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第5章 マーへ大陸の陰謀
132.獄鬼討滅戦※戦闘有り
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獄鬼除けを円状に6カ所設置し、その中に捕らえた獄鬼らを拘束。彼らが魔導具から少しでも距離を取ろうと必死に身を寄せ合う姿は、見た目が人そのものなだけに些か悪いことをしているような気になってしまうのだが、実際問題としてどうしようもない。
王族11人については中央に高台を設けて周囲から見易く拘束している。
この戦の最後の舞台。
衆人環視の元で浄化するにしても、王族が獄鬼に憑かれていた事、マーヘ大陸に唆された事を国民が事実として目撃するためには準備が重要だ。
陛下による王族への尋問は合流後すぐに行われ、既に終わった。
録音の魔導具はオセアン大陸の専売だし後はプラーントゥ大陸側の知るところではない。
俺達に任されたのは――。
「左側からくる二人、獄鬼の残滓を纏っています! 恐らくマーヘ大陸からの侵入者です!!」
ヒユナさんの声を受けてモーガンさんと騎士が駆けていき、出会い頭に仕掛ける。
「うぁっ⁈」
鞘が付いたままの剣で足元を狙い二人続けて転倒させ、モーガンさんが奥の、騎士が手前の獣人族を押さえつけた。
「な、なんだ貴様ら!」
「マーヘ大陸からようこそ?」
言えば途端に顔色が変わる男たち。
「どうしてそれを……!」
バレるなんて考えてもいなかったのだろう。自白も同然の反応をされれば拘束を緩める必要などない。そのまま縄を掛け、違う騎士二人が彼らを城の地下牢へ連れて行った。
現在、王都中を魔導具を持った騎士達がローラー作戦もどきに巡回しており、新たに見つかった獄鬼はその場で滅ぼされている。そのために集められた20人近い僧侶も全員が現場に駆り出されているのだ。
一方でマーヘ大陸からの侵入者と見られる獄鬼の残滓を纏っている連中は騎士の武力だけで対処可能だ。
国民に見せる必要もないことから、見つけ次第、トル国城の地下牢へ連行されている。
いまは生かしたままにしているのは最後の仕上げ……、その演出のため。
まぁ残滓を纏っているかどうか判断出来るのは俺と、俺に鼓舞された師匠とヒユナさんだけだから手間といえば手間なんだけど、後々に火種を残すくらいならいま張り切るよね。
「うおおおおっ!!」
この日のために集められた冒険者達が雄々しく叫び剣を振るう。
あちこちから戦闘の音が響く。
「貴様らごときにこんな……!」
「俺らを舐めんなクソッタレ!!」
建物を壊すな、出来るだけ道路も壊すなと注意を受けた時には「獄鬼が相手なのに無理だ」と思った冒険者達も、魔導具と応援領域の恩恵を受けてパワーアップしているし。
獄鬼は逆にパワーダウンだし。
「くそが……!」
「二度とオセアンにくんじゃねぇよ!!」
怒りだって戦力増強に繋がるわけで。
もう、負ける理由なんてなかった。
「レン、あそこ」
護衛についてくれているウーガさんが遠くを指差して言う。
弓術士の彼は他の誰よりも目が良いから、俺の影響で能力増し増しになると尋常でない距離が開いていても見えるらしい。
「倒れている人を必死に起こそうとしている女の子が見えるんだけど、どうだろ」
それが罠かどうかを確認していると気付いて、感知する。
二人とも何の問題もない。
「行きましょう」
「ん」
近くの騎士に声を掛けてウーガさん、クルトさんと一緒に走り出す。
5分ほどで自分でも見えたし、確かに真っ直ぐな大通りだから視界を遮る建物はないが、これだけの距離があってよく見えたなと感心した。倒れていたのはウサギ科のおばあちゃんと、同じくウサギ科の小さな女の子。あの耳だけは間違えようがない。
「おばあちゃん、がんばって! もうちょっとでおうちだよ!」
家に入ろうとして倒れてしまったのだろうか。
意識のないおばあちゃんに、女の子が必死に声を掛け続けていた。
「こんにちは」
警戒させないよう努めて穏やかに声を掛けるも、女の子はびくりと肩を震わせて倒れているおばあちゃんに抱き着いた。
「驚かせてごめんね、僧侶のレンと言います。おばあちゃんを治療させてもらってもいい?」
「……なおしてくれるの?」
「がんばる」
頷きながらそう伝えると同時、女の子の目から大粒の涙が零れ落ちて何度もしゃくり上げた。
「おばあちゃんをたすけてーっ」
「うん、少し待っててね」
ぽふりと頭を撫でて、女の子はクルトさんに預ける。
ウーガさんは周囲を警戒。
俺は獄鬼の感知領域を一度閉鎖し、意識のない女性に触れて状態を精査する。さすがに一度に二つ以上の魔法は使えないからだ。
でも僧侶として他人の体の状態を見る方法は師匠からきちんと指導されている。
まずは魔石に流すように、けれど糸より細くを心掛けて相手の魔力回路に魔力を流す。怪我の場合は患部に直接触れて治癒を掛ければ完了だが、体内に何かしらの異常が起きている場合はどんな状態でも必ず魔力が乱れるそうだ。
そこに僧侶の、いわゆる神力混じりの魔力が流れると、元気な人とは異なる反応が出る。
その反応の仕方で必要な回復魔法が判断出来るのだ。
……と言ってはみたが、このおばあちゃんには特に乱れが感じられない。
転んだのか、顔や膝、脛に擦り傷が幾つもあるけれど、呼吸も落ち着いているし、病気も見つからない。
「……陛下の話した内容に驚き過ぎちゃったのかな」
こんなに幼い女の子と一緒だったなら、早く家に帰らなければと焦っても不思議がない。
なのに思うように体が動かなくて、転んで、気を失ってしまったんだろうか。
「頭の方にも怪我はなさそうだし……おうちはどこ?」
聞くと、クルトさんに護られている女の子は二軒先の建物を指差した。
「ウーガさん、扉が開くか確認をお願いします」
「おう」
「失礼します」
身体強化で筋力を上げ、おばあちゃんを横抱きにして持ち上げる。そのついでに顔や膝の傷を含めて「治癒」。
扉に鍵は掛かっていなかったため、居間のソファに横たえ、目を覚ますのを待ってから広場へ戻ることにした。
治癒の副作用というか、日頃の疲れなんかも取れるため体が軽くなったように感じるのはどの僧侶が治療しても同じことで、このおばあちゃんも目を覚ますなり自分に起きた変化に戸惑っていた。
「まぁ……体が嘘みたいに軽く……」
「目が覚めて安心しました。良かったね」
「うんっ、ありがとう!」
女の子の満面の笑顔で達成感も万倍だ。
「では俺たちはこれで」
「ぁ、あの」
陛下と合流もしなければならないし、他にも同じような人がいれば治療したい。そう思って早々に立ち去ろうとしたら呼び止められた。
「治療のお代は……」
「あ……えっと、いまはいいです。非常事態ですし、僧侶に会えて幸運だったと思ってください」
「ぁっ……」
言って、にこりと笑顔だけを残して返答を聞かずに部屋を出ると、速足で移動する。
ちょっとだけ気まずくなった。
「クルトさん、これってレイナルドさんに叱られる案件でしょうか」
訊くと、クルトさんが笑う。
「どうかな。レンくんも言っていた通り非常事態だし」
「後で皇帝陛下からまとめて報酬もらえばいんじゃない?」
「ですよね!」
期待に目を輝かせる。
僧侶は治癒で生計を立てている人もいるんだから相場を荒らすような真似をするなと口うるさく言われていたのを思い出したわけだが、うん、非常事態なんだから仕方がない。
「っていうか、あの人達はいまもマーヘ大陸で苦労してんのかな」
ウーガが言う。
「こっちの状況ってどこまで伝わっているんだろうね」
クルトも疑問の声を上げた。
「メッセンジャーがあればって思いますけど、いまの魔の鴎じゃ海は越えられませんね」
「そこは本人達に金級ダンジョンで相応の魔石を採って来てもらってさ……」
「金級ダンジョンに出て来る鳥ってどんな魔物がいるんですか?」
「さぁ。まだ遠い先の話だから情報仕入れてないからな。でも銀級よりは速度が出て飛距離の長い魔物がいるんじゃない?」
「かな」
「レイナルドパーティはオセアン大陸の金級ダンジョンを踏破済みだって言ってたし、此処にいてくれたら良かったのにねぇ」
「ですね」
金級ダンジョンのボス部屋――一番下は第65階層で、転移陣は15階層ごと。踏破済みのレイナルド達なら60階層まで瞬時に移動して、強力な魔物の魔石を入手する機会があるはずだ。
「でも金級ダンジョンはそれだけ危険だからね。銀級ダンジョンとは難易度が違い過ぎるし、グランツェさん達が魔の鴎の魔石を採って来てくれた時みたいに気軽には頼めないよ」
クルトさんが苦笑交じりに言い「それもそうか」と俺とウーガさんも納得する。
ただ、もう一年も会っていない彼らの話をしたことで、懐かしさや、寂しさに似た感情が胸に滲む。
「そろそろ会いたいですね……」
ぽろりと零れた呟きに、二人が頷く。
「無事に帰って来て欲しいな」
「ほんとに」
しみじみと呟いて、それから三人で苦笑した。
現在はそんな場合じゃない。
目の前の事に集中しろ。
自分に言い聞かせて、切っていた獄鬼感知の領域を拡げようとした、正にその時だった。
「!」
三人揃ってソレに気付いて後方を振り返った。
すぐに矢を番えたウーガさんと、剣を構えたクルトさんが俺を守るように立ち塞がり、迫って来るそれに――獄鬼に対処しようとした。
反応速度は上々で、たぶん、問題なく相手が出来たと思う。
だけど。
「クソガアアアアアア!!」
獄鬼の後方には追いかける騎士団の姿が見える。
追いつめている最中に逃げられたのだろうか。
焦っている後方の雰囲気があまりにも必死で、たぶんこちらの冷静な状態が伝わらなかったのだと思う。いや、もしかしたら恐怖で足が竦んで動けないと勘違いさせたのかもしれない。
「せめて逃げろバカ!」
頭上から。
屋根の上から一太刀と共に降って来た声。
脳天から割られた獄鬼。
普段ならグロすぎる絵面に気分が悪くなっただろうに、いまは俺もクルトさんも、ウーガさんも、うん、驚き過ぎて体が動かなかった。
噂をすれば何とやら?
「な……」
何でここにいるんですかレイナルドさん⁈
王族11人については中央に高台を設けて周囲から見易く拘束している。
この戦の最後の舞台。
衆人環視の元で浄化するにしても、王族が獄鬼に憑かれていた事、マーヘ大陸に唆された事を国民が事実として目撃するためには準備が重要だ。
陛下による王族への尋問は合流後すぐに行われ、既に終わった。
録音の魔導具はオセアン大陸の専売だし後はプラーントゥ大陸側の知るところではない。
俺達に任されたのは――。
「左側からくる二人、獄鬼の残滓を纏っています! 恐らくマーヘ大陸からの侵入者です!!」
ヒユナさんの声を受けてモーガンさんと騎士が駆けていき、出会い頭に仕掛ける。
「うぁっ⁈」
鞘が付いたままの剣で足元を狙い二人続けて転倒させ、モーガンさんが奥の、騎士が手前の獣人族を押さえつけた。
「な、なんだ貴様ら!」
「マーヘ大陸からようこそ?」
言えば途端に顔色が変わる男たち。
「どうしてそれを……!」
バレるなんて考えてもいなかったのだろう。自白も同然の反応をされれば拘束を緩める必要などない。そのまま縄を掛け、違う騎士二人が彼らを城の地下牢へ連れて行った。
現在、王都中を魔導具を持った騎士達がローラー作戦もどきに巡回しており、新たに見つかった獄鬼はその場で滅ぼされている。そのために集められた20人近い僧侶も全員が現場に駆り出されているのだ。
一方でマーヘ大陸からの侵入者と見られる獄鬼の残滓を纏っている連中は騎士の武力だけで対処可能だ。
国民に見せる必要もないことから、見つけ次第、トル国城の地下牢へ連行されている。
いまは生かしたままにしているのは最後の仕上げ……、その演出のため。
まぁ残滓を纏っているかどうか判断出来るのは俺と、俺に鼓舞された師匠とヒユナさんだけだから手間といえば手間なんだけど、後々に火種を残すくらいならいま張り切るよね。
「うおおおおっ!!」
この日のために集められた冒険者達が雄々しく叫び剣を振るう。
あちこちから戦闘の音が響く。
「貴様らごときにこんな……!」
「俺らを舐めんなクソッタレ!!」
建物を壊すな、出来るだけ道路も壊すなと注意を受けた時には「獄鬼が相手なのに無理だ」と思った冒険者達も、魔導具と応援領域の恩恵を受けてパワーアップしているし。
獄鬼は逆にパワーダウンだし。
「くそが……!」
「二度とオセアンにくんじゃねぇよ!!」
怒りだって戦力増強に繋がるわけで。
もう、負ける理由なんてなかった。
「レン、あそこ」
護衛についてくれているウーガさんが遠くを指差して言う。
弓術士の彼は他の誰よりも目が良いから、俺の影響で能力増し増しになると尋常でない距離が開いていても見えるらしい。
「倒れている人を必死に起こそうとしている女の子が見えるんだけど、どうだろ」
それが罠かどうかを確認していると気付いて、感知する。
二人とも何の問題もない。
「行きましょう」
「ん」
近くの騎士に声を掛けてウーガさん、クルトさんと一緒に走り出す。
5分ほどで自分でも見えたし、確かに真っ直ぐな大通りだから視界を遮る建物はないが、これだけの距離があってよく見えたなと感心した。倒れていたのはウサギ科のおばあちゃんと、同じくウサギ科の小さな女の子。あの耳だけは間違えようがない。
「おばあちゃん、がんばって! もうちょっとでおうちだよ!」
家に入ろうとして倒れてしまったのだろうか。
意識のないおばあちゃんに、女の子が必死に声を掛け続けていた。
「こんにちは」
警戒させないよう努めて穏やかに声を掛けるも、女の子はびくりと肩を震わせて倒れているおばあちゃんに抱き着いた。
「驚かせてごめんね、僧侶のレンと言います。おばあちゃんを治療させてもらってもいい?」
「……なおしてくれるの?」
「がんばる」
頷きながらそう伝えると同時、女の子の目から大粒の涙が零れ落ちて何度もしゃくり上げた。
「おばあちゃんをたすけてーっ」
「うん、少し待っててね」
ぽふりと頭を撫でて、女の子はクルトさんに預ける。
ウーガさんは周囲を警戒。
俺は獄鬼の感知領域を一度閉鎖し、意識のない女性に触れて状態を精査する。さすがに一度に二つ以上の魔法は使えないからだ。
でも僧侶として他人の体の状態を見る方法は師匠からきちんと指導されている。
まずは魔石に流すように、けれど糸より細くを心掛けて相手の魔力回路に魔力を流す。怪我の場合は患部に直接触れて治癒を掛ければ完了だが、体内に何かしらの異常が起きている場合はどんな状態でも必ず魔力が乱れるそうだ。
そこに僧侶の、いわゆる神力混じりの魔力が流れると、元気な人とは異なる反応が出る。
その反応の仕方で必要な回復魔法が判断出来るのだ。
……と言ってはみたが、このおばあちゃんには特に乱れが感じられない。
転んだのか、顔や膝、脛に擦り傷が幾つもあるけれど、呼吸も落ち着いているし、病気も見つからない。
「……陛下の話した内容に驚き過ぎちゃったのかな」
こんなに幼い女の子と一緒だったなら、早く家に帰らなければと焦っても不思議がない。
なのに思うように体が動かなくて、転んで、気を失ってしまったんだろうか。
「頭の方にも怪我はなさそうだし……おうちはどこ?」
聞くと、クルトさんに護られている女の子は二軒先の建物を指差した。
「ウーガさん、扉が開くか確認をお願いします」
「おう」
「失礼します」
身体強化で筋力を上げ、おばあちゃんを横抱きにして持ち上げる。そのついでに顔や膝の傷を含めて「治癒」。
扉に鍵は掛かっていなかったため、居間のソファに横たえ、目を覚ますのを待ってから広場へ戻ることにした。
治癒の副作用というか、日頃の疲れなんかも取れるため体が軽くなったように感じるのはどの僧侶が治療しても同じことで、このおばあちゃんも目を覚ますなり自分に起きた変化に戸惑っていた。
「まぁ……体が嘘みたいに軽く……」
「目が覚めて安心しました。良かったね」
「うんっ、ありがとう!」
女の子の満面の笑顔で達成感も万倍だ。
「では俺たちはこれで」
「ぁ、あの」
陛下と合流もしなければならないし、他にも同じような人がいれば治療したい。そう思って早々に立ち去ろうとしたら呼び止められた。
「治療のお代は……」
「あ……えっと、いまはいいです。非常事態ですし、僧侶に会えて幸運だったと思ってください」
「ぁっ……」
言って、にこりと笑顔だけを残して返答を聞かずに部屋を出ると、速足で移動する。
ちょっとだけ気まずくなった。
「クルトさん、これってレイナルドさんに叱られる案件でしょうか」
訊くと、クルトさんが笑う。
「どうかな。レンくんも言っていた通り非常事態だし」
「後で皇帝陛下からまとめて報酬もらえばいんじゃない?」
「ですよね!」
期待に目を輝かせる。
僧侶は治癒で生計を立てている人もいるんだから相場を荒らすような真似をするなと口うるさく言われていたのを思い出したわけだが、うん、非常事態なんだから仕方がない。
「っていうか、あの人達はいまもマーヘ大陸で苦労してんのかな」
ウーガが言う。
「こっちの状況ってどこまで伝わっているんだろうね」
クルトも疑問の声を上げた。
「メッセンジャーがあればって思いますけど、いまの魔の鴎じゃ海は越えられませんね」
「そこは本人達に金級ダンジョンで相応の魔石を採って来てもらってさ……」
「金級ダンジョンに出て来る鳥ってどんな魔物がいるんですか?」
「さぁ。まだ遠い先の話だから情報仕入れてないからな。でも銀級よりは速度が出て飛距離の長い魔物がいるんじゃない?」
「かな」
「レイナルドパーティはオセアン大陸の金級ダンジョンを踏破済みだって言ってたし、此処にいてくれたら良かったのにねぇ」
「ですね」
金級ダンジョンのボス部屋――一番下は第65階層で、転移陣は15階層ごと。踏破済みのレイナルド達なら60階層まで瞬時に移動して、強力な魔物の魔石を入手する機会があるはずだ。
「でも金級ダンジョンはそれだけ危険だからね。銀級ダンジョンとは難易度が違い過ぎるし、グランツェさん達が魔の鴎の魔石を採って来てくれた時みたいに気軽には頼めないよ」
クルトさんが苦笑交じりに言い「それもそうか」と俺とウーガさんも納得する。
ただ、もう一年も会っていない彼らの話をしたことで、懐かしさや、寂しさに似た感情が胸に滲む。
「そろそろ会いたいですね……」
ぽろりと零れた呟きに、二人が頷く。
「無事に帰って来て欲しいな」
「ほんとに」
しみじみと呟いて、それから三人で苦笑した。
現在はそんな場合じゃない。
目の前の事に集中しろ。
自分に言い聞かせて、切っていた獄鬼感知の領域を拡げようとした、正にその時だった。
「!」
三人揃ってソレに気付いて後方を振り返った。
すぐに矢を番えたウーガさんと、剣を構えたクルトさんが俺を守るように立ち塞がり、迫って来るそれに――獄鬼に対処しようとした。
反応速度は上々で、たぶん、問題なく相手が出来たと思う。
だけど。
「クソガアアアアアア!!」
獄鬼の後方には追いかける騎士団の姿が見える。
追いつめている最中に逃げられたのだろうか。
焦っている後方の雰囲気があまりにも必死で、たぶんこちらの冷静な状態が伝わらなかったのだと思う。いや、もしかしたら恐怖で足が竦んで動けないと勘違いさせたのかもしれない。
「せめて逃げろバカ!」
頭上から。
屋根の上から一太刀と共に降って来た声。
脳天から割られた獄鬼。
普段ならグロすぎる絵面に気分が悪くなっただろうに、いまは俺もクルトさんも、ウーガさんも、うん、驚き過ぎて体が動かなかった。
噂をすれば何とやら?
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