生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら

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第5章 マーへ大陸の陰謀

138.なんかもう、いいかなって。

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「ただいま、です」

 玄関の扉を閉めながら声を上げると、中からは「おかえり」と聞こえて来る。

「遅かったな。夕飯はどうする?」
「……師匠と話をしながらお菓子を食べたので、今はいいです」
「そうか」

 言い、リーデン様が近付いて来る。

「……師匠と話したという割には浮かない顔をしているようだが。その大荷物はなんだ」
「あ……」

 抱えていた鞄の事を聞かれ、どう説明したものか迷う。
 同時に「相談、相談」って頭の中で繰り返される師匠セルリーのアドバイス。

「リーデン様」
「ん?」
「……ご相談したいことがあるんですが、お時間頂けますか?」
「もちろんだ」

 そう即答した世界の主神様は、話しの前に風呂に入るようにと促し、言われた通りにさっぱりしてからリビングに向かったら軽い軽食と果実水が用意されていた。
 しかもお風呂だって入れておいてくれるし、先に帰っている日は洗濯物だって片付けておいてくれる。
 なんて出来た恋人だろうか。

「っ……」

 恋人って、自分で考えたくせに、照れる。
 そうか、恋人……あぁでも、まだ「好き」という言葉を一度も伝えていない。
 成人まで待ってほしいと、それを告げたのはやっぱり自分で、今さらながらに気付く。俺がこだわるから誕生日から一週間だと指定されたのであって、リーデン様は……。

「温まったか?」
「はい……」

 リビングとキッチンの境目で立ち止まっていたら声を掛けられた。
 長い薄紫色の髪にタンポポ色の瞳。
 春みたいだと思った色合いはいつだって温かい。

 好きだなぁ……。

 改めてそう思ったら、なんかもういいかなって気になってきた。
 いままで何をムキになっていたんだろう。

「リーデン様」
「ん?」
「……その……座って話しをしても良いですか」
「ああ。持っていた鞄はそこに置いておいたぞ」
「はい」

 軽食の乗ったローテブルの横にちょこんと置かれた四角い鞄。師匠セルリーにも背を押されるようにしてリーデン様の手を引き、ソファに座る。
 それから深呼吸を一つ。
 意を決して口を開いた。

「実は、いまさっき師匠からたくさんのお薬をもらったんです」
「薬?」

 聞き返してくる彼の前に、カバンの中から出した一つ一つを並べて行く。

「自分で作れるようにってレシピも付けてくれて、でもこれは、このままだと効果が無いかもしれないからリーデン様に確認しろって言われました」

 言いながら差し出したそれを手に取った彼は、すぐになんのための薬なのかを察したらしい。意外そうな顔でこっちを見る。

「儀式を受けるのか?」
「……リーデン様が、俺がダンジョン攻略中は控えてくれるなら受けなくて良いのかもしれませんが……その……」

 巧い言葉は出て来ないが、意図は伝わったと信じたい。
 その目が驚きに見開かれて、……でも、すぐに破顔した。
 ふんわり咲き綻ぶ花みたいに、とても幸せそうに。

「そうか……それは、嬉しい誤算だ」
「誤算?」
「私から儀式を受けろと言うのは簡単だが、付随する期待を、おまえは断れないだろう」
「そんなことはっ、……ぁ、あるかも、ですが」

 リーデン様が笑う。

「長期間のダンジョン攻略中におまえの方から「したい」と言うようになったら説明しようと思っていた」
「……それまで我慢するつもりだったんですか?」
「無論。おまえがこの世界で楽しそうに過ごすのを邪魔してまで己の欲を満たすつもりはないぞ」
「っ……」
「約束の一週間でこの体に俺を刻み込み、おまえから求めるように仕向けるつもりではあったがな」
「なっ……リーデン様!」
「くくっ」

 どきどきする。
 クラクラする。
 ああ。
 ……あぁもう、本当に。

「この薬のレシピはあるか?」
「っ、は、はい」
「ふむ……あぁこれだな」

 レシピを確認した彼は上から四つ目の素材を指差した。

「これが服用者の魔力を不安定にさせるから二人の魔力がバランスを取れなくなり妊娠には至らないという効果を齎すわけか……なるほど。薬師か錬金術師かは判らないが、これを世に広めた研究者は素晴らしいな」
「初めて見るんですか?」
「こういう薬があるのは知っていたが作業工程やレシピを見る機会はまず無いからな。その紙の束にも非常に興味がある」
「あ、じゃあぜひ……」
「後で見せてもらう。――おまえの師はこれがレンには効果がないかもしれないと心配している、と」
「そうです、俺の場合は魔力より神力が多いからって」
「確かにこれでは効果が無いだろうな」
「使えるように改良出来ますか?」
「ふむ……別に薬を飲まなくても避けられるのだが、飲みたいか?」
「へ?」

 思わず変な声が出た。

「どういうことですか?」
「おまえは俺を誰だと思っているんだ」
「……神様?」
「ああ。子どもは神からの授かりものだろう」
「――」
「どんな子が生まれるかまではさすがに関与出来ないが……いや、レンが産むとなると大神様の領分になるのか……? そうであればしばらくは干渉不要と進言しておかねばならないな」
「待っ……え?」

 理解出来なくて戸惑っていたら、リーデン様は少しだけ詳しく説明してくれた。
 ロテュスの妊娠は二人分の魔力がバランスよく混ざることで主神様に「子どもが欲しいです」って伝わるようになっているらしい。
 口頭で説明しても想像し難いだろうけど、いずれ判るだろう、と。
 それは俺が妊娠したらってことなんだろうけど、いまだに男の自分が……って思ってしまう。儀式を受けたらこういう意識も変化するのかな。

「そういうことだから『避妊薬』に関しては不要だが、この薬の完成度は見事だ。人の身でここまで魔力と神力を分けられるなど相当の研鑽が必要だっただろう」

 尊敬する師を褒められれば嬉しいのは当然で、顔が緩む。

「師匠はすごいんです」
「ああ。……で?」
「え?」
「相談は終わりか」
「ぁ……いえ、えっと……」

 他にもいろいろとあったはずなのに、咄嗟には浮かばなくて焦ってしまう。だが、リーデン様は決して急かさない。ただ黙って待っていてくれるから俺も慎重に言葉を選ぶことが出来る。
 相談、相談。
 ……うん、するって決めたんだからしっかりしよう自分。

「少し、重い話をしてもいいですか?」
「ああ」
「……ご存知だとは思いますが、地球だと、……同性愛は、まだ偏見があるし……、俺自身、それっぽいって言うだけで気持ち悪いって嫌がらせされることもありました。俺がそう見られると、孤児院のチビ達にも影響するから……その、性的な……想像? を、するのも……汚いことだって、ずっと思っていて」

 この神様には会った初日にバレているので明かせるが、自慰だってほとんどした事がない。
 俺は違う、そうじゃないと周りに思って欲しくて、取り繕うためには「キレイ」でいなければいけなかった。

「あの頃はいろいろと必死だったから、……本当に、必死で……気付いたら性欲なんて、どっかに消えてしまってて……もう、それで良かったんですけど……」
「……枯れたままで良いと言われるのは困るのだが」

 すっと手を引かれ、気付けば顔が間近。
 吐息が触れそうな距離に心臓が騒がしくなる。

「さ、最近は、そうもいかない、です。体が若返ったせいか、それも、戻って来たっていうか……」
「例えば」
「こ、こんなふうに、近くに来られると……焦ります」

 腕を伸ばして距離を取ろうとすると、手首を取られて腕を広げられ、更に近く。
 胸部と胸部が重なり、心臓の音が、感じられる。

「他には」
「ふ、さ、触られると、ゾクッてします……っ」
「順調に成長しているというわけだ」
「っ……」

 頬から瞼、額に移る口付けに、否が応にも若い体が反応するから、怖い。こんなことは、きっと一生縁がないって、本当に、本気で、信じていたのに。

「リーデン様」
「ん?」
「……リーデン様」
「レン?」

 あーーーー……あぁぁもう覚悟を決めろ自分!
 早く言わないと逃げ出してしまいそうになる。
 自分の心臓も保たないっ。

「ぁ、あの、朝っ」
「朝?」
「っ……朝、起きた、時っ……横で、リーデン様が寝ているの、……寝顔ッ、見ると、ほわってします……っ」
「ん……?」
「一緒に珈琲カッフィを飲みながらお話ししていると楽し過ぎて時間を忘れそうになるし、ロテュスでクルトさんや師匠と喋っていてもリーデン様なら何て言うかなってつい想像しちゃうし、帰りが遅くなりそうな時にはヤだなって思います」

 一緒にキッチンで料理をしていると新婚みたいだって考えて緊張するし、さっきみたいに恋人って単語だけでニヤニヤしてしまうし。

「こっちはキスされるたびに心臓が爆発するんじゃないかってくらいドキドキしているのに、リーデン様は平然としてるので、イラッとします」
「――」
「意識しているのが自分だけなら……少し、寂しい、です」
「……どの口がそんな世迷言を言うのか」
「ぁっ……」

 顎を取られ、顔を上げさせられる。
 真っ直ぐに射抜いて来る視線が怒っているように感じられて身震いした。

「おまえが「まだだ」と言うから耐えているのも判らないと?」
「……俺のこと、欲しいって思っ……んっ」

 キス。
 口への。

「あまり迂闊なことを言うものではないな……煽られるのはともかく、焦らされるのは好みではない。おまえも、酷くされたくはないだろう……?」
「……っ」

 やばい。
 まずい。

 俺、変態かもしれない。

 リーデン様が意地悪く笑う。

「……なんだ。酷くされる方が好みか?」
「そ……っ」

 違うって言いたかったのに声になる前に塞がれた。そのままソファに押し倒されて、舌が。

「ふっ……ん、んっ……」

 どうしよう。
 どうしよう、どうしよう。
 ゾクゾクする。
 ゾワゾワする。

「……このまま奪うことも出来るんだぞ?」
「っ……」

 囁かれる甘くも無慈悲な誘惑。
 反応するのが体だけならともかく――。

「判ったならこういう真似は控えろ。どのみちおまえの誕生日までしか猶予は」
「り、でんさま」

 手を伸ばす。
 触れる、頬。

「りぃでんさま、すき、です」

 俺に触れていた手が震え、動きが止まる。
 まじまじと顔を見られて体は更に熱を持つ。

「好きです……リーデン様……」
「レン……?」

 あぁ、もう、本当に。
 どうして今まで言わずにいられたんだろう。
 誕生日まで待ってなんて言えたんだろう。

「好き……」

 口にするたび溢れてくる。
 触りたい、触られたい。
 抱き締めたい、抱き締められたい。
 キス、したい。

「レン。成人まで待つのではなかったのか?」
「……よく考えたらもう27なので」
「毛はいいのか?」
「そ、……の話は忘れてください!」
「ふっ」

 視線を逸らしたら笑われた。

「っ……」

 次いでそっと触れられたのは下腹部――さっきからゾワゾワが止まらなくて、苦しいのに、もっと、って。

「ここは?」
「ぉ、思ったんです、けど」
「ん」
「……リーデン様の、横で……下着汚して目を覚ますのは、イヤだなと……」
「ふむ」

 ニヤリと笑う、性格の悪そうな表情に、また。

「つまり俺に促せと言うわけか」
「……っ!」

 腰から下にズンって来る感覚。
 怖い。
 ここに来て自分でも知らなかった……その、せ、性癖を、突きつけられるのは想定していなくて。
 愉しそうに笑うリーデン様にゾクゾクするのを、見抜かれているって判るから、更に。

「……本当におまえは可愛いな、レン」
「ぁっ……」

 噛みつく様なキスに、呼吸が止まるかと思った。
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