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第6章 変遷する世界
161.ダンジョンを踏破した後は
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銀級ダンジョン『ソワサント』の最下層でボスを斃して外に出た俺たちは、その足で船に戻り海上を帝都に向けて移動した。
その際に諸々の手続きは自分がすると言ってくれたレイナルドさんに甘え、他の皆は一足先に休むことになった。
寝るって意味じゃなく、一先ず明日からは3日間の休日(延長有り)という正真正銘の休日だ。
「さすがに無茶をさせたからな」
レイナルドさんはそう言って「よく頑張った」と頭をわしゃわしゃ撫でて来た。
銀級ダンジョンへの初挑戦は異常事態の連続だったし、ものすごく疲れたのは確かだが、すぐに休みたいという衝動が一番強かったのは42階層で戦闘があった当日の夜で。
それだって神具『野営用テント』……俺の場合は神具『住居兼用移動車両』Ex.でしっかりと体を休める事が出来ていたから、その後は慣れもあったんだろう。
他のパーティに比べればうちのメンバーはみんな顔色が良かったし、良心の呵責と言うか、休憩時間にはつい珈琲やらスープやらを他所に大盤振る舞いしてしまったくらいだ。
とはいえ――。
「ダンジョン明けは連休を取るのがうちのやり方だ。今回は想定外も多かったから明日から3日間の休息は決定。今後の予定については国際会議の結果を確認してから決めることになるが……場合によってはもう数日延長するかもな」
「延長? 短縮ではなく?」
「特に問題がないならおまえ達はこの船でキクノ大陸かギァリッグ大陸に移動……もしくはオセアン大陸の銅級ダンジョン、別の銀級ダンジョンを攻略する事になるだろうから、それはおまえ達で決めればいい」
でももし国際会議で問題が起きていて、マーヘ大陸と一触即発なんて事態になっていたとしたら、状況を慎重に見極める必要が出て来るから帝都で足止めだと彼は説明してくれた。
「何ともないならそれに越したことはない……だが、楽観視は出来ん」
「はい……」
それは判る。
だって誰もマーヘ大陸の、というよりも獄鬼相手に話しが通じるとは思っていないし、獄鬼側ってマトモに相手をするつもりがないのはこれまでの少ない経験からでさえ判ってしまう。
結果として次にどう動くべきなのかを軽率に決められないと言われれば理解するしかない。
「そう難しい顔をするな。まずはゆっくり休んで、話しはそれからだ」
ぽんと今度は背中を叩かれて、俺は神具『住居兼用移動車両』Ex.に移動した。
「ただいまです」
神具『住居兼用移動車両』Ex.の玄関扉を閉めて声を掛けるも、中から返事はなかった。
あれ? と思いつつ室内を覗いて、窓から差し込む陽射しの眩しさにまだ昼過ぎなのだと気付かされた。レイナルドさんも帝都につくまでの数時間は休めるんだろうと考えて、少し安心した。
手洗いうがいをして、リビングのソファに座る。
「……はぁ」
思わず零れた深い吐息に押されるようにソファに身体が沈んでいく。
全然大丈夫だと思っていたが、やはり疲労が溜まっていたのかもしれない。
「3日間のお休みだって」
口にすると実感する。
そう、お休みなのだ。
しかも明日から3日間なので、今日は別。既に休息に入っている今この瞬間がとても特別な時間に思えて来た。
「ぼぉっとしているのは勿体ないけど、何しようかな。夕飯……あ、結局ダンジョンでは魚を食べられなかったから今夜は魚にしよう。焼きか、煮るか……」
寿司、刺身もいいけどリーデン様が馴染み難いようなので我慢。
「よし、今日は味噌煮だ」
すぐにスキル『通販』を起動すると、壁に掛かったテレビの電源が入り商品一覧が表示される。
一番上には買い物かごのアイコン。
購入履歴。
お気に入り。
それから所持金額。
桁がとんでもないことになっているが今回の討滅戦の報酬で更に増える事が確定しているので今は見ない事にする。
その下にはカテゴリー一覧だ。
ファッション、インナー、小物、食品・スイーツ、ドリンク・お酒、インテリア・家具、日用雑貨・キッチン用品、本、趣味、家電、その他。
「……これ、あんまり真剣に見た事なかったな」
このスキルで購入したものは絶対に神具『住居兼用移動車両』Ex.の外には持ち出せないし、ロテュスで稼いだお金はロテュスで使った方がいいと思うから近頃は利用頻度が減っていた。
それこそ魚が食べたい時くらいしか使っていない。
「へー……あ、お寿司の折り詰めがある! えっ、これ食べたい、まぐろ! サーモン! わっ、ウニー!」
鮮魚!
生!
いやいやリーデン様に見せるのは気の毒だし……あ、明日のお昼ご飯はきっと一人だし贅沢しちゃう?
「そうだそうだ、明日買おう。あ、魚肉ソーセージとか懐かしい……」
リモコンで上下左右に画面に動かしながら商品の画像を眺めるっていう行為がものすごく懐かしい。いや、もう懐かしいを通り越して新鮮な気分になる。
地球では当たり前だったことがすっかり遠い記憶になっているっぽい。
「服も外に着ていけないなら必要ないし……あ、でもリーデン様の部屋着を新調するのはアリだな」
ファッションはファッションで、またカテゴリー一覧があって、トップスやボトムス、ジャケット、下着、靴下……。
「そういえば下着……」
神様ってそれをどうしているのかな、とふと疑問に思った瞬間、息が止まった。
あれ?
3日間の休み……え?
カレンダーに目をやると、2月の5日という日付。こちらの成人にあたる15歳の誕生日まではまだ2週間もあるが、中身がとっくに成人しているんだから関係ないと告白の前倒しをしたのは他でもない自分である。
「……っ」
顔が熱い。
もしかして、もしかするんだろうか……?
***
読んで頂きありがとうございます。
1週間くらい3日間のお休み編です、まったり続きます。
その際に諸々の手続きは自分がすると言ってくれたレイナルドさんに甘え、他の皆は一足先に休むことになった。
寝るって意味じゃなく、一先ず明日からは3日間の休日(延長有り)という正真正銘の休日だ。
「さすがに無茶をさせたからな」
レイナルドさんはそう言って「よく頑張った」と頭をわしゃわしゃ撫でて来た。
銀級ダンジョンへの初挑戦は異常事態の連続だったし、ものすごく疲れたのは確かだが、すぐに休みたいという衝動が一番強かったのは42階層で戦闘があった当日の夜で。
それだって神具『野営用テント』……俺の場合は神具『住居兼用移動車両』Ex.でしっかりと体を休める事が出来ていたから、その後は慣れもあったんだろう。
他のパーティに比べればうちのメンバーはみんな顔色が良かったし、良心の呵責と言うか、休憩時間にはつい珈琲やらスープやらを他所に大盤振る舞いしてしまったくらいだ。
とはいえ――。
「ダンジョン明けは連休を取るのがうちのやり方だ。今回は想定外も多かったから明日から3日間の休息は決定。今後の予定については国際会議の結果を確認してから決めることになるが……場合によってはもう数日延長するかもな」
「延長? 短縮ではなく?」
「特に問題がないならおまえ達はこの船でキクノ大陸かギァリッグ大陸に移動……もしくはオセアン大陸の銅級ダンジョン、別の銀級ダンジョンを攻略する事になるだろうから、それはおまえ達で決めればいい」
でももし国際会議で問題が起きていて、マーヘ大陸と一触即発なんて事態になっていたとしたら、状況を慎重に見極める必要が出て来るから帝都で足止めだと彼は説明してくれた。
「何ともないならそれに越したことはない……だが、楽観視は出来ん」
「はい……」
それは判る。
だって誰もマーヘ大陸の、というよりも獄鬼相手に話しが通じるとは思っていないし、獄鬼側ってマトモに相手をするつもりがないのはこれまでの少ない経験からでさえ判ってしまう。
結果として次にどう動くべきなのかを軽率に決められないと言われれば理解するしかない。
「そう難しい顔をするな。まずはゆっくり休んで、話しはそれからだ」
ぽんと今度は背中を叩かれて、俺は神具『住居兼用移動車両』Ex.に移動した。
「ただいまです」
神具『住居兼用移動車両』Ex.の玄関扉を閉めて声を掛けるも、中から返事はなかった。
あれ? と思いつつ室内を覗いて、窓から差し込む陽射しの眩しさにまだ昼過ぎなのだと気付かされた。レイナルドさんも帝都につくまでの数時間は休めるんだろうと考えて、少し安心した。
手洗いうがいをして、リビングのソファに座る。
「……はぁ」
思わず零れた深い吐息に押されるようにソファに身体が沈んでいく。
全然大丈夫だと思っていたが、やはり疲労が溜まっていたのかもしれない。
「3日間のお休みだって」
口にすると実感する。
そう、お休みなのだ。
しかも明日から3日間なので、今日は別。既に休息に入っている今この瞬間がとても特別な時間に思えて来た。
「ぼぉっとしているのは勿体ないけど、何しようかな。夕飯……あ、結局ダンジョンでは魚を食べられなかったから今夜は魚にしよう。焼きか、煮るか……」
寿司、刺身もいいけどリーデン様が馴染み難いようなので我慢。
「よし、今日は味噌煮だ」
すぐにスキル『通販』を起動すると、壁に掛かったテレビの電源が入り商品一覧が表示される。
一番上には買い物かごのアイコン。
購入履歴。
お気に入り。
それから所持金額。
桁がとんでもないことになっているが今回の討滅戦の報酬で更に増える事が確定しているので今は見ない事にする。
その下にはカテゴリー一覧だ。
ファッション、インナー、小物、食品・スイーツ、ドリンク・お酒、インテリア・家具、日用雑貨・キッチン用品、本、趣味、家電、その他。
「……これ、あんまり真剣に見た事なかったな」
このスキルで購入したものは絶対に神具『住居兼用移動車両』Ex.の外には持ち出せないし、ロテュスで稼いだお金はロテュスで使った方がいいと思うから近頃は利用頻度が減っていた。
それこそ魚が食べたい時くらいしか使っていない。
「へー……あ、お寿司の折り詰めがある! えっ、これ食べたい、まぐろ! サーモン! わっ、ウニー!」
鮮魚!
生!
いやいやリーデン様に見せるのは気の毒だし……あ、明日のお昼ご飯はきっと一人だし贅沢しちゃう?
「そうだそうだ、明日買おう。あ、魚肉ソーセージとか懐かしい……」
リモコンで上下左右に画面に動かしながら商品の画像を眺めるっていう行為がものすごく懐かしい。いや、もう懐かしいを通り越して新鮮な気分になる。
地球では当たり前だったことがすっかり遠い記憶になっているっぽい。
「服も外に着ていけないなら必要ないし……あ、でもリーデン様の部屋着を新調するのはアリだな」
ファッションはファッションで、またカテゴリー一覧があって、トップスやボトムス、ジャケット、下着、靴下……。
「そういえば下着……」
神様ってそれをどうしているのかな、とふと疑問に思った瞬間、息が止まった。
あれ?
3日間の休み……え?
カレンダーに目をやると、2月の5日という日付。こちらの成人にあたる15歳の誕生日まではまだ2週間もあるが、中身がとっくに成人しているんだから関係ないと告白の前倒しをしたのは他でもない自分である。
「……っ」
顔が熱い。
もしかして、もしかするんだろうか……?
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読んで頂きありがとうございます。
1週間くらい3日間のお休み編です、まったり続きます。
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