生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら

文字の大きさ
上 下
173 / 335
第6章 変遷する世界

159.魔物の氾濫(6)

しおりを挟む
 後半戦――同時に相対する魔物の群れを出来るだけ少なくしたいのは誰もが一緒で、しかも一つの階層を端から端まで何事もなく歩いたって半日以上は掛かるのが一般的だ。前半戦では安全を考慮して41階層に留まっていた面々も今度は同行し、しっかり休んでの翌日、早朝。
 最初に仕掛けたのは砂浜と海だ。
 頑丈な盾になる蟹ことルクバブクリエを、冒険者達の火魔法と、昨日の内に仲間にした赤いアライグマラトンラヴルの火魔法で次々と魔石にし、俺や魔法使いたちの魔力で改めて顕現してもらったら、その子らに飛ぶノコギリザメことフレッシーの盾になってもらってそちらを殲滅。
 海側がある程度落ち着いたところで、ルクバブクリエと赤いアライグマラトンラヴルを数頭と冒険者の一部にそこを任せて更に奥へ進んだ。
 第43階層への入り口を擁する深い森が進路上に現れる頃には昼を過ぎており、警戒態勢を解くことなく最後の休息を取った。

「最終確認だ。まずは魔法使い12名で森全域を火魔法で燃やす」

 過激な作戦はダンジョン内の環境が数日で元に戻ると判っているから取れる内容だ。
 魔法使いは金級のミッシェルさんやオクティバさん、銀級のドーガさんをはじめ白金級の人もいてかなりの火力が期待出来る。
 その効果は、森そのものだけでなく、群れの確認がされているところだと毒の霧を吐きながら根をタコの足みたいにくねくねさせて移動する赤い薔薇プワズンローズなど、火に弱い植物系の魔物も含め灰塵と化すだろう。

「視界が開けたらゲパールとラトンラヴルを先行させ生き延びた魔物を順次殲滅。今日は魔石を集める必要はないがムルトルグノンの機動力はファシェヴィザージュに有効だ。余裕があるなら顕現させるのはアリだと思う」

 ファシェヴィザージュは巨大な顔から4つ足が生えている魔物だと説明されたが、たぶん怒った顔が描いてある巨大な土色の岩から4つ足が生えているのをイメージすると耐久値的にも正しい気がする。
 咆哮が精神を汚染してきたりするため注意が必要で、耳栓をして戦う冒険者も多いそうだ。
 それともう1種。
 森にいることが確認されている群れはブロンルナールと呼ばれる真っ白いキツネに似た魔物で、擬態なのか、姿を消すのかはよく判っていないのだが、いきなり目の前に現れて噛みついて来るそうで気配感知を常に発動しておかなければ接近に気付かないまま致命傷を負わされる危険があるという。

「レンは、必ずゲパール3頭と行動しろ。絶対に離れるな」
「はい」
「森の中は群れの数も確認し難い。事前報告ではファシェヴィザージュ、プワズンローズ、ムルトルグノン、ブロンルナールの4種が確認されているが、そもそも森の中ってのは魔物が多く住み着いている場所だ。最初の火魔法で森ごと打撃を与えるとは言え何が出て来るか判らん。くれぐれも油断するな。何かあれば……レンも、セルリーも、奥の手を使え」
「了解」

 師匠セルリーとヒユナさんはあくまで僧侶としての同行で、なるべく後方に控えることになるが危険がないわけじゃない。
 師匠セルリーも複数の魔豹ゲパールの魔石を持っていて、傍には既に顕現済みのその子達がついている。

「ウーガはドーガ、ミッシェル、オクティバら魔法使いと同行。クルト、バルドル、エニスはレンが拘禁デティニアした魔物の殲滅。俺とゲンジャル、アッシュはウォーカーが集めた魔物を、グランツェ、モーガンはディゼルが集めた魔物を。それぞれゲパール2頭と共闘だ」
「おう!」

 レイナルドパーティ、グランツェパーティ、バルドルパーティ、合計17名が円陣を組み、中心で手を重ねる。

「これが後半戦だとは言うが、まだ43階層と44階層が残ってる」
「それな」
「行方不明者もまだ一人も見つかってないしね」

 例え今日の戦闘が終わっても、このダンジョンの異変、脅威は次の階層で燻っている可能性が高いことは誰もが予想していた。何せ42階層がこの状態で、先に進むことが出来なかったのだから。

「それでも今日の討滅戦を終えれば一息吐ける。味方も増やせる」
「ついでに稼ぎも増えるぞ!」

 ゲンジャルの軽口に笑いが広がる。

「うちには優秀な魔法使いが三人いて、優秀な僧侶も三人いる」
「一人は規格外でーす」
「ちょ……否定は出来ませんけど今言わなくても!」

 ウーガさんのツッコミに俺は唸った。
 皆はこれにも笑う。
 レイナルドさんも。

「まぁそうだな。余所から見れば卑怯だと思われて然るべき規格外さだが、レンに何かあれば世界の終わりだ。俺たちはこいつの恩恵に相応しい強さを手にし主神様に安心して頂かなければならん」

 そんな大袈裟な……って言いそうになったけど、たぶんレイナルドさん発言は今のでも控えめなつもりなんだろうと、その表情を見て気付く。

「誰一人欠けずに勝つぞ」
「「「おう!」」」
「どんな怪我だって必ず治すわ」
「「「おう!」」」
「貢献度上位狙っていこうか」
「「「おう!」」」
「俺たちは強い!」
「「「おう!!」」」

 円陣を組み、手を重ね、レイナルドさん、師匠、グランツェさん、バルドルさん――それぞれのパーティリーダーの力強い宣言に皆で応えた。
 戦場で気合を入れるための、冒険者達にとってはある種の儀式みたいなそれが胸に熱い。
 そしてそれをしているのは俺達だけじゃなくて、それぞれに距離を置いて他のパーティも円陣を組んで迫力のある声を上げている。


 気合は、充分。
 後半戦の始まりだ。




 ***

 読んで頂きありがとうございます。
 ダンジョンは明日で終わります!
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...