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第2章 新人冒険者の奮闘
60.報告と、お祝いと、厄介事の種
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「帰って来て早々、厄介事に巻き込まれているとは思わなかったな」
冒険者ギルドへの移動中、そう言って笑ったのはゲンジャルだ。
イヌ科の大男で盾役を任されている彼は、顔にはもちろん体のあちこちに傷がある。いままで僧侶がいなかった――正確には現在進行形でダンジョンには僧侶不在で籠っているため、負傷しても戦闘が終わるまで薬やポーションが使えないし、それらの補充が出来ないから必然的に軽傷は自然治癒。傷跡が残るのも当然と言えるだろう。おかげで厳つい容貌に迫力まで加わっているが、双子の娘の前では顔が緩むのを知っているので、ゲンジャルにはとっても良いお父さんのイメージしかない。
そして、そんな彼の二つ下の妹がミッシェル。
彼女は魔法使いだ。
「ほんとは1週間前くらいに帰って来てるはずだったんだけど、全員の調子が良過ぎたのよ」
頭脳派だと自称する彼女だが、戦闘が始まると誰よりも嬉々として攻撃魔法をぶっ放すのは周知の事実。獣人族は基本的に考えるのが苦手だとはレイナルドの談である。
メンバーの中で一番小さな彼女でも身長は2メートル近いし、俺の小ささがいっそう際立っている。
「レンの影響って、一緒にいなくても持続するのかって話してたのよ」
そう言うのはウマ科のアッシュ。
長い茶色の髪をポニーテールに結わえた彼女はスラリとした体形だが、棍を武器に戦場を駆け回る攻撃役なだけあってしっかりと筋肉がついている。
旦那さんが大好き過ぎて素で惚気られるのには驚くが、そういうときの彼女はとっても可愛いし、一緒に居る時は彼女が俺の護衛に立ってくれることが多い気がするのでレイナルドの次くらいに仲良しだと思う。
そして、背中に大剣を背負った筋骨隆々とした戦士がクマ科のウォーカーだ。
口数は少ないけど表情が判り易くて、お酒が好き。
食べることも好きみたいで、食事を作った時はすごく美味しそうに食べてくれたのが印象的だった。
最後にクルト。
腰に愛用の魔法剣を佩いたリス科の彼は素早い動きで敵陣を翻弄する攻撃役。金級冒険者が勢揃いしているこのパーティでは力不足が目立つのを悩んでいるようだけど、レイナルド曰く「素直で実直、たまに妄想で感情を昂らせるのは困りものだが、将来有望」。
「俺もいつもより体が動いた気がする。出発前にレンくんが無事を祈ってくれたからかな」
「そんなことは……」
って答えたけど、もしかしたら……もしかするんだろうか。
畑の薬草がああなるくらいだし。
それとも寝る前にみんなが元気に帰ってきますようにって祈ってたせいかな……と、いま悩んでも答えは出ないし、それよりも。
「初めての金級ダンジョンはどうでしたか?」
「怖かった! でもすごくいい経験になったし、それに……あぁっ言いたいんだけど、でもレンくんにも自分で実際に見て欲しい気がする!」
もしかしてダンジョンがある場所のことかな、って以前のリーデンの言葉を思い出す。
「実際に見れるのは、どんなに早くても2年以上先ですよ」
「だよね。でも……うーん」
「そんなにすごい場所にあったんですか?」
「すごかった! 聞きたい?」
「聞きたいです」
笑うのを我慢しながら答えたのに、ゲンジャル達には遠慮皆無。声を上げて笑っている。
「なんと! 滝壺の中だったんだ!」
「中?」
「飛び込むんだよ、滝壺に!」
「飛び、込む」
「そう! びしょ濡れになったりはしないんだけど崖の上から飛び降りないと入り口になっている転移陣を通り抜けられないんだ。帰りはダンジョン内の転移陣を通って崖の上に戻るから楽だったけど、行くときは死ぬんじゃないかってくらい怖かった!」
「……それって、何メートルくらいの高さなんでしょう……?」
「んー、50メートルくらい?」
「命綱は⁈」
「ないない、今回はレイナルドさんがこうやって抱えて飛んでくれたけど」
腰の横に腕で抱えて持ってくれたが、次回からは自分で飛び込めと言われたらしい。
「それ無理です、高いのダメです!」
「大丈夫、慣れるよ」
「慣れませんよ⁈」
「レンは高い所がダメなのか?」
「足場がしっかりしていれば別に……でも、それは、ダメ!」
バンジージャンプとかテレビで見るのもダメだったのに!!
「平気平気」
「じゃないです!」
「レンはやる前から諦める子じゃないはずだ」
「うっ」
「すぐ慣れるさ」
「くっ……!」
そうだ、努力もしないで無理なんて言葉を使ってはダメだ。
(食わず嫌いならぬ、やらず嫌いなのは否定できない……!)
修学旅行で訪れたアミューズメントパーク。
ジェットコースターでは心臓が口から出そうになり、フリーホールなんて乗り場の前で足が竦んで同級生に笑われたけど、回数をこなせば平気になる……だろうか。
学生時代は「乗らない」で迷惑を掛ける事はなかったけど、ダンジョンの入り口に入れないでは役に立たない以前の問題だ。
「わ、判りました……っ」
自分でも悲痛な声が出たなと思ったけど、パーティの皆は笑ってる。
「いざとなったらレン一人くらい背負って飛んでやるから心配すんな」
「そうよ、私でも抱っこして飛べそう」
「っ、二年後にはしっかり大きくなってますよ!」
「ふふっ、それはそれで楽しみだな」
ゲンジャル、ミッシェル、アッシュに言われ、ウォーカーにニコニコ見守られて、恥ずかしくなって来た。
クルトからは「一緒に頑張ろうね」って肩を叩かれる。
うん、ちょっと切なかった。
そんな遣り取りをしながらギルドに到着すると、彼らに気付いた冒険者達がざわめく。
「帰って来たぞ」
「今回は何層まで進んだんだ?」
そんな期待と羨望の入り混じった視線を感じながら、気付かぬふりでカウンターに向かう一行。
職員の一人が奥の事務所にも声を掛けたことで、ギルドマスターのハーマイトシュシューと、サブマスターのララにも出迎えられた。
「おかえり」
「お疲れ様です」
「レイナルドパーティ、いま戻りました」
二人からの労いに、代表してゲンジャルが答える。
「本人は所用でいませんが、これは預かっているので手続きをお願いします」
言いながら鞄から取り出すのは、さっきレイナルドから預かった箱型の魔導具だ。
それを見て、ララがカウンターに座り事務作業を始める。
この箱型の魔導具は、中に荷物を入れて運べる、いわゆる内部が拡張された収納ボックスだ。
容量は一部屋分って言われて、最初は「どの部屋一つ分?」ってなったけど、聞いている感じだと6畳間くらいかな。
魔導具には一つ一つ個別の番号が振ってあって、所有者を登録済み。
冒険者ギルドにはこれを開く秘密道具があり、量が量だから特殊な専用部屋で一つずつ開けて中身を査定していくんだそうだ。
金級冒険者は一人一つ。
銀級だとパーティで一つあるかないか。理由は、これがとても高価な魔導具だからだ。
「こっちが俺のです」
今度は自分の魔導具を取り出してカウンターに置くゲンジャル。
続いてミッシェル、アッシュ、ウォーカーも自分の分を置き、その都度、ララが手元の用紙に何かを記していく。
「それと、これがクルトのです」
クルトの分だと言いながらゲンジャルが出す。
「俺は借りている身だからね」
耳元でこそっとクルトが言うので、俺はこくんと頷くだけにしておいた。
後で聞いた話、今回の稼ぎで借金の八分の一くらいが返済出来るらしい。すごいぞダンジョン。
「そういえば」
手続き中のララの横で、ハーマイトシュシューが此方を見る。
「レンくんは昇級おめでとう」
「ありがとうございます!」
答えたら、周りの皆が目を丸くした。
「もう昇級したの⁈ おめでとうっ、早くない⁈」
「まじかっ、おめでとうレン。お祝いしないとならんな!」
「うわぁおめでとう、すごいすごい!」
「次は一緒に依頼に行こうね」
ミッシェルを皮切りに次々とお祝いされて、嬉しくなる。
次は一緒に……そう言われたから尚更だ。
「よし、明日の打ち上げはレンの昇級祝いも加えて派手にいくぞ!」
「「「「おー!」」」」
「レンは明日の昼、時間あるか? クランハウスに12時集合でどうだ」
「大丈夫です!」
「楽しみだね」
「はい!」
冒険者はダンジョンや依頼から帰って来ると、全員が無事に帰って来たことを主神様に感謝する、という名目でどんちゃん騒ぎをするのが慣例なんだそうだ。
そこで俺の昇級祝いもしてくれるなんて、嬉しくないわけがない。
せめて美味しいお酒を差し入れしようと決めた。
6人分の魔道具をララさんに預け、ダンジョンで入手したあれこれの査定を頼めば、いますべきことは完了だ。家族も待っているし、レイナルドが戻るのを待ってクランハウスに移動しようと話し始めたところで当人が合流した。
「おかえりレイ」
「お疲れさまでした」
ハーマイトシュシューとララがそう声を掛け、しかし様子がおかしいことに気付いたのだろう。
「何かあったのかい?」
「いや、大したことはないんだが厄介な奴がトゥルヌソルに来ててな」
「厄介?」
「ああ。マーヘ大陸の貴族だ」
マーヘの名に、周囲の誰もが表情を硬くする。
判っていないのは俺だけっぽい。
「シュー。トゥルヌソルに住んでいる人族、特に一般民だな。警戒するよう通達を出してくれ。あの連中は何をするか分かったもんじゃない」
「わかった」
「あの……」
説明を求めても良いかな、と恐る恐る手を上げれば、俺の本当の素性を知っている三人がハッとした顔になる。
「クランハウスに戻ったら説明してやる。この後は時間あるのか?」
「ぁ、はい。昇級したので」
「思ったより早かったな、よくやった!」
「っ……頑張りました!」
おめでとうと大きな手に頭を撫でられ、それまで漠然と膨らんでいた不安が消えていくのを感じる。
……とは言え、厄介なマーヘ大陸の貴族って、たぶんさっきの老紳士関連だよね。
初めての『界渡りの祝日』を楽しみにしていたのに、何とも言えない気持ちになってしまった。
冒険者ギルドへの移動中、そう言って笑ったのはゲンジャルだ。
イヌ科の大男で盾役を任されている彼は、顔にはもちろん体のあちこちに傷がある。いままで僧侶がいなかった――正確には現在進行形でダンジョンには僧侶不在で籠っているため、負傷しても戦闘が終わるまで薬やポーションが使えないし、それらの補充が出来ないから必然的に軽傷は自然治癒。傷跡が残るのも当然と言えるだろう。おかげで厳つい容貌に迫力まで加わっているが、双子の娘の前では顔が緩むのを知っているので、ゲンジャルにはとっても良いお父さんのイメージしかない。
そして、そんな彼の二つ下の妹がミッシェル。
彼女は魔法使いだ。
「ほんとは1週間前くらいに帰って来てるはずだったんだけど、全員の調子が良過ぎたのよ」
頭脳派だと自称する彼女だが、戦闘が始まると誰よりも嬉々として攻撃魔法をぶっ放すのは周知の事実。獣人族は基本的に考えるのが苦手だとはレイナルドの談である。
メンバーの中で一番小さな彼女でも身長は2メートル近いし、俺の小ささがいっそう際立っている。
「レンの影響って、一緒にいなくても持続するのかって話してたのよ」
そう言うのはウマ科のアッシュ。
長い茶色の髪をポニーテールに結わえた彼女はスラリとした体形だが、棍を武器に戦場を駆け回る攻撃役なだけあってしっかりと筋肉がついている。
旦那さんが大好き過ぎて素で惚気られるのには驚くが、そういうときの彼女はとっても可愛いし、一緒に居る時は彼女が俺の護衛に立ってくれることが多い気がするのでレイナルドの次くらいに仲良しだと思う。
そして、背中に大剣を背負った筋骨隆々とした戦士がクマ科のウォーカーだ。
口数は少ないけど表情が判り易くて、お酒が好き。
食べることも好きみたいで、食事を作った時はすごく美味しそうに食べてくれたのが印象的だった。
最後にクルト。
腰に愛用の魔法剣を佩いたリス科の彼は素早い動きで敵陣を翻弄する攻撃役。金級冒険者が勢揃いしているこのパーティでは力不足が目立つのを悩んでいるようだけど、レイナルド曰く「素直で実直、たまに妄想で感情を昂らせるのは困りものだが、将来有望」。
「俺もいつもより体が動いた気がする。出発前にレンくんが無事を祈ってくれたからかな」
「そんなことは……」
って答えたけど、もしかしたら……もしかするんだろうか。
畑の薬草がああなるくらいだし。
それとも寝る前にみんなが元気に帰ってきますようにって祈ってたせいかな……と、いま悩んでも答えは出ないし、それよりも。
「初めての金級ダンジョンはどうでしたか?」
「怖かった! でもすごくいい経験になったし、それに……あぁっ言いたいんだけど、でもレンくんにも自分で実際に見て欲しい気がする!」
もしかしてダンジョンがある場所のことかな、って以前のリーデンの言葉を思い出す。
「実際に見れるのは、どんなに早くても2年以上先ですよ」
「だよね。でも……うーん」
「そんなにすごい場所にあったんですか?」
「すごかった! 聞きたい?」
「聞きたいです」
笑うのを我慢しながら答えたのに、ゲンジャル達には遠慮皆無。声を上げて笑っている。
「なんと! 滝壺の中だったんだ!」
「中?」
「飛び込むんだよ、滝壺に!」
「飛び、込む」
「そう! びしょ濡れになったりはしないんだけど崖の上から飛び降りないと入り口になっている転移陣を通り抜けられないんだ。帰りはダンジョン内の転移陣を通って崖の上に戻るから楽だったけど、行くときは死ぬんじゃないかってくらい怖かった!」
「……それって、何メートルくらいの高さなんでしょう……?」
「んー、50メートルくらい?」
「命綱は⁈」
「ないない、今回はレイナルドさんがこうやって抱えて飛んでくれたけど」
腰の横に腕で抱えて持ってくれたが、次回からは自分で飛び込めと言われたらしい。
「それ無理です、高いのダメです!」
「大丈夫、慣れるよ」
「慣れませんよ⁈」
「レンは高い所がダメなのか?」
「足場がしっかりしていれば別に……でも、それは、ダメ!」
バンジージャンプとかテレビで見るのもダメだったのに!!
「平気平気」
「じゃないです!」
「レンはやる前から諦める子じゃないはずだ」
「うっ」
「すぐ慣れるさ」
「くっ……!」
そうだ、努力もしないで無理なんて言葉を使ってはダメだ。
(食わず嫌いならぬ、やらず嫌いなのは否定できない……!)
修学旅行で訪れたアミューズメントパーク。
ジェットコースターでは心臓が口から出そうになり、フリーホールなんて乗り場の前で足が竦んで同級生に笑われたけど、回数をこなせば平気になる……だろうか。
学生時代は「乗らない」で迷惑を掛ける事はなかったけど、ダンジョンの入り口に入れないでは役に立たない以前の問題だ。
「わ、判りました……っ」
自分でも悲痛な声が出たなと思ったけど、パーティの皆は笑ってる。
「いざとなったらレン一人くらい背負って飛んでやるから心配すんな」
「そうよ、私でも抱っこして飛べそう」
「っ、二年後にはしっかり大きくなってますよ!」
「ふふっ、それはそれで楽しみだな」
ゲンジャル、ミッシェル、アッシュに言われ、ウォーカーにニコニコ見守られて、恥ずかしくなって来た。
クルトからは「一緒に頑張ろうね」って肩を叩かれる。
うん、ちょっと切なかった。
そんな遣り取りをしながらギルドに到着すると、彼らに気付いた冒険者達がざわめく。
「帰って来たぞ」
「今回は何層まで進んだんだ?」
そんな期待と羨望の入り混じった視線を感じながら、気付かぬふりでカウンターに向かう一行。
職員の一人が奥の事務所にも声を掛けたことで、ギルドマスターのハーマイトシュシューと、サブマスターのララにも出迎えられた。
「おかえり」
「お疲れ様です」
「レイナルドパーティ、いま戻りました」
二人からの労いに、代表してゲンジャルが答える。
「本人は所用でいませんが、これは預かっているので手続きをお願いします」
言いながら鞄から取り出すのは、さっきレイナルドから預かった箱型の魔導具だ。
それを見て、ララがカウンターに座り事務作業を始める。
この箱型の魔導具は、中に荷物を入れて運べる、いわゆる内部が拡張された収納ボックスだ。
容量は一部屋分って言われて、最初は「どの部屋一つ分?」ってなったけど、聞いている感じだと6畳間くらいかな。
魔導具には一つ一つ個別の番号が振ってあって、所有者を登録済み。
冒険者ギルドにはこれを開く秘密道具があり、量が量だから特殊な専用部屋で一つずつ開けて中身を査定していくんだそうだ。
金級冒険者は一人一つ。
銀級だとパーティで一つあるかないか。理由は、これがとても高価な魔導具だからだ。
「こっちが俺のです」
今度は自分の魔導具を取り出してカウンターに置くゲンジャル。
続いてミッシェル、アッシュ、ウォーカーも自分の分を置き、その都度、ララが手元の用紙に何かを記していく。
「それと、これがクルトのです」
クルトの分だと言いながらゲンジャルが出す。
「俺は借りている身だからね」
耳元でこそっとクルトが言うので、俺はこくんと頷くだけにしておいた。
後で聞いた話、今回の稼ぎで借金の八分の一くらいが返済出来るらしい。すごいぞダンジョン。
「そういえば」
手続き中のララの横で、ハーマイトシュシューが此方を見る。
「レンくんは昇級おめでとう」
「ありがとうございます!」
答えたら、周りの皆が目を丸くした。
「もう昇級したの⁈ おめでとうっ、早くない⁈」
「まじかっ、おめでとうレン。お祝いしないとならんな!」
「うわぁおめでとう、すごいすごい!」
「次は一緒に依頼に行こうね」
ミッシェルを皮切りに次々とお祝いされて、嬉しくなる。
次は一緒に……そう言われたから尚更だ。
「よし、明日の打ち上げはレンの昇級祝いも加えて派手にいくぞ!」
「「「「おー!」」」」
「レンは明日の昼、時間あるか? クランハウスに12時集合でどうだ」
「大丈夫です!」
「楽しみだね」
「はい!」
冒険者はダンジョンや依頼から帰って来ると、全員が無事に帰って来たことを主神様に感謝する、という名目でどんちゃん騒ぎをするのが慣例なんだそうだ。
そこで俺の昇級祝いもしてくれるなんて、嬉しくないわけがない。
せめて美味しいお酒を差し入れしようと決めた。
6人分の魔道具をララさんに預け、ダンジョンで入手したあれこれの査定を頼めば、いますべきことは完了だ。家族も待っているし、レイナルドが戻るのを待ってクランハウスに移動しようと話し始めたところで当人が合流した。
「おかえりレイ」
「お疲れさまでした」
ハーマイトシュシューとララがそう声を掛け、しかし様子がおかしいことに気付いたのだろう。
「何かあったのかい?」
「いや、大したことはないんだが厄介な奴がトゥルヌソルに来ててな」
「厄介?」
「ああ。マーヘ大陸の貴族だ」
マーヘの名に、周囲の誰もが表情を硬くする。
判っていないのは俺だけっぽい。
「シュー。トゥルヌソルに住んでいる人族、特に一般民だな。警戒するよう通達を出してくれ。あの連中は何をするか分かったもんじゃない」
「わかった」
「あの……」
説明を求めても良いかな、と恐る恐る手を上げれば、俺の本当の素性を知っている三人がハッとした顔になる。
「クランハウスに戻ったら説明してやる。この後は時間あるのか?」
「ぁ、はい。昇級したので」
「思ったより早かったな、よくやった!」
「っ……頑張りました!」
おめでとうと大きな手に頭を撫でられ、それまで漠然と膨らんでいた不安が消えていくのを感じる。
……とは言え、厄介なマーヘ大陸の貴族って、たぶんさっきの老紳士関連だよね。
初めての『界渡りの祝日』を楽しみにしていたのに、何とも言えない気持ちになってしまった。
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