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第6章 変遷する世界
162.連休の過ごし方(1)
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「今日は早かったのだな」
「ダンジョンを踏破し終えてお休みになったので……おかえりなさい」
「ただいま」
言葉と一緒に額に押し当てられたキス。
ダンジョン攻略中とは「ただいま」と「おかえり」が逆だけど最近はすっかり馴染んだやり取りだ。
「ダンジョンを終えたばかりで疲れているだろうに夕飯の支度をしたのか」
「今日はボス戦だけだったから疲れていませんよ。しかも昨日休んでの今日だし、今回のダンジョンではかなり鍛えられたと自負しているので」
「あぁ確かにな」
フッと微笑う表情に、意識し過ぎて心臓が痛い。
うぉ、お、お、お。
「レン?」
「なんでもないですよ⁈」
思わず大きな声で反応してしまったら、リーデン様は目を瞬かせている。そりゃあ驚くよね……!
「大丈夫か?」
「大丈夫です。全然。すみません」
ううっ、ものすごくじぃっと見られている。
しかしこのままだとまた揶揄われるのが明らかなので俺も必死だ。
「今日はさばの味噌煮です。それから筑前煮と、なめたけとほうれん草のおひたしと、味噌汁は玉ねぎとじゃがいもです!」
「魚料理は久々だな」
「レイナルドさん達が魚はあまり食べませんからね」
基本的にリーデン様は食事を必要としなくて、ダンジョンにいる間は俺がみんなの食事係だから夕食は常に外で食べていた。
昼はお弁当もどきの、歩きながら食べられるものでやっぱり外だったし、朝はトースト、卵、サラダに珈琲が定番になってしまっている。
そう考えると和食を作ったこと自体がものすごく久しぶりだ。
「とてもいい匂いがする」
「サバの味噌煮は好きな料理だから、そう言ってもらえると嬉しいです」
「前に食べた時も美味しかった」
「覚えているんですか?」
「当然だ」
「……ちょっと意外です。肉や魚料理はあまり得意じゃないと思っていたので」
「得意……うむ。食べるのが得意か不得意かで選ぶなら後者になるが、レンが作る料理はどれも美味しいと思うぞ」
真顔で告げられて、ちょっと、照れる。
部屋着に着替えるために寝室に移動するリーデン様を見送り、思わずおでこを壁に当てた。
やばい。
平常心と自分自身に言い聞かせても効果がない。
めっちゃ心臓が暴れてる!
こういう場合はどうするのが正解なの⁈
「今日はしますか?」って直で聞くのは絶対に無理。
言葉がダメなら……行動……? 誘う行動ってどんな……え、俺から誘うんじゃないよ、するかしないか確認するだけじゃん!
「レン?」
「はひっ⁈」
「……本当に大丈夫か?」
ものすごく心配しているのがよく判る表情のリーデン様に、呼吸が止まるかと思った。
「りょ、料理が冷めるので食べていいですか……!」
逃げるが勝ちとばかりにそんな台詞で誤魔化したけど、その後の食事なんてほとんど味が判らなかった。せっかくの久しぶりの和食だったのに勿体ない……。
それに、あんなんでリーデン様を誤魔化せるはずもなく。
食後の後片付けのためにキッチンに並んで立っていたら急に耳元で囁かれた。
「そういえば――ダンジョンの攻略が終わったという事はしばらく休みか?」
「っ!」
洗っている最中だった鍋が泡だらけの鍋がシンクに落ちてゴンッと大きな音を立てる。
もうそれだけで彼にはバレバレだ。
「なるほど、それで落ち着きがないのか」
「そ……なんのことだか、さっぱり」
「ほう?」
「ちょ……!」
リーデン様がバックハグするみたいに背後に立ち、俺の手元にあった洗い掛けの鍋や他の食器を手早く片付けていく。
最後にシンクも磨き、普段なら洗い終えたそれを拭いて棚に仕舞うまでが夜の家事だけど、……たぶん今夜は出しっ放しになりそう。
「……で、明日は休みなのか?」
「ゃ、すみ、です」
「いつまで?」
「ぁ……明日から3日間は確定で……場合によっては延長もあるって」
「なるほど、……それでこんなに固くなっているのか」
「っ」
耳の上に口付けられる。
それだけで情けないくらい体が震えたし、この今にも爆発するんじゃないかって思う心臓の音が背中越しにリーデン様にも伝わっているのかと思うと恥ずかし過ぎた。
水仕事を終えたばかりの手を後ろから握られ、耳から頭、おでこ、こめかみ、瞼、鼻……ゆっくりと口付けが下りて来て、口唇に。
軽い音を立てて吸われるようなキス。
「ぁむ……」
薄く開いたリーデン様の唇が、食むように俺のを挟む。
何度も。
……何度も、ただ重ねられ、挟まれ、唾液の一滴すら絡まない触れるだけの行為なのに、それがひどく気持ちいい。
でも、せっかくなら、もっと大人なキスがしたい。
もっと気持ちのいいキスを知っている。
それを教えたのは他でもなく目の前のこの神様だ。
触れ合った機にほんの少しだけ舌の先でリーデン様の唇を舐めた。
リーデン様は少し驚いた顔をしたけど嬉しそうに笑って応えてくれた。
ぎゅって手を握って。
お腹の辺りをぞわぞわさせながら、背中は、熱く。
「……このまま寝台に連れ込みたいのは山々だが、その前に一つ頼みがある」
「たのみ……?」
「ああ」
頷きながら、更にキスを一つ。
「風呂の使い方を教えて欲しい」
「――……はい?」
思い掛けない頼み事に無意識に首が傾いだ。
「風呂って、お風呂ですか? うちにもある?」
「そうだ」
「なんで、ですか?」
洗浄魔法があるためか、今まで一度だって必要としていなかったし、俺が「湯船に浸かっている時の極楽気分」にはまったく共感してくれなかったのに、あまりにも急ではないか。
そう思いつつ答えを待っていると、リーデン様は極まりの悪そうな顔になる。
「……レンの初めてを寝台以外で散らすつもりはない」
「はい?」
「…………、おまえの、一糸纏わぬ姿に慣れる時間が必要だ」
「へ?」
変な声が出た。
「ダンジョンを踏破し終えてお休みになったので……おかえりなさい」
「ただいま」
言葉と一緒に額に押し当てられたキス。
ダンジョン攻略中とは「ただいま」と「おかえり」が逆だけど最近はすっかり馴染んだやり取りだ。
「ダンジョンを終えたばかりで疲れているだろうに夕飯の支度をしたのか」
「今日はボス戦だけだったから疲れていませんよ。しかも昨日休んでの今日だし、今回のダンジョンではかなり鍛えられたと自負しているので」
「あぁ確かにな」
フッと微笑う表情に、意識し過ぎて心臓が痛い。
うぉ、お、お、お。
「レン?」
「なんでもないですよ⁈」
思わず大きな声で反応してしまったら、リーデン様は目を瞬かせている。そりゃあ驚くよね……!
「大丈夫か?」
「大丈夫です。全然。すみません」
ううっ、ものすごくじぃっと見られている。
しかしこのままだとまた揶揄われるのが明らかなので俺も必死だ。
「今日はさばの味噌煮です。それから筑前煮と、なめたけとほうれん草のおひたしと、味噌汁は玉ねぎとじゃがいもです!」
「魚料理は久々だな」
「レイナルドさん達が魚はあまり食べませんからね」
基本的にリーデン様は食事を必要としなくて、ダンジョンにいる間は俺がみんなの食事係だから夕食は常に外で食べていた。
昼はお弁当もどきの、歩きながら食べられるものでやっぱり外だったし、朝はトースト、卵、サラダに珈琲が定番になってしまっている。
そう考えると和食を作ったこと自体がものすごく久しぶりだ。
「とてもいい匂いがする」
「サバの味噌煮は好きな料理だから、そう言ってもらえると嬉しいです」
「前に食べた時も美味しかった」
「覚えているんですか?」
「当然だ」
「……ちょっと意外です。肉や魚料理はあまり得意じゃないと思っていたので」
「得意……うむ。食べるのが得意か不得意かで選ぶなら後者になるが、レンが作る料理はどれも美味しいと思うぞ」
真顔で告げられて、ちょっと、照れる。
部屋着に着替えるために寝室に移動するリーデン様を見送り、思わずおでこを壁に当てた。
やばい。
平常心と自分自身に言い聞かせても効果がない。
めっちゃ心臓が暴れてる!
こういう場合はどうするのが正解なの⁈
「今日はしますか?」って直で聞くのは絶対に無理。
言葉がダメなら……行動……? 誘う行動ってどんな……え、俺から誘うんじゃないよ、するかしないか確認するだけじゃん!
「レン?」
「はひっ⁈」
「……本当に大丈夫か?」
ものすごく心配しているのがよく判る表情のリーデン様に、呼吸が止まるかと思った。
「りょ、料理が冷めるので食べていいですか……!」
逃げるが勝ちとばかりにそんな台詞で誤魔化したけど、その後の食事なんてほとんど味が判らなかった。せっかくの久しぶりの和食だったのに勿体ない……。
それに、あんなんでリーデン様を誤魔化せるはずもなく。
食後の後片付けのためにキッチンに並んで立っていたら急に耳元で囁かれた。
「そういえば――ダンジョンの攻略が終わったという事はしばらく休みか?」
「っ!」
洗っている最中だった鍋が泡だらけの鍋がシンクに落ちてゴンッと大きな音を立てる。
もうそれだけで彼にはバレバレだ。
「なるほど、それで落ち着きがないのか」
「そ……なんのことだか、さっぱり」
「ほう?」
「ちょ……!」
リーデン様がバックハグするみたいに背後に立ち、俺の手元にあった洗い掛けの鍋や他の食器を手早く片付けていく。
最後にシンクも磨き、普段なら洗い終えたそれを拭いて棚に仕舞うまでが夜の家事だけど、……たぶん今夜は出しっ放しになりそう。
「……で、明日は休みなのか?」
「ゃ、すみ、です」
「いつまで?」
「ぁ……明日から3日間は確定で……場合によっては延長もあるって」
「なるほど、……それでこんなに固くなっているのか」
「っ」
耳の上に口付けられる。
それだけで情けないくらい体が震えたし、この今にも爆発するんじゃないかって思う心臓の音が背中越しにリーデン様にも伝わっているのかと思うと恥ずかし過ぎた。
水仕事を終えたばかりの手を後ろから握られ、耳から頭、おでこ、こめかみ、瞼、鼻……ゆっくりと口付けが下りて来て、口唇に。
軽い音を立てて吸われるようなキス。
「ぁむ……」
薄く開いたリーデン様の唇が、食むように俺のを挟む。
何度も。
……何度も、ただ重ねられ、挟まれ、唾液の一滴すら絡まない触れるだけの行為なのに、それがひどく気持ちいい。
でも、せっかくなら、もっと大人なキスがしたい。
もっと気持ちのいいキスを知っている。
それを教えたのは他でもなく目の前のこの神様だ。
触れ合った機にほんの少しだけ舌の先でリーデン様の唇を舐めた。
リーデン様は少し驚いた顔をしたけど嬉しそうに笑って応えてくれた。
ぎゅって手を握って。
お腹の辺りをぞわぞわさせながら、背中は、熱く。
「……このまま寝台に連れ込みたいのは山々だが、その前に一つ頼みがある」
「たのみ……?」
「ああ」
頷きながら、更にキスを一つ。
「風呂の使い方を教えて欲しい」
「――……はい?」
思い掛けない頼み事に無意識に首が傾いだ。
「風呂って、お風呂ですか? うちにもある?」
「そうだ」
「なんで、ですか?」
洗浄魔法があるためか、今まで一度だって必要としていなかったし、俺が「湯船に浸かっている時の極楽気分」にはまったく共感してくれなかったのに、あまりにも急ではないか。
そう思いつつ答えを待っていると、リーデン様は極まりの悪そうな顔になる。
「……レンの初めてを寝台以外で散らすつもりはない」
「はい?」
「…………、おまえの、一糸纏わぬ姿に慣れる時間が必要だ」
「へ?」
変な声が出た。
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