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第3章 変わるもの 変わらないもの
76.二度目の獄鬼との戦い※戦闘有り
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レンは荷台に乗せられた後で七人の子ども達を一ヵ所に集めて抱き締めた。
戦えない自分がすべきことはこの子たちを護ること。
絶対に傷一つ付けさせない。
「まさ、か……」
口から赤い液体を垂らしたセルリーさんが震える声で馬車を睨む。レイナルドが彼女を背に庇うように構え、レイナルドパーティの皆が戦闘態勢に入るが、そんな彼らを嘲笑するのがマーヘ大陸の護衛騎士達だった。
そして。
「ようやくこの鬱陶しい状況を終わらせられるというわけだ」
馬車から下りて姿を現したカエル顔の貴族がにやりと微笑む。
更には先ほどからビリビリと感じていた不快感がより一層強く、濃く、まるで周囲の草木を腐らせるのではないかと錯覚するくらい強烈に辺りに漂い始めた。
カエル貴族の横に立つ男は、見た目だけなら人だ。
しかし俺の目には赤い警告画面が点滅し、彼が危険人物だと訴えている。
スキル「天啓」。
タップして理由を表示させれば「獄鬼。17人を喰らっている。」の文字と危険度が★5つ。
(あいつが……!)
獄鬼の気配は、結界が無いとこんなにも酷い。
けど、僧侶だからこの程度で済んでいる。なぜなら身の内にある神力が根っこのところで守ってくれるからで、神力がない他の皆がどんな影響を受けるかなんて言葉では言い表せないほどに残酷だ。
金級のレイナルドパーティだって顔色が悪い。
銀級のクルト、バルドルパーティの面々に至っては歯がカタカタと鳴るくらい体を震わせ、武器を構える手からは汗が落ちていく。
ましてや荷台にいる一般市民にとっては毒も同然。胸を抑え吐いている人もいるくらいで、この獄鬼の悪質振りがよく判る。
だからこそ。
(そんな影響、子ども達には受けさせないからな……!)
俺の細腕でも全員を抱き締められるようぎゅうぎゅうに集まってもらったのはそのためだ。リーデン様が掛けてくれた守護、その範囲内にいるこの子たちの心が守られるよう願う。
「みんな、しっかり目を瞑って、顔を伏せて。何があっても絶対に顔を上げちゃだめだよ」
「うんっ」
「こわいよぉ……」
「だいじょぶ、ぼーけんしゃはつよいもん!」
俺の役目はこの子たちを護ること。
何度も、何度も自分に言い聞かせる。
大丈夫。
大丈夫。
獄鬼がどんなに強くたって――。
「くくくっ」
獄鬼が笑う。
「僧侶共に俺らの催眠は効かないが、神力がすっからかんになった今なら喰らえそうだな。僧侶を喰ったら特殊な進化を果たしたりしねぇかな」
「おい獄鬼、あっちの人族とガキどもをこの馬車に乗せろ、船に向かう。喰らうのはその後だ」
「へぇへぇ」
「レン!」
「動くな、死ぬのは無力な連中だぜ?」
駆け寄ろうとしたレイナルド達に剣先を当てたマーヘ大陸の護衛達。
近付いて来る獄鬼の足音に、大丈夫だと思っていても、体が竦む。
「さて、雇い主がおまえをご所望だ」
獄鬼は俺の前に立ち、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「そこのガキどもを殺されたくなきゃ大人しくあっちの馬車に移動しろ」
自分達の優位を信じて疑わない態度に、……呆れる。
レイナルドを見た。
小さく頷かれる。
セルリーとゲンジャル、ミッシェル、アッシュ、そしてウォーカー。
獄鬼の後方にクルト。
バルドル。
もう、お芝居は終わりだ。
「お断りします」
「は?」
「断る、と言いました」
「貴様! いまの自分の状況が見えているのか⁈ 貴様には従う以外の選択肢などない!!」
カエル貴族がドタドタと近付いて来たかと思うと、水かきのついた手が伸ばされる。
「来い!!」
その手が俺の首元を鷲掴みしようとした一瞬。
「うがぁっ⁈」
「!!」
「なっ」
「伯爵さま!!」
吹き飛んだカエル貴族の丸い体が平原を転がる。
「なっ……」
「獄鬼が人間と組むなんて予想外に驚きはしたが――」
「トゥルヌソルの僧侶は最近調子が良いのよって最初に言ったんだけど、ね?」
レイナルドの背後、高い魔力回復ポーションを飲み終えたセルリーが笑う。わざと口元に垂らしていた果実の汁は拭き取り済み。
反撃開始の合図だ。
「みんな、頑張って!」
ぶわりと広がる、俺固有の応援領域。セルリー同様に魔力を回復したヒユナたちと力を合わせ僧侶4人の結界が再び全員を包み込む。薬で無理やりに回復させた魔力で維持出来る結界は10分程度だけど、きっと充分だ。
動揺する獄鬼に斬りかかったレイナルド。
彼の剣を受け止めた獄鬼の背後から斬りかかるグランツェ。あれほど余裕ぶっていた顔に、いまは確かな焦りが滲んでいた。
「テメェらも油断し過ぎだぜ!」
「がっ」
貴族の馬車周辺で混乱していた12人の護衛が、ゲンジャルらレイナルドパーティと、レイナルドと入れ変わるように移動したバルドルパーティによって次々と拘束されていく。
僧侶の護衛についたグランツェパーティ、護衛対象の周りにはオセアン大陸の冒険者達が分散し間違っても彼らが被害を受けないよう構える。
「小癪な……!」
獄鬼の地響きのような低い声と共に、その背後から噴出する黒い靄。
「!」
鋭い切っ先を備えて四方八方に散開する凶器に対し冒険者達が自らの肉体に身体強化を施し迎え撃つ間、俺は一心に子ども達を抱き締めていた。
戦えない自分がすべきことはこの子たちを護ること。
絶対に傷一つ付けさせない。
「まさ、か……」
口から赤い液体を垂らしたセルリーさんが震える声で馬車を睨む。レイナルドが彼女を背に庇うように構え、レイナルドパーティの皆が戦闘態勢に入るが、そんな彼らを嘲笑するのがマーヘ大陸の護衛騎士達だった。
そして。
「ようやくこの鬱陶しい状況を終わらせられるというわけだ」
馬車から下りて姿を現したカエル顔の貴族がにやりと微笑む。
更には先ほどからビリビリと感じていた不快感がより一層強く、濃く、まるで周囲の草木を腐らせるのではないかと錯覚するくらい強烈に辺りに漂い始めた。
カエル貴族の横に立つ男は、見た目だけなら人だ。
しかし俺の目には赤い警告画面が点滅し、彼が危険人物だと訴えている。
スキル「天啓」。
タップして理由を表示させれば「獄鬼。17人を喰らっている。」の文字と危険度が★5つ。
(あいつが……!)
獄鬼の気配は、結界が無いとこんなにも酷い。
けど、僧侶だからこの程度で済んでいる。なぜなら身の内にある神力が根っこのところで守ってくれるからで、神力がない他の皆がどんな影響を受けるかなんて言葉では言い表せないほどに残酷だ。
金級のレイナルドパーティだって顔色が悪い。
銀級のクルト、バルドルパーティの面々に至っては歯がカタカタと鳴るくらい体を震わせ、武器を構える手からは汗が落ちていく。
ましてや荷台にいる一般市民にとっては毒も同然。胸を抑え吐いている人もいるくらいで、この獄鬼の悪質振りがよく判る。
だからこそ。
(そんな影響、子ども達には受けさせないからな……!)
俺の細腕でも全員を抱き締められるようぎゅうぎゅうに集まってもらったのはそのためだ。リーデン様が掛けてくれた守護、その範囲内にいるこの子たちの心が守られるよう願う。
「みんな、しっかり目を瞑って、顔を伏せて。何があっても絶対に顔を上げちゃだめだよ」
「うんっ」
「こわいよぉ……」
「だいじょぶ、ぼーけんしゃはつよいもん!」
俺の役目はこの子たちを護ること。
何度も、何度も自分に言い聞かせる。
大丈夫。
大丈夫。
獄鬼がどんなに強くたって――。
「くくくっ」
獄鬼が笑う。
「僧侶共に俺らの催眠は効かないが、神力がすっからかんになった今なら喰らえそうだな。僧侶を喰ったら特殊な進化を果たしたりしねぇかな」
「おい獄鬼、あっちの人族とガキどもをこの馬車に乗せろ、船に向かう。喰らうのはその後だ」
「へぇへぇ」
「レン!」
「動くな、死ぬのは無力な連中だぜ?」
駆け寄ろうとしたレイナルド達に剣先を当てたマーヘ大陸の護衛達。
近付いて来る獄鬼の足音に、大丈夫だと思っていても、体が竦む。
「さて、雇い主がおまえをご所望だ」
獄鬼は俺の前に立ち、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「そこのガキどもを殺されたくなきゃ大人しくあっちの馬車に移動しろ」
自分達の優位を信じて疑わない態度に、……呆れる。
レイナルドを見た。
小さく頷かれる。
セルリーとゲンジャル、ミッシェル、アッシュ、そしてウォーカー。
獄鬼の後方にクルト。
バルドル。
もう、お芝居は終わりだ。
「お断りします」
「は?」
「断る、と言いました」
「貴様! いまの自分の状況が見えているのか⁈ 貴様には従う以外の選択肢などない!!」
カエル貴族がドタドタと近付いて来たかと思うと、水かきのついた手が伸ばされる。
「来い!!」
その手が俺の首元を鷲掴みしようとした一瞬。
「うがぁっ⁈」
「!!」
「なっ」
「伯爵さま!!」
吹き飛んだカエル貴族の丸い体が平原を転がる。
「なっ……」
「獄鬼が人間と組むなんて予想外に驚きはしたが――」
「トゥルヌソルの僧侶は最近調子が良いのよって最初に言ったんだけど、ね?」
レイナルドの背後、高い魔力回復ポーションを飲み終えたセルリーが笑う。わざと口元に垂らしていた果実の汁は拭き取り済み。
反撃開始の合図だ。
「みんな、頑張って!」
ぶわりと広がる、俺固有の応援領域。セルリー同様に魔力を回復したヒユナたちと力を合わせ僧侶4人の結界が再び全員を包み込む。薬で無理やりに回復させた魔力で維持出来る結界は10分程度だけど、きっと充分だ。
動揺する獄鬼に斬りかかったレイナルド。
彼の剣を受け止めた獄鬼の背後から斬りかかるグランツェ。あれほど余裕ぶっていた顔に、いまは確かな焦りが滲んでいた。
「テメェらも油断し過ぎだぜ!」
「がっ」
貴族の馬車周辺で混乱していた12人の護衛が、ゲンジャルらレイナルドパーティと、レイナルドと入れ変わるように移動したバルドルパーティによって次々と拘束されていく。
僧侶の護衛についたグランツェパーティ、護衛対象の周りにはオセアン大陸の冒険者達が分散し間違っても彼らが被害を受けないよう構える。
「小癪な……!」
獄鬼の地響きのような低い声と共に、その背後から噴出する黒い靄。
「!」
鋭い切っ先を備えて四方八方に散開する凶器に対し冒険者達が自らの肉体に身体強化を施し迎え撃つ間、俺は一心に子ども達を抱き締めていた。
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