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第7章 呪われた血筋
222.決戦(6)
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頭を突かれた。
「っ……」
痛くはないけど熱い。
重い。
ひどく暑くて、喉がカラカラで、呼吸に変な音が混じるのを自覚しながら体を起こしたら重みが下にずれていく。
「え……」
なんで、って。
ようやくはっきりして来た視界に移ったのはズズッと俺から落ちていくクルトさんの体。
「っ……⁈」
その背中は、もし自分に診療所での治療経験がなかったら目を逸らしてた。
吐いていたかも。
それくらい惨たらしい火傷が背中全体、腕にまで広がっていた。
当然防具はボロボロだ。
「クルトさんっ、クルトさん!」
意識がない。
呼吸も弱い。
脈も。
「なんで……っ」
俺にはリーデン様の防護陣があった。
庇わなくたって平気だったのに、それなのに!
「クルトさん!」
呼ぶ。
返事はない。
治療、そう思った瞬間にクルトさんだけじゃないって思い出す。
でも顔を上げた瞬間に頭の中が真っ白になった。
――地獄だと思った。
黒と赤しかなかった。
燃えてる。
全部、全部、燃えて、黒くなって。
「バルド……ルさん……?」
立っている人なんて誰もいない。
「エニスさん! ウーガさん! ドーガさん! ユキ!」
誰も。
何も、ない。
「ぁ……っ……ああっ……っ」
なんで。
同じ言葉ばかりが頭の中をぐるぐるして、治療しなきゃ、治さなきゃって思うのに体の中の魔力が、神力が暴れて纏まらない。
「そ、治癒……っ」
練り上げても四散する。
だってここだけじゃないんだ。
グランツェさんたちは?
レイナルドさんたちは?
情けなくも震えてしまう。
怖い。
怖い……!
『クアァ』
「っ」
突然の声に驚いて斜め後ろを振り返ったら魔の鷗がいた。
レイナルドさんとのメッセンジャーだった。
「あ……」
何か伝えに来た?
すぐに返事しないと。
そう思って手を伸ばした直後にそれは辺りに響き渡った。
「フハハハハハハ!!!!」
拡声魔法だった。
でもどちらから聞こえるかは判る。
城だ。
獄鬼の気配はかなり減っている。ゼロじゃないけどほぼほぼ捕まったらしくて一か所に纏まっている。でもこの声の主は……純粋な魔力。獄鬼じゃない……?
「クククククッ。ようやく我が元に辿り着いたようだが残念だったな。裏切者どもよ」
嘲笑する声は、若い男の人の声だ。
はっきりと聞こえるのは一人分の声だけど、周辺には大勢がいるのかたくさんの声と物音が遠くに聞こえる。拡声魔法が周辺の音も拾っているせいだ。
「貴様らは見誤ったのさ! 私の怒り! 私の恨み! 私の野望!! 我が望みはこの世界の滅びだ!!」
冠も玉座も要らない。
国も。
民も、もはや不要。
「こんなくだらぬ世界など滅んでしまえばよいのだ!」
怨嗟の言葉が、その内容に反して朗々と語られる。
歓喜。
満悦。
この瞬間を待っていた、と。
「ふざけるな……っ」
そんなこと誰が許すものか。
まだ戦っている人がいる。
必死に抵抗しようとしているのが伝わって来る。
幾ら一国の王だからって世界を好き勝手出来るはずがない!
「アハハハハ!」
だが声は笑った。
「そうとも、一人で世界を潰すなど無理だ! だが此処に来ているのだろう、主神の伴侶とやらが」
「――」
「伴侶に何かあれば主神様が黙っていないのだったか?」
笑う。
楽し気に。
嬉しそうに。
「この光景は獄鬼の生まれる場所に似ているそうだ! 怨嗟と絶望の生まれる場所だ! 伴侶殿も今頃仲間を失って消沈しておられるのではないか? フハハハハ!!」
獄鬼は知っている。
リーデン様が直接はこの世界に干渉出来ないこと。
それが古来からの約束で、俺の存在は誰も意図しなかったイレギュラーだから見逃されているだけで、俺になにかあって、リーデン様がこの世界に……ううん、そんなのダメだ。
絶対、ダメだ。
「壊れた伴侶を抱いて主神も狂えばいい! 全部壊せ! 終わらせろ! 消してしまえ!!」
「……っ」
ムカついた。
もう怒った。
こんな、こんな勝手な話があって堪るか!
「許さない……っ」
魔力感知。
少ない。
気絶する前に比べたら半分くらいになっている魔力の数に胸が痛んだ。知りたくなかった。だけど、弱いけど生きている魔力だって、まだこんなにあるんだ。
「!」
遠く。
城の方から激しい轟音が鳴りにびく。
炎が上がり、こちらとは比べ物にならない煙が黙々と空へ昇っていく。
またたくさんの魔力が消えた。
それより多くの魔力が弱まった。
「……みんな……っ」
どれが誰のかなんて、考えない。
誰がいなくなったかなんて考えるのは後でいい。
治療。
でもこの炎が街を燃やし続けている限り安全じゃない。ここまで魔力を弱らせた人々が、怪我が治ったからってすぐに避難出来るとは限らない。
「だったら……!」
俺には水の適性もある。
全然成功しなかったけど、適正はあるんだ。
だから。
――……願え、レン……
耳の奥、リーデン様の声が蘇る。
うん、願うよ。
これは俺にしか出来ないことだから。
「みんな頑張って……!」
祈る。
広がる応援領域。
頑張って。
生きて。
すぐに助けにいくよ。
頑張って。
「頑張って……!」
応援領域が更に広がった。
広がれ。
広がれ。
もっと、王都全部、生きているひと皆を、包んで。
「頑張って……っ!!」
体力を、生命力を、精神力を、高めて。
ガラッ……前方で瓦礫が動いた。
煤けているけど白い大きな体が起き上がった。
ユキだ。
「ガウッ」
「……っ」
涙が零れそうになる。
「……ううん、まだまだ……!」
そうだ、泣いてなんていられないぞ自分! 俺自身も頑張れ!
頑張れ俺。
下手とか苦手とか全部言い訳だ。
いま頑張らないでどうする!
水よ。
水よ。
癒しの水よ!
魔力よりも神力を。
治癒を、水に。
火を消せ。
傷を癒せ。
癒せ。
頑張れ!
「もっと……もっと……!!」
魔力も、神力も、全部持っていけ。
もっと。
もうちょっと……!
「っ……」
眩暈。
足りない。
神力が足りない。
もうちょっとなのに!
「――……え」
ふわり。
神力が増す。
「な……」
驚いて顔を上げたらユキがいた。
真っ白な魔豹から抜けた神力が俺の放出する神力と混ざって魔法になる。
「ぁ……!」
ユキだけじゃない。
もう二つ。
ツキと、ハナも。
「がうっ」
足りない神力が補われて俺の願いが形になる。
その結果に気付いて、思わず手を伸ばしたらふわもこの顔が撫でてと言うように近付いてきた。
「……っ」
悔しい。
でも。
「治癒……!」
術の発動に光が溢れた。
治癒の光は水に。
雨になって、燃える大地に降り注いだ。
からっぽになった魔石が転がった。
「っ……」
痛くはないけど熱い。
重い。
ひどく暑くて、喉がカラカラで、呼吸に変な音が混じるのを自覚しながら体を起こしたら重みが下にずれていく。
「え……」
なんで、って。
ようやくはっきりして来た視界に移ったのはズズッと俺から落ちていくクルトさんの体。
「っ……⁈」
その背中は、もし自分に診療所での治療経験がなかったら目を逸らしてた。
吐いていたかも。
それくらい惨たらしい火傷が背中全体、腕にまで広がっていた。
当然防具はボロボロだ。
「クルトさんっ、クルトさん!」
意識がない。
呼吸も弱い。
脈も。
「なんで……っ」
俺にはリーデン様の防護陣があった。
庇わなくたって平気だったのに、それなのに!
「クルトさん!」
呼ぶ。
返事はない。
治療、そう思った瞬間にクルトさんだけじゃないって思い出す。
でも顔を上げた瞬間に頭の中が真っ白になった。
――地獄だと思った。
黒と赤しかなかった。
燃えてる。
全部、全部、燃えて、黒くなって。
「バルド……ルさん……?」
立っている人なんて誰もいない。
「エニスさん! ウーガさん! ドーガさん! ユキ!」
誰も。
何も、ない。
「ぁ……っ……ああっ……っ」
なんで。
同じ言葉ばかりが頭の中をぐるぐるして、治療しなきゃ、治さなきゃって思うのに体の中の魔力が、神力が暴れて纏まらない。
「そ、治癒……っ」
練り上げても四散する。
だってここだけじゃないんだ。
グランツェさんたちは?
レイナルドさんたちは?
情けなくも震えてしまう。
怖い。
怖い……!
『クアァ』
「っ」
突然の声に驚いて斜め後ろを振り返ったら魔の鷗がいた。
レイナルドさんとのメッセンジャーだった。
「あ……」
何か伝えに来た?
すぐに返事しないと。
そう思って手を伸ばした直後にそれは辺りに響き渡った。
「フハハハハハハ!!!!」
拡声魔法だった。
でもどちらから聞こえるかは判る。
城だ。
獄鬼の気配はかなり減っている。ゼロじゃないけどほぼほぼ捕まったらしくて一か所に纏まっている。でもこの声の主は……純粋な魔力。獄鬼じゃない……?
「クククククッ。ようやく我が元に辿り着いたようだが残念だったな。裏切者どもよ」
嘲笑する声は、若い男の人の声だ。
はっきりと聞こえるのは一人分の声だけど、周辺には大勢がいるのかたくさんの声と物音が遠くに聞こえる。拡声魔法が周辺の音も拾っているせいだ。
「貴様らは見誤ったのさ! 私の怒り! 私の恨み! 私の野望!! 我が望みはこの世界の滅びだ!!」
冠も玉座も要らない。
国も。
民も、もはや不要。
「こんなくだらぬ世界など滅んでしまえばよいのだ!」
怨嗟の言葉が、その内容に反して朗々と語られる。
歓喜。
満悦。
この瞬間を待っていた、と。
「ふざけるな……っ」
そんなこと誰が許すものか。
まだ戦っている人がいる。
必死に抵抗しようとしているのが伝わって来る。
幾ら一国の王だからって世界を好き勝手出来るはずがない!
「アハハハハ!」
だが声は笑った。
「そうとも、一人で世界を潰すなど無理だ! だが此処に来ているのだろう、主神の伴侶とやらが」
「――」
「伴侶に何かあれば主神様が黙っていないのだったか?」
笑う。
楽し気に。
嬉しそうに。
「この光景は獄鬼の生まれる場所に似ているそうだ! 怨嗟と絶望の生まれる場所だ! 伴侶殿も今頃仲間を失って消沈しておられるのではないか? フハハハハ!!」
獄鬼は知っている。
リーデン様が直接はこの世界に干渉出来ないこと。
それが古来からの約束で、俺の存在は誰も意図しなかったイレギュラーだから見逃されているだけで、俺になにかあって、リーデン様がこの世界に……ううん、そんなのダメだ。
絶対、ダメだ。
「壊れた伴侶を抱いて主神も狂えばいい! 全部壊せ! 終わらせろ! 消してしまえ!!」
「……っ」
ムカついた。
もう怒った。
こんな、こんな勝手な話があって堪るか!
「許さない……っ」
魔力感知。
少ない。
気絶する前に比べたら半分くらいになっている魔力の数に胸が痛んだ。知りたくなかった。だけど、弱いけど生きている魔力だって、まだこんなにあるんだ。
「!」
遠く。
城の方から激しい轟音が鳴りにびく。
炎が上がり、こちらとは比べ物にならない煙が黙々と空へ昇っていく。
またたくさんの魔力が消えた。
それより多くの魔力が弱まった。
「……みんな……っ」
どれが誰のかなんて、考えない。
誰がいなくなったかなんて考えるのは後でいい。
治療。
でもこの炎が街を燃やし続けている限り安全じゃない。ここまで魔力を弱らせた人々が、怪我が治ったからってすぐに避難出来るとは限らない。
「だったら……!」
俺には水の適性もある。
全然成功しなかったけど、適正はあるんだ。
だから。
――……願え、レン……
耳の奥、リーデン様の声が蘇る。
うん、願うよ。
これは俺にしか出来ないことだから。
「みんな頑張って……!」
祈る。
広がる応援領域。
頑張って。
生きて。
すぐに助けにいくよ。
頑張って。
「頑張って……!」
応援領域が更に広がった。
広がれ。
広がれ。
もっと、王都全部、生きているひと皆を、包んで。
「頑張って……っ!!」
体力を、生命力を、精神力を、高めて。
ガラッ……前方で瓦礫が動いた。
煤けているけど白い大きな体が起き上がった。
ユキだ。
「ガウッ」
「……っ」
涙が零れそうになる。
「……ううん、まだまだ……!」
そうだ、泣いてなんていられないぞ自分! 俺自身も頑張れ!
頑張れ俺。
下手とか苦手とか全部言い訳だ。
いま頑張らないでどうする!
水よ。
水よ。
癒しの水よ!
魔力よりも神力を。
治癒を、水に。
火を消せ。
傷を癒せ。
癒せ。
頑張れ!
「もっと……もっと……!!」
魔力も、神力も、全部持っていけ。
もっと。
もうちょっと……!
「っ……」
眩暈。
足りない。
神力が足りない。
もうちょっとなのに!
「――……え」
ふわり。
神力が増す。
「な……」
驚いて顔を上げたらユキがいた。
真っ白な魔豹から抜けた神力が俺の放出する神力と混ざって魔法になる。
「ぁ……!」
ユキだけじゃない。
もう二つ。
ツキと、ハナも。
「がうっ」
足りない神力が補われて俺の願いが形になる。
その結果に気付いて、思わず手を伸ばしたらふわもこの顔が撫でてと言うように近付いてきた。
「……っ」
悔しい。
でも。
「治癒……!」
術の発動に光が溢れた。
治癒の光は水に。
雨になって、燃える大地に降り注いだ。
からっぽになった魔石が転がった。
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