生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら

文字の大きさ
上 下
227 / 335
第7章 呪われた血筋

210.ウノ国※戦闘有り

しおりを挟む
 ※残酷なシーンが出てきます。ご注意ください。




 ウノ国内に入った直後はまだ良かった。
 人も、獄鬼ヘルネルも、魔獣も気配すらなく、多少の不快感を我慢していれば問題なく先に進めたのだ。だが国境に尤も近い、いわゆるウノの辺境の街を目前にしてみんなの表情が歪んだ。
 
(どうかみんなが傷つきませんように……っ)

 応援領域クラウーズが展開され、俺の祈りは相手との心の距離が近いほどその人を強化する。
 俺とヒユナさんを含め5人の僧侶がリーデン様への祝詞を紡ぐ。

「天におわします我らが父よ」

 願わくは御名が尊ばれるこの地に永き平穏と幸福が齎されんことを。
 我らは父の子。
 父の代理人。
 この地を永きに渡り守るため。
 傷つきし命の安らかなるを祈るため――。

「主よ、降り立ち給え」

 応援領域内のバフとの相乗効果で僧侶の結界が味方全体を包み込む。これで味方が獄鬼ヘルネルに憑かれることは阻止出来るし相手の戦力を削ぐことにもなる。
 ネイナルドさんたち指揮官の指示で斥候4名が街へ。
 だけどほとんど間を置くことなく俺たち全員が突入することになった。
 何故なら……。

「ひぃっ」

 情けない悲鳴を上げてしまったけど、目の前に何十、何百っていうゾンビが現れたら仕方がないはずだ。
 そう、辺境の街で俺たちを待っていたのはゾンビだ。
 きっと去年まではここで暮らしていた人たちなんだと思う。
 だけどいまは魔獣に食い散らかされた体を獄鬼ヘルネルに乗っ取られて俺たちの行く手を阻んでいる。人の姿で襲ってくるより、視覚的な意味でこちらのダメージが大きくなるんだから、戦争中ということを考えれば有効な手段なんだろう。
 でも、ムカつく。
 こんな真似は絶対に許されちゃダメだ。

「レン、無茶するな!」

 こっちの怒りを感じ取ったらしいバルドルさんから注意が飛んでくる。
 でも大丈夫。
 広範囲の浄化ピュリフィカシオンは意識飛ばす危険があるけど、範囲を単体に絞れば100や200は余裕でおとなしくさせられる。

「それより北側800メートル先、逃げようとしてる獄鬼ヘルネルが5体います!」

 魔力感知に引っ掛かった情報を叫べばレイナルドさんと騎士団が反応する。

「僧侶を守れ! 僧侶はなるべく魔力と体力を温存しろっ、此処で終わりではないからな!」
「はい!」

 そこからは152人のこちらと、1,000に近いゾンビとの乱戦だった。
 俺の周りにはクルトさんとバルドルさん、エニスさん、ウーガさん、ドーガさん。

「はあああああ!」

 クルトさんの魔剣が低い位置から斬り込んでゾンビの動きを阻害、鈍ったそれの首をバルドルさんとエニスさんの剣が片っ端から飛ばしていく。
 そうして動けなくなったら俺が浄化ピュリフィカシオン
 首を斬られても形を保っているゾンビだけど、浄化ピュリフィカシオンされれば一瞬にして灰だ。
 後衛のウーガさんとドーガさんは魔豹ゲパールの背中の上だ。前衛3人に負担が集中しないよう弓矢と魔法で敵を攪乱。
 獄鬼ヘルネル相手に決定打を与えたいと思ったら僧侶が行動するか、圧倒的な強さでねじ伏せるしかない。魔剣を持っていても獄鬼ヘルネル相手ではあまり意味がない。

浄化ピュリフィカシオン!」

 範囲指定で目の前の10体近くを灰にする。
 ボロボロと崩れて消えていく姿に何かを思う余裕なんてなかった。
 鼻だけでなく目も痛くなる悪臭。
 首が飛ぶのも、目玉が落ちるのも、ゾンビが手足を振り回すたび腐った肉片が飛び散るのもしんどいけど、とにかく数が多い。

「一気に浄化してしまいたい……!」
「絶対にダメだからね!」

 今度はクルトさんから声が掛かる。
 しませんよ、しませんけどでも大分しんどいですよコレ!

「ヴァアアアアア!」
「ヴォオオオオ!」

 離れたところからゾンビたちの絶叫が上がる。
 驚いて振り返ったら終焉の炎檻アンフェールフラムが何十体ものゾンビを炎の海に溺れさせていた。ミッシェルさんだ。
 ゲンジャルさんが怒っている声もする。
 ネズミや虫系が嫌いな彼女はゾンビも生理的に受け付けなかったんだろうね。気持ちは判る。

拘禁デティニア!」
拘禁デティニア!」
治癒ソワン!!」

 ヒユナさんや、他の僧侶たちの声もする。

「吹っ飛ばせ!!」
火球フレムバル!」
火槍フレムランス!」

 グランツェさんの合図にはオクティバさんだけでなくドーガさんも応戦する。相乗効果の大爆発に周りのゾンビも吹っ飛んだ。
 ウォーカーさんがヘイトを集めて、ゲンジャルさんとアッシュさんが同じ場所にぶっ飛ばしたゾンビをミッシェルさんの魔法で丸焼き。
 グランツェパーティも、ディゼルさんがヘイトを集めた対象をグランツェさんとモーガンさんが叩き切り、オクティバさんが焼き、ヒユナさんが浄化ピュリフィカシオンする。
 冒険者はキクノ大陸の彼らも同じだったけど、騎士団は違った。
 一列に並んだ盾騎士が足並みを揃えてゾンビを押し返す。
 魔法騎士が盾の向こう側に絶え間なく魔法を打ち込んでいる。
 剣や槍、弓を手にした騎士たちは盾騎士の列からはみ出たゾンビを個別に対処。僧侶は怪我人を見るなり治癒ソワンを飛ばしているけど、統制の取れた戦いを続けていることもあって負傷者はとても少なかった。




 魔力はともかく、精神力をごりごり削られた戦闘は1時間ほどで終結した。
 形としては獄鬼ヘルネルから辺境の街を取り返したことになるのだろうけど生存者はゼロ。家屋はすっかり廃墟と化していてお化け屋敷の様相を呈しているし、土地に染み付いた死臭はしばらく消えることはないだろう。
 逃げようとしていた獄鬼ヘルネルも、もちろん情報を聞き出した上で処断済み。
 今回も獄鬼ヘルネル除けが拷問アイテムとして大活躍だったのだが、……聞き出した情報の通り、このあと更に3つの街で対ゾンビ戦が続いたのだった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

処理中です...