上 下
221 / 335
第7章 呪われた血筋

206.忘れない

しおりを挟む
 翌朝、リーデン様に見送られて神具『住居兼用移動車両』Ex.から野営用テントに戻ったらレイナルドさんの気配を外から感じた。
 なんて声を掛けたら良いのか判らなくて、テントのキッチンでお湯を沸かす。
 これまでの経験上、レイナルドさんは自分で朝食の支度をして食べるタイプではないから朝食を用意すれば多少は話すきっかけになると思ったからだ。
 少し濃いめのコーヒーと。
 トースト。
 目玉焼き。
 カリカリに焼いたベーコン。
 それとサラダ。
 お盆の上にそれらを並べて持ったらテントを出た。
 恐らく魔力感知で自分が此処にいることは既にバレているだろうから、深呼吸一つ、普通を装った。

「おはようございます」

 声を掛けたら、レイナルドさんも普通にこちらを見る。

「おう。おはよう」
「……朝ごはん作ったんですけど、食べれますか?」
「ああ、もちろん。……って、おまえの分は?」
「俺はリーデン様と食べてきました」

 正確にはきちんと食べるか見張られていたと言えなくもない状況だったのだけど、昨夜から心配を掛けているという自覚はあるので素直にしている。

「そうか」

 そう言って焚き火に視線を戻すレイナルドさんの前にお盆に乗せた朝食を差し出す。

「テーブルを出すので少し持っていてください」
「ああ」

 一度テントに戻ってアウトドア用の折り畳みテーブルを持ち出し、それをレイナルドの傍に広げる。
 レイナルドさんは「ありがとな」と笑った。
 それからしばらくは、レイナルドさんが大きな口を開けて黙々と食べるのを見ていた。
 普段と変わりなく見えるけど目の下には薄っすらと隈が見えるし顔色も……うーん、そこまで悪くはないか。寝不足と、少なからず空元気っぽい態度が気になるけど、状況を考えれば当然と言えなくもない。

「……今日の飯も美味い」

 ふとレイナルドさんが言う。

「ありがとう」
「いえ、……お礼はさっきも言ってもらいました」
「そうだったか」
「そうですよ」

 言い合う内に何とも言えない気持ちが湧き起こって、苦く笑ったら、レイナルドさんの顔にも笑みが浮かんだ。
 何を言ったら良いのか判んないのはたぶんお互い様で、でも互いに話があるのを知っているのに切り出せないんだからもう笑うしかない。
 結局、先に覚悟を決めたのはレイナルドさんだった。

「飯だけじゃなくてさ。……シューのこと、ずっと気にしてくれていただろ」
「っ……」
「あいつ……あいつも昨夜遅くに森に還ったよ」

 言って、レイナルドさんは微笑む。

「レンがくれた通信の魔導具のおかげで最期も寂しくはなかったと思う。あれを開発してくれたこと。俺に預けてくれたこと。……シューに渡しに行けって背中押してくれことも、感謝している。ありがとう」

 三度目の感謝の言葉が俺の涙腺を決壊させた。
 ありがとう、なんて。
 そうじゃないよ。

「お、俺……、そうなったら、レイナルドさんをトゥルヌソルまで……」
「ああ。おまえが何を考えていたかは判ってたけどさ。俺たちは、これで良かったんだ」
「……っ」

 レイナルドさんの声にリーデン様の声が重なって聴こえた。
 二人が助けを求めるのでなければ俺は何も知らないままでいることこそが彼らにとっては重要で、各大陸のダンジョンをクリアした先達たちが手に入れた魔導具の設計図を基に、木ノ下蓮という個人の閃きと、師匠や、クルトさんらこの世界の仲間たちが試行錯誤して完成させた通信具だからこそ最後の瞬間に二人を繋げることが出来たんだ、って。

「俺は役に立てましたか……?」

 情けなくも涙声で聞いた俺にレイナルドさんは笑った。

「おまえのおかげで今朝も美味い飯が食えたし、俺は俺のやるべきことのために行動できる。今日は忙しいぞ。まずは騎士団と合流して、次はキクノ大陸の上陸組だ」

 しかも数日後には海から攻め込んでくるギァリッグ大陸の軍がマーヘ大陸に上陸出来るよう、俺たちが陸から援護しないとならない。
 ギァリッグ大陸からマーへ大陸へ、白金級プラティヌダンジョンの攻略を支援するために来ている30人の騎士を救出するという任務もある。
 問題の白金級プラティヌダンジョンは、実は此処から近い。
 もしレイナルドさんたちがそこに入れる白金級プラティヌの冒険者ライセンスを持っていれば少数精鋭で救出に向かうことも出来ただろうけど、残念ながらプラーントゥ大陸から来ているメンバーは全員が金級だ。
 俺たちなんて特例だしね。

「メッセンジャーで遣り取りして合流地点もほぼ決まった。準備が済み次第出発したいんだが、行けそうか?」
「行けますっ。もちろんです!」
「ははっ。上等」

 ぽふりと頭に置かれた大きな手。

「……全部終わったら、森人族エルフの森に花でも持ってあいつを探しに行ってくるよ」
「え」
「おまえが渡してくれた通信の魔導具。絶対に離すなって言ってあるんだ……たぶん見つけられると思う。あいつの姿が変わっていても」
「……!」

 驚いて目を丸くする俺と、ニヤリって笑うレイナルドさん。
 俄かには信じ難い話だったけどたぶんレイナルドさんには出来るんだと思う。

「ってわけで、さっさとマーヘ大陸を制覇するぞ」
「はい!」

 そうと決まれば俺が落ち込んでいるわけにはいかない。
 全力でやれることをやって、一刻も早く彼をトゥルヌソルに帰すんだ。

「俺は回復魔法は使えないから、何か良い方法があるなら出発前に目を何とかしろよ。そのままだと泣いたのがバレるぞ」
「えっ」

 それはヤダな!
 自分に僧侶の回復魔法は効果無いから、いま手持ちにあるアイテムをいろいろと思い出す。腫れを引かせる塗り薬、あれならどうだろう。
 そんなことを考えている内に、レイナルドさんは朝ごはんを完食した食器をテントの中に戻して、再び外に出てきた時には普段と変わらない様子だったから、俺も気持ちを切り替えた。
 神具『野営用テント』を片付けて、魔豹ゲパールのユキ、ツキ、ハナを呼び出す。
 まず目指すはアッシュさんと騎士団の人たちとの合流である。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

処理中です...