生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら

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第3章 変わるもの 変わらないもの

64.界渡りの祝日(2)

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 その後、明日は教会に『成人の儀』を見学しに行こうとクルトに誘われて驚いた。
 まったくの無関係な身で大事な儀式を見学するなんて……と断ろうと思ったけど、僧侶立ち合いの中で『成人の儀』を受けられるのは嬉しいことだと教えられ、それならばと受け入れた。
 クルトはとても嬉しそうだった。
 更に昼食を屋台で購入して立ち食いしながらの会話の中で、パーティは4時に冒険者ギルドで集合だと聞かされた。ダンジョンで入手したあれこれの査定結果を聞きに行くそうだ。
 ダンジョンに行っていない俺は呼ばれてないけど、レイナルドに相談があったので同行して良いかと尋ねたら「もちろん」と即答。
 むしろ誘うつもりだったと言われて、仲間だと思ってくれているのだと実感出来たことが嬉しかった。
 時間より少し早く集まったレイナルドパーティ7名で査定結果を聞き、今回は全て売却。クルトは借金総額の八分の一を返済した上で貯蓄まで出来たと喜んでいた。
 全員に収納用の箱型魔導具が返却され、クルトは返済の手続きが必要だという理由でその場を離れることになったのを機に、俺はレイナルドに近付き――。


「本当の故郷をクルトやゲンジャル達に話した方がいいか、って?」

 内容を鑑み、二人でギルド内の部屋を借りての内緒話。もちろん妙な噂を立てられないようドアは開けっ放しにし、廊下にはミッシェルとアッシュに立ってもらっているが、内容が漏れ聞こえないよう注意している。
 これは切実な問題なのだ。

「これから依頼に一緒に行くってなったら、作戦会議もありますよね?」
「そりゃぁな」
「もしレイナルドさんと一対一で話が聞けるなら、疑問に思ったことをその都度確認出来ますけど、俺の事情を知らない人が一緒だった場合はどういう質問なら不審がられないのか、とか。そういう判断が出来ないです」
「……ふむ」
「余裕のある状況なら後で確認でもいいですが、いつもそうとは限りません」
「確かにな」

 レイナルドは理解を示してくれるが表情はまだ渋い。
 おかしいな、話した方が良いかの確認だったはずなのにどう説得したらいいのか頭をフル回転させている自分がいる。

「俺……自分のせいで皆さんに迷惑が……皆さんを危険に晒すのはイヤです」

 それに転移者だってことを隠している間はずっと嘘を重ね続けることになるだろう。最初のうちは騙せても嘘が増えるにつれて矛盾や誤差が生じるのは明らかだ。
 ましてや後になればなるほど積み重ねて来た信頼がひっくり返った時の反動は大きい。
 そこに残るのは修復不可能な関係だけ……。

「だから、話した方が良いと思ったんですけど……レイナルドさんはどう思いますか?」
「どうって言われてもな……それは俺がどうこう言える問題じゃねぇだろう」
「……と言うと?」
「問題がデカすぎだ。どうしても話したいと思うならホントの保護者を説得してこい」
「ホントの?」
「そ。俺はあくまでも対外的な保護者であって本当の意味でおまえを護ってるのは……だろ」

 レイナルドは指で自分の胸元を突く。
 その場所が、リーデンに噛まれた場所だと気付いた途端に顔が熱くなった。それで俺が理解したことを察したんだろうレイナルドが呆れたような息を吐く。

「判ったか」
「確かにそうですね、聞いてみます!」

 赤くなったのをどう判断されたのか考えるのも怖くて早口に応じた。
 あぁもう……思い出させないで欲しかった。リーデンに噛まれた後に残った痣だが、実は全然消えないどころか最近は花の形に見えて来ているのだ。
 確かに人目に触れない場所を選んでくれたようだが、鏡なんかで目にするたびに噛まれた瞬間が生々しく蘇って来て精神的にとてもよろしくない。
 思い出すだけで心臓がバクバクだ。

「えっと、あ、護衛依頼の装備の件で、その、保護者……から貰った装備があって」
「ほう?」
「見た目……違うか、あー……いえ、皮の鎧と、ズボンと、樫の盾と檜の棒なんですけど、耐久値……? 防御力は、すごくて」
「まぁそうだろうとは思うが、よりによって見た目がそれか」
「そうなんです、見た目が、なんというか、完全に初心者で」

 どこかの村から出て来た12歳の新人冒険者という体であれば何の違和感もない完璧な見た目なのだが、鉄級に上がり、金級のレイナルドパーティと一緒に護衛依頼を受ける冒険者としては「買い換えろ」と怒られるレベルだ。
 そういうのは半年間の経験で俺にも判断出来るようになっている。
 下手したら彼らが「僧侶を利用するだけ利用して冷遇している」なんて言われかねない。

「何の皮か判るか?」
「……わかりませんけど、初心者って言われて違和感が無いです。最初にトゥルヌソルに来た時に付けていたんですけど、覚えてませんか」
「んー……まぁでも記憶にないってことは違和感がなかったってことだな」

 彼は自分の五感を信じている人だ。
 今の流れでしっかりと理解してくれたっぽいのだが、逆に表情はますます渋いことになっている。

「おまえ相手に半端なものを渡すとも思えんし、見た目が皮だろうと物が確かなのは間違いないんだろう」
「そうなんです」
「とりあえずそれも俺には判断し難い。ゲンジャル達に話すかどうかを聞けるんだったら、それもそっちで相談した方がいいぞ」
「……はい」

 装備も要相談になってしまった。
 リーデンは『界渡りの祝日』の間は帰れなくて、護衛依頼はその翌日から。下手したら会えないまま出発する事になるかもしれないと考えると、せめて装備の問題だけは解決したかった。

(昨日の内に気付いていたら相談出来たのになぁ)

 自分の間の悪さにがっくりと肩を落とすしかなかった。




 帰ってもリーデンはいないと思うと真面目に夕飯を作る気も、食欲も湧かず、この半年で初めてパントリーにたまたま保管してあったカップ麺で済ませてしまった。
 朝ご飯も、何でもいいかなって。

(明日は屋台で何か買ってから帰ってこよう……)

 祭りの屋台がたくさん出ているし、時間停止のパントリーや冷蔵庫に入れておけばいつでも作り立てのほっかほかだ。

「……たった半年なのに」

 一人で食べ、一人で片付け、一人で眠り、一人で起きる。
「行って来ます」も「ただいま」も。
 見送りも出迎えも無いのが高校を卒業すると同時に家を出て以来ずっと自分の当たり前だったのに、……リーデンのせいですっかり弱くなってしまっていることをこんな形で自覚する。

「会いたいな」

 ぽつりと零れた言葉に自嘲する。
 まだたった一日なのに、って。
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