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第7章 呪われた血筋
214.束の間の休息
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野営時の夜の見張りは3時間交代で二人ずつ。
ただし明日一日を偵察に費やす今回は日中もテントを無人にするわけにはいかない。
レイナルドさん、アッシュさん、ウォーカーさんが不在。
食事担当の俺は当番から外されているので、12人で相談して順番を決めた後は、いつも通り複数のテントを設置してそれぞれ使っているように見せかけた。
でも実際に使っているのは神具『野営用テント』だけ。
21時を過ぎて最初の二人――エニスさんとウーガさん、それからウーガさんの希望で魔豹のハナが見張りに付いた後、俺はテント内のキッチンで日中の内に仕込んでいたパン生地を形成していた。
今日から明日にかけての、小腹が空いた人用だ。
ちなみに広いリビングダイニングには魔豹のユキとツキが寝そべり、ヒユナさん、ドーガさん、クルトさんがパン作りを手伝ってくれている。
「パンってこうやって焼くんですね」
パンどころか料理があまり得意でないヒユナさんの手つきはたどたどしいが、とても楽しんでいるのが見て取れた。
こちらも料理は苦手なドーガさんとクルトさんが余熱の済んだオーブンに自分たちが成形したパンを乗せたプレートをセットする。
形が歪なのはご愛敬だ。
「レンくんのそれも夜食用?」
「いいえ。こっちは朝食用です。最後に焼けば温かい内に食べれるんじゃないかなって」
「おお!」
ドーガさんの嬉しそうな声に、ヒユナさん。
「こんな時でも美味しいものが食べられるって幸せですよね!」
「だよな!」
そう言ってもらえると悪い気はしない。
ううん、正直に言うと嬉しいっていう本音が顔に出たのか、クルトさんが笑っている。
「そういえばさ。ゲンジャルさんが切望していたパンの自動販売機は、普通に収納箱に入れておくだけで充分だから開発しないって言ってたけど、ああいうのギルドにあると重宝しそうって思ったんだよ」
「冒険者ギルドですか?」
胸に鈍い痛みが走る。
次にギルドに行った時にはギルドマスターが変わっていることとか、最初にララさんに会ったら何て声を掛けたらいいんだろう、とか。
いま考えることじゃないと自分に言い聞かせてクルトさんに集中する。
「特に鉄級の子たちは依頼先でお昼ご飯が出るとは限らないだろ?」
「あ……」
そういえば自分がお弁当を持って行くようになった最初の理由は、鉄級依頼を受けると昼食を現場で確保するのが難しいと学んだからだった。
「んー……いや、さすがに他の人の分まで作ってる時間ないです」
「もちろん中は出来る人……それこそ鉄球依頼にして新人に任せてもいいと思うんだ。でも自動販売機の、あの仕組みを俺たちの船でだけで独占してるの勿体ない気がして」
「わかる」
ドーガさんが大きく頷いている。
「あれ、俺たちもちょこっと手伝ったから判るけど、魔力とか一切関係なしの超画期的な道具だ」
「メッセンジャーみたいに特許を取って世界中の人に使ってもらうというのは?」
ヒユナさんにまで言われて、どうしたものか迷う。
確かにあれは雑誌の付録を真似て魔力どころか電気も使わない仕様で完成させるために皆でアイディアを出し合ったのだ。俺だけじゃなく皆の利益になることを考えると特許を取る価値は充分にあるって俺も思う。
ただし。
「……あの道具、いつかどこかのダンジョンから設計図が出てきそうというか……もしどこかで既に開発中なんて話があったらややこしいことになりそうじゃないですか」
まぁ出てきたとしたらそれはたぶん電気の代わりに魔力で稼働するスマートな型だとは思うけど。
「ダンジョンから……って、電話や写真機みたいな?」
「ですです」
「別に気にしなくてもいいと思うよ」
「んー……」
そうなのかな。
それでいいのかな……いや、でもなぁ。
「魔石の一つも使わないような魔道具の設計図なら鉄級や銅級ダンジョンからの発見になるだろうし、だとしたらとっくに知られてると思うぞ」
確かに鉄級と銅級ダンジョンは全ての大陸において制覇されて久しい。
もし発見された設計図があればほぼ実用化済みなんだろう……と思っていたら、ドーガさん。
「まぁ発見しても公表してない可能性はあるだろうけど」
「え?」
思わず聞き返す。
「公表しないこともあるんですか?」
「そりゃあるよ。有益な魔道具の設計図をゲットして、作れるのが自分だけなら儲かるだろ。まぁ儲かるために宣伝はするだろうけど」
確かにそうだ。
ドーガさんの説明に納得すると同時、妙な胸騒ぎがした。
何かが引っ掛かった。
ただし明日一日を偵察に費やす今回は日中もテントを無人にするわけにはいかない。
レイナルドさん、アッシュさん、ウォーカーさんが不在。
食事担当の俺は当番から外されているので、12人で相談して順番を決めた後は、いつも通り複数のテントを設置してそれぞれ使っているように見せかけた。
でも実際に使っているのは神具『野営用テント』だけ。
21時を過ぎて最初の二人――エニスさんとウーガさん、それからウーガさんの希望で魔豹のハナが見張りに付いた後、俺はテント内のキッチンで日中の内に仕込んでいたパン生地を形成していた。
今日から明日にかけての、小腹が空いた人用だ。
ちなみに広いリビングダイニングには魔豹のユキとツキが寝そべり、ヒユナさん、ドーガさん、クルトさんがパン作りを手伝ってくれている。
「パンってこうやって焼くんですね」
パンどころか料理があまり得意でないヒユナさんの手つきはたどたどしいが、とても楽しんでいるのが見て取れた。
こちらも料理は苦手なドーガさんとクルトさんが余熱の済んだオーブンに自分たちが成形したパンを乗せたプレートをセットする。
形が歪なのはご愛敬だ。
「レンくんのそれも夜食用?」
「いいえ。こっちは朝食用です。最後に焼けば温かい内に食べれるんじゃないかなって」
「おお!」
ドーガさんの嬉しそうな声に、ヒユナさん。
「こんな時でも美味しいものが食べられるって幸せですよね!」
「だよな!」
そう言ってもらえると悪い気はしない。
ううん、正直に言うと嬉しいっていう本音が顔に出たのか、クルトさんが笑っている。
「そういえばさ。ゲンジャルさんが切望していたパンの自動販売機は、普通に収納箱に入れておくだけで充分だから開発しないって言ってたけど、ああいうのギルドにあると重宝しそうって思ったんだよ」
「冒険者ギルドですか?」
胸に鈍い痛みが走る。
次にギルドに行った時にはギルドマスターが変わっていることとか、最初にララさんに会ったら何て声を掛けたらいいんだろう、とか。
いま考えることじゃないと自分に言い聞かせてクルトさんに集中する。
「特に鉄級の子たちは依頼先でお昼ご飯が出るとは限らないだろ?」
「あ……」
そういえば自分がお弁当を持って行くようになった最初の理由は、鉄級依頼を受けると昼食を現場で確保するのが難しいと学んだからだった。
「んー……いや、さすがに他の人の分まで作ってる時間ないです」
「もちろん中は出来る人……それこそ鉄球依頼にして新人に任せてもいいと思うんだ。でも自動販売機の、あの仕組みを俺たちの船でだけで独占してるの勿体ない気がして」
「わかる」
ドーガさんが大きく頷いている。
「あれ、俺たちもちょこっと手伝ったから判るけど、魔力とか一切関係なしの超画期的な道具だ」
「メッセンジャーみたいに特許を取って世界中の人に使ってもらうというのは?」
ヒユナさんにまで言われて、どうしたものか迷う。
確かにあれは雑誌の付録を真似て魔力どころか電気も使わない仕様で完成させるために皆でアイディアを出し合ったのだ。俺だけじゃなく皆の利益になることを考えると特許を取る価値は充分にあるって俺も思う。
ただし。
「……あの道具、いつかどこかのダンジョンから設計図が出てきそうというか……もしどこかで既に開発中なんて話があったらややこしいことになりそうじゃないですか」
まぁ出てきたとしたらそれはたぶん電気の代わりに魔力で稼働するスマートな型だとは思うけど。
「ダンジョンから……って、電話や写真機みたいな?」
「ですです」
「別に気にしなくてもいいと思うよ」
「んー……」
そうなのかな。
それでいいのかな……いや、でもなぁ。
「魔石の一つも使わないような魔道具の設計図なら鉄級や銅級ダンジョンからの発見になるだろうし、だとしたらとっくに知られてると思うぞ」
確かに鉄級と銅級ダンジョンは全ての大陸において制覇されて久しい。
もし発見された設計図があればほぼ実用化済みなんだろう……と思っていたら、ドーガさん。
「まぁ発見しても公表してない可能性はあるだろうけど」
「え?」
思わず聞き返す。
「公表しないこともあるんですか?」
「そりゃあるよ。有益な魔道具の設計図をゲットして、作れるのが自分だけなら儲かるだろ。まぁ儲かるために宣伝はするだろうけど」
確かにそうだ。
ドーガさんの説明に納得すると同時、妙な胸騒ぎがした。
何かが引っ掛かった。
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