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第3章 変わるもの 変わらないもの

80.遠征準備

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 それから王都へ向かうまでの数日は旅の準備で慌ただしかった。
 貴族と一緒に犯罪者を連行するのはやはり良くないということで、トゥルヌソルから憲兵隊を出し、先に貴族と、貴族を護衛する冒険者、その後ろからマーヘ大陸の人たちを乗せた護送馬車4台と、それを護衛する憲兵隊という大所帯での移動が決まった。
 往路で半月、復路で半月。
 11月の下旬にはトゥルヌソルに帰ってくる予定だが、その頃には雪も降るだろう。
 貴族は自分達で、マーヘ大陸の罪人たちに関しては国や市がどうとでもするので考えるのは自分達のパーティの分だけで良いと判っていても冬を間近に控えた一月の旅路に必要なもの……と考えると、難しい。
 なんせ今回の旅では初の野営だって体験する予定なのだ。

「レイナルドパーティは野営時って食事どうするんですか? 保存食とかで簡単に? 食材を持ち込んで調理しますか?」
「半々だな」

 ゲンジャルが少し考えてからそう教えてくれた。

「言っとくがウチだけじゃないぞ? 冒険者ってのは料理が苦手な奴が多いし、歩いて体力、戦闘で魔力を持っていかれた後に料理なんてしてらんないんだよ」
「じゃあ、夕飯は携帯食とか……ですか?」
「あとはまぁ、歩いてる途中でその辺で生ってる木の実を採取しておくとか? 魔力の回復にはそっちの方がいいしな」

 魔力の回復。
 これもこの世界の不思議なところで、体力と同様にちゃんと休めば相応に回復するんだけど、魔力で育ったもの、または魔力を有したものを食べると、含有量に応じて回復が早まる。
 ただ、その理屈で言ったら携帯食だってこの世界で採れた素材で作ってるんだから回復しそうなものなのに、ほとんど効果がない。
 なんでだろ。

「冬にも実って生っているんですか?」
「冬にしか生らないものもあるぞ」
「へー……、でも、疲れている時こそしっかり食べないとって思いませんか」
「それはもちろんだ」

 うーん、疲れている時にもちゃんとご飯。
 なるべく時間掛けず、簡単に、しっかりと……時短?

「あ!」
「なんだ?」
「ゲンジャルさんっ、時間停止付きの、重さが感じなくて容量の大きい収納の魔導具ってありますか?」
「貴重品を要求する時は少しくらい遠慮しろ……だがまぁ、取り出し口が狭くて使い勝手が悪い巾着タイプのなら倉庫にあったと思うぞ」
「俺の手は入りますか?」
「ああ」
「じゃあそれをっ、ぜひ貸してください」
「ぉ、おう」
「あと、買出し終わったらキッチン貸してくださいっ」
「判ったから落ち着け! 先ずは倉庫だ!」

 ゲンジャルに諭されて倉庫に移動し、リクエスト通りの魔導具を借りた後は市場に直行した。
 他の皆は王都への旅に向けて様々な準備があって、特にレイナルドなんて国のお偉いさんとも連絡を取り合っている関係でほとんどクランハウスに戻っていないらしい。
 戦闘職の皆は暇を見つけては戦闘訓練、筋力トレーニング、持久力向上と自己研磨に余念がなく、俺ももちろん魔法や魔力操作の練習は欠かさないけどやり過ぎだと怒られたら止めざるを得ない。
 銅級の依頼を受けるにしても、王都への出発が控えている事を考えると気兼ねなく受けられるものがない。
 つまり何を言いたいかというと、暇!

「でもこれならパーティの皆のためにもなると思うし、王都行の準備の一環だし、なかなかの名案じゃないかと思うんだ」

 じゃがいも、玉ねぎ、にんじん、ナスは箱買い、ブロッコリー三皿、キャベツは一玉を店の人に頼んでレイナルドパーティのクランハウスへ宅配してもらうことにする。
 この宅配が鉄級依頼だったっけ。
 ちなみにトマトはあるだけ、ニンニクも一山購入して一つずつ魔導具の巾着に入れていった。魔導具に入れておくと潰れたり匂いが移る心配もないからな。
 それから素材屋で数種類のハーブ、酪農家が経営する直売所で大量のチーズと1本2Lの牛乳瓶を12本、肉屋で鶏肉とベーコン、ソーセージ。
 巾着の口から入れれるものは中へ、それ以外は全部宅配を頼んで家に帰ると、最初の野菜が届いていた。

「レン、こんなに野菜買ってどうするの?」

 驚いているミッシェル。

「野菜だけじゃないです、これからまだまだ届くので、来たらキッチンにお願いします」
「それは構わないけど、こんなにどうするの、って」
「旅の準備です!」
「はい?」

 だって冷凍庫より優秀な保存の魔導具がある。冷凍しなくても品質が落ちない、しかもどれだけ詰め込んでも重さを感じないのだから、旅に出る前に下拵えを終え、現地では鍋で焼いたり煮たりするだけにしておけばいいのだ。
 簡単・時短・作り置き。
 一度に作る量が10人前くらいの鍋なら先日購入したリュックに入れていけるだろうし、フライパンとかならきっと余裕で入る。
 つい半年前まで独身サラリーマンで、だんだんと一人の食事を作るのが面倒になって手抜きになっていったのは確かたが、その前段階ではそういう知識を活用していた。
 特に簡単な料理ほどヘビーローテーションだったからキャンプ飯にも丁度いい。
 根菜は皮を剥いて一口サイズにカットしたら巾着に入る大きさの紙袋にまとめて保存。野菜や肉の皮部分は鍋で煮込んでコンソメスープ……ブイヨン? 自信はないけどなんかそんなのが出来るはず。野営の際に肉やカット野菜をこれで煮込むだけでも美味しい料理になるはずだ。たぶん。

「あ。空き瓶を買って来ないと。後でまた買い出しだな。あとは調味料も……」

 ぶつぶつ言いながら作業をしていたら、ゲンジャルの奥さんから声を掛けられた。

「何しているの?」
「王都へ行く途中の野営で美味しいごはんを食べれるように下拵え中です」
「まぁ、料理人みたいね」

 ふふっと奥さんは笑った後で腕まくりして手を洗い始める。

「手伝ってくれるんですか?」
「当然よ。だって野営ってことはゲンジャルのためにもなるのでしょう?」
「はい!」

 一人でやり切るつもりだったけど、二人で作業を進めるのは楽しくて、終いには双子ちゃんやアッシュの旦那さん、ミッシェル夫妻も加わって大賑わいだった。
 ただ、ビニール袋もラップもないからなんでも紙袋や紙で包んだりしなきゃいけないのがネックだ。
 いくら紙が量産されている世界でも、ゴミを量産すべきではない。今回は始めてから気づいたからやり切ったが、次回は容器の準備から始めないとダメだ。

(タッパなんてないだろうし……魔道具に入れちゃえば汁漏れの心配もないんだから蓋がなくても……? いや、それだと入れる時に巾着の口が汚れる。となると自分で大容量の箱型魔導具を購入するか……?)

 そんなことをつらつらと考えながら遠征準備を進めていたら、あっという間に王都へ出発する日になっていた。
 
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