265 / 335
第8章 金級ダンジョン攻略
240.今回の連休は
しおりを挟む
「此処に扉を出して良いですか?」
「ああ」
今回、一応は同室の部屋割りになった俺とレイナルドさんだけど、その実は部屋の扉横に、神具『住居兼用移動車両』Ex.への扉を設置する。テント同様、パーティメンバーにしか目視出来ないから知らない人が入って来ても問題ない。あの魔法陣があればそんなことは起きないと思うけど。
「ところで部屋の中って見せてもらっても良いですか? どう改装したのか気になります!」
正直に言ったら、レイナルドさんは小さく笑った後で「好きにしろ」と。
部屋は8帖くらいの洋室でシングルベッドが二台。
南向きの大きな窓からはリビング同様に気持ちのいい陽光が差し込んできて部屋を明るくしていて、北側には水回り。
「おお。お風呂大きいですね」
「足を伸ばしてゆっくりくつろげるサイズだって聞いたが、……あぁ確かに大きいな」
猫足バスタブとかじゃなく、俺がよく知る日本の一般家庭風の風呂場なのはこれもダンジョンから設計図が出て来たからだろうと予想している。
しかも神具『住居兼用移動車両』Ex.同様に床を掘り下げて風呂にしているし、シャワー付きの洗い場まで確保されているから、まるで旅館の風呂みたいだ。
きちんと壁と扉で仕切られているトイレは魔道具で、いわゆる水洗だし。
洗面台も高性能の魔道具で水とお湯が切り替えられる。
これが全部屋共通って、一体どれだけのお金を使っているのやら……。
「金級冒険者ってどれくらいいるんですか?」
「ん?」
「金級冒険者じゃないと此処に来る必要がないですよね?」
「は……あぁそうか。金級冒険者が増えるのはこれからだ」
「これから」
「今回の件でマーヘ大陸のダンジョンの所有権は他の大陸に移っただろ。いまはまだ未踏破のダンジョン含め、いずれはどんな冒険者も相応の金額を支払えば他大陸の金級、白金級のダンジョンに挑めるっていうのは、今までは絶対になかったことだ」
「はい」
「言い換えれば、マーヘ大陸のダンジョンを踏破出来るようになったことで、白金級冒険者への道も拓けた」
それは解る。
何せ冒険者ランクを上げるのに必要な条件はダンジョンの攻略数。いままで金級以上のダンジョンは各国によって厳重に管理、入場を制限されていたから、余所者はまず入れなかった。他大陸の金級ダンジョンに挑めなければ、それ以上の昇級は実質不可能だったんだ。
「おまけに各大陸からマーヘ大陸への船が頻繁に往復し、マーヘ大陸からは各国への船が出ている。移動費もこれまでに比べたら格安。金級でさえ重宝されるのに、白金級冒険者となればそれ以上……場合によっては神銀級冒険者になるべく国の支援を受けられる立場にもなれる」
そっか、と。
急にストンと納得してしまった。
この世界の人たちは最難関ダンジョン神銀級にあるだろう、今はまだ誰も見たことが無い「宝」を求めている。
マーヘ大陸の陥落は他大陸の好機。
船での移動費が抑えられれば銀級から金級への昇級だって難易度が下がるだろうし、この建物を改装した後に利用するのは、なにもプラーントゥ大陸出身者だけとは限らないってことだ。
「じゃあ町の方で工房やお店が活気付いていたのも、これから冒険者が増えると見越して手を回したから、ですか」
「冒険者が来るようになってから動き出すのでは遅いからな。まぁその前に一つ解決しないとならない問題があるんだが」
レイナルドさんは肩を竦めて息を吐く。
俺は「よしっ」と気を取り直す。
「じゃあお弁当作ってきますね」
「ああ。手間を掛けるが頼む」
美味しくて、しっかり満足感のあるお弁当を作ろう。
俺たちとは違って国のあれこれに巻き込まれるレイナルドさん達が少しでも英気を養えるようにね!
金級ダンジョン「トラントゥトロワ」を第30階層まで攻略して戻って来た最寄りの町。
近々この町にも新しい名前を付けるから何か考えておいてくれと言い置いて、レイナルドさん、アッシュさん、ヴァンさんが出掛けて行った。
もちろん弁当も持って。
「これだけ人が出入りしていると俺らがいなくなるのはマズいな」
3人を見送ったのち、階段の上から階下の様子を眺めていたゲンジャルさんのセリフには他の面々も納得で、今回の移動は夜間だけになりそうだ。
「人目が増えれば制限が増えるのは当たり前なんですけど残念ですね……」
「なに言ってんだ。仕事となれば年単位で会えないのが当然だったんだぞ。夜会えるだけでも充分過ぎる」
「お兄ちゃんの言う通り! レンが悲しむことないわ」
「うむ」
ミッシェルさん、ウォーカーさんにも説得されてものすごく複雑な気持ちになってしまった。
大人だからなのか、たぶん貴族だから、なのか。
シンプルな言い方をすると「良い人」なんだよ、此処にいる人たち皆。
「お昼ご飯と、夕ご飯。とびきり美味しいの用意しますね」
「そりゃ愉しみだ」
「あ、じゃあオレ買い出し行ってくる。お酒欲しいし、おやつも足しときたい」
「だったら付き合うわ。前回はすぐ向こうに行ったから町はろくに見てないもの」
「俺たちも付き合おう」
ミッシェルさんやグランツェさんたちが一緒に行くなら何の問題もない。
そう思って一緒に町に行かなかったことを、俺はしばらくしてとても後悔することになる――。
「ああ」
今回、一応は同室の部屋割りになった俺とレイナルドさんだけど、その実は部屋の扉横に、神具『住居兼用移動車両』Ex.への扉を設置する。テント同様、パーティメンバーにしか目視出来ないから知らない人が入って来ても問題ない。あの魔法陣があればそんなことは起きないと思うけど。
「ところで部屋の中って見せてもらっても良いですか? どう改装したのか気になります!」
正直に言ったら、レイナルドさんは小さく笑った後で「好きにしろ」と。
部屋は8帖くらいの洋室でシングルベッドが二台。
南向きの大きな窓からはリビング同様に気持ちのいい陽光が差し込んできて部屋を明るくしていて、北側には水回り。
「おお。お風呂大きいですね」
「足を伸ばしてゆっくりくつろげるサイズだって聞いたが、……あぁ確かに大きいな」
猫足バスタブとかじゃなく、俺がよく知る日本の一般家庭風の風呂場なのはこれもダンジョンから設計図が出て来たからだろうと予想している。
しかも神具『住居兼用移動車両』Ex.同様に床を掘り下げて風呂にしているし、シャワー付きの洗い場まで確保されているから、まるで旅館の風呂みたいだ。
きちんと壁と扉で仕切られているトイレは魔道具で、いわゆる水洗だし。
洗面台も高性能の魔道具で水とお湯が切り替えられる。
これが全部屋共通って、一体どれだけのお金を使っているのやら……。
「金級冒険者ってどれくらいいるんですか?」
「ん?」
「金級冒険者じゃないと此処に来る必要がないですよね?」
「は……あぁそうか。金級冒険者が増えるのはこれからだ」
「これから」
「今回の件でマーヘ大陸のダンジョンの所有権は他の大陸に移っただろ。いまはまだ未踏破のダンジョン含め、いずれはどんな冒険者も相応の金額を支払えば他大陸の金級、白金級のダンジョンに挑めるっていうのは、今までは絶対になかったことだ」
「はい」
「言い換えれば、マーヘ大陸のダンジョンを踏破出来るようになったことで、白金級冒険者への道も拓けた」
それは解る。
何せ冒険者ランクを上げるのに必要な条件はダンジョンの攻略数。いままで金級以上のダンジョンは各国によって厳重に管理、入場を制限されていたから、余所者はまず入れなかった。他大陸の金級ダンジョンに挑めなければ、それ以上の昇級は実質不可能だったんだ。
「おまけに各大陸からマーヘ大陸への船が頻繁に往復し、マーヘ大陸からは各国への船が出ている。移動費もこれまでに比べたら格安。金級でさえ重宝されるのに、白金級冒険者となればそれ以上……場合によっては神銀級冒険者になるべく国の支援を受けられる立場にもなれる」
そっか、と。
急にストンと納得してしまった。
この世界の人たちは最難関ダンジョン神銀級にあるだろう、今はまだ誰も見たことが無い「宝」を求めている。
マーヘ大陸の陥落は他大陸の好機。
船での移動費が抑えられれば銀級から金級への昇級だって難易度が下がるだろうし、この建物を改装した後に利用するのは、なにもプラーントゥ大陸出身者だけとは限らないってことだ。
「じゃあ町の方で工房やお店が活気付いていたのも、これから冒険者が増えると見越して手を回したから、ですか」
「冒険者が来るようになってから動き出すのでは遅いからな。まぁその前に一つ解決しないとならない問題があるんだが」
レイナルドさんは肩を竦めて息を吐く。
俺は「よしっ」と気を取り直す。
「じゃあお弁当作ってきますね」
「ああ。手間を掛けるが頼む」
美味しくて、しっかり満足感のあるお弁当を作ろう。
俺たちとは違って国のあれこれに巻き込まれるレイナルドさん達が少しでも英気を養えるようにね!
金級ダンジョン「トラントゥトロワ」を第30階層まで攻略して戻って来た最寄りの町。
近々この町にも新しい名前を付けるから何か考えておいてくれと言い置いて、レイナルドさん、アッシュさん、ヴァンさんが出掛けて行った。
もちろん弁当も持って。
「これだけ人が出入りしていると俺らがいなくなるのはマズいな」
3人を見送ったのち、階段の上から階下の様子を眺めていたゲンジャルさんのセリフには他の面々も納得で、今回の移動は夜間だけになりそうだ。
「人目が増えれば制限が増えるのは当たり前なんですけど残念ですね……」
「なに言ってんだ。仕事となれば年単位で会えないのが当然だったんだぞ。夜会えるだけでも充分過ぎる」
「お兄ちゃんの言う通り! レンが悲しむことないわ」
「うむ」
ミッシェルさん、ウォーカーさんにも説得されてものすごく複雑な気持ちになってしまった。
大人だからなのか、たぶん貴族だから、なのか。
シンプルな言い方をすると「良い人」なんだよ、此処にいる人たち皆。
「お昼ご飯と、夕ご飯。とびきり美味しいの用意しますね」
「そりゃ愉しみだ」
「あ、じゃあオレ買い出し行ってくる。お酒欲しいし、おやつも足しときたい」
「だったら付き合うわ。前回はすぐ向こうに行ったから町はろくに見てないもの」
「俺たちも付き合おう」
ミッシェルさんやグランツェさんたちが一緒に行くなら何の問題もない。
そう思って一緒に町に行かなかったことを、俺はしばらくしてとても後悔することになる――。
63
お気に入りに追加
561
あなたにおすすめの小説
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる