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第7章 呪われた血筋
216.久々に
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不安の原因が判らなくてあれこれ考えてしまったけど、考え過ぎなのかな。
でも自分の直感は信じた方が良いだろうし……。
「なに難しい顔して悩んでんだ?」
後ろ髪をわしゃわしゃされて後ろを見上げると、バルドルさんがいた。
クルトさん、ドーガさん、ヒユナさんがパンを焼くのを手伝ってくれているように、もう見張り番がつく時間帯だけど明日は休みなので、いまは割と自由。寝ているのは夜間に見張り当番が回って来るゲンジャルさん、ミッシェルさん、グランツェさん、モーガンさんくらいだと思う。
オクティバさんとディゼルさんはお察しというか、二人の時間大事。
番だからね。
でもって俺たちがいるのに目で会話してるバルドルさんとクルトさんにニヤニヤしてしまう。成長したよバルドルさんも。
「レン?」
「あ、えっと……カンヨン国の王都に突入したら絶対に罠が張ってあるだろうなぁと思ったら心配で」
「そっか。それでダンジョン産の魔道具に危険なものがないか知りたかったんだな」
ドーガさんの相槌から今までの話を簡単に説明するとバルドルさんも納得の顔。
「まず間違いなく何か企んでるんだろうからな」
「バルドルさんも変な臭いが判るんですか?」
「いや。俺の鼻じゃ人が多いのと死臭が濃いってことくらいしか判らん」
充分である。
「この距離でもするんだったら今夜もしんどくないですか?」
「このくらいなら我慢出来る。このテントの部屋だと更に遠くなるし、自分が臭うんじゃないしな」
「ほんとそれ!」
同じイヌ科の二人が頷き合う。
獣人族の皆は人間に比べて――もちろんご先祖様の種族にもよるけど、それぞれの五感がものすごく鋭い。犬の嗅覚に至っては人間の数千倍だったっけ。
プラーントゥ大陸はイヌ科が多いから、ここ数日しんどそうな人が多くて大変だった。それに比べれば全然マシという感じなんだろう。
風呂洗濯消臭乾燥の後も鼻が不快だったらしいバルドルさんが、クルトさんにしがみついてひたすら深呼吸を繰り返していたのは、笑っちゃダメだけど微笑ましかった。
ちなみにウーガさんとドーガさんは魔豹のハナにしがみついていた。遠い目をした魔豹に吹き出しそうになるのを堪えるのが本当に大変でした。
「この臭いだけでもさっさと消してしまいたいですね」
「ほんとそれ」
「主要人物の確保さえ済めばレイナルドも止めないと思うぞ。鼻の良さで言ったらお偉いさんほどしんどいだろうからな」
それは上の人たちも判断が早くなりそうだなって思って、皆で苦笑する。
捕獲対象を取り逃がさないよう下の俺たちが注意して見ていた方がいいのかもしれない。
「なんか楽しそうで羨ましいんだけどー」
テントの入口から顔を覗かせながら、ウーガさん。
エニスさんも退屈な見張りよりは此方に混ざりたそうな顔をしている。
此処に来るまでにも派手にやって来てるから、獄鬼どころか野党や魔獣の類も全然いないし、すぐ傍に大勢の仲間がいるから緊張感が続かない。
だけど敵の本丸がすぐそこにある以上は見張り番を欠くわけにはいかないのだ。
結局その後は外で全員で話をすることになり、2時間くらいで解散したけど、マーヘ大陸にあるダンジョンの話題で盛り上がった。
マーヘ大陸にはカンヨン国北方の白金級ダンジョンの他に、金級ダンジョンも未踏破が一つあるという。
お偉いさんたちの事後処理に時間が掛かりそうなら、カンヨン国制圧後はフリーになる自分たちが挑むのもアリかもしれないって。
この大陸にあるダンジョンがどういう扱いになるか次第だけどね。
「ただいまー」
パンも全部焼き終えて神具『野営用テント』から神具『住居兼用移動車両』Ex.に戻ったら、リーデン様がいつもの笑顔で「おかえり」って出迎えてくれた。
「今日は表情が明るいな」
「久々に皆とゆっくり話が出来て楽しかったからです」
抱き着いたらすぐに抱き返してくれた。
息を吸うとリーデン様の香りが酸素と一緒に体の中を満たして、ただそれだけで高まる安心感や幸福度を実感する。
バルドルさんがあんなに真剣にクルトさんを吸っていた気持ちがよく判る。
「……リーデン様」
「ん?」
「もうすぐマーヘ大陸に来た目的が終わります。明後日……まだどう終わるかは判りませんけど、全部終わって、落ち着いたら、たくさん仲良くしましょうね」
「ふっ」
頭上から落ちる柔らかな笑い声。
「それは嬉しいお誘いだな」
「俺も、リーデン様と過ごす時間はご褒美だと思って頑張って来るので、見守っていて下さい。リーデン様の大切な世界を俺たちで取り戻してきます」
「ああ」
ぎゅっ、て抱きしめる腕の力が増した。
「しかし無茶は程ほどにしてくれ。私の世界には、レン、おまえと、おまえの愛する者たちが必要だ」
その言葉が嬉しくて笑ったら顎を持ち上げられて、キスする。
決戦は明後日。
不安は尽きないけど頼りになる仲間がたくさんいるしいざとなったら俺が本気出す。うっかり要捕獲の重要人物を浄化してしまうかもしれないけど人の命より大事な獄鬼なんていない。
絶対に守る。
この世界は、俺にとってももうとても大切な場所なんだから。
でも自分の直感は信じた方が良いだろうし……。
「なに難しい顔して悩んでんだ?」
後ろ髪をわしゃわしゃされて後ろを見上げると、バルドルさんがいた。
クルトさん、ドーガさん、ヒユナさんがパンを焼くのを手伝ってくれているように、もう見張り番がつく時間帯だけど明日は休みなので、いまは割と自由。寝ているのは夜間に見張り当番が回って来るゲンジャルさん、ミッシェルさん、グランツェさん、モーガンさんくらいだと思う。
オクティバさんとディゼルさんはお察しというか、二人の時間大事。
番だからね。
でもって俺たちがいるのに目で会話してるバルドルさんとクルトさんにニヤニヤしてしまう。成長したよバルドルさんも。
「レン?」
「あ、えっと……カンヨン国の王都に突入したら絶対に罠が張ってあるだろうなぁと思ったら心配で」
「そっか。それでダンジョン産の魔道具に危険なものがないか知りたかったんだな」
ドーガさんの相槌から今までの話を簡単に説明するとバルドルさんも納得の顔。
「まず間違いなく何か企んでるんだろうからな」
「バルドルさんも変な臭いが判るんですか?」
「いや。俺の鼻じゃ人が多いのと死臭が濃いってことくらいしか判らん」
充分である。
「この距離でもするんだったら今夜もしんどくないですか?」
「このくらいなら我慢出来る。このテントの部屋だと更に遠くなるし、自分が臭うんじゃないしな」
「ほんとそれ!」
同じイヌ科の二人が頷き合う。
獣人族の皆は人間に比べて――もちろんご先祖様の種族にもよるけど、それぞれの五感がものすごく鋭い。犬の嗅覚に至っては人間の数千倍だったっけ。
プラーントゥ大陸はイヌ科が多いから、ここ数日しんどそうな人が多くて大変だった。それに比べれば全然マシという感じなんだろう。
風呂洗濯消臭乾燥の後も鼻が不快だったらしいバルドルさんが、クルトさんにしがみついてひたすら深呼吸を繰り返していたのは、笑っちゃダメだけど微笑ましかった。
ちなみにウーガさんとドーガさんは魔豹のハナにしがみついていた。遠い目をした魔豹に吹き出しそうになるのを堪えるのが本当に大変でした。
「この臭いだけでもさっさと消してしまいたいですね」
「ほんとそれ」
「主要人物の確保さえ済めばレイナルドも止めないと思うぞ。鼻の良さで言ったらお偉いさんほどしんどいだろうからな」
それは上の人たちも判断が早くなりそうだなって思って、皆で苦笑する。
捕獲対象を取り逃がさないよう下の俺たちが注意して見ていた方がいいのかもしれない。
「なんか楽しそうで羨ましいんだけどー」
テントの入口から顔を覗かせながら、ウーガさん。
エニスさんも退屈な見張りよりは此方に混ざりたそうな顔をしている。
此処に来るまでにも派手にやって来てるから、獄鬼どころか野党や魔獣の類も全然いないし、すぐ傍に大勢の仲間がいるから緊張感が続かない。
だけど敵の本丸がすぐそこにある以上は見張り番を欠くわけにはいかないのだ。
結局その後は外で全員で話をすることになり、2時間くらいで解散したけど、マーヘ大陸にあるダンジョンの話題で盛り上がった。
マーヘ大陸にはカンヨン国北方の白金級ダンジョンの他に、金級ダンジョンも未踏破が一つあるという。
お偉いさんたちの事後処理に時間が掛かりそうなら、カンヨン国制圧後はフリーになる自分たちが挑むのもアリかもしれないって。
この大陸にあるダンジョンがどういう扱いになるか次第だけどね。
「ただいまー」
パンも全部焼き終えて神具『野営用テント』から神具『住居兼用移動車両』Ex.に戻ったら、リーデン様がいつもの笑顔で「おかえり」って出迎えてくれた。
「今日は表情が明るいな」
「久々に皆とゆっくり話が出来て楽しかったからです」
抱き着いたらすぐに抱き返してくれた。
息を吸うとリーデン様の香りが酸素と一緒に体の中を満たして、ただそれだけで高まる安心感や幸福度を実感する。
バルドルさんがあんなに真剣にクルトさんを吸っていた気持ちがよく判る。
「……リーデン様」
「ん?」
「もうすぐマーヘ大陸に来た目的が終わります。明後日……まだどう終わるかは判りませんけど、全部終わって、落ち着いたら、たくさん仲良くしましょうね」
「ふっ」
頭上から落ちる柔らかな笑い声。
「それは嬉しいお誘いだな」
「俺も、リーデン様と過ごす時間はご褒美だと思って頑張って来るので、見守っていて下さい。リーデン様の大切な世界を俺たちで取り戻してきます」
「ああ」
ぎゅっ、て抱きしめる腕の力が増した。
「しかし無茶は程ほどにしてくれ。私の世界には、レン、おまえと、おまえの愛する者たちが必要だ」
その言葉が嬉しくて笑ったら顎を持ち上げられて、キスする。
決戦は明後日。
不安は尽きないけど頼りになる仲間がたくさんいるしいざとなったら俺が本気出す。うっかり要捕獲の重要人物を浄化してしまうかもしれないけど人の命より大事な獄鬼なんていない。
絶対に守る。
この世界は、俺にとってももうとても大切な場所なんだから。
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