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第8章 金級ダンジョン攻略
238.トラントゥトロワ第2ラウンド
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今回は20日間で入場申請して、いざ15階層の転移陣へ飛んだわけだが、途端に呼吸するだけで喉の奥が凍るのではないかと思うような冷気に晒されて身震いした。
「寒いっ」
かなり寒い。
でも15階層から30階層までは寒いところと温かなところが混在しているからまだマシだ。
ひどいのは30から45までの、転移陣から転移陣まで連続する超極寒階層である。と言って、テントに入れば適温が保たれているし、リビングの暖炉で火にあたることも出来るのだけど。
「寒くて我慢出来なくなったら暖房の魔道具もあるから欲しい時はすぐに言うように」
「はい」
「全員揃ったから出発するぞ。今は吹雪いていないから大丈夫だと思うが自分の周りに誰がいるかは常に意識しておけ!」
「はいっ!」
こうして金級ダンジョン「トラントゥトロワ」の攻略を再開した。
ざくっ、ざくっ。
膝まで積もった雪を乗り越えるようにして歩いていると、普通に歩くより疲弊するのが早い。一面真っ白な世界は先客がいないという証明でもある。ただしそれが魔物もいないという意味にはならない。
「2時の方向、複数の魔物の反応あり」
「見えん」
「ってことは雪の中ね」
直後、ミッシェルさんの魔力が一気に高まって大気を震わせ、彼女を中心に半径約100メートルの範囲の雪が一瞬で蒸発して消えた。
「わ……!」
驚きの声と、カラカランと響く乾いた音は幾つもの魔石が地面に落ちたからだ。
雪モグラという魔物のものらしい。
「魔力感知スキルか、索敵スキルを持ってないと接近に気付かないまま襲われてアウトね」
「魔法使いがいないと対処に困りそうな魔物だなぁ」
「そうね。パーティによっては、こう、進行方向の雪を先に溶かしてしまったりするんだけど、魔力の消費量がひどいことになるでし」
「雪の中を移動されると近接武器じゃ対応が難しいし、やっぱり魔法使いが必須だ」
「なるほど……」
たぶん半径100メートルに炎を拡げて雪を解かすなんて荒業も、経験豊富で魔力量が豊富なミッシェルさんだから出来る方法だと思う。
「魔力の回復薬は要りますか?」
「ううん、まだ大丈夫よ。10分の1も減ってないもの」
「さすが白金級に最も近いって言われてる金級……俺がいまの真似しようと思ったら5分の1はなくなるだろうな」
ドーガさんが尊敬の眼差しでミッシェルさんを見ている。
そのミッシェルさんは良い笑顔。
「魔力の消費量なんて経験を積めばどんどん節約出来るようになるんだし、経験なら私たちがどんどん積ませてあげるから覚悟して付いてきなさい」
「そうそう。グランツェパーティのダンジョン攻略も楽じゃなかったが、レイナルドパーティのは話に聞くだけでも凄まじいからな」
オクティバさんが参戦したら「凄まじいって何よ」と睨まれている。
「虫型と、小型かつ群れで襲ってくる魔物が出て来るダンジョンではミッシェル無双だって聞いたぞ」
「誰よそんなこと言ってるの」
「ゲンジャルだが?」
ですよね、それ俺にも予想出来ました。
だって同じこと聞かされたから。
「余計なことを……!」
「ふふ。でもミッシェルの場合はそうやって魔力を使い切るまで攻撃魔法を連発して、少し回復したらまた使い切って……を続けている内に魔力量が増えたから、二人も参考にくらいはしてもいいんじゃない?」
アッシュさんが笑いながら言うと、レイナルドさんも。
「まぁ二次災害を引き起こさない程度ならガンガン撃っていいぞ。ダンジョンなら環境破壊にならないからな」
「レイナルドまで!」
「はははっ」
皆が笑う。
ダンジョンは、例えば森林をうっかり燃やしてしまっても翌日には完全に復活する不思議空間だ。そういう意味では魔法使いたちにとっての良き鍛錬の場なのかもしれない。
「だからって魔法使いにばかり頼っていたら鈍るから、視認出来る魔物は出来るだけ引き付けて近接の俺らが相手しないとな」
グランツェさんの言葉にはバルドルさんたちが大きく頷いている。
見た目は若々しくて俺以外はみんな同じ年齢くらいに見えるが、バルドルパーティに比べて平均年齢が10前後上の彼らはやっぱり経験が豊富で、アドバイスの一つ一つが持つ重みが違う。
ただ一人、レイナルドさんだけはバルドルさんと同じ年齢だけど、やっぱり人生経験の有無なのか、本来の身分由来のものなのか、威厳が違う。
レイナルドさんが老け顔なせいもあると思うけど。
ともあれそんな会話をしている間にも魔法使いの火魔法で雪モグラが倒され、空から襲ってくる魔物はウーガさんの弓が射落とし、視認出来る魔物は剣士たちが順番に担当して屠っていく。
16人という大人数で攻略している俺たちは、はっきり言って戦力過多だ。
しかもバルドルパーティのメンバーを育てよう、全員で未攻略の金級ダンジョンを踏破しようっていう目標があるものだから、先輩たちの余裕たるや安心感しかない。
ちなみに、稼ぐことを考えると4~6人くらいが丁度良く、稼ぎより命優先で攻略するなら6~8人が一般的らしいから数字だけ見ても珍しい編成なのが判るだろう。
第15階層は魔法陣のガゼボ右手側の柱を背にひたすら真っ直ぐ。
森が見えてきたら手前で右折して、目印となる大樹を見つけたら、今度はその大樹を背に、ひたすら真っ直ぐ進むと第16階層に繋がっている。
第16階層は、入って一歩進んだところで左折する。
そのまましばらく歩くと森に入り、森には巨大な湖がある。この湖は深夜のほんのわずかな時間だけ湖面が氷結して歩けるようになるから、此処を歩いて氷の花を目指すと、次の階層への道がある――。
ギルドで購入した情報を基に、今回は少しだけゆっくりと下層を目指して進んだ。
第2ラウンドのゴール地点、第30階層に着いたのは19日目の夜だった。
「寒いっ」
かなり寒い。
でも15階層から30階層までは寒いところと温かなところが混在しているからまだマシだ。
ひどいのは30から45までの、転移陣から転移陣まで連続する超極寒階層である。と言って、テントに入れば適温が保たれているし、リビングの暖炉で火にあたることも出来るのだけど。
「寒くて我慢出来なくなったら暖房の魔道具もあるから欲しい時はすぐに言うように」
「はい」
「全員揃ったから出発するぞ。今は吹雪いていないから大丈夫だと思うが自分の周りに誰がいるかは常に意識しておけ!」
「はいっ!」
こうして金級ダンジョン「トラントゥトロワ」の攻略を再開した。
ざくっ、ざくっ。
膝まで積もった雪を乗り越えるようにして歩いていると、普通に歩くより疲弊するのが早い。一面真っ白な世界は先客がいないという証明でもある。ただしそれが魔物もいないという意味にはならない。
「2時の方向、複数の魔物の反応あり」
「見えん」
「ってことは雪の中ね」
直後、ミッシェルさんの魔力が一気に高まって大気を震わせ、彼女を中心に半径約100メートルの範囲の雪が一瞬で蒸発して消えた。
「わ……!」
驚きの声と、カラカランと響く乾いた音は幾つもの魔石が地面に落ちたからだ。
雪モグラという魔物のものらしい。
「魔力感知スキルか、索敵スキルを持ってないと接近に気付かないまま襲われてアウトね」
「魔法使いがいないと対処に困りそうな魔物だなぁ」
「そうね。パーティによっては、こう、進行方向の雪を先に溶かしてしまったりするんだけど、魔力の消費量がひどいことになるでし」
「雪の中を移動されると近接武器じゃ対応が難しいし、やっぱり魔法使いが必須だ」
「なるほど……」
たぶん半径100メートルに炎を拡げて雪を解かすなんて荒業も、経験豊富で魔力量が豊富なミッシェルさんだから出来る方法だと思う。
「魔力の回復薬は要りますか?」
「ううん、まだ大丈夫よ。10分の1も減ってないもの」
「さすが白金級に最も近いって言われてる金級……俺がいまの真似しようと思ったら5分の1はなくなるだろうな」
ドーガさんが尊敬の眼差しでミッシェルさんを見ている。
そのミッシェルさんは良い笑顔。
「魔力の消費量なんて経験を積めばどんどん節約出来るようになるんだし、経験なら私たちがどんどん積ませてあげるから覚悟して付いてきなさい」
「そうそう。グランツェパーティのダンジョン攻略も楽じゃなかったが、レイナルドパーティのは話に聞くだけでも凄まじいからな」
オクティバさんが参戦したら「凄まじいって何よ」と睨まれている。
「虫型と、小型かつ群れで襲ってくる魔物が出て来るダンジョンではミッシェル無双だって聞いたぞ」
「誰よそんなこと言ってるの」
「ゲンジャルだが?」
ですよね、それ俺にも予想出来ました。
だって同じこと聞かされたから。
「余計なことを……!」
「ふふ。でもミッシェルの場合はそうやって魔力を使い切るまで攻撃魔法を連発して、少し回復したらまた使い切って……を続けている内に魔力量が増えたから、二人も参考にくらいはしてもいいんじゃない?」
アッシュさんが笑いながら言うと、レイナルドさんも。
「まぁ二次災害を引き起こさない程度ならガンガン撃っていいぞ。ダンジョンなら環境破壊にならないからな」
「レイナルドまで!」
「はははっ」
皆が笑う。
ダンジョンは、例えば森林をうっかり燃やしてしまっても翌日には完全に復活する不思議空間だ。そういう意味では魔法使いたちにとっての良き鍛錬の場なのかもしれない。
「だからって魔法使いにばかり頼っていたら鈍るから、視認出来る魔物は出来るだけ引き付けて近接の俺らが相手しないとな」
グランツェさんの言葉にはバルドルさんたちが大きく頷いている。
見た目は若々しくて俺以外はみんな同じ年齢くらいに見えるが、バルドルパーティに比べて平均年齢が10前後上の彼らはやっぱり経験が豊富で、アドバイスの一つ一つが持つ重みが違う。
ただ一人、レイナルドさんだけはバルドルさんと同じ年齢だけど、やっぱり人生経験の有無なのか、本来の身分由来のものなのか、威厳が違う。
レイナルドさんが老け顔なせいもあると思うけど。
ともあれそんな会話をしている間にも魔法使いの火魔法で雪モグラが倒され、空から襲ってくる魔物はウーガさんの弓が射落とし、視認出来る魔物は剣士たちが順番に担当して屠っていく。
16人という大人数で攻略している俺たちは、はっきり言って戦力過多だ。
しかもバルドルパーティのメンバーを育てよう、全員で未攻略の金級ダンジョンを踏破しようっていう目標があるものだから、先輩たちの余裕たるや安心感しかない。
ちなみに、稼ぐことを考えると4~6人くらいが丁度良く、稼ぎより命優先で攻略するなら6~8人が一般的らしいから数字だけ見ても珍しい編成なのが判るだろう。
第15階層は魔法陣のガゼボ右手側の柱を背にひたすら真っ直ぐ。
森が見えてきたら手前で右折して、目印となる大樹を見つけたら、今度はその大樹を背に、ひたすら真っ直ぐ進むと第16階層に繋がっている。
第16階層は、入って一歩進んだところで左折する。
そのまましばらく歩くと森に入り、森には巨大な湖がある。この湖は深夜のほんのわずかな時間だけ湖面が氷結して歩けるようになるから、此処を歩いて氷の花を目指すと、次の階層への道がある――。
ギルドで購入した情報を基に、今回は少しだけゆっくりと下層を目指して進んだ。
第2ラウンドのゴール地点、第30階層に着いたのは19日目の夜だった。
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