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第3章 変わるもの 変わらないもの

77.あっけない結末※戦闘有り

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「くっ……何故だ何故だ何故だ何故だ……!」

 甲高い剣戟の音に重なる苦悶の呻き。

「思ったように力が出なくてお困りのようだな!」
「黙れ!!」
獄鬼ヘルネルってのは突発的な想定外に弱いらしい」
「黙れと言った!!」

 レイナルドの剣を不気味な靄を纏った剣で弾き返した獄鬼ヘルネル、そうして開いた脇にグランツェが横から攻める。
 それから逃れようと獄鬼ヘルネルが放ったのは真っ黒な虫の大群のようにも見える細かな無数の刃だったが、グランツェにとっては視界を遮る程度の悪あがきでしかない。傷の一つも付けられやしなかった。

「クソッ、どうなってやがる!!」
「さぁな」

 レイナルドが笑う。
 教えてやる義理なんてないからだ。
 判っていて、それでも馬鹿にされていると感じた獄鬼ヘルネルの顔が朱に染まり、動揺した隙に左右から放たれる風魔法。

「くっ!!」

 避け切れずに吹き飛ばされる。
 胸の前で腕をクロスし致命傷は避けたようだが、左腕は千切れ飛んだ。
 血の代わりに腕から吹き出す黒い靄。
 人ではない証。

「クソッ……クソッタレが……!!」

 その表情には、もはや絶望しかない。
 獄鬼ヘルネルは戦闘の最中で勝ちを諦めてしまったように見えた。

(頑張って……!)

 俺は何度も、何度も心の中で応援する。
 金級の剣士が二人、魔法使いが二人で獄鬼ヘルネルを確実に追い詰めていく中、他の面々がマーヘ大陸の貴族と、その護衛を拘束していく。
 オセアン大陸の冒険者達も数名を商人の護衛に残し、逃亡を図る連中を確保。
 俺は子ども達の他にご両親や、御者さんにも荷台に来るよう頼んでなるべく俺に近付いてもらった。無力な人を捕まえて、その安全と引き換えに逃げ出そうと考えるのは小者の基本だからね!
 草原を転がっていったカエル貴族はウォーカーが拘束し、肩に担いで馬車に戻した。
 カメレオン顔の執事服を着た男――たぶんあの人が、トゥルヌソルで俺に声を掛けて来た人なんだと思うけど、拘束されている主を見て絶望したような表情を浮かべていた。
 そして、馬車に乗っていた他の貴族二人はカエル貴族の息子とその友達だったらしい。
 ついでに危険だという警告は無かったものの雇われていた御者も念のために拘束してカエル貴族と同じ車内に押し込め、12人の護衛はもう一台の方にぎゅうぎゅうに押し込められていく。

(もう大丈夫かな……)

 注意深く周囲を見て確認する。
 グランツェの剣に上下に両断され、レイナルドの剣で縦に裂かれた獄鬼ヘルネルは憎悪の叫びを放ちながら頭から霧散して消えていった。




「みんな、もう大丈夫だよ。顔を上げて、目を開けてごらん」

 抱き締めていた子ども達に声を掛けると、子ども達は待ってましたと言わんばかりの勢いで顔を上げる。

「終わった?」
「へるねる、いなくなった?」
「父さん、母さん!」

 傍で微笑んでいる親の姿に脅威が去ったと確信し、子ども達が俺の腕から飛び出して両親の胸に飛び込んだ。

「つかれた……!」

 一方で、力なく呟いてその場に座り込んだのはセルリー。
 ヒユナたちもそれは同じで、二度に渡って結界を張り続けた僧侶は魔力がすっからかん。疲労困憊で顔色も悪く、本音を言えば今すぐに寝転がって眠ってしまいたいところだろう。
 俺は魔力じゃなくて有り余っている神力を消費しているから、まだまだ元気。

「レイナルドさん!」
「おう、お疲れ。よく頑張ったな」

 荷台を飛び降りて駆け寄った俺の頭を撫でながら、レイナルドさん。

「前回もそうだったけど、すごい影響力だな応援領域クラウーズ

 グランツェも感心しきりって顔。

「お役に立てて良かったです。それで、俺はまだまだ大丈夫なので、セルリーさん達3人を荷台に乗せてあげたいんですけど、良いですか?」
「ああ、もちろん」
「ヒユナとオセアン大陸の彼女は商隊の荷台で大丈夫だと思うぞ」
「ほんとですか! じゃあセルリーさんをこっちに案内しますね」
「ああ。おまえが元気ってのも謎だが、まぁ聞くだけ野暮か」

 レイナルドが呆れたように笑って肩を竦める。

「ローザルゴーザまであと30分くらいだ。負担を掛けるが周囲の警戒を頼むな」
「もちろんです!」
「よし。――さて、マーヘ大陸の連中の人数を再度確認して、問題なければローザルゴーザへ再出発だ! もうひと踏ん張りだぞ!」
「「「「おう!!」」」」

 隊列全体から威勢のいい声が上がる。
 荷台の上からは子ども達の陽気な声も。
 思った以上にあっさりし過ぎていて、まだ何かあるんじゃないかと不安になるが……イヤな感じはどこにもない。

「お疲れさま!」
「よく頑張ったね」

 次々に上がる声。
 俺はセルリーに駆け寄って先ほどの話を伝える。

「あとは俺に任せてゆっくり休んでください、先輩」
「ふふっ、後輩にそう言われちゃ甘えないわけにはいかないわね」

 とても素直に差し出した手を取ってもらえたのは、本当に、それだけ疲労しているってことだ。俺は失礼にならないよう注意しつつ彼女を支え、馬車に案内する。
 出発準備が進む隊列。
 とりあえず今は、これで一安心……かな?  
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