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第2章 新人冒険者の奮闘

35.家族のカタチ

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 家族と聞いて微笑ったリーデンは、さっきまでの不愛想など嘘みたいに表情を緩ませていた。
 纏う空気はぽわぽわし。
 鼻歌だって歌い出しそうだ。

「そうか……家族か……」

 なんだろう。
 ものすごく期待されているように思うのだが、何を期待されているのかが想像出来ない。というか、よく考えたら家族など居た事がないから判らないのだ。
 一緒に暮らすのが家族なら孤児院の皆がそうなるけど、相手の役に立たなきゃ追い出されるかもとか、迷惑になっちゃダメだとか考える関係をそうとは呼べない気がする。
 だから「仲良く暮らす」というイメージをしてみるのだが、俺の本音が邪なせいで全部が新婚っぽいものになってしまう。
 だったらその中間はどうだ。
 ご飯出来るまで片方は新聞読みながら食卓で待つ……うーん、それはたぶんどこかの熟年夫婦だ。

(混乱してきた)

 家族というものについて今一度よく考える必要があると確信したので、今は横に置いておくことにして、焼き上がったお菓子をオーブンから取り出す事にした。
 鍋つかみを手に付けて中から熱くなった鉄板を取り出すと、そこに乗っていたのは2本の型の中で美味しそうに焼き上がったパウンドケーキだ。
 匂いも、見た目も、良い感じ。

「美味しそうです」
「4種の材料を混ぜただけ……じゃなく、俺じゃない。いや、やったかもしれない」
「なんですかそれ」

 頑なな態度もだんだんと可愛く思えてきて、つい声を出して笑ったら、リーデンは決まりの悪い表情を浮かべて白状した。
 パウンドケーキって4つの材料を全部、フランスの単位で1ポンドずつ混ぜるからそういう名前が付いたんだったっけ。そう聞くと簡単かもしれないけど今まで食に興味のなかった人が作ったんだ。ローズベリーという協力者がいたとしても大変だったのではないだろうか。

「なんでお菓子だったんですか?」
「……ローズベリーが、それが詫びの鉄板だと言うからだ」
「……ふふっ」
「おかしかったか?」
「いえ。想像すると……実際に作っている姿が見たかったなと思って」
「変なことはしていないはずだが」
「そんな心配はしていませんよ」

 念のためにまな板を置き、その上に鉄板から下ろしたパウンド型を置く。
 食べるのはもう少し冷ましてからだ。

「夕飯の後に一緒に食べましょう」
「ああ……」

 答えたリーデンは少し考える素振りを見せた後で続ける。

「すまないが少し天界エデンに戻る。夕飯、とは何時だ」
「えっと……今から準備するので、6時でどうですか?」
「6時だな。それまでには戻る」
「わかりました」
「行ってくる」
「え」

 消える間際に俺の右側頭部に顔を寄せたリーデン。

「え……」

 一人だけ残された部屋の中、俺の顔はまた火を吹くかと思った。
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