、手持ち花火に至っては持ったことすらないんだ。どうういった材料で出来てるかなんて気にしたこともない。
……そこまで考えて、ふと思った。
地球のあれこれをこの世界で再現出来るよう改変したものの設計図がダンジョンから出る、それはリーデン様から聞いているから間違いない。でもカンヨン国で次々と爆発して辺りが火の海になった光景を目の当たりにし、匂いから、火薬の存在を疑った時、リーデン様がそんな恐ろしいものを――例えば爆弾をこの世界の人たちに作らせるだろうかと悩んだ。
もしもその疑問が正しくて、リーデン様がダンジョンに隠した設計図は火薬を使ってこの世界の人たちを楽しませるための技術だったとしたら。
火薬で笑顔が見られるんだとしたら。
「花火の設計図だった……?」
もしダンジョンから出た設計図が花火だったとして、もしかしたら製造過程で事故が起きたのかも。
建物か何かが吹っ飛んだのを見て武器になると気付いたのかも。
全部想像でしかないけど個人的にはそう考えた方が納得し易いし、もし本当にトラントゥトロワから出たのが花火の設計図で、作成するための素材が採れるなら。
「花火、一度でいいから友達と一緒にやってみたい……!」
もっと言えば花火大会だって参加したい。
見たい、やりたい、そんな欲望駄々洩れで悶々としていたもんだからエニスさんとウォーカーさんが困ったのは当然だ。
「レン、大丈夫か?」
「疲れが溜まっているなら、しばらくこちらのことは気にせず休んでもいいんだぞ」
「え、あ……すみません大丈夫です! あの、お聞きしたいんですがっ、ダンジョンから同じ設計図が出てくることは無いんですか?」
慌てつつも重要なことを確認すると、ウォーカーさんがすぐに「ない」と断言した。
「同じ設計図が出たという記録は、同ダンジョン、別ダンジョンいずれも一件もない」
「そう、ですか……」
「普通はダンジョンで設計図が見つかればギルドに届け出る決まりなんだけどな」
エニスさんが肩を竦めながら言うと、ウォーカーさんも落胆した様子で言葉を継ぐ。
「だが「火薬」の登録は無かった。レンが可能性があるといって教えてくれた「爆弾」もな。マーヘ大陸では届け出のルールも適用されていなかったんだろう」
「まぁ危険なものなら設計図自体が消えて良かったのかもしれないが」
「確かに」
苦笑交じりに言い合う二人の声がだんだんと遠くなる。
そうか。
調べたのが「火薬」なら……!
「ウォーカーさん、火薬じゃなくて花火で調べてください!」
いきなり大声を出してしまったら、二人の目が真ん丸になった。
あとはバランスよく枝を歩いてツリーハウスへ。
「エニスさん、どうですかー?」
「かなり頑丈な造りだ。レンとウォーカーが乗っても問題ない」
「となると、やはり梯子が欲しいな……」
「縄梯子を作ってみますか?」
縄なら、討伐後の魔獣を吊ったり締めたりするための頑丈なものが皆のバックパックに入っている。体重を掛けても折れないだろう枝も足元を探せばいくらでも見つかりそうだし、ツリーハウスから地上までの高さがまちまちなことを考えても簡単に調節出来る縄梯子は使い勝手が良いだろう。
「そうと決まれば……」
まずは頑丈な枝探しだ。
エニスさも降りて来て、1時間弱で素人ながら使える縄梯子を完成させた俺たちは、他のグループより遅れて小屋の探索を開始した。メッセンジャーでたまにやり取りをしているが今の時点で「これ!」と思うような発見はどこからもないみたいだ。
「これって机ですよね……? 何か作業をしていたんでしょうか」
座布団や座椅子に座って使ったら丁度良さそうな高さの台が、壁に沿ってL字型に設けられていた。
作業机と言われたら納得だ。
「埃や土で汚れているが……これは焦げ跡かな」
「んー……それっぽいな」
「魔力は感じないです」
ここで作業していた誰かが撤収してからどれくらいの時間が経過したのかは判らない。魔法で焦げたのか、それ以外の原因なのか結論を出すことは出来ない。
あとはゴミと、撤収の時に不要と判断されたのだろう羽ペンや木箱、壺。
「ん……この壺……たまご……じゃないか。温泉の匂い……あ、硫黄だっけ」
「いおー?」
「それが火薬の材料なのか?」
エニスさんとウォーカーさんに尋ねられて、焦る。
「どうやって火薬が出来るかなんて調べたこともないので、硫黄が材料かは判りません。昔住んでいた場所の近くにその名前の山があったんで、匂いが気になっただけです」
なるほど、と二人は納得してくれたようだけど、俺は申し訳なくなった。とはいえ火薬なんて必要としたこともない。
身近な火薬って言ったら花火くらい?
けどそれも、打ち上げを遠目に眺めた記憶があるくらいで、手持ち花火に至っては持ったことすらないんだ。どうういった材料で出来てるかなんて気にしたこともない。
……そこまで考えて、ふと思った。
地球のあれこれをこの世界で再現出来るよう改変したものの設計図がダンジョンから出る、それはリーデン様から聞いているから間違いない。でもカンヨン国で次々と爆発して辺りが火の海になった光景を目の当たりにし、匂いから、火薬の存在を疑った時、リーデン様がそんな恐ろしいものを――例えば爆弾をこの世界の人たちに作らせるだろうかと悩んだ。
もしもその疑問が正しくて、リーデン様がダンジョンに隠した設計図は火薬を使ってこの世界の人たちを楽しませるための技術だったとしたら。
火薬で笑顔が見られるんだとしたら。
「花火の設計図だった……?」
もしダンジョンから出た設計図が花火だったとして、もしかしたら製造過程で事故が起きたのかも。
建物か何かが吹っ飛んだのを見て武器になると気付いたのかも。
全部想像でしかないけど個人的にはそう考えた方が納得し易いし、もし本当にトラントゥトロワから出たのが花火の設計図で、作成するための素材が採れるなら。
「花火、一度でいいから友達と一緒にやってみたい……!」
もっと言えば花火大会だって参加したい。
見たい、やりたい、そんな欲望駄々洩れで悶々としていたもんだからエニスさんとウォーカーさんが困ったのは当然だ。
「レン、大丈夫か?」
「疲れが溜まっているなら、しばらくこちらのことは気にせず休んでもいいんだぞ」
「え、あ……すみません大丈夫です! あの、お聞きしたいんですがっ、ダンジョンから同じ設計図が出てくることは無いんですか?」
慌てつつも重要なことを確認すると、ウォーカーさんがすぐに「ない」と断言した。
「同じ設計図が出たという記録は、同ダンジョン、別ダンジョンいずれも一件もない」
「そう、ですか……」
「普通はダンジョンで設計図が見つかればギルドに届け出る決まりなんだけどな」
エニスさんが肩を竦めながら言うと、ウォーカーさんも落胆した様子で言葉を継ぐ。
「だが「火薬」の登録は無かった。レンが可能性があるといって教えてくれた「爆弾」もな。マーヘ大陸では届け出のルールも適用されていなかったんだろう」
「まぁ危険なものなら設計図自体が消えて良かったのかもしれないが」
「確かに」
苦笑交じりに言い合う二人の声がだんだんと遠くなる。
そうか。
調べたのが「火薬」なら……!
「ウォーカーさん、火薬じゃなくて花火で調べてください!」
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