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第7章 呪われた血筋

212.ウノ国

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 翌日も同じことの繰り返しだった。
 王都に向かうまで10余りの村や町があって、そのすべてが獄鬼ヘルネルに侵食されていた。
 生存者はゼロ。
 本当に、ただの一つも生きている命は無かったんだ。

「ギァリッグ連合軍の上陸を手伝った後は東西に手分けするつもりだったが、あっちもこの調子ならレンを連れて全員で進んだ方が無難だな」
「ええ。魔獣にも獄鬼ヘルネルが憑いています。カンヨンの制圧は予定より遅れてしまいますが安全策を取った方が良いでしょう」
「同感だ」
「ではオセアンとグロットの連合軍にメッセンジャーを飛ばしましょう」
「キクノ側の連合軍には私が」
「プラーントゥ側には俺が伝える」
「じゃあギァリッグ側には私がメッセンジャーを送るわ」

 指揮官たちのやり取りを何となく聞きながら、こっちは夕飯の準備。
 ウノ国の王都はもう目の前で、日の出とともに進軍を開始する予定だ。
 その夜はいつも通りに過ごした。
 いっそ俺が王都全域に浄化ピュリフィカシオンしてしまった方が精神的にも肉体的にも楽なんだけど、獄鬼ヘルネルが憑いていても拷問で情報を引き出すことが出来るのはオセアン大陸で実証済みのため、情報を持っていそうな相手はなるべく確保したい。となると、やっぱり相手を確認しながら少しずつ攻略していくしかない。
 チートではあるけど万能ではない俺が出来るのは目の前の命を守るため、そして自分を大切に想ってくれる人たちに心配を掛けないよう注意しつつ全力を出すだけだ。
 リーデン様にハグしてもらって元気もチャージ完了。
 うん、俺はやれる!




 翌朝――。

「昨日と変化無し。王都の中に人の魔力反応はゼロ。全部獄鬼ヘルネルです。強い反応が昨日より……んん? 全体的に少し増えて、昨日はなかった強い反応も7つ……?」
「生き残るために共食いしたんだろうさ」

 ゲンジャルさんがさして珍しくないと言いたげだ。

「全部で……100,000以上ですね。あっちこっちに移動してますけど獄鬼ヘルネル除けに引っ掛かっては弱って止まって回復して……を繰り返してます」
「着いてすぐに設置した甲斐があったな」

 にやりと悪い笑みを浮かべるレイナルドさん。
 こっちの世界でも王都の人口が10万人前後なのは少ないけど、これが獄鬼ヘルネルに憑かれて体を弄ばれているゾンビや、卵たちだと考えれば異常な数だ。

「王侯貴族は全員捕縛。この後でマーヘ大陸の責任を問うのに必須だからうっかり消さないように気を付けろ」
「はい」
「バルドル、クルト、エニス、ウーガ、ドーガはレンの護衛。グランツェたちはヒユナを」
「任せろ」
「1班から3班までは東側、4班から6班までが西側。7班以降は俺たちと正面から行くぞ」
「はい!」

 こちらの最終確認が終わるタイミングでキクノ大陸の方も準備が整った。
 何かあれば適宜メッセンジャーを飛ばすことも確認し合って半数が東西の門に移動、配置が完了した知らせを以ってレイナルドさんがカウントを取った。
 5、4、3、2、1――ミッシェルさんの火球バルフレムが空に上がった。

「行くぞ!」
「おう!」

 願う。
 祈る。
 俺の大事な人たちが傷つきませんように、苦しみませんように、獄鬼ヘルネルに惑わされませんように。
 応援領域クラウーズ

鼓舞クゥズィ!」

 僧侶たちの神力が仲間を包む。
 護る。

「レンくん、近くに強い反応は?」
「北側に逃げてます、あのお城の側!」
「ってことはこの辺りは問答無用でいいな!」
「はい!」

 直後、ハナに騎乗したドーガさんの火魔法が放たれ、ツキに騎乗したウーガさんはそこから逃れたゾンビを連射で射止めていく。
 進行方向はバルドルさんたちが道を切り開く。
 もちろん俺も。

浄化ピュリフィカシオン!」

 目視出来る範囲を、誤って重要人物まで消してしまわないよう気を付けながら浄化ピュリフィカシオンする。
 対獄鬼ヘルネル戦なら俺も戦える。
 10万のゾンビを倒して、城を制圧して、かつ王侯貴族は確保。
 これが達成されるまで休む暇は無いんだから頑張るっきゃないよね。


 レイナルドさんたちがウノ国の王様、王妃様、王太子、王女、宰相、大臣4名の合計9名を確保したとメッセンジャーで知らせてくれたのは、王都制圧開始から3時間余りが経った頃だった。
 単純に多過ぎる敵の数。
 強くて狡猾な獄鬼ヘルネルが複数いること。
 しかも王都の中だから建物も多く、隠れるところが多いというのも時間が掛かった要因の一つだろう。

「じゃあ後はもう全部浄化ピュリフィカシオンしていいんですねっ?」

 目視で確認出来ない味方の安否が気になるのはもちろん、視覚的にも嗅覚的にも早く終わらせたかった俺は即座に返事を飛ばして確認を取った。
 答えは是。

「クルトさん! これから王都全域を浄化ピュリフィカシオンしますっ、この広さならたぶん問題ないんですけど、もし倒れそうになったら支えてください!」
「判った!」

 クルトさんの即答。
 此処はオセアン大陸の代表国メールの王都より狭いし、その後も着々と俺の魔力が増えているのを彼は把握してくれているからだ。

「始めます!」

 声を上げて立ち止まる。
 バルドルさん達も一斉に立ち止まり、周辺のゾンビを近付けないよう立ち回ってくれる。
 集中。
 レイナルドさん達が確保した獄鬼ヘルネルを除いて、でもせっかくだから俺たちだけじゃなく土地や建物ごと風呂洗濯消臭乾燥してしまおう。
 一気に。
 隙間なく。
 ピッカピカに!

浄化ピュリフィカシオン!!」

 全力の浄化ピュリフィカシオンは、俺を中心とした光の爆発。瞬く間にゾンビは塵になって消えていくし大気中を彷徨っていた獄鬼ヘルネルの卵たちも、異臭や悪臭も、全部、全部、消えてなくなれ。

「おお……」

 ウーガさんの感嘆の声をきっかけに、意識がだんだんとハッキリしてくる。
 少し眩暈がしたけれど自分の足で踏ん張れた。

「……終わった?」
「終わったよ」

 すぐそば、背中を支えてくれていたクルトさんが笑っている。

「お疲れさま。ありがとう」
「お疲れ。よくやった」

 バルドルさんには頭をぽふりとされたし、エニスさんには肩、ドーガさんには後頭部を叩かれた。
 俺は一度ゆっくりと深呼吸する。
 ……うん、魔力も神力も余裕充分。

「怪我はありませんか?」
「問題ない」
「俺もー」

 一人ひとりと視線を合わせて確認する。
 彼らが無事なら――。

「怪我人の治療にあたりたいです、手伝ってください」

 頼んだらクルトさん達は笑顔で「もちろん」と請け負ってくれた。
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