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第6章 変遷する世界
175.特例の意味
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金級以上の冒険者は世界中のどの大陸でも貴族相当の身分が保証されると同時、所属する国が戦力を必要とし招集命令を出した際にはこれに応じる義務が発生する。
大臣さんは、その義務を発生させるために俺たちを特例で昇級させると言ったんだ。
「待っ……て、ください。俺たちはまだ、そんな」
「君達の実力は金級ダンジョンでも充分に通用すると金級の彼らが保証してくれたが」
言われ、ぎょっとして隣を向くとレイナルドパーティ、グランツェパーティがすました顔で座っている。
けど、バルドルさんは顔を引き攣らせ、他のメンバーは顔を見合わせて動揺中。
「……俺たちは、そんな特例を使って頂かなくても参戦するつもりです」
「ああ、それも聞いている。だからこそ特例を使ってでも金級にすべきだと判断した」
意味が解らない。
だが、多くの冒険者が金級をゴールにしているように金色のネームタグに名前を刻まれることは大きな意味を持つ。身分の保証はもちろんのこと、金級ダンジョンに挑戦出来る権利。それゆえにあらゆる場面で厚遇される。
「もしこれから行くのがマーヘ大陸でなければ。インセクツ大陸が関わって来ないのであれば、君たちの意志を尊重し銀級のまま送り出す事も出来ただろう」
だが実際に関わるのはその二大陸で、身の安全を考えるなら個々が金級の冒険者だという証は強みになる。
プラーントゥ大陸所属の者だと前面に押し出すことで他大陸の人たちが自分達を見下したり、引き抜こうとする連中も目立った真似はしてこなくなる。
「ですが……下に見られるのはともかく、引き抜きなんて。レンならともかく」
「ふむ」
特例による昇級を固辞したいバルドルさんに、大臣さんは少し面白がるような顔をして、続ける。
「ところで君は、自分達が銀級ダンジョン『ソワサント』で最下層のボス相当の魔物を何匹討伐したか知っているかい?」
銀級の皆で顔を見合わせた。
ギルドでタグを照合したら個人、またはパーティで斃した魔物の数が正確に表示されるのはロテュスの不思議の一つだが、今回は帝国から貢献度に応じた褒賞が与えられる関係で討滅戦に参加した冒険者全員の成果を確認すべく回収した魔石を一つ一つ鑑定したと聞いている。
この鑑定も特殊スキルの一つだが、以前の俺が持っていてスキル『鑑定』によく似ていて、でも調べられる範囲は個々で異なるし、持っていれば城勤め確実って言われるくらい稀少なものだそうだ。
つまり何が言いたいかって言うと、回収した1万個近い魔石をスキル持ちの文官さん達がひたすら鑑定して、その魔物に主にダメージを与えたとして表示されている名前を確認していった結果――。
「全員での合計になるが、バルドルパーティは42階層で128。43階層で87。44階層では209。合計で424頭の魔物を討ち取っていた」
「おぉっ……」
まじかって思わず声を上げてしまったのは俺達だけじゃない。
聞いていた船のスタッフ達もだ。
討滅戦には白金級冒険者5名、金級冒険者34名、銀級冒険者111名、それからギァリッグ大陸からオセアン大陸に国際会議のため出席している重鎮の護衛のため同行していた白金級冒険者10名が参加していた。始まる前、直後に恐怖からリタイアした銀級冒険者もいたことを考えると、バルドルパーティ4人でその戦績は間違いなく素晴らしい数字だ。
「それ、は……レンと、クルトもいたからで」
「承知しているよ。いずれはレイナルドパーティに合流する予定だということもね」
バルドルさんが押し黙り、エニスさんに「頼む」と言いたげな視線を向ける。
エニスさんは肩を竦めた。
「それ、マーヘ大陸から行って戻って来るまでの期間限定はアリですか?」
「おいエニス」
「おまえがきちんとした手順を踏みたいのは判るが、マーヘ大陸やインセクツ大陸と関わるなら金級のタグを持っているかどうかで精神的な負担が全然違うと思うぞ。この間の……トゥルヌソルの銅級ダンジョンで遭遇した連中とだって顔を合わせないとは限らないし、ああいう連中はそれこそうじゃうじゃいるんだから」
あー……て俺が思うんだからバルドルさんが思い出さないはずがない。
何とも言えない顔になって天井を仰ぐ。
「な? だったら期間限定で金にしてもらって、終わってから銀に戻してもらえばいい」
「……おまえ、金級の味をしめた後に銀級に戻る気になると思うか?」
「知るか、俺はありがたく特例の恩恵にあやかるぞ」
「は⁈」
「俺も俺も~」
「ってことは期間限定はバルドルだけだ」
「はぁっ⁈」
皆の前で遠慮のない言い合いを始めたバルドルパーティを何とも言えない気持ちで眺めていたら、レイナルドさんから声を掛けられる。
「おまえらも特例扱いになるんだが意見はないのか?」
「それは……ズルするみたいで嫌ですけど、自分に狙われる理由があるのは自覚していますし……金級の肩書が自分の身を守る盾の一つになるなら受け入れます。金級になったら銀級ダンジョンに挑めないってことはないですし」
「なるほど、賢明な判断だ。クルトもいいか?」
「はい。マーヘやインセクツが相手なら自分にも盾が必要です」
「よし」
そんな感じに俺とクルトさんも特例を受け入れたので、最後まで唸っていたバルドルさんも最終的には諦めたっぽい。
その真面目なところ、俺は好きですよ。
頑張ろ!
大臣さんは、その義務を発生させるために俺たちを特例で昇級させると言ったんだ。
「待っ……て、ください。俺たちはまだ、そんな」
「君達の実力は金級ダンジョンでも充分に通用すると金級の彼らが保証してくれたが」
言われ、ぎょっとして隣を向くとレイナルドパーティ、グランツェパーティがすました顔で座っている。
けど、バルドルさんは顔を引き攣らせ、他のメンバーは顔を見合わせて動揺中。
「……俺たちは、そんな特例を使って頂かなくても参戦するつもりです」
「ああ、それも聞いている。だからこそ特例を使ってでも金級にすべきだと判断した」
意味が解らない。
だが、多くの冒険者が金級をゴールにしているように金色のネームタグに名前を刻まれることは大きな意味を持つ。身分の保証はもちろんのこと、金級ダンジョンに挑戦出来る権利。それゆえにあらゆる場面で厚遇される。
「もしこれから行くのがマーヘ大陸でなければ。インセクツ大陸が関わって来ないのであれば、君たちの意志を尊重し銀級のまま送り出す事も出来ただろう」
だが実際に関わるのはその二大陸で、身の安全を考えるなら個々が金級の冒険者だという証は強みになる。
プラーントゥ大陸所属の者だと前面に押し出すことで他大陸の人たちが自分達を見下したり、引き抜こうとする連中も目立った真似はしてこなくなる。
「ですが……下に見られるのはともかく、引き抜きなんて。レンならともかく」
「ふむ」
特例による昇級を固辞したいバルドルさんに、大臣さんは少し面白がるような顔をして、続ける。
「ところで君は、自分達が銀級ダンジョン『ソワサント』で最下層のボス相当の魔物を何匹討伐したか知っているかい?」
銀級の皆で顔を見合わせた。
ギルドでタグを照合したら個人、またはパーティで斃した魔物の数が正確に表示されるのはロテュスの不思議の一つだが、今回は帝国から貢献度に応じた褒賞が与えられる関係で討滅戦に参加した冒険者全員の成果を確認すべく回収した魔石を一つ一つ鑑定したと聞いている。
この鑑定も特殊スキルの一つだが、以前の俺が持っていてスキル『鑑定』によく似ていて、でも調べられる範囲は個々で異なるし、持っていれば城勤め確実って言われるくらい稀少なものだそうだ。
つまり何が言いたいかって言うと、回収した1万個近い魔石をスキル持ちの文官さん達がひたすら鑑定して、その魔物に主にダメージを与えたとして表示されている名前を確認していった結果――。
「全員での合計になるが、バルドルパーティは42階層で128。43階層で87。44階層では209。合計で424頭の魔物を討ち取っていた」
「おぉっ……」
まじかって思わず声を上げてしまったのは俺達だけじゃない。
聞いていた船のスタッフ達もだ。
討滅戦には白金級冒険者5名、金級冒険者34名、銀級冒険者111名、それからギァリッグ大陸からオセアン大陸に国際会議のため出席している重鎮の護衛のため同行していた白金級冒険者10名が参加していた。始まる前、直後に恐怖からリタイアした銀級冒険者もいたことを考えると、バルドルパーティ4人でその戦績は間違いなく素晴らしい数字だ。
「それ、は……レンと、クルトもいたからで」
「承知しているよ。いずれはレイナルドパーティに合流する予定だということもね」
バルドルさんが押し黙り、エニスさんに「頼む」と言いたげな視線を向ける。
エニスさんは肩を竦めた。
「それ、マーヘ大陸から行って戻って来るまでの期間限定はアリですか?」
「おいエニス」
「おまえがきちんとした手順を踏みたいのは判るが、マーヘ大陸やインセクツ大陸と関わるなら金級のタグを持っているかどうかで精神的な負担が全然違うと思うぞ。この間の……トゥルヌソルの銅級ダンジョンで遭遇した連中とだって顔を合わせないとは限らないし、ああいう連中はそれこそうじゃうじゃいるんだから」
あー……て俺が思うんだからバルドルさんが思い出さないはずがない。
何とも言えない顔になって天井を仰ぐ。
「な? だったら期間限定で金にしてもらって、終わってから銀に戻してもらえばいい」
「……おまえ、金級の味をしめた後に銀級に戻る気になると思うか?」
「知るか、俺はありがたく特例の恩恵にあやかるぞ」
「は⁈」
「俺も俺も~」
「ってことは期間限定はバルドルだけだ」
「はぁっ⁈」
皆の前で遠慮のない言い合いを始めたバルドルパーティを何とも言えない気持ちで眺めていたら、レイナルドさんから声を掛けられる。
「おまえらも特例扱いになるんだが意見はないのか?」
「それは……ズルするみたいで嫌ですけど、自分に狙われる理由があるのは自覚していますし……金級の肩書が自分の身を守る盾の一つになるなら受け入れます。金級になったら銀級ダンジョンに挑めないってことはないですし」
「なるほど、賢明な判断だ。クルトもいいか?」
「はい。マーヘやインセクツが相手なら自分にも盾が必要です」
「よし」
そんな感じに俺とクルトさんも特例を受け入れたので、最後まで唸っていたバルドルさんも最終的には諦めたっぽい。
その真面目なところ、俺は好きですよ。
頑張ろ!
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