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第3章 変わるもの 変わらないもの
87.王都フロレゾン
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王都の門を前にして、その荘厳さにも驚いたけれど、いつも通りの身分証紋の確認を終えて中に入った途端に飛び込んで来た人、人、人!
人の多さに眩暈がしてふらついてしまった。
「レンくん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
背中を支えてくれたクルトに感謝し、しっかりと二本の足で立つ。
ずれたフードをしっかりと被り直してから改めて周囲を見渡した。
5階建てくらいありそうな城門を抜けた先にあったのは大勢の人々が行き交う幅50メートルくらいの広い通りで、左右にはこれまた頑強そうな建物が複数。しかし更地を間に挟んで点在しているためとても広々としており、後で聞いたらこの辺りは王国兵の詰め所や、訓練場なのだという。
大通りを真っ直ぐに進んでいくと水の流れる音が聞こえ始め、柵の向こうに広い水路が引かれているのが判った。
此方から彼方へ進むには、大通りから真っ直ぐに通っている橋を渡る以外に方法はなく、橋の向こうには厳しい顔つきで行き来する人々を監視している騎士が何人もいる。
貴族のお嬢様を乗せた馬車は護衛を冒険者から騎士団に変えて先に行ってしまった。
つまり、此処で護衛任務は終了だ。
「行くぞ」
先頭を歩くのはレイナルド。
彼の後について橋を渡り、騎士達の前を通って門を潜る。悪いことをしているわけじゃないのに、睨まれていると思うととても緊張してしまった。
大きく深呼吸し、気持ちを切り替えながら改めて顔を上げ、……驚いた。
「ぇ……」
「すごいだろ」
思わず漏れ出た声に、笑いを含んだゲンジャルの声。
何がすごいって、街が数多の花で彩られた景色が、だ。
プラーントゥ大陸は世界最小の大陸だが南北に長いため、トゥルヌソルが雪深い冬を迎えても王都は少し肌寒いくらいで雪は滅多に降らない。
そのため冬には冬の花が咲くのだそうだ。
赤、オレンジ、黄色系が多く、また花の一つ一つが大きいから一つ咲いているだけでもとても目立つ。それが路の端、建物の前、窓の外をこれでもかというくらい装飾しているのだ。
とにかく花のない場面がない!
「あの花の名前って……」
「赤いのはローズが多いかな。あとはダンセやドネ、プチ、ジョリなんかも多いか」
ローズは、たぶんそのまま薔薇の花だ。
植物にそれほど詳しくなくても薔薇は判る。
ダンセは傷の手当なんかに使う白いガーゼみたいに、とても軽くて長い花びらが風に揺れると舞っているみたいに見える花。
ジョリはハート形の鬼灯みたいな形をしていて、中の実が熟したら花開く。この実が、確か染色の素材に使われていたはずだ。
ドネは一本の茎にたくさんの花が咲くタイプで、そこに生る小さな実は甘くて美味しく、ジャムが人気だと図鑑にあったから、ああして育てる家が多いのかもしれない。
プチは初めて聞いた。後で調べてみたいと思う。
「王都は季節ごとに花が変わって、色も変わるから、いつ来ても目で楽しめるんだよ」
「季節ごとに来てみたいです!」
「うんうん、って、フードが落ちそうだよ」
落ちそうになったフードを直してくれるのはクルト。
事前に言われていた通り、僧侶とは気づかれないようグローブ、檜の棒はリュックにしまって、代わりにアッシュから短剣を借りて腰に佩いている。これで普通の新人冒険者に見えるはずだし、しばらくは身分証紋が必要な時には冒険者のネームタグで済ますつもりだ。
そして、これからまず向かうのが冒険者ギルド。
貴族の護衛依頼が完了したことを知らせて報酬を受け取らなければならないからだ。
往復ならトゥルヌソルに帰ってからだけど、今回は片道だったからね。
「予定より一週間も遅れて到着したら、明日にはトゥルヌソルに向けて出発かなぁ」
「せっかく王都に来たんだから少しは回りたかったな」
バルドルパーティのウーガとドーガ兄弟が言うのを聞いて「確かに……」と思う。と、グランツェが複雑そうな顔で笑う。
「それな。俺たちも出来るだけ早く帰りたいと思っているんだが、40人に増えた犯罪者を連行した関係でしばらく滞在してくれって言われている」
「えっ」
「悪いが、全員3日間は待機だ」
「ってことは……」
「おう。出発までは自由に過ごせ」
「やった!」
「ありがとうございます!!」
バルドルパーティが大喜びしているのが不思議でクルトを見ると、彼は苦笑い。
「王都にはトゥルヌソルと違ったものがいろいろあるから楽しみにしてたんだと思うよ」
「いろいろ?」
「そう、武器屋、防具屋、素材屋、……大人なお店とかね」
「あー……」
以前なら伏せただろう情報も、俺の中身が成人済みだと知ってからは結構明け透けに教えてくれるようになっている。
なるほどと理解を示しつつ動かした視線が、たまたまバルドルと重なった。
「なっ、俺は行かないぞ」
「誰も疑ってませんて」
動揺し過ぎである。
その後、冒険者ギルドでは少し待たされたが貴族側の代表者から1週間の延長分を合わせた依頼料が振り込まれ、俺の冒険者ギルドの身分証紋で作った口座にも預金が出来た。
口座が二つだと面倒かなって思ったけど、今後も僧侶っていう身分を隠す場合があるなら今から持っておいた方が良いだろう。
レイナルドは実家に、ゲンジャルやウォーカーが古巣に挨拶に行くというので、チームはギルドで一時解散になった。
宿はこの近くの『緑葉館』で、徒歩3分。
セルリーは疲れたから。
アッシュとミッシェルはお風呂に入りたいと言って宿に戻ってしまったので、俺の護衛を任されているクルトと、バルドルパーティ、合計6人で依頼掲示板を見てみる事にした。
「銅級は、先輩冒険者と一緒なら銀級依頼も受けて良いんですよね」
「ああ」
「トゥルヌソルに帰ったら一緒に行ってみるか?」
「是非っ。あ、でもクルトさんは……」
「レンくんが行くなら行くよ」
レイナルドから面倒を見るように頼まれているのは他でもないクルトである。申し訳ないと思う一方で一日も早く一人前になろうと改めて決意する。
「そういやぁ、お互いトゥルヌソルに住んで長いのに一緒に依頼を受けるって事はなかったな」
思い出したように言うのはエニスだ。
「俺は俺でパーティ組んでたから」
「あぁ、それもそうか」
「採取系と戦闘系、どっちが得意だ?」
話に乗って来るウーガ。双子みたいにそっくりな兄弟だが、背中に弓と矢筒を背負っているのが兄の方だから戦闘中は間違えようがない。ちなみにドーガは魔法使いで、大きな杖を持ってる。あと、普段は青色系の服を着ているのがウーガで、黄色系の服を着ているのがドーガなんだけど、こっちの情報は思い出すのに少しだけ時間が掛かってしまうのが難点だ。
「相手にも依るけど採取よりは戦闘かな。魔獣や魔物の情報は憶えられるけど草や木の実は無理だ」
「判るわぁ」
「マジか、意外だな」
「どっちも卒なくこなすイメージだったけど」
ドーガとウーガがクルトと話すのを聞きながら、バルドルを見上げる。
「ちなみに、バルドルさんから見たクルトさんのイメージって?」
「……なんで俺に聞くんだよ」
「えー。じゃあエニスさんはどう思いますか?」
「イメージ……イメージかぁ……あぁでも、剣を持って戦場を走り抜けてる感じかな」
「それ判ります!」
先日の、港町ローザルゴーザへ向かう途中の戦闘はこちらの戦力が過多で味方の強さも判らずじまいだったけど、クルトが細身の剣を拘束されまいと暴れる敵の首元に突き付けた姿はカッコ良かった。
「クルトさんには剣が似合うと思います」
断言したら、クルトが照れたように笑う。
「ありがとう。それは、嬉しいな」
「おー……」
ウーガとドーガ兄弟の、何とも言えない反応。
クルトの今みたいな表情は珍しい。
バルドルなんて完全に見惚れている。
「レンといい、クルトといい、レイナルドパーティには心配が尽きなさそうだ」
「え?」
ぽつりと呟かれたエニスの声に顔を向ければ、彼は意味深に笑っていた。
「レンは相手が決まっているみたいだから大丈夫だろうけど」
「えっ……」
「それにしても随分と過保護な番だよね。……成人前の子にこんな匂いをつけるなんて」
ひぃぁっ!
耳元で囁かれた内容に声にならない悲鳴を上げ、エニスから距離を取る。
そういえばそうだった。
最近はそういう危険から遠ざかっていたし、先日の貴族に関しては「罠に嵌めてあげるからおいでおいで」状態だったけど。
無意識に手が胸元にいく。
あの日に噛まれた傷跡は花のような痣を残したままだ。
それを意識したせいだろうか。
エニスが苦しそうに顔を歪める。
「ごめん、調子に乗り過ぎた。もう近付かないよ」
「……おまえ何してんの」
バルドルも先ほどまでとは一転、不快そうな顔をしているし、ウーガとドーガ兄弟もちょっと引き気味。よくよく周りを見てみると、ギルド内の半分くらいの冒険者達が畏怖の表情でこっちを凝視している。
なんで? と思っていたらクルトさん。
わざわざ耳元で囁くように聞いてくる。
「レンくん、その匂いの主って……なのかな」
伏せられた名前は、その表情で察せられる。
主神様かと問われれば答えは「そうです」の一択だ。俺が恐る恐る頷いたらクルトさんは「やっぱりね」と溜息を一つ。
「一番敵に回しちゃいけない相手だって判るもん。怖い怖い……」
え。
そんなに??
人の多さに眩暈がしてふらついてしまった。
「レンくん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
背中を支えてくれたクルトに感謝し、しっかりと二本の足で立つ。
ずれたフードをしっかりと被り直してから改めて周囲を見渡した。
5階建てくらいありそうな城門を抜けた先にあったのは大勢の人々が行き交う幅50メートルくらいの広い通りで、左右にはこれまた頑強そうな建物が複数。しかし更地を間に挟んで点在しているためとても広々としており、後で聞いたらこの辺りは王国兵の詰め所や、訓練場なのだという。
大通りを真っ直ぐに進んでいくと水の流れる音が聞こえ始め、柵の向こうに広い水路が引かれているのが判った。
此方から彼方へ進むには、大通りから真っ直ぐに通っている橋を渡る以外に方法はなく、橋の向こうには厳しい顔つきで行き来する人々を監視している騎士が何人もいる。
貴族のお嬢様を乗せた馬車は護衛を冒険者から騎士団に変えて先に行ってしまった。
つまり、此処で護衛任務は終了だ。
「行くぞ」
先頭を歩くのはレイナルド。
彼の後について橋を渡り、騎士達の前を通って門を潜る。悪いことをしているわけじゃないのに、睨まれていると思うととても緊張してしまった。
大きく深呼吸し、気持ちを切り替えながら改めて顔を上げ、……驚いた。
「ぇ……」
「すごいだろ」
思わず漏れ出た声に、笑いを含んだゲンジャルの声。
何がすごいって、街が数多の花で彩られた景色が、だ。
プラーントゥ大陸は世界最小の大陸だが南北に長いため、トゥルヌソルが雪深い冬を迎えても王都は少し肌寒いくらいで雪は滅多に降らない。
そのため冬には冬の花が咲くのだそうだ。
赤、オレンジ、黄色系が多く、また花の一つ一つが大きいから一つ咲いているだけでもとても目立つ。それが路の端、建物の前、窓の外をこれでもかというくらい装飾しているのだ。
とにかく花のない場面がない!
「あの花の名前って……」
「赤いのはローズが多いかな。あとはダンセやドネ、プチ、ジョリなんかも多いか」
ローズは、たぶんそのまま薔薇の花だ。
植物にそれほど詳しくなくても薔薇は判る。
ダンセは傷の手当なんかに使う白いガーゼみたいに、とても軽くて長い花びらが風に揺れると舞っているみたいに見える花。
ジョリはハート形の鬼灯みたいな形をしていて、中の実が熟したら花開く。この実が、確か染色の素材に使われていたはずだ。
ドネは一本の茎にたくさんの花が咲くタイプで、そこに生る小さな実は甘くて美味しく、ジャムが人気だと図鑑にあったから、ああして育てる家が多いのかもしれない。
プチは初めて聞いた。後で調べてみたいと思う。
「王都は季節ごとに花が変わって、色も変わるから、いつ来ても目で楽しめるんだよ」
「季節ごとに来てみたいです!」
「うんうん、って、フードが落ちそうだよ」
落ちそうになったフードを直してくれるのはクルト。
事前に言われていた通り、僧侶とは気づかれないようグローブ、檜の棒はリュックにしまって、代わりにアッシュから短剣を借りて腰に佩いている。これで普通の新人冒険者に見えるはずだし、しばらくは身分証紋が必要な時には冒険者のネームタグで済ますつもりだ。
そして、これからまず向かうのが冒険者ギルド。
貴族の護衛依頼が完了したことを知らせて報酬を受け取らなければならないからだ。
往復ならトゥルヌソルに帰ってからだけど、今回は片道だったからね。
「予定より一週間も遅れて到着したら、明日にはトゥルヌソルに向けて出発かなぁ」
「せっかく王都に来たんだから少しは回りたかったな」
バルドルパーティのウーガとドーガ兄弟が言うのを聞いて「確かに……」と思う。と、グランツェが複雑そうな顔で笑う。
「それな。俺たちも出来るだけ早く帰りたいと思っているんだが、40人に増えた犯罪者を連行した関係でしばらく滞在してくれって言われている」
「えっ」
「悪いが、全員3日間は待機だ」
「ってことは……」
「おう。出発までは自由に過ごせ」
「やった!」
「ありがとうございます!!」
バルドルパーティが大喜びしているのが不思議でクルトを見ると、彼は苦笑い。
「王都にはトゥルヌソルと違ったものがいろいろあるから楽しみにしてたんだと思うよ」
「いろいろ?」
「そう、武器屋、防具屋、素材屋、……大人なお店とかね」
「あー……」
以前なら伏せただろう情報も、俺の中身が成人済みだと知ってからは結構明け透けに教えてくれるようになっている。
なるほどと理解を示しつつ動かした視線が、たまたまバルドルと重なった。
「なっ、俺は行かないぞ」
「誰も疑ってませんて」
動揺し過ぎである。
その後、冒険者ギルドでは少し待たされたが貴族側の代表者から1週間の延長分を合わせた依頼料が振り込まれ、俺の冒険者ギルドの身分証紋で作った口座にも預金が出来た。
口座が二つだと面倒かなって思ったけど、今後も僧侶っていう身分を隠す場合があるなら今から持っておいた方が良いだろう。
レイナルドは実家に、ゲンジャルやウォーカーが古巣に挨拶に行くというので、チームはギルドで一時解散になった。
宿はこの近くの『緑葉館』で、徒歩3分。
セルリーは疲れたから。
アッシュとミッシェルはお風呂に入りたいと言って宿に戻ってしまったので、俺の護衛を任されているクルトと、バルドルパーティ、合計6人で依頼掲示板を見てみる事にした。
「銅級は、先輩冒険者と一緒なら銀級依頼も受けて良いんですよね」
「ああ」
「トゥルヌソルに帰ったら一緒に行ってみるか?」
「是非っ。あ、でもクルトさんは……」
「レンくんが行くなら行くよ」
レイナルドから面倒を見るように頼まれているのは他でもないクルトである。申し訳ないと思う一方で一日も早く一人前になろうと改めて決意する。
「そういやぁ、お互いトゥルヌソルに住んで長いのに一緒に依頼を受けるって事はなかったな」
思い出したように言うのはエニスだ。
「俺は俺でパーティ組んでたから」
「あぁ、それもそうか」
「採取系と戦闘系、どっちが得意だ?」
話に乗って来るウーガ。双子みたいにそっくりな兄弟だが、背中に弓と矢筒を背負っているのが兄の方だから戦闘中は間違えようがない。ちなみにドーガは魔法使いで、大きな杖を持ってる。あと、普段は青色系の服を着ているのがウーガで、黄色系の服を着ているのがドーガなんだけど、こっちの情報は思い出すのに少しだけ時間が掛かってしまうのが難点だ。
「相手にも依るけど採取よりは戦闘かな。魔獣や魔物の情報は憶えられるけど草や木の実は無理だ」
「判るわぁ」
「マジか、意外だな」
「どっちも卒なくこなすイメージだったけど」
ドーガとウーガがクルトと話すのを聞きながら、バルドルを見上げる。
「ちなみに、バルドルさんから見たクルトさんのイメージって?」
「……なんで俺に聞くんだよ」
「えー。じゃあエニスさんはどう思いますか?」
「イメージ……イメージかぁ……あぁでも、剣を持って戦場を走り抜けてる感じかな」
「それ判ります!」
先日の、港町ローザルゴーザへ向かう途中の戦闘はこちらの戦力が過多で味方の強さも判らずじまいだったけど、クルトが細身の剣を拘束されまいと暴れる敵の首元に突き付けた姿はカッコ良かった。
「クルトさんには剣が似合うと思います」
断言したら、クルトが照れたように笑う。
「ありがとう。それは、嬉しいな」
「おー……」
ウーガとドーガ兄弟の、何とも言えない反応。
クルトの今みたいな表情は珍しい。
バルドルなんて完全に見惚れている。
「レンといい、クルトといい、レイナルドパーティには心配が尽きなさそうだ」
「え?」
ぽつりと呟かれたエニスの声に顔を向ければ、彼は意味深に笑っていた。
「レンは相手が決まっているみたいだから大丈夫だろうけど」
「えっ……」
「それにしても随分と過保護な番だよね。……成人前の子にこんな匂いをつけるなんて」
ひぃぁっ!
耳元で囁かれた内容に声にならない悲鳴を上げ、エニスから距離を取る。
そういえばそうだった。
最近はそういう危険から遠ざかっていたし、先日の貴族に関しては「罠に嵌めてあげるからおいでおいで」状態だったけど。
無意識に手が胸元にいく。
あの日に噛まれた傷跡は花のような痣を残したままだ。
それを意識したせいだろうか。
エニスが苦しそうに顔を歪める。
「ごめん、調子に乗り過ぎた。もう近付かないよ」
「……おまえ何してんの」
バルドルも先ほどまでとは一転、不快そうな顔をしているし、ウーガとドーガ兄弟もちょっと引き気味。よくよく周りを見てみると、ギルド内の半分くらいの冒険者達が畏怖の表情でこっちを凝視している。
なんで? と思っていたらクルトさん。
わざわざ耳元で囁くように聞いてくる。
「レンくん、その匂いの主って……なのかな」
伏せられた名前は、その表情で察せられる。
主神様かと問われれば答えは「そうです」の一択だ。俺が恐る恐る頷いたらクルトさんは「やっぱりね」と溜息を一つ。
「一番敵に回しちゃいけない相手だって判るもん。怖い怖い……」
え。
そんなに??
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小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
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