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第8章 金級ダンジョン攻略

閑話:ダンジョン近くの町で(1) side:バルドル

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 コテージの代わりに、条件付きで格安に借りられたという貴族の別荘。
 正しくは「押し付けられた」そうだが国だ大陸連合だなんてお偉いさんたちの思惑など一介の冒険者には関係ない。
 ゲンジャルやウォーカーたちがレンの設置した扉を経由してトゥルヌソルの家に帰っていくのを、先に設置されていたテントの入口付近、クルトと並んで見送る。屋内にテントなんて違和感しかないし、そのテントの横に扉だけが直立不動というのも奇妙な光景なんだが、それ以上にこの広い空間が食堂だって話に眩暈がする。ここの所有者だったっていう貴族は何人家族だったんだろうか。テーブルも椅子もないんで想像がつかない。

「さて。こっちはこっちで、あとは自由だ」

 同じくゲンジャルたちを見送ったレイナルドが此方に残った俺たちを見渡して言う。

「4日間は好きにしろ。5日目の朝6時にここ集合。解散」
「休みだ―!」

 途端、ウーガが両手を上に喜びの声を上げた。
 冒険者の活動もダンジョン攻略も楽しいが、やはり自分の好きなように過ごせる時間というのは必要だ。

「どうするどうする? 夕飯買い出しがてら町の散策しちゃう? あ、町デートしたい人は誘わないからね~」

 意味深なニヤニヤ顔でそんなことを言ってくるウーガに「そりゃ良かった」と返していたらテント横で直立不動だった扉が開いた。
 レンだ。

「送ってきました。みんな喜んでましたよ」
「ありがとな」
「いえ。それと、この辺りがプラーントゥ大陸の管理下になる件で調べたいことがあるから明日レイナルドさんも一度こっち……えっと、家の方に来て欲しいってアッシュさんの旦那さんが。お昼ぐらいでどうですか?」
「構わないが、おまえがいないと移動出来ないだろ」
「いますいます。さっきも言ったじゃないですか、休み中だって皆のごはん作りますって」

 レイナルドとの会話を何となく聞いている。
 飯を作ってもらえるのは、正直、とても助かる。が、せっかくの休みなのはレンも同じだ。こっちのことは気にせずに休めばいいだろうに。
 レイナルドにも似たようなことを言われたレンは困り顔。

「でもリ……主神様もずっと家にいるわけじゃないし、ご飯を一人で食べるのは寂しいです。それに、俺も初めての町を見てみたいし」
「あー……まぁ、一人で出歩かなければ良いか」
「そこは気を付けます」
「おう。じゃあ明日の昼の移動は頼む」
「はい!」

 くしゃりとレンの頭を撫でる。
 二人の会話が一段落したのを待って真っ先に声を掛けたのはウーガだ。

「じゃあ町には俺らと行こ」
「ぜひ!」
「近場で薬草採取もしませんか?」
「します!」

 ヒユナとも連休中の予定が出来たレンが嬉しそうに応じた直後、隣にいたクルトが俺の腕を引いた。
 どうしたのかと思って視線を移したら熱のこもった視線とかち合った。
 うっ……となるもコレは俺が期待していいものじゃない。自分もレンと一緒に町を歩きたいとか、そういう意味を含んでいる。
 あーもー。

「いいよ。けど夜は俺だけな」
「っ、ありがとう」

 ううっ。
 俺の独占欲に目尻を赤くするくせに、いい笑顔で礼を言ったクルトは嬉しそうにレンのところへ行ってしまった。

「その散策、俺も一緒に行きたい」
「いいんですかっ?」

 パッと表情を輝かせたレンが見るのは、俺。
 良くねぇわ。
 ……良くはないんだが、クルトが嬉しそうなら仕方ないだろ。
 あーもーーーー。

「せっかくの休みだしな」
「やった! 一緒に歩けるの嬉しいですっ」
「俺も」

 クルトとレンが満面の笑顔で喜び合っていると、その後ろには次々と花が咲いていく幻が見える。
 あぁくそ可愛いな!
 各自自由行動可、しかも町での休みなんていつ以来だと思ってんだ。さすがに4日間部屋から出したくないなんて本音を言うつもりはなかったが。
 が!

「ご愁傷様」
「惚れた弱みだよな」

 ディゼルとオクティバに後ろから肩を叩かれた。
 くっ。
 おまえらはオシアワセに!
 レイナルドとエニスはその顔ヤメロ!




 あの後、結局6人で陽が沈みかけた町に出た。
 俺、エニス、ウーガ、ドーガ、クルト、それからヒユナが一緒だ。さすがにレンは主神様のいる家に帰った。次にこっちに来るのはレイナルドとも約束していたし明日の昼になるだろう。

「あそこ、果実水の店だって。この辺の特産とか判るかも」
「行ってみたいです」
「その後で良いからあの屋台行きたい。すごい良い匂いがする」
「すげぇ美味そう!」
「わ……あの服可愛い……」
「せっかくだし見に行く?」
「あのお店はレンくんが行きたがりそうな気がする」
「わかるわー」

 町での滞在に少なからず興奮しているのは皆同じだ。
 しかも初めて来た町だからか、目移りがすごい。

「4日もあるんだから今日買うのは晩飯だけにして他は明日以降の予定に入れとけ」
「おー」
「はーい」

 気分は子どもの引率だ。
 エニスなんて同情を通り越して呆れたような目をしている。
 言いたい事があるならはっきり言ってくれ。
 そう内心で溜息を吐いていたら、クルト。

「バル。あの屋台の串焼き見て」

 思わず唸ってしまうような可愛い顔で指差した先には、肉の中でも俺が一番好きなコションという魔獣の、腹部分を薄切りにして串焼きにした屋台があった。

「夕飯にどう? 酒のあてでもいいし」
「買う」

 それ以外の選択肢などない。
 エニスは大仰に溜息を吐いていた。
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