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第6章 変遷する世界
193.大陸奪還戦(9)※戦闘有り
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うっかり広範囲を浄化しかけるも魔豹とレイナルドさんに止められて町の半分くらいを覆う光の柱を立てるだけで済んだが、効果が抑えられたかと言うとそうでもない。
むしろ広範囲に広がるはずだった神力が狭い範囲に凝縮されることになったらしく、僧侶の魔法効果がおかしなことになってしまった。
具体的には治癒の効果が5倍増しである。
「ほとんど魔力を使わずに重傷と判断される傷が癒せるなんておかしいわ……」
俺とヒユナさんをその場に残し、騎士団のひとたちが次々と怪我人を運んで来るのだけど、ヒユナさんが呆然と呟く内容には俺自身も納得で、たぶん此処で治療行為をしていたら無限に続けられる気がする。それくらい疲労も消費も感じないのだ。
逆を言えば、おかげで瀕死の重傷者も容易に回復させることが出来たので決して悪いことではないと思うけど、今後の影響を考えると手放しで喜べない。
「町の南東200、集会場っぽい建物にたくさんの魔力反応有り」
「北側制圧完了!」
「東、橋の下に隠れている獄鬼を発見しました。騎士団第6班はこれより戦闘を開始します」
「東側にいる者は橋へ急行、獄鬼との戦闘開始」
メッセンジャーが飛び交い戦況を逐一報告して来る。
獄鬼と聞くと俺も駆け付けたくなるが、さっきの柱の影響で町中の獄鬼は軒並み弱っていると聞くし、うろちょろして獄鬼以外の敵に捕まると迷惑を掛けてしまうのはさすがに想像がつく。
せめて役に立とうと気配感知スキルを発動したら、それもさっきの光りの柱の影響か精度が上がっており、物陰に隠れている獄鬼の弱り具合まで判別がつく。
「獄鬼が残り7人……」
メッセンジャーの魔石を取り出し、レイナルドさん、バルドルさん、クルトさんに3・2・2で所在を託す。
「獄鬼が三人、町の西側から逃げます」
「獄鬼が東にもう一人。橋の奥側、地下です」
「弱り切っている獄鬼が北側の細道に一人、外に逃げようとしているのが一人います」
あとはそれぞれが分担して対応してくれるはずだ。
獄鬼でない敵もこうやって判れば間違いないのだが、さすがにそこまで都合よくはいかない。
「どうか誰も怪我をしませんように……」
そう祈るのが精いっぱいだ。
神力で巨大化した魔豹達も、いまは通常……といってもダンジョン内の同種より大きいが、普段のサイズに戻って周辺の警戒に当たっている。
集会場と思しき建物から村人100余名を救助。
獄鬼を討滅完了。
家屋の地下から子供を保護――次々と飛んで来る知らせに了解を知らせ、更に情報を拡散し、一先ずは落ち着いただろうという判断がされたのは奪還作戦を開始してから約3時間後だった。
その後はヒユナさん、俺、騎士団の救護メンバーが協力して煮炊きの準備をし、大きな鍋でスープを作る。
神具『野営用テント』で保管していた米とパンを提供し、しばらくまともな食事を摂っていない人も多いはずなので米は回復効果のある薬草も刻んで混ぜ、栄養価を高めた雑炊にした。
人質というよりも奴隷同然の扱いを受けていた人も多い町の住民達は一様に暗い顔をしていたが、例の神力の柱が立った範囲に入ってしばらくするとだんだんと強張りが解けていき、雑炊の匂いに堪らず腹の虫を鳴かせた子どもが恥ずかしそうに俯くと、それが切っ掛けだったように食事を受け付け始めた。
「おいし……美味しいなぁ……」
そう言って泣き出す人がたくさんいた。
姿の見えない家族を求めて泣き出す子どももいた。
レイナルドさんや、騎士団の班二つ分のメンバーが戻って来ないのは想像していたより多い遺体の確認が終わっていないからで。
被害ゼロが無理なのは判っていた。
それでも。
「悔しいなぁ……」
「がう……」
撫でたユキの柔らかな毛並みが、温かかった。
むしろ広範囲に広がるはずだった神力が狭い範囲に凝縮されることになったらしく、僧侶の魔法効果がおかしなことになってしまった。
具体的には治癒の効果が5倍増しである。
「ほとんど魔力を使わずに重傷と判断される傷が癒せるなんておかしいわ……」
俺とヒユナさんをその場に残し、騎士団のひとたちが次々と怪我人を運んで来るのだけど、ヒユナさんが呆然と呟く内容には俺自身も納得で、たぶん此処で治療行為をしていたら無限に続けられる気がする。それくらい疲労も消費も感じないのだ。
逆を言えば、おかげで瀕死の重傷者も容易に回復させることが出来たので決して悪いことではないと思うけど、今後の影響を考えると手放しで喜べない。
「町の南東200、集会場っぽい建物にたくさんの魔力反応有り」
「北側制圧完了!」
「東、橋の下に隠れている獄鬼を発見しました。騎士団第6班はこれより戦闘を開始します」
「東側にいる者は橋へ急行、獄鬼との戦闘開始」
メッセンジャーが飛び交い戦況を逐一報告して来る。
獄鬼と聞くと俺も駆け付けたくなるが、さっきの柱の影響で町中の獄鬼は軒並み弱っていると聞くし、うろちょろして獄鬼以外の敵に捕まると迷惑を掛けてしまうのはさすがに想像がつく。
せめて役に立とうと気配感知スキルを発動したら、それもさっきの光りの柱の影響か精度が上がっており、物陰に隠れている獄鬼の弱り具合まで判別がつく。
「獄鬼が残り7人……」
メッセンジャーの魔石を取り出し、レイナルドさん、バルドルさん、クルトさんに3・2・2で所在を託す。
「獄鬼が三人、町の西側から逃げます」
「獄鬼が東にもう一人。橋の奥側、地下です」
「弱り切っている獄鬼が北側の細道に一人、外に逃げようとしているのが一人います」
あとはそれぞれが分担して対応してくれるはずだ。
獄鬼でない敵もこうやって判れば間違いないのだが、さすがにそこまで都合よくはいかない。
「どうか誰も怪我をしませんように……」
そう祈るのが精いっぱいだ。
神力で巨大化した魔豹達も、いまは通常……といってもダンジョン内の同種より大きいが、普段のサイズに戻って周辺の警戒に当たっている。
集会場と思しき建物から村人100余名を救助。
獄鬼を討滅完了。
家屋の地下から子供を保護――次々と飛んで来る知らせに了解を知らせ、更に情報を拡散し、一先ずは落ち着いただろうという判断がされたのは奪還作戦を開始してから約3時間後だった。
その後はヒユナさん、俺、騎士団の救護メンバーが協力して煮炊きの準備をし、大きな鍋でスープを作る。
神具『野営用テント』で保管していた米とパンを提供し、しばらくまともな食事を摂っていない人も多いはずなので米は回復効果のある薬草も刻んで混ぜ、栄養価を高めた雑炊にした。
人質というよりも奴隷同然の扱いを受けていた人も多い町の住民達は一様に暗い顔をしていたが、例の神力の柱が立った範囲に入ってしばらくするとだんだんと強張りが解けていき、雑炊の匂いに堪らず腹の虫を鳴かせた子どもが恥ずかしそうに俯くと、それが切っ掛けだったように食事を受け付け始めた。
「おいし……美味しいなぁ……」
そう言って泣き出す人がたくさんいた。
姿の見えない家族を求めて泣き出す子どももいた。
レイナルドさんや、騎士団の班二つ分のメンバーが戻って来ないのは想像していたより多い遺体の確認が終わっていないからで。
被害ゼロが無理なのは判っていた。
それでも。
「悔しいなぁ……」
「がう……」
撫でたユキの柔らかな毛並みが、温かかった。
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