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第7章 呪われた血筋
223.決戦(7) side:レイナルド
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やばい。
宙にいればまだ免れただろうに飛び降りた奴に手を伸ばしたのと、突然の爆風と、炎、煙に、巨大な魔豹さえ体勢を崩した。
その後どうなったのかは判らないが、たぶん気を失っていた。
気付いたのは優しくて温かな力に包み込まれたからだ。
「っ……」
痛いし熱いし重いし。
とにかく不快の一言だったが、流れ込んでくる力の正体を知ってハッとなった。
これはあいつの応援領域だ。
無事だったかと、状況も正しく判断出来ない状態でホッとしかけた。
すぐに我に返って自分がどういう状況なのかを確かめようと体を動かし掛けた時、すぐ近くでもふっとした丸いものが動いた。と、直後に重さが消え、轟音と共に空が広がった。
「……は」
どうやら瓦礫の下に埋もれていたらしい。
それを一緒だった白い魔豹が体で押し上げ、俺の上からも撤去してくれたんだ。
「けほっ。ありがとう、助かった」
「ぐるっ」
顔を寄せて来るから鼻筋を撫でてやる。
「っ」
少し腕を動かすだけでも痛む。
反対の腕は骨がいってるかもしれない……そう思いながら周りを確認して絶句する。
ここはどこだ。
さっきまでは確かに城があったはずなのにすべてが瓦礫と化し、至る所で炎が轟々と燃えている。熱いだけじゃない。刺すような痛みを伴う熱は真夏の日差しが優しく思えるくらいだし、大気を染める勢いの黒い煙でさえ喉を焼く。
カンヨンの王はこれを獄鬼が生まれる場所に似ていると語ったが……。
「いまはそれどころじゃないな」
最適解は避難だ。
しかし結局捕まえられなかったカンヨンの王どころか、魔力反応がある味方の姿も見当たらない。恐らくさっきまでの自分と同様に瓦礫の下にいるんだろう。
生きているなら助けたい。
応援領域が広がっていることを考えてもレンが無事なら……いや、レンはどうして応援領域を展開しているんだ?
しかもその効果がどんどん増している。
これは術者との関係性によって効果が変わるから特にだが、今なら片腕しか使えない自分でも瓦礫の山を粉砕できそうなくらい力が漲っている。
俺がこうなら。
そんな考えを読み取ったように少し離れた場所で建物が崩れるような音がした。
魔力感知で確かめたらウォーカーだ。
もっと手前ではゲンジャルも動き出している。
俺の感知範囲では他のメンバーの位置を探れない。鼻なら見つけられるだろうがここ数日の死臭のせいでなるべく使いたくない。本当に危険ならそんなことは言ってられないが、これだけバフを重ねられているんだ。生きてさえいれば自力でとうとでもなるだろう。
となると――。
「魔豹、今すぐレンのところに……」
応援領域を展開しているのは恐らく瓦礫に埋もれたり、負傷している味方の生命力を底上げするためだろう。
自分はこの周辺の救助活動にあたる。
レンには魔法使いの治療を頼んで、魔法使いには水魔法で火を消してもらった方が良い。そう伝えようにもメッセンジャーが戻って来ていないから魔豹にお使いを頼もうと思ったわけだが、その魔豹が妙に真面目な顔である一点を見つめている。
どうした、と声を掛けるより早く。
魔豹はこちらを向いたと思ったらその柔らかな顔を俺の顔に擦り付けて来た。
「は?」
甘えるような仕草に呆気に取られた。
だが魔豹が魔力を……違う。神力を、放出していることに気付いた。
何をと思う間もなかった。
カランと足元に落ちたのは魔豹の魔石。レンがあんなに気を遣って常に彼の魔力で満ちていた魔石が、いまは空になって地面に転がっている。
「え……」
魔石を拾い上げて見つめるも、何が起きたのか咄嗟には理解出来なくて狼狽えていたら、ぽつりと鼻の頭に水滴が落ちて来た。
驚いて顔を上げたら光る雨が降り始めた。
「雨……」
空は青いのに?
だんだん勢いを増す雨は燃え盛る炎を沈め、焦げた大地を潤し、俺たちをしとどに濡らす。髪を掻き上げようとして、腕が動くことに気付いた。
「……治ってる」
つまりこれは。
「治癒の雨……?」
あいつ……!
手の中の魔石を握り締めた。
無茶をしているんだとようやく悟る。
「くそ!」
怪我が治れば、応援領域の恩恵を最大で受けている体だ。
幾らでも動く。
あんなに可愛がっていた魔豹たちの神力まで消費してこんな無茶をしたレンが、何を望んでいるのか。
一人でも多く救わなければ。
「悪いが、力を貸してくれ」
からっぽになった魔石に魔力を注ぐ。
仲間内でも数人しか顕現に成功しなかった魔豹は、神力を持たない俺の魔力でダンジョンで見かけるのとまったく同じ姿を象った。
見慣れた白い姿は、もうない。
色と大きさが違うだけで同じ魔石なのに、顔付も違うように見えるのは錯覚だろうか。
「生存者を見つけて、もし埋もれていたら瓦礫をどかしてやってくれ」
雨に打たれれば傷は癒える。
応援領域の効果が最小でも怪我さえ治れば自力で避難出来るだろうから、動ける自分たちがすべきことは雨の当たらない場所にいる連中を外に引っ張り出すこと。
「いくぞ」
「がうっ」
魔豹が吼える。
雨はしばらく降り続いた。
宙にいればまだ免れただろうに飛び降りた奴に手を伸ばしたのと、突然の爆風と、炎、煙に、巨大な魔豹さえ体勢を崩した。
その後どうなったのかは判らないが、たぶん気を失っていた。
気付いたのは優しくて温かな力に包み込まれたからだ。
「っ……」
痛いし熱いし重いし。
とにかく不快の一言だったが、流れ込んでくる力の正体を知ってハッとなった。
これはあいつの応援領域だ。
無事だったかと、状況も正しく判断出来ない状態でホッとしかけた。
すぐに我に返って自分がどういう状況なのかを確かめようと体を動かし掛けた時、すぐ近くでもふっとした丸いものが動いた。と、直後に重さが消え、轟音と共に空が広がった。
「……は」
どうやら瓦礫の下に埋もれていたらしい。
それを一緒だった白い魔豹が体で押し上げ、俺の上からも撤去してくれたんだ。
「けほっ。ありがとう、助かった」
「ぐるっ」
顔を寄せて来るから鼻筋を撫でてやる。
「っ」
少し腕を動かすだけでも痛む。
反対の腕は骨がいってるかもしれない……そう思いながら周りを確認して絶句する。
ここはどこだ。
さっきまでは確かに城があったはずなのにすべてが瓦礫と化し、至る所で炎が轟々と燃えている。熱いだけじゃない。刺すような痛みを伴う熱は真夏の日差しが優しく思えるくらいだし、大気を染める勢いの黒い煙でさえ喉を焼く。
カンヨンの王はこれを獄鬼が生まれる場所に似ていると語ったが……。
「いまはそれどころじゃないな」
最適解は避難だ。
しかし結局捕まえられなかったカンヨンの王どころか、魔力反応がある味方の姿も見当たらない。恐らくさっきまでの自分と同様に瓦礫の下にいるんだろう。
生きているなら助けたい。
応援領域が広がっていることを考えてもレンが無事なら……いや、レンはどうして応援領域を展開しているんだ?
しかもその効果がどんどん増している。
これは術者との関係性によって効果が変わるから特にだが、今なら片腕しか使えない自分でも瓦礫の山を粉砕できそうなくらい力が漲っている。
俺がこうなら。
そんな考えを読み取ったように少し離れた場所で建物が崩れるような音がした。
魔力感知で確かめたらウォーカーだ。
もっと手前ではゲンジャルも動き出している。
俺の感知範囲では他のメンバーの位置を探れない。鼻なら見つけられるだろうがここ数日の死臭のせいでなるべく使いたくない。本当に危険ならそんなことは言ってられないが、これだけバフを重ねられているんだ。生きてさえいれば自力でとうとでもなるだろう。
となると――。
「魔豹、今すぐレンのところに……」
応援領域を展開しているのは恐らく瓦礫に埋もれたり、負傷している味方の生命力を底上げするためだろう。
自分はこの周辺の救助活動にあたる。
レンには魔法使いの治療を頼んで、魔法使いには水魔法で火を消してもらった方が良い。そう伝えようにもメッセンジャーが戻って来ていないから魔豹にお使いを頼もうと思ったわけだが、その魔豹が妙に真面目な顔である一点を見つめている。
どうした、と声を掛けるより早く。
魔豹はこちらを向いたと思ったらその柔らかな顔を俺の顔に擦り付けて来た。
「は?」
甘えるような仕草に呆気に取られた。
だが魔豹が魔力を……違う。神力を、放出していることに気付いた。
何をと思う間もなかった。
カランと足元に落ちたのは魔豹の魔石。レンがあんなに気を遣って常に彼の魔力で満ちていた魔石が、いまは空になって地面に転がっている。
「え……」
魔石を拾い上げて見つめるも、何が起きたのか咄嗟には理解出来なくて狼狽えていたら、ぽつりと鼻の頭に水滴が落ちて来た。
驚いて顔を上げたら光る雨が降り始めた。
「雨……」
空は青いのに?
だんだん勢いを増す雨は燃え盛る炎を沈め、焦げた大地を潤し、俺たちをしとどに濡らす。髪を掻き上げようとして、腕が動くことに気付いた。
「……治ってる」
つまりこれは。
「治癒の雨……?」
あいつ……!
手の中の魔石を握り締めた。
無茶をしているんだとようやく悟る。
「くそ!」
怪我が治れば、応援領域の恩恵を最大で受けている体だ。
幾らでも動く。
あんなに可愛がっていた魔豹たちの神力まで消費してこんな無茶をしたレンが、何を望んでいるのか。
一人でも多く救わなければ。
「悪いが、力を貸してくれ」
からっぽになった魔石に魔力を注ぐ。
仲間内でも数人しか顕現に成功しなかった魔豹は、神力を持たない俺の魔力でダンジョンで見かけるのとまったく同じ姿を象った。
見慣れた白い姿は、もうない。
色と大きさが違うだけで同じ魔石なのに、顔付も違うように見えるのは錯覚だろうか。
「生存者を見つけて、もし埋もれていたら瓦礫をどかしてやってくれ」
雨に打たれれば傷は癒える。
応援領域の効果が最小でも怪我さえ治れば自力で避難出来るだろうから、動ける自分たちがすべきことは雨の当たらない場所にいる連中を外に引っ張り出すこと。
「いくぞ」
「がうっ」
魔豹が吼える。
雨はしばらく降り続いた。
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