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第7章 呪われた血筋
211.耐えられない!
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「匂いが! 耐えられないのよ……!」
あれから更にゾンビとの戦闘を繰り返し、ウノの王都まで三分の一を進んだ辺りで野営をすることになったのはいいんだけど、いざ食事の準備をするかってタイミングでミッシェルさんが嘆いた。
うん、判る。
俺もこの臭いがしんどい。
慣れるどころかどんどんひどくなっていくから呼吸したくないし、それで食欲なんて出るわけない。
しかも人が住んでいただろう土地のことごとくがゾンビだらけで死臭が染み付いているからって、人里から離れた場所を今日の野営地に選んだくらいだ、たぶん指揮官クラスの人たちも同じ気持ちでいるはず。
かといって水浴びできるような川はないし、神具『野営テント』のシャワーは使えるけどそれって俺たちだけ。しかもこのまま入ったら、それはそれでテントに臭いが付くと思う。
「試しに浄化してみますか……?」
進軍中なら「魔力は温存しろ」と言われるところだが、今夜は後は寝るだけだ。
「効果があるかどうかは判りませんけど……」
「物は試しよ! レンお願い!」
ミッシェルさんがぐいぐい来る。
顔が近いです。
「えー……と、じゃあ……」
浄化のままだと獄鬼を消すだけだ。
今までの同じように発動するだけじゃ、此処では何の効果もない。
欲しい効果はお風呂のない異世界に転移しちゃった日本人が使えるようになる定番みたいな、頭のてっぺんから足の爪先まで、身に着けているもの込みでスッキリ爽やか、髪の毛もサラサラツヤツヤになるアレだ。
鎧や武器に染み付いた臭いもだし、土地にもそれなりに浸み込んじゃっているだろうから、それも。
悪臭や汚れを、獄鬼の卵って言われてる靄に見立てて。
浄化に注ぐ神力を石鹸の泡に……。
あれだ。
幼稚園の時に正しい手洗いの仕方を覚えるために見たアニメーション。
泡に溶けて消えていくバイキンたち。
泡で、悪臭の素である黒い靄を溶かして消す!
「いけそう」
指定範囲は150人の仲間全員と、テントが張られている土地全域より3メートルくらい広く。
「お風呂洗濯消臭乾燥!」
「は?」
レイナルドさんが目を瞬かせるも、直後に詰まっていた鼻の不快感が流れ落ちた。
汗ばんでいた肌がさっぱりして、べたついていた髪はさらさらに。
匂いは俺が神具『住居兼用移動車両』Ex.で使っている石鹸のそれに近く、死臭を溶かして消えていくと同時に無臭に変わる。
「お、おおお……?」
うっかり発動ワードが変わって新魔法みたいになっちゃったけど、結果オーライだ。俺が願うと実現しちゃうのは有無を言わさず加護をくれた4人の合わせ技だしね!
「すごいレン! レン最高っ、ありがとう!」
「わっ」
ミッシェルさんからハグされてびっくりしている間に、身内以外の人たちも自分に起きた変化に気付いたらしい。
「臭くない……?」
「あれ?」
「なんか……気持ち良いな?」
ざわざわと周囲が騒がしくなる。
ウォーカーさんはまじまじとアッシュさんの顔を見た後でぽつりと呟く。
「……アッシュ、若返って見える」
「え?」
言われて、自分の顔を触るアッシュさん。
途端に目が丸くなった。
「魔力が満ちていて、子どものほっぺたを触っているみたい……」
「ほんとだ!」
ミッシェルさんも自分の顔に触って驚愕。
さすがにそこまで意識してなかったけど神力には保湿の効能もあったりするんだろうか。
言われてみればレイナルドさんやゲンジャルさんもちょっと若く見えるかも? 首を傾げながらそんなことを思っていたら、レイナルドさん。
「さっきの呪文みたいなのはなんだ?」
「普通に浄化したら獄鬼を消すだけの効果しかないから、どういう効果が欲しいのか考えてみたんです。それがそのまま出ちゃっただけです」
「だけって……」
ものすごく何かを言いたそうな顔をしているレイナルドさんだけど、俺を見て、周りを見て、最終的にがっくりと肩を落とす。
そして低い声で確認して来た。
「体調に変化は?」
「特には何も。むしろ臭いが気にならなくなって清々しい気分です」
「そりゃそうだ」
ゲンジャルさんが声を上げて笑う。
ウォーカーさんは失笑だ。
「だったら、まぁ……そうだな。正直助かるから、体調に異変があったらすぐに言え。絶対に無茶はするな」
「はい!」
過保護なレイナルドさんの心配は判らないじゃないけど、臭いのせいでご飯食べれない、夜も眠れないでは体が持たない。
それこそ獄鬼側の思惑通りだと言われたら天晴な作戦だ。
だからって連中の思い通りになってやる必要なんかない。ご飯はちゃんと食べるし、夜は交代できちんと休めるようにする。
怪我は全部治す。
生きている間も、死んでからも獄鬼に弄ばれているマーヘ大陸の人たちをみんな解放して、成仏させて、それで、全員一緒に家族のところへ帰るんだ。
「そうと決まったら飯の支度するか」
バルドルさんが声を上げて、ウーガさんが「さんせー!」とはしゃぐ。
「臭いは気にならなくなったけど、もうちょっと時間欲しい。すぐは無理。まだちょっと胸悪い」とドーガさん。
「じゃあ食べたくなったら食べられるように、自分で好きなものを包むパターンにしましょうか。俺は生地を用意するので、火熾しとスープを」
「火ぃ熾すのは俺がやる」
「スープは俺が」
エニスさん、クルトさんが手を挙げてくれたので遠慮なく任せることにする。
なので。
「他の皆さんは焼いた肉をほぐしてください。肉、好きですよね?」
「任せろ!」
バルドルさんだけじゃなくてゲンジャルさんたちまで大きく頷く。
「パンもあると尚良しだ!」
ゲンジャルさんが前のめりでそんなことを言うから皆で声を上げて笑った。
あれから更にゾンビとの戦闘を繰り返し、ウノの王都まで三分の一を進んだ辺りで野営をすることになったのはいいんだけど、いざ食事の準備をするかってタイミングでミッシェルさんが嘆いた。
うん、判る。
俺もこの臭いがしんどい。
慣れるどころかどんどんひどくなっていくから呼吸したくないし、それで食欲なんて出るわけない。
しかも人が住んでいただろう土地のことごとくがゾンビだらけで死臭が染み付いているからって、人里から離れた場所を今日の野営地に選んだくらいだ、たぶん指揮官クラスの人たちも同じ気持ちでいるはず。
かといって水浴びできるような川はないし、神具『野営テント』のシャワーは使えるけどそれって俺たちだけ。しかもこのまま入ったら、それはそれでテントに臭いが付くと思う。
「試しに浄化してみますか……?」
進軍中なら「魔力は温存しろ」と言われるところだが、今夜は後は寝るだけだ。
「効果があるかどうかは判りませんけど……」
「物は試しよ! レンお願い!」
ミッシェルさんがぐいぐい来る。
顔が近いです。
「えー……と、じゃあ……」
浄化のままだと獄鬼を消すだけだ。
今までの同じように発動するだけじゃ、此処では何の効果もない。
欲しい効果はお風呂のない異世界に転移しちゃった日本人が使えるようになる定番みたいな、頭のてっぺんから足の爪先まで、身に着けているもの込みでスッキリ爽やか、髪の毛もサラサラツヤツヤになるアレだ。
鎧や武器に染み付いた臭いもだし、土地にもそれなりに浸み込んじゃっているだろうから、それも。
悪臭や汚れを、獄鬼の卵って言われてる靄に見立てて。
浄化に注ぐ神力を石鹸の泡に……。
あれだ。
幼稚園の時に正しい手洗いの仕方を覚えるために見たアニメーション。
泡に溶けて消えていくバイキンたち。
泡で、悪臭の素である黒い靄を溶かして消す!
「いけそう」
指定範囲は150人の仲間全員と、テントが張られている土地全域より3メートルくらい広く。
「お風呂洗濯消臭乾燥!」
「は?」
レイナルドさんが目を瞬かせるも、直後に詰まっていた鼻の不快感が流れ落ちた。
汗ばんでいた肌がさっぱりして、べたついていた髪はさらさらに。
匂いは俺が神具『住居兼用移動車両』Ex.で使っている石鹸のそれに近く、死臭を溶かして消えていくと同時に無臭に変わる。
「お、おおお……?」
うっかり発動ワードが変わって新魔法みたいになっちゃったけど、結果オーライだ。俺が願うと実現しちゃうのは有無を言わさず加護をくれた4人の合わせ技だしね!
「すごいレン! レン最高っ、ありがとう!」
「わっ」
ミッシェルさんからハグされてびっくりしている間に、身内以外の人たちも自分に起きた変化に気付いたらしい。
「臭くない……?」
「あれ?」
「なんか……気持ち良いな?」
ざわざわと周囲が騒がしくなる。
ウォーカーさんはまじまじとアッシュさんの顔を見た後でぽつりと呟く。
「……アッシュ、若返って見える」
「え?」
言われて、自分の顔を触るアッシュさん。
途端に目が丸くなった。
「魔力が満ちていて、子どものほっぺたを触っているみたい……」
「ほんとだ!」
ミッシェルさんも自分の顔に触って驚愕。
さすがにそこまで意識してなかったけど神力には保湿の効能もあったりするんだろうか。
言われてみればレイナルドさんやゲンジャルさんもちょっと若く見えるかも? 首を傾げながらそんなことを思っていたら、レイナルドさん。
「さっきの呪文みたいなのはなんだ?」
「普通に浄化したら獄鬼を消すだけの効果しかないから、どういう効果が欲しいのか考えてみたんです。それがそのまま出ちゃっただけです」
「だけって……」
ものすごく何かを言いたそうな顔をしているレイナルドさんだけど、俺を見て、周りを見て、最終的にがっくりと肩を落とす。
そして低い声で確認して来た。
「体調に変化は?」
「特には何も。むしろ臭いが気にならなくなって清々しい気分です」
「そりゃそうだ」
ゲンジャルさんが声を上げて笑う。
ウォーカーさんは失笑だ。
「だったら、まぁ……そうだな。正直助かるから、体調に異変があったらすぐに言え。絶対に無茶はするな」
「はい!」
過保護なレイナルドさんの心配は判らないじゃないけど、臭いのせいでご飯食べれない、夜も眠れないでは体が持たない。
それこそ獄鬼側の思惑通りだと言われたら天晴な作戦だ。
だからって連中の思い通りになってやる必要なんかない。ご飯はちゃんと食べるし、夜は交代できちんと休めるようにする。
怪我は全部治す。
生きている間も、死んでからも獄鬼に弄ばれているマーヘ大陸の人たちをみんな解放して、成仏させて、それで、全員一緒に家族のところへ帰るんだ。
「そうと決まったら飯の支度するか」
バルドルさんが声を上げて、ウーガさんが「さんせー!」とはしゃぐ。
「臭いは気にならなくなったけど、もうちょっと時間欲しい。すぐは無理。まだちょっと胸悪い」とドーガさん。
「じゃあ食べたくなったら食べられるように、自分で好きなものを包むパターンにしましょうか。俺は生地を用意するので、火熾しとスープを」
「火ぃ熾すのは俺がやる」
「スープは俺が」
エニスさん、クルトさんが手を挙げてくれたので遠慮なく任せることにする。
なので。
「他の皆さんは焼いた肉をほぐしてください。肉、好きですよね?」
「任せろ!」
バルドルさんだけじゃなくてゲンジャルさんたちまで大きく頷く。
「パンもあると尚良しだ!」
ゲンジャルさんが前のめりでそんなことを言うから皆で声を上げて笑った。
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