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第6章 変遷する世界
159.魔物の氾濫(6)
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後半戦――同時に相対する魔物の群れを出来るだけ少なくしたいのは誰もが一緒で、しかも一つの階層を端から端まで何事もなく歩いたって半日以上は掛かるのが一般的だ。前半戦では安全を考慮して41階層に留まっていた面々も今度は同行し、しっかり休んでの翌日、早朝。
最初に仕掛けたのは砂浜と海だ。
頑丈な盾になる蟹ことルクバブクリエを、冒険者達の火魔法と、昨日の内に仲間にした赤いアライグマの火魔法で次々と魔石にし、俺や魔法使いたちの魔力で改めて顕現してもらったら、その子らに飛ぶノコギリザメことフレッシーの盾になってもらってそちらを殲滅。
海側がある程度落ち着いたところで、ルクバブクリエと赤いアライグマを数頭と冒険者の一部にそこを任せて更に奥へ進んだ。
第43階層への入り口を擁する深い森が進路上に現れる頃には昼を過ぎており、警戒態勢を解くことなく最後の休息を取った。
「最終確認だ。まずは魔法使い12名で森全域を火魔法で燃やす」
過激な作戦はダンジョン内の環境が数日で元に戻ると判っているから取れる内容だ。
魔法使いは金級のミッシェルさんやオクティバさん、銀級のドーガさんをはじめ白金級の人もいてかなりの火力が期待出来る。
その効果は、森そのものだけでなく、群れの確認がされているところだと毒の霧を吐きながら根をタコの足みたいにくねくねさせて移動する赤い薔薇プワズンローズなど、火に弱い植物系の魔物も含め灰塵と化すだろう。
「視界が開けたらゲパールとラトンラヴルを先行させ生き延びた魔物を順次殲滅。今日は魔石を集める必要はないがムルトルグノンの機動力はファシェヴィザージュに有効だ。余裕があるなら顕現させるのはアリだと思う」
ファシェヴィザージュは巨大な顔から4つ足が生えている魔物だと説明されたが、たぶん怒った顔が描いてある巨大な土色の岩から4つ足が生えているのをイメージすると耐久値的にも正しい気がする。
咆哮が精神を汚染してきたりするため注意が必要で、耳栓をして戦う冒険者も多いそうだ。
それともう1種。
森にいることが確認されている群れはブロンルナールと呼ばれる真っ白いキツネに似た魔物で、擬態なのか、姿を消すのかはよく判っていないのだが、いきなり目の前に現れて噛みついて来るそうで気配感知を常に発動しておかなければ接近に気付かないまま致命傷を負わされる危険があるという。
「レンは、必ずゲパール3頭と行動しろ。絶対に離れるな」
「はい」
「森の中は群れの数も確認し難い。事前報告ではファシェヴィザージュ、プワズンローズ、ムルトルグノン、ブロンルナールの4種が確認されているが、そもそも森の中ってのは魔物が多く住み着いている場所だ。最初の火魔法で森ごと打撃を与えるとは言え何が出て来るか判らん。くれぐれも油断するな。何かあれば……レンも、セルリーも、奥の手を使え」
「了解」
師匠とヒユナさんはあくまで僧侶としての同行で、なるべく後方に控えることになるが危険がないわけじゃない。
師匠も複数の魔豹の魔石を持っていて、傍には既に顕現済みのその子達がついている。
「ウーガはドーガ、ミッシェル、オクティバら魔法使いと同行。クルト、バルドル、エニスはレンが拘禁した魔物の殲滅。俺とゲンジャル、アッシュはウォーカーが集めた魔物を、グランツェ、モーガンはディゼルが集めた魔物を。それぞれゲパール2頭と共闘だ」
「おう!」
レイナルドパーティ、グランツェパーティ、バルドルパーティ、合計17名が円陣を組み、中心で手を重ねる。
「これが後半戦だとは言うが、まだ43階層と44階層が残ってる」
「それな」
「行方不明者もまだ一人も見つかってないしね」
例え今日の戦闘が終わっても、このダンジョンの異変、脅威は次の階層で燻っている可能性が高いことは誰もが予想していた。何せ42階層がこの状態で、先に進むことが出来なかったのだから。
「それでも今日の討滅戦を終えれば一息吐ける。味方も増やせる」
「ついでに稼ぎも増えるぞ!」
ゲンジャルの軽口に笑いが広がる。
「うちには優秀な魔法使いが三人いて、優秀な僧侶も三人いる」
「一人は規格外でーす」
「ちょ……否定は出来ませんけど今言わなくても!」
ウーガさんのツッコミに俺は唸った。
皆はこれにも笑う。
レイナルドさんも。
「まぁそうだな。余所から見れば卑怯だと思われて然るべき規格外さだが、レンに何かあれば世界の終わりだ。俺たちはこいつの恩恵に相応しい強さを手にし主神様に安心して頂かなければならん」
そんな大袈裟な……って言いそうになったけど、たぶんレイナルドさん発言は今のでも控えめなつもりなんだろうと、その表情を見て気付く。
「誰一人欠けずに勝つぞ」
「「「おう!」」」
「どんな怪我だって必ず治すわ」
「「「おう!」」」
「貢献度上位狙っていこうか」
「「「おう!」」」
「俺たちは強い!」
「「「おう!!」」」
円陣を組み、手を重ね、レイナルドさん、師匠、グランツェさん、バルドルさん――それぞれのパーティリーダーの力強い宣言に皆で応えた。
戦場で気合を入れるための、冒険者達にとってはある種の儀式みたいなそれが胸に熱い。
そしてそれをしているのは俺達だけじゃなくて、それぞれに距離を置いて他のパーティも円陣を組んで迫力のある声を上げている。
気合は、充分。
後半戦の始まりだ。
***
読んで頂きありがとうございます。
ダンジョンは明日で終わります!
最初に仕掛けたのは砂浜と海だ。
頑丈な盾になる蟹ことルクバブクリエを、冒険者達の火魔法と、昨日の内に仲間にした赤いアライグマの火魔法で次々と魔石にし、俺や魔法使いたちの魔力で改めて顕現してもらったら、その子らに飛ぶノコギリザメことフレッシーの盾になってもらってそちらを殲滅。
海側がある程度落ち着いたところで、ルクバブクリエと赤いアライグマを数頭と冒険者の一部にそこを任せて更に奥へ進んだ。
第43階層への入り口を擁する深い森が進路上に現れる頃には昼を過ぎており、警戒態勢を解くことなく最後の休息を取った。
「最終確認だ。まずは魔法使い12名で森全域を火魔法で燃やす」
過激な作戦はダンジョン内の環境が数日で元に戻ると判っているから取れる内容だ。
魔法使いは金級のミッシェルさんやオクティバさん、銀級のドーガさんをはじめ白金級の人もいてかなりの火力が期待出来る。
その効果は、森そのものだけでなく、群れの確認がされているところだと毒の霧を吐きながら根をタコの足みたいにくねくねさせて移動する赤い薔薇プワズンローズなど、火に弱い植物系の魔物も含め灰塵と化すだろう。
「視界が開けたらゲパールとラトンラヴルを先行させ生き延びた魔物を順次殲滅。今日は魔石を集める必要はないがムルトルグノンの機動力はファシェヴィザージュに有効だ。余裕があるなら顕現させるのはアリだと思う」
ファシェヴィザージュは巨大な顔から4つ足が生えている魔物だと説明されたが、たぶん怒った顔が描いてある巨大な土色の岩から4つ足が生えているのをイメージすると耐久値的にも正しい気がする。
咆哮が精神を汚染してきたりするため注意が必要で、耳栓をして戦う冒険者も多いそうだ。
それともう1種。
森にいることが確認されている群れはブロンルナールと呼ばれる真っ白いキツネに似た魔物で、擬態なのか、姿を消すのかはよく判っていないのだが、いきなり目の前に現れて噛みついて来るそうで気配感知を常に発動しておかなければ接近に気付かないまま致命傷を負わされる危険があるという。
「レンは、必ずゲパール3頭と行動しろ。絶対に離れるな」
「はい」
「森の中は群れの数も確認し難い。事前報告ではファシェヴィザージュ、プワズンローズ、ムルトルグノン、ブロンルナールの4種が確認されているが、そもそも森の中ってのは魔物が多く住み着いている場所だ。最初の火魔法で森ごと打撃を与えるとは言え何が出て来るか判らん。くれぐれも油断するな。何かあれば……レンも、セルリーも、奥の手を使え」
「了解」
師匠とヒユナさんはあくまで僧侶としての同行で、なるべく後方に控えることになるが危険がないわけじゃない。
師匠も複数の魔豹の魔石を持っていて、傍には既に顕現済みのその子達がついている。
「ウーガはドーガ、ミッシェル、オクティバら魔法使いと同行。クルト、バルドル、エニスはレンが拘禁した魔物の殲滅。俺とゲンジャル、アッシュはウォーカーが集めた魔物を、グランツェ、モーガンはディゼルが集めた魔物を。それぞれゲパール2頭と共闘だ」
「おう!」
レイナルドパーティ、グランツェパーティ、バルドルパーティ、合計17名が円陣を組み、中心で手を重ねる。
「これが後半戦だとは言うが、まだ43階層と44階層が残ってる」
「それな」
「行方不明者もまだ一人も見つかってないしね」
例え今日の戦闘が終わっても、このダンジョンの異変、脅威は次の階層で燻っている可能性が高いことは誰もが予想していた。何せ42階層がこの状態で、先に進むことが出来なかったのだから。
「それでも今日の討滅戦を終えれば一息吐ける。味方も増やせる」
「ついでに稼ぎも増えるぞ!」
ゲンジャルの軽口に笑いが広がる。
「うちには優秀な魔法使いが三人いて、優秀な僧侶も三人いる」
「一人は規格外でーす」
「ちょ……否定は出来ませんけど今言わなくても!」
ウーガさんのツッコミに俺は唸った。
皆はこれにも笑う。
レイナルドさんも。
「まぁそうだな。余所から見れば卑怯だと思われて然るべき規格外さだが、レンに何かあれば世界の終わりだ。俺たちはこいつの恩恵に相応しい強さを手にし主神様に安心して頂かなければならん」
そんな大袈裟な……って言いそうになったけど、たぶんレイナルドさん発言は今のでも控えめなつもりなんだろうと、その表情を見て気付く。
「誰一人欠けずに勝つぞ」
「「「おう!」」」
「どんな怪我だって必ず治すわ」
「「「おう!」」」
「貢献度上位狙っていこうか」
「「「おう!」」」
「俺たちは強い!」
「「「おう!!」」」
円陣を組み、手を重ね、レイナルドさん、師匠、グランツェさん、バルドルさん――それぞれのパーティリーダーの力強い宣言に皆で応えた。
戦場で気合を入れるための、冒険者達にとってはある種の儀式みたいなそれが胸に熱い。
そしてそれをしているのは俺達だけじゃなくて、それぞれに距離を置いて他のパーティも円陣を組んで迫力のある声を上げている。
気合は、充分。
後半戦の始まりだ。
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読んで頂きありがとうございます。
ダンジョンは明日で終わります!
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