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第8章 金級ダンジョン攻略
230.トラントゥトロワ(3)
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人が一日で歩ける距離って、体力あるなら30キロくらい。
冒険者は普通以上に体力ある人がほとんどなので倍とはいかなくても50キロ前後は平気で歩く。俺自身はこっちに来て体力がついたのと、魔道具の靴のおかげで何とか食らいつける感じ。
で、常に正しい順路で階層を移動出来れば一日1階層は決して無理ではないんだけど、これをすると階層のほとんどをスルーしないとならない。
例えば金級ダンジョンじゃないと取れない薬草。
素材。
ここでしか見れない景色。
魔物。
「つーかダンジョンで過ごすのが本来はどんだけ過酷なのかを考えたら、転移陣のある階層以外はほとんど未知なのが当然」
バルドルさんがズバリ言う。
「それこそ初踏破を狙うパーティでもなきゃ正しい道の周辺以外には寄らないだろうな。金級以上のダンジョンは特にそれが顕著だぞ」
「一つの階層が広くて、転移陣のある階層から階層までが遠いから、ですか」
「そう」
エニスさんが頷く。
「正しい道を外れたら迷子一直線だしね」
「あ……そっか。時間も方位も感覚頼りになるんですもんね」
俺は神具『懐中時計』で方位も時間も判ってしまうが、他の人たちにとっては方位を確認出来るはずの太陽や月がなく、時計はとても高価な魔道具で所持している人はほとんどいない。
随分前に踏破されたダンジョンなら転移陣から上下数階層はそれなりに判明しているかもしれないけれど、と補足してくれるバルドルさんに、俺は思った。
「ってことは、例えば冒険者ギルドから購入したダンジョン情報ですけど……情報が少ないのは未開の土地が広いという意味で……まだ誰にも知られていない隠し部屋とか、宝箱とか、あったりします……?」
「えっ」
まじで、と目を輝かせたウーガさん。
宝箱の中にはもちろんお宝があるだろう。……魔法武具みたいな! ドーガさんやヒユナさんも加わって興奮していたらレイナルドさんが手を振る。
「待て待て。確かにお宝を見つけられる可能性はあるが、14日以内に転移陣まで辿り着くのが先だし、そういう探検は本命でやってくれ」
つまりプラーントゥ大陸でレイナルドパーティが31階層まで道を拓いている金級ダンジョンで、という意味だ。
「魔法武具が出る宝箱はボス戦後のそれでしか報告ないしさ」
「でも魔法武具に匹敵する魔道具の設計図は見つかるかもですよ?」
「それがなくても充分稼いでるだろ」
なるほど。
魔道具師でないと作れないんだから、設計図を手に入れても売却するしかない。それが使える物として商品化したなら発見者にも継続的にロイヤリティが支払われるんだから、稼ぎ目的と考えるのは普通かもしれない。
が!
俺は冒険がしたいと思ったわけで!
「誤解されてるっぽいのが悔しいけど確かに14日以内に転移陣までいかないとダメかぁ……っ」
「えええっ、レンそこはもう少し粘ろうよ!」
「ウーガ」
「兄貴」
仲間からストップが掛かって、ウーガさんがむくれる。
期待させてごめんなさい……。
「本命では隅々まで探検して良いから此処では我慢しろ。な」
「はぁい」
「はい……」
ウーガさんと二人で肩を落としつつ受け入れたらクルトさんにポンと肩を叩かれた。
購入した情報を元に2階層への道を進む。
半分の手前辺りで昼食を取り、途中で魔物との戦闘も数回あった。
「角兎は鉄級の魔物だったのに、金級にもいるんですね」
「いるよー。鉄級のよりタフだけど、金級から出て来る魔物に比べたら弱いよねー」
ウーガさんが喋りながら放った矢が真っ直ぐに白い角兎を射抜いた。
以前に見た同種より二回りくらい大きい魔物は僅かに吹っ飛ばされて絶命。放っておけば魔石を残してすべて魔素に変わって大地に吸収されるけど、さっさと解体・回収してしまえば肉や角、牙といった素材も残す。不要なものは地面に穴を掘って埋めるのがマナーだ。
角兎の肉は甘味があって、焼いて食べると綿あめみたいに口の中で溶けてしまう。肉というよりスイーツっぽいから「肉!」っていう人たちはあまり好まれないが、俺は食感が面白いと思うし、女性陣は好きな人も多いので確保しておきたい。
「焼きマシュマロみたいで美味しいのよね」
「私も好きです」
ミッシェルさんとヒユナさん。
「小腹が空いたときにはありかな」
「兄貴なら飯でもいけるだろ」
ウーガ・ドーガ兄弟の言い合い。
「俺はそうでもないけど相方は好きだよ」
「ディゼルさんて甘党なんですか」
「見えないだろう」
オクティバさんが笑うけど、その表情にはディゼルさんへの好意がはっきりと見て取れて、俺もなんだかほわほわする。
魔法使い3人、弓術師2人、僧侶2人。
この16人で組んでダンジョン攻略をするのは初めてということもあって、いまは前衛組が赤いアライグマを相手に戦闘時の連携などを調整中。さっきの角兎はそれを避けて動いているところをウーガさんに見つかって射られたのだ。
ちなみに俺は怪我人が出るまでやることなし。
応援領域は禁止中です。
「先に角兎解体しちゃおうか」
「ですね」
「私たちは薬草採取なんてどうですか?」
「賛成です」
ヒユナさんに提案されたので即答。
ドーガさんが周辺の警戒は任せろって言ってくれて、とても助かった。ウーガさんがニヤニヤしていたのがちょっと気になったかな。
戦闘はその後も繰り返し、今度は後衛だけや、メンバーをランダムに組むなど低階層の内に試したいことをどんどん試していった。
予定通り1階層を抜けて2階層へ進んだ後はほどなくして今日の野営地に。
夕飯、今日の反省会、武器の手入れや雑談、そして見張り当番以外は就寝。
他のパーティはゼロだから普通を取り繕う必要もなくて気楽な初日が終わった。
2日目、3日目……レイナルドさんたちが強いのは判っていたけど、グランツェさんたちはもちろん、バルドルさんたちも負けてない。金級ダンジョンの魔物を相手に全然臆してなかった。
攻略は超順調。
だんだん寒くなっていって、上着が必要になって来た14日目。俺たちは何とか15階層に到着した。
冒険者は普通以上に体力ある人がほとんどなので倍とはいかなくても50キロ前後は平気で歩く。俺自身はこっちに来て体力がついたのと、魔道具の靴のおかげで何とか食らいつける感じ。
で、常に正しい順路で階層を移動出来れば一日1階層は決して無理ではないんだけど、これをすると階層のほとんどをスルーしないとならない。
例えば金級ダンジョンじゃないと取れない薬草。
素材。
ここでしか見れない景色。
魔物。
「つーかダンジョンで過ごすのが本来はどんだけ過酷なのかを考えたら、転移陣のある階層以外はほとんど未知なのが当然」
バルドルさんがズバリ言う。
「それこそ初踏破を狙うパーティでもなきゃ正しい道の周辺以外には寄らないだろうな。金級以上のダンジョンは特にそれが顕著だぞ」
「一つの階層が広くて、転移陣のある階層から階層までが遠いから、ですか」
「そう」
エニスさんが頷く。
「正しい道を外れたら迷子一直線だしね」
「あ……そっか。時間も方位も感覚頼りになるんですもんね」
俺は神具『懐中時計』で方位も時間も判ってしまうが、他の人たちにとっては方位を確認出来るはずの太陽や月がなく、時計はとても高価な魔道具で所持している人はほとんどいない。
随分前に踏破されたダンジョンなら転移陣から上下数階層はそれなりに判明しているかもしれないけれど、と補足してくれるバルドルさんに、俺は思った。
「ってことは、例えば冒険者ギルドから購入したダンジョン情報ですけど……情報が少ないのは未開の土地が広いという意味で……まだ誰にも知られていない隠し部屋とか、宝箱とか、あったりします……?」
「えっ」
まじで、と目を輝かせたウーガさん。
宝箱の中にはもちろんお宝があるだろう。……魔法武具みたいな! ドーガさんやヒユナさんも加わって興奮していたらレイナルドさんが手を振る。
「待て待て。確かにお宝を見つけられる可能性はあるが、14日以内に転移陣まで辿り着くのが先だし、そういう探検は本命でやってくれ」
つまりプラーントゥ大陸でレイナルドパーティが31階層まで道を拓いている金級ダンジョンで、という意味だ。
「魔法武具が出る宝箱はボス戦後のそれでしか報告ないしさ」
「でも魔法武具に匹敵する魔道具の設計図は見つかるかもですよ?」
「それがなくても充分稼いでるだろ」
なるほど。
魔道具師でないと作れないんだから、設計図を手に入れても売却するしかない。それが使える物として商品化したなら発見者にも継続的にロイヤリティが支払われるんだから、稼ぎ目的と考えるのは普通かもしれない。
が!
俺は冒険がしたいと思ったわけで!
「誤解されてるっぽいのが悔しいけど確かに14日以内に転移陣までいかないとダメかぁ……っ」
「えええっ、レンそこはもう少し粘ろうよ!」
「ウーガ」
「兄貴」
仲間からストップが掛かって、ウーガさんがむくれる。
期待させてごめんなさい……。
「本命では隅々まで探検して良いから此処では我慢しろ。な」
「はぁい」
「はい……」
ウーガさんと二人で肩を落としつつ受け入れたらクルトさんにポンと肩を叩かれた。
購入した情報を元に2階層への道を進む。
半分の手前辺りで昼食を取り、途中で魔物との戦闘も数回あった。
「角兎は鉄級の魔物だったのに、金級にもいるんですね」
「いるよー。鉄級のよりタフだけど、金級から出て来る魔物に比べたら弱いよねー」
ウーガさんが喋りながら放った矢が真っ直ぐに白い角兎を射抜いた。
以前に見た同種より二回りくらい大きい魔物は僅かに吹っ飛ばされて絶命。放っておけば魔石を残してすべて魔素に変わって大地に吸収されるけど、さっさと解体・回収してしまえば肉や角、牙といった素材も残す。不要なものは地面に穴を掘って埋めるのがマナーだ。
角兎の肉は甘味があって、焼いて食べると綿あめみたいに口の中で溶けてしまう。肉というよりスイーツっぽいから「肉!」っていう人たちはあまり好まれないが、俺は食感が面白いと思うし、女性陣は好きな人も多いので確保しておきたい。
「焼きマシュマロみたいで美味しいのよね」
「私も好きです」
ミッシェルさんとヒユナさん。
「小腹が空いたときにはありかな」
「兄貴なら飯でもいけるだろ」
ウーガ・ドーガ兄弟の言い合い。
「俺はそうでもないけど相方は好きだよ」
「ディゼルさんて甘党なんですか」
「見えないだろう」
オクティバさんが笑うけど、その表情にはディゼルさんへの好意がはっきりと見て取れて、俺もなんだかほわほわする。
魔法使い3人、弓術師2人、僧侶2人。
この16人で組んでダンジョン攻略をするのは初めてということもあって、いまは前衛組が赤いアライグマを相手に戦闘時の連携などを調整中。さっきの角兎はそれを避けて動いているところをウーガさんに見つかって射られたのだ。
ちなみに俺は怪我人が出るまでやることなし。
応援領域は禁止中です。
「先に角兎解体しちゃおうか」
「ですね」
「私たちは薬草採取なんてどうですか?」
「賛成です」
ヒユナさんに提案されたので即答。
ドーガさんが周辺の警戒は任せろって言ってくれて、とても助かった。ウーガさんがニヤニヤしていたのがちょっと気になったかな。
戦闘はその後も繰り返し、今度は後衛だけや、メンバーをランダムに組むなど低階層の内に試したいことをどんどん試していった。
予定通り1階層を抜けて2階層へ進んだ後はほどなくして今日の野営地に。
夕飯、今日の反省会、武器の手入れや雑談、そして見張り当番以外は就寝。
他のパーティはゼロだから普通を取り繕う必要もなくて気楽な初日が終わった。
2日目、3日目……レイナルドさんたちが強いのは判っていたけど、グランツェさんたちはもちろん、バルドルさんたちも負けてない。金級ダンジョンの魔物を相手に全然臆してなかった。
攻略は超順調。
だんだん寒くなっていって、上着が必要になって来た14日目。俺たちは何とか15階層に到着した。
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