256 / 335
第8章 金級ダンジョン攻略
閑話:ダンジョン近くの町で(1) side:バルドル
しおりを挟む
コテージの代わりに、条件付きで格安に借りられたという貴族の別荘。
正しくは「押し付けられた」そうだが国だ大陸連合だなんてお偉いさんたちの思惑など一介の冒険者には関係ない。
ゲンジャルやウォーカーたちがレンの設置した扉を経由してトゥルヌソルの家に帰っていくのを、先に設置されていたテントの入口付近、クルトと並んで見送る。屋内にテントなんて違和感しかないし、そのテントの横に扉だけが直立不動というのも奇妙な光景なんだが、それ以上にこの広い空間が食堂だって話に眩暈がする。ここの所有者だったっていう貴族は何人家族だったんだろうか。テーブルも椅子もないんで想像がつかない。
「さて。こっちはこっちで、あとは自由だ」
同じくゲンジャルたちを見送ったレイナルドが此方に残った俺たちを見渡して言う。
「4日間は好きにしろ。5日目の朝6時にここ集合。解散」
「休みだ―!」
途端、ウーガが両手を上に喜びの声を上げた。
冒険者の活動もダンジョン攻略も楽しいが、やはり自分の好きなように過ごせる時間というのは必要だ。
「どうするどうする? 夕飯買い出しがてら町の散策しちゃう? あ、町デートしたい人は誘わないからね~」
意味深なニヤニヤ顔でそんなことを言ってくるウーガに「そりゃ良かった」と返していたらテント横で直立不動だった扉が開いた。
レンだ。
「送ってきました。みんな喜んでましたよ」
「ありがとな」
「いえ。それと、この辺りがプラーントゥ大陸の管理下になる件で調べたいことがあるから明日レイナルドさんも一度こっち……えっと、家の方に来て欲しいってアッシュさんの旦那さんが。お昼ぐらいでどうですか?」
「構わないが、おまえがいないと移動出来ないだろ」
「いますいます。さっきも言ったじゃないですか、休み中だって皆のごはん作りますって」
レイナルドとの会話を何となく聞いている。
飯を作ってもらえるのは、正直、とても助かる。が、せっかくの休みなのはレンも同じだ。こっちのことは気にせずに休めばいいだろうに。
レイナルドにも似たようなことを言われたレンは困り顔。
「でもリ……主神様もずっと家にいるわけじゃないし、ご飯を一人で食べるのは寂しいです。それに、俺も初めての町を見てみたいし」
「あー……まぁ、一人で出歩かなければ良いか」
「そこは気を付けます」
「おう。じゃあ明日の昼の移動は頼む」
「はい!」
くしゃりとレンの頭を撫でる。
二人の会話が一段落したのを待って真っ先に声を掛けたのはウーガだ。
「じゃあ町には俺らと行こ」
「ぜひ!」
「近場で薬草採取もしませんか?」
「します!」
ヒユナとも連休中の予定が出来たレンが嬉しそうに応じた直後、隣にいたクルトが俺の腕を引いた。
どうしたのかと思って視線を移したら熱のこもった視線とかち合った。
うっ……となるもコレは俺が期待していいものじゃない。自分もレンと一緒に町を歩きたいとか、そういう意味を含んでいる。
あーもー。
「いいよ。けど夜は俺だけな」
「っ、ありがとう」
ううっ。
俺の独占欲に目尻を赤くするくせに、いい笑顔で礼を言ったクルトは嬉しそうにレンのところへ行ってしまった。
「その散策、俺も一緒に行きたい」
「いいんですかっ?」
パッと表情を輝かせたレンが見るのは、俺。
良くねぇわ。
……良くはないんだが、クルトが嬉しそうなら仕方ないだろ。
あーもーーーー。
「せっかくの休みだしな」
「やった! 一緒に歩けるの嬉しいですっ」
「俺も」
クルトとレンが満面の笑顔で喜び合っていると、その後ろには次々と花が咲いていく幻が見える。
あぁくそ可愛いな!
各自自由行動可、しかも町での休みなんていつ以来だと思ってんだ。さすがに4日間部屋から出したくないなんて本音を言うつもりはなかったが。
が!
「ご愁傷様」
「惚れた弱みだよな」
ディゼルとオクティバに後ろから肩を叩かれた。
くっ。
おまえらはオシアワセに!
レイナルドとエニスはその顔ヤメロ!
あの後、結局6人で陽が沈みかけた町に出た。
俺、エニス、ウーガ、ドーガ、クルト、それからヒユナが一緒だ。さすがにレンは主神様のいる家に帰った。次にこっちに来るのはレイナルドとも約束していたし明日の昼になるだろう。
「あそこ、果実水の店だって。この辺の特産とか判るかも」
「行ってみたいです」
「その後で良いからあの屋台行きたい。すごい良い匂いがする」
「すげぇ美味そう!」
「わ……あの服可愛い……」
「せっかくだし見に行く?」
「あのお店はレンくんが行きたがりそうな気がする」
「わかるわー」
町での滞在に少なからず興奮しているのは皆同じだ。
しかも初めて来た町だからか、目移りがすごい。
「4日もあるんだから今日買うのは晩飯だけにして他は明日以降の予定に入れとけ」
「おー」
「はーい」
気分は子どもの引率だ。
エニスなんて同情を通り越して呆れたような目をしている。
言いたい事があるならはっきり言ってくれ。
そう内心で溜息を吐いていたら、クルト。
「バル。あの屋台の串焼き見て」
思わず唸ってしまうような可愛い顔で指差した先には、肉の中でも俺が一番好きなコションという魔獣の、腹部分を薄切りにして串焼きにした屋台があった。
「夕飯にどう? 酒のあてでもいいし」
「買う」
それ以外の選択肢などない。
エニスは大仰に溜息を吐いていた。
正しくは「押し付けられた」そうだが国だ大陸連合だなんてお偉いさんたちの思惑など一介の冒険者には関係ない。
ゲンジャルやウォーカーたちがレンの設置した扉を経由してトゥルヌソルの家に帰っていくのを、先に設置されていたテントの入口付近、クルトと並んで見送る。屋内にテントなんて違和感しかないし、そのテントの横に扉だけが直立不動というのも奇妙な光景なんだが、それ以上にこの広い空間が食堂だって話に眩暈がする。ここの所有者だったっていう貴族は何人家族だったんだろうか。テーブルも椅子もないんで想像がつかない。
「さて。こっちはこっちで、あとは自由だ」
同じくゲンジャルたちを見送ったレイナルドが此方に残った俺たちを見渡して言う。
「4日間は好きにしろ。5日目の朝6時にここ集合。解散」
「休みだ―!」
途端、ウーガが両手を上に喜びの声を上げた。
冒険者の活動もダンジョン攻略も楽しいが、やはり自分の好きなように過ごせる時間というのは必要だ。
「どうするどうする? 夕飯買い出しがてら町の散策しちゃう? あ、町デートしたい人は誘わないからね~」
意味深なニヤニヤ顔でそんなことを言ってくるウーガに「そりゃ良かった」と返していたらテント横で直立不動だった扉が開いた。
レンだ。
「送ってきました。みんな喜んでましたよ」
「ありがとな」
「いえ。それと、この辺りがプラーントゥ大陸の管理下になる件で調べたいことがあるから明日レイナルドさんも一度こっち……えっと、家の方に来て欲しいってアッシュさんの旦那さんが。お昼ぐらいでどうですか?」
「構わないが、おまえがいないと移動出来ないだろ」
「いますいます。さっきも言ったじゃないですか、休み中だって皆のごはん作りますって」
レイナルドとの会話を何となく聞いている。
飯を作ってもらえるのは、正直、とても助かる。が、せっかくの休みなのはレンも同じだ。こっちのことは気にせずに休めばいいだろうに。
レイナルドにも似たようなことを言われたレンは困り顔。
「でもリ……主神様もずっと家にいるわけじゃないし、ご飯を一人で食べるのは寂しいです。それに、俺も初めての町を見てみたいし」
「あー……まぁ、一人で出歩かなければ良いか」
「そこは気を付けます」
「おう。じゃあ明日の昼の移動は頼む」
「はい!」
くしゃりとレンの頭を撫でる。
二人の会話が一段落したのを待って真っ先に声を掛けたのはウーガだ。
「じゃあ町には俺らと行こ」
「ぜひ!」
「近場で薬草採取もしませんか?」
「します!」
ヒユナとも連休中の予定が出来たレンが嬉しそうに応じた直後、隣にいたクルトが俺の腕を引いた。
どうしたのかと思って視線を移したら熱のこもった視線とかち合った。
うっ……となるもコレは俺が期待していいものじゃない。自分もレンと一緒に町を歩きたいとか、そういう意味を含んでいる。
あーもー。
「いいよ。けど夜は俺だけな」
「っ、ありがとう」
ううっ。
俺の独占欲に目尻を赤くするくせに、いい笑顔で礼を言ったクルトは嬉しそうにレンのところへ行ってしまった。
「その散策、俺も一緒に行きたい」
「いいんですかっ?」
パッと表情を輝かせたレンが見るのは、俺。
良くねぇわ。
……良くはないんだが、クルトが嬉しそうなら仕方ないだろ。
あーもーーーー。
「せっかくの休みだしな」
「やった! 一緒に歩けるの嬉しいですっ」
「俺も」
クルトとレンが満面の笑顔で喜び合っていると、その後ろには次々と花が咲いていく幻が見える。
あぁくそ可愛いな!
各自自由行動可、しかも町での休みなんていつ以来だと思ってんだ。さすがに4日間部屋から出したくないなんて本音を言うつもりはなかったが。
が!
「ご愁傷様」
「惚れた弱みだよな」
ディゼルとオクティバに後ろから肩を叩かれた。
くっ。
おまえらはオシアワセに!
レイナルドとエニスはその顔ヤメロ!
あの後、結局6人で陽が沈みかけた町に出た。
俺、エニス、ウーガ、ドーガ、クルト、それからヒユナが一緒だ。さすがにレンは主神様のいる家に帰った。次にこっちに来るのはレイナルドとも約束していたし明日の昼になるだろう。
「あそこ、果実水の店だって。この辺の特産とか判るかも」
「行ってみたいです」
「その後で良いからあの屋台行きたい。すごい良い匂いがする」
「すげぇ美味そう!」
「わ……あの服可愛い……」
「せっかくだし見に行く?」
「あのお店はレンくんが行きたがりそうな気がする」
「わかるわー」
町での滞在に少なからず興奮しているのは皆同じだ。
しかも初めて来た町だからか、目移りがすごい。
「4日もあるんだから今日買うのは晩飯だけにして他は明日以降の予定に入れとけ」
「おー」
「はーい」
気分は子どもの引率だ。
エニスなんて同情を通り越して呆れたような目をしている。
言いたい事があるならはっきり言ってくれ。
そう内心で溜息を吐いていたら、クルト。
「バル。あの屋台の串焼き見て」
思わず唸ってしまうような可愛い顔で指差した先には、肉の中でも俺が一番好きなコションという魔獣の、腹部分を薄切りにして串焼きにした屋台があった。
「夕飯にどう? 酒のあてでもいいし」
「買う」
それ以外の選択肢などない。
エニスは大仰に溜息を吐いていた。
58
お気に入りに追加
563
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった
藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。
毎週水曜に更新予定です。
宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる