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第3章 変わるもの 変わらないもの
82.道中(1)
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世界最小のプラーントゥ大陸には三つの国がある。
その内の一つがイヌ科の王が治めるリシーゾン国だ。
北半分のほとんどが国土で、先週行った港町ローザルゴーザローザルゴーザが西の端。
俺たちが拠点にしているトゥルヌソルは複数のダンジョンが攻略可能な拠点として栄えていて、出発前に聞いた説明によると、この道をひたすら進めば王都に到着するぞっていう、いわゆる国道が、トゥルヌソルから王都までを繋いでいるから迷う心配がない。
ただし鍛冶の里デコール、花の町フルール、狩猟の里アベイユ、静けさを好む町アロムといった特色があって旅人が立ち寄りたがる各地に向けて道が分岐することも多いため看板だけは見間違わないようにと注意された。
また、地図を見せてもらった限りだと地球に比べてものすごく自然が多く、国道沿いにも未開の地……というか、手付かずの森や荒野が広がっているから魔獣との遭遇には常に警戒しておくように、とも。
何せ冒険者が「素材獲るぞ!」って襲うものだから、あちらからしてみれば人は完全に敵。魔獣の種類によっては群れで襲い掛かって来ることもあるそうだ。
「そういう獣の肉が野営でごちそうになったりするんだけどな」
そう言って笑うのはゲンジャル。
「今時期は冬ごもりに向けて食い溜めしている獣が多いから、危険な種もいれば肉に脂がのって美味いのも多い」
ウォーカーが珍しく長文で語る。
「レン、食事関係でいろんなもの準備してくれたんだって?」
「急に大量の野菜や肉が運ばれてきてびっくりしたけど、みんなで作業したのは楽しかったわね」
ミッシェルが思い出したように言うと、一緒に下拵えしたアッシュが満面の笑顔になる。
「おまえの味付けは美味いから楽しみだな」
「うん、ほんとに」
期待しているらしいレイナルドと、同意するクルト。
みんなの反応になんだか嬉しくなって来た。
「初めての長旅で役に立てたらって思ったんです。でももし成功だったら食費は貰いますからね?」
「そりゃ当然だな」
「ちゃんと手間賃も取れよ」
味見はバッチリ。
試しに神具『住居兼用移動車両』Ex.でリーデンと作って食べたら美味しかったので是非期待して欲しい。
そういう気持ちで返したら、皆の顔も「期待してるぞ」って表情に。
トゥルヌソルを出発してしばらくは、そんな感じに賑わっていた。
「……にしても、すごい大行列ですね」
「ね」
チラと後ろを確認し、視線をゆっくりと前へ移動しながら呟くと隣を歩いていたクルトも頷く。
先頭には今回の護衛対象である貴族家の騎士達がいて、その後に貴族を乗せた馬車。トゥルヌソルは雪が深いから、トゥルヌソルに住んでいる貴族は『界渡りの祝日』が終わると南側の王都に移動して冬を越し、雪が溶けて春になるとトゥルヌソルに戻るんだとか。
国道は比較的安全だし、普段は自分達が持っている騎士団の警護だけで安全に移動出来ていて、今回こうして冒険者に護衛依頼が出されたのはマーヘ大陸の貴族がお忍びでトゥルヌソルにいたからだ。それでも先週までは「あくまで念のため」だったものが本気で警戒するに至った原因は獄鬼で、俺たちの後ろについている護送馬車に乗せられている犯罪者の中にマーヘ大陸の貴族がいるからだ。
誰か、もしくは何かが彼らを取り戻しに来ないとも限らない。
それを警戒し、当初は17名の冒険者で護衛する予定だったところを憲兵隊も同行する事になった。
貴族に一番近い位置にレイナルドパーティ。後ろにバルドルパーティ。
グランツェパーティは一番後ろ、憲兵隊の更に後方についている。
「何事もなく王都に到着したいね」
「同感です」
クルトと二人、深々と頷き合った。
その内の一つがイヌ科の王が治めるリシーゾン国だ。
北半分のほとんどが国土で、先週行った港町ローザルゴーザローザルゴーザが西の端。
俺たちが拠点にしているトゥルヌソルは複数のダンジョンが攻略可能な拠点として栄えていて、出発前に聞いた説明によると、この道をひたすら進めば王都に到着するぞっていう、いわゆる国道が、トゥルヌソルから王都までを繋いでいるから迷う心配がない。
ただし鍛冶の里デコール、花の町フルール、狩猟の里アベイユ、静けさを好む町アロムといった特色があって旅人が立ち寄りたがる各地に向けて道が分岐することも多いため看板だけは見間違わないようにと注意された。
また、地図を見せてもらった限りだと地球に比べてものすごく自然が多く、国道沿いにも未開の地……というか、手付かずの森や荒野が広がっているから魔獣との遭遇には常に警戒しておくように、とも。
何せ冒険者が「素材獲るぞ!」って襲うものだから、あちらからしてみれば人は完全に敵。魔獣の種類によっては群れで襲い掛かって来ることもあるそうだ。
「そういう獣の肉が野営でごちそうになったりするんだけどな」
そう言って笑うのはゲンジャル。
「今時期は冬ごもりに向けて食い溜めしている獣が多いから、危険な種もいれば肉に脂がのって美味いのも多い」
ウォーカーが珍しく長文で語る。
「レン、食事関係でいろんなもの準備してくれたんだって?」
「急に大量の野菜や肉が運ばれてきてびっくりしたけど、みんなで作業したのは楽しかったわね」
ミッシェルが思い出したように言うと、一緒に下拵えしたアッシュが満面の笑顔になる。
「おまえの味付けは美味いから楽しみだな」
「うん、ほんとに」
期待しているらしいレイナルドと、同意するクルト。
みんなの反応になんだか嬉しくなって来た。
「初めての長旅で役に立てたらって思ったんです。でももし成功だったら食費は貰いますからね?」
「そりゃ当然だな」
「ちゃんと手間賃も取れよ」
味見はバッチリ。
試しに神具『住居兼用移動車両』Ex.でリーデンと作って食べたら美味しかったので是非期待して欲しい。
そういう気持ちで返したら、皆の顔も「期待してるぞ」って表情に。
トゥルヌソルを出発してしばらくは、そんな感じに賑わっていた。
「……にしても、すごい大行列ですね」
「ね」
チラと後ろを確認し、視線をゆっくりと前へ移動しながら呟くと隣を歩いていたクルトも頷く。
先頭には今回の護衛対象である貴族家の騎士達がいて、その後に貴族を乗せた馬車。トゥルヌソルは雪が深いから、トゥルヌソルに住んでいる貴族は『界渡りの祝日』が終わると南側の王都に移動して冬を越し、雪が溶けて春になるとトゥルヌソルに戻るんだとか。
国道は比較的安全だし、普段は自分達が持っている騎士団の警護だけで安全に移動出来ていて、今回こうして冒険者に護衛依頼が出されたのはマーヘ大陸の貴族がお忍びでトゥルヌソルにいたからだ。それでも先週までは「あくまで念のため」だったものが本気で警戒するに至った原因は獄鬼で、俺たちの後ろについている護送馬車に乗せられている犯罪者の中にマーヘ大陸の貴族がいるからだ。
誰か、もしくは何かが彼らを取り戻しに来ないとも限らない。
それを警戒し、当初は17名の冒険者で護衛する予定だったところを憲兵隊も同行する事になった。
貴族に一番近い位置にレイナルドパーティ。後ろにバルドルパーティ。
グランツェパーティは一番後ろ、憲兵隊の更に後方についている。
「何事もなく王都に到着したいね」
「同感です」
クルトと二人、深々と頷き合った。
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