上 下
263 / 335
第8章 金級ダンジョン攻略

238.トラントゥトロワ第2ラウンド

しおりを挟む
 今回は20日間で入場申請して、いざ15階層の転移陣へ飛んだわけだが、途端に呼吸するだけで喉の奥が凍るのではないかと思うような冷気に晒されて身震いした。

「寒いっ」

 かなり寒い。
 でも15階層から30階層までは寒いところと温かなところが混在しているからまだマシだ。
 ひどいのは30から45までの、転移陣から転移陣まで連続する超極寒階層である。と言って、テントに入れば適温が保たれているし、リビングの暖炉で火にあたることも出来るのだけど。

「寒くて我慢出来なくなったら暖房の魔道具もあるから欲しい時はすぐに言うように」
「はい」
「全員揃ったから出発するぞ。今は吹雪いていないから大丈夫だと思うが自分の周りに誰がいるかは常に意識しておけ!」
「はいっ!」

 こうして金級オーァルダンジョン「トラントゥトロワ」の攻略を再開した。


 ざくっ、ざくっ。
 膝まで積もった雪を乗り越えるようにして歩いていると、普通に歩くより疲弊するのが早い。一面真っ白な世界は先客がいないという証明でもある。ただしそれが魔物もいないという意味にはならない。

「2時の方向、複数の魔物の反応あり」
「見えん」
「ってことは雪の中ね」

 直後、ミッシェルさんの魔力が一気に高まって大気を震わせ、彼女を中心に半径約100メートルの範囲の雪が一瞬で蒸発して消えた。

「わ……!」

 驚きの声と、カラカランと響く乾いた音は幾つもの魔石が地面に落ちたからだ。
 雪モグラネジュトープという魔物のものらしい。

「魔力感知スキルか、索敵スキルを持ってないと接近に気付かないまま襲われてアウトね」
「魔法使いがいないと対処に困りそうな魔物だなぁ」
「そうね。パーティによっては、こう、進行方向の雪を先に溶かしてしまったりするんだけど、魔力の消費量がひどいことになるでし」
「雪の中を移動されると近接武器じゃ対応が難しいし、やっぱり魔法使いが必須だ」
「なるほど……」

 たぶん半径100メートルに炎を拡げて雪を解かすなんて荒業も、経験豊富で魔力量が豊富なミッシェルさんだから出来る方法だと思う。
 
「魔力の回復薬は要りますか?」
「ううん、まだ大丈夫よ。10分の1も減ってないもの」
「さすが白金級プラティヌに最も近いって言われてる金級オーァル……俺がいまの真似しようと思ったら5分の1はなくなるだろうな」

 ドーガさんが尊敬の眼差しでミッシェルさんを見ている。
 そのミッシェルさんは良い笑顔。

「魔力の消費量なんて経験を積めばどんどん節約出来るようになるんだし、経験なら私たちがどんどん積ませてあげるから覚悟して付いてきなさい」
「そうそう。グランツェパーティのダンジョン攻略も楽じゃなかったが、レイナルドパーティのは話に聞くだけでも凄まじいからな」

 オクティバさんが参戦したら「凄まじいって何よ」と睨まれている。

「虫型と、小型かつ群れで襲ってくる魔物が出て来るダンジョンではミッシェル無双だって聞いたぞ」
「誰よそんなこと言ってるの」
「ゲンジャルだが?」

 ですよね、それ俺にも予想出来ました。
 だって同じこと聞かされたから。

「余計なことを……!」
「ふふ。でもミッシェルの場合はそうやって魔力を使い切るまで攻撃魔法を連発して、少し回復したらまた使い切って……を続けている内に魔力量が増えたから、二人も参考にくらいはしてもいいんじゃない?」

 アッシュさんが笑いながら言うと、レイナルドさんも。

「まぁ二次災害を引き起こさない程度ならガンガン撃っていいぞ。ダンジョンなら環境破壊にならないからな」
「レイナルドまで!」
「はははっ」

 皆が笑う。
 ダンジョンは、例えば森林をうっかり燃やしてしまっても翌日には完全に復活する不思議空間だ。そういう意味では魔法使いたちにとっての良き鍛錬の場なのかもしれない。

「だからって魔法使いにばかり頼っていたら鈍るから、視認出来る魔物は出来るだけ引き付けて近接の俺らが相手しないとな」

 グランツェさんの言葉にはバルドルさんたちが大きく頷いている。
 見た目は若々しくて俺以外はみんな同じ年齢くらいに見えるが、バルドルパーティに比べて平均年齢が10前後上の彼らはやっぱり経験が豊富で、アドバイスの一つ一つが持つ重みが違う。
 ただ一人、レイナルドさんだけはバルドルさんと同じ年齢だけど、やっぱり人生経験の有無なのか、本来の身分由来のものなのか、威厳が違う。
 レイナルドさんが老け顔なせいもあると思うけど。
 ともあれそんな会話をしている間にも魔法使いの火魔法で雪モグラネジュトープが倒され、空から襲ってくる魔物はウーガさんの弓が射落とし、視認出来る魔物は剣士たちが順番に担当して屠っていく。
 16人という大人数で攻略している俺たちは、はっきり言って戦力過多だ。
 しかもバルドルパーティのメンバーを育てよう、全員で未攻略の金級オーァルダンジョンを踏破しようっていう目標があるものだから、先輩たちの余裕たるや安心感しかない。
 ちなみに、稼ぐことを考えると4~6人くらいが丁度良く、稼ぎより命優先で攻略するなら6~8人が一般的らしいから数字だけ見ても珍しい編成なのが判るだろう。




 第15階層は魔法陣のガゼボ右手側の柱を背にひたすら真っ直ぐ。
 森が見えてきたら手前で右折して、目印となる大樹を見つけたら、今度はその大樹を背に、ひたすら真っ直ぐ進むと第16階層に繋がっている。

 第16階層は、入って一歩進んだところで左折する。
 そのまましばらく歩くと森に入り、森には巨大な湖がある。この湖は深夜のほんのわずかな時間だけ湖面が氷結して歩けるようになるから、此処を歩いて氷の花を目指すと、次の階層への道がある――。

 ギルドで購入した情報を基に、今回は少しだけゆっくりと下層を目指して進んだ。
 第2ラウンドのゴール地点、第30階層に着いたのは19日目の夜だった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...