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第1章 異世界に転移しました
5.交易の街トゥルヌソル
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この世界に来て最初の街は、それから間もなく見えて来た。
途中にあった立て札に彫られていた文字は「交易の街トゥルヌソル」。
此処に来る途中で何度も鑑定で見た花の名前が、街の名前になっているらしい。夏の花で、まだつぼみすらついてなかったけど、おそらく小学生の頃に観察日記を付けたひまわりのような花だと思う。
(夏に今来た道を戻ったら、ひまわり通りになっていそうなくらいあったよな)
その景色を想像し、夏になったら見に行きたいと思った。
さて、見えて来た街は高い城壁に囲まれているから中の雰囲気までは判らないが、高台にあるらしい立派な邸は遠目にも確認出来るし、それなりに大きな街なのも左右に延びる城壁の長さから想像がつく。
ここなら冒険者ギルドも教科書を探す場所もありそうだ。
そのまままっすぐ進んでいくと、お城の門みたいな大きな入り口が見えてきて、でも半分くらいまで鉄格子が下りていて、その手前には検問を待っているのだろう人の列があった。
中には馬車で待っている人もいる。
「本物の馬車を見るのも初めてだけど……」
いよいよ未知との遭遇、初の異世界人との接触だと思うと心臓が騒がしくなってきた。
深呼吸をして列の最後尾に並ぶ。
すぐ前には親子連れだろう男性と少年の組み合わせ。その前には幌馬車と、重装備の男達。
検問はそんなに時間が掛からないようで順調に前に進んでいく。
「父さん、いつもの宿は空いているかな」
「どうだろう。まぁ時間も早いし大丈夫だと思うが」
ふと聞こえて来た会話に、自分も夜はどうしようかなと考える。
ここまで一時間くらい掛かったらしく、時刻は10時を少し過ぎたくらい。
神具を使えば寝る場所には困らないけど、他の人には見えないというそれをどこに展開したらいいのか、そういう土地勘もない。
となると、宿屋の部屋に「扉」を設置するのが妥当だろう。
せっかくの贈り物を使わないのは勿体ない気がするし、設置する扉も他者には見えないし、……部屋にいるはずなのにいない、という事になると面倒だが、部屋に鍵が掛かるなら問題は起き難いはずだ。
(うん、宿を探そう)
それが無難と結論付け、用が済んだら早めに宿を探してみようと決めた。
「よし、次」
力強い声がして、幌馬車が進む。
「名は?」
「エンリケ・マクガーデン。マクガーデン商会の次男です。彼らはここまで護衛してくれた冒険者達です」
「身分証紋をこれに。君達も」
「はい」
「うっす」
「――よし、通って良いぞ」
「ありがとうございます。お役目お疲れ様です」
ガラガラと音を立てながら幌馬車が門をくぐって街の中へ。馬車を囲むように立っていたあの人たちが冒険者だったのだと知って、少しテンションが上がる。
芸能人を街で見かけるのと似たような感じかもしれない。
(本当にいるんだ、冒険者が……!)
感動している間にも列は進み、今度は前に居た親子が呼ばれた。
門の側には、同じ皮だろうに自分のとは比べ物にならないくらい頑丈そうな鎧を身に付け、槍を持った二人の男と、女性が一人。
門番とか、門兵とか、そういう職業の人たちだと思う。
「名は?」
「デイビッド・オーブと、息子のアーロです」
「身分証紋をこれに」
「はい」
「君も」
「はいっ」
門兵は長さ十五センチくらいの石板を持っていて、親子はそこにカードみたいなものを押し当てている。あれも身分証紋なら、僧侶のグローブ、ネームタグ、カード……紋を刻むのは何でも良いのかもしれない。
「――よし、通って良いぞ」
「ありがとうございます」
「次」
「は、はい!」
いよいよ自分の番が来て、返事をするも声が上擦ってしまった。
恥ずかしい……。
「名は?」
「木ノ下蓮です」
「キノ……、すまない、もう一度頼む」
和名だと聞き取り難いのか。
しかも名前が先だった。
「すみません。レンです。レン・キノシタ」
「レン・キノ、キノッシ、タ……? 変わった響きだな」
「よく言われます」
初めてだけど、そう言っておく。
「身分証紋をこれに」
「はい」
「ああ、正教会の子なのか」
指示されるまま石板に身分証紋を押し当てると、門兵の態度が急に軟化した。
「まだ小さいのに修行の旅とは大したものだ。無理せずにな」
「はい」
「よし、通って良いぞ」
「ありがとうございます」
内心の緊張を何とか押し隠し、笑顔を浮かべて門をくぐる。
……未知との遭遇、無事に完了……?
正教会の関係者だと判った途端に優しくなったのが気になるが、城壁が厚く、見かけより長いトンネルみたいな門を通り抜けた、その瞬間。
「……!」
視界に飛び込んで来た光景に眩暈がして、些細な疑問などどうでもよくなってしまった。
行き交う馬車。
大勢の人々。
飛び交う喧噪。
街は、熱気と活気に溢れていた。
「ふあぁ……!」
驚き過ぎて周囲に気を配ることも忘れ、口を開けたまま呆けてしまう。
「君、大丈夫かい?」
「っ?」
だから急に声を掛けられて慌てた。
目線を上げると、さっきまで前に並んでいた親子に心配そうに見下ろされていた。
「一人でどうした。もしかして迷子になったのかい?」
「えっ、いえっ、俺は旅の僧侶でっ。正教会の所属でっ」
突然の質問に焦ってしまい巧く答えられない。
それでも正教会所属の旅の僧侶と聞いた親子は途端に納得した顔になる。さっきの門兵と一緒だ。
「正教会の子か! そりゃあ小さいのに大したもんだ。この街は初めてかい?」
「は、はいっ。旅を始めたのもつい最近のことで……」
「そうかそうか。宿の取り方は大丈夫かな?」
「あ……初めてですが、頑張ります」
「うん」
男の人は、子どもを見るような優しい顔で微笑うと、道のずっと奥を指差す。
「この先に冒険者ギルドがある。この街の安全の要でもあるし、受付の人たちも優しいから、困ったことがあったら頼るといいよ」
「! ありがとうございます!」
思いがけず欲しい情報を得られて顔が緩んだ。
と、父親の方はにこりと笑って頷いてくれたが、少年の方が動揺したみたいに後退った。俺の態度に問題があったのかと気になったけど、それを言葉にするより早く親子は「じゃあね」と言って去ってしまった。
恐らく宿を取りに行ったんだろう。
「俺も行こう」
もちろん行先は冒険者ギルド。
落とし物もそうだけど、宿を取るにしろご飯を食べるにしろ、現金を手に入れなければならないのだ。
途中にあった立て札に彫られていた文字は「交易の街トゥルヌソル」。
此処に来る途中で何度も鑑定で見た花の名前が、街の名前になっているらしい。夏の花で、まだつぼみすらついてなかったけど、おそらく小学生の頃に観察日記を付けたひまわりのような花だと思う。
(夏に今来た道を戻ったら、ひまわり通りになっていそうなくらいあったよな)
その景色を想像し、夏になったら見に行きたいと思った。
さて、見えて来た街は高い城壁に囲まれているから中の雰囲気までは判らないが、高台にあるらしい立派な邸は遠目にも確認出来るし、それなりに大きな街なのも左右に延びる城壁の長さから想像がつく。
ここなら冒険者ギルドも教科書を探す場所もありそうだ。
そのまままっすぐ進んでいくと、お城の門みたいな大きな入り口が見えてきて、でも半分くらいまで鉄格子が下りていて、その手前には検問を待っているのだろう人の列があった。
中には馬車で待っている人もいる。
「本物の馬車を見るのも初めてだけど……」
いよいよ未知との遭遇、初の異世界人との接触だと思うと心臓が騒がしくなってきた。
深呼吸をして列の最後尾に並ぶ。
すぐ前には親子連れだろう男性と少年の組み合わせ。その前には幌馬車と、重装備の男達。
検問はそんなに時間が掛からないようで順調に前に進んでいく。
「父さん、いつもの宿は空いているかな」
「どうだろう。まぁ時間も早いし大丈夫だと思うが」
ふと聞こえて来た会話に、自分も夜はどうしようかなと考える。
ここまで一時間くらい掛かったらしく、時刻は10時を少し過ぎたくらい。
神具を使えば寝る場所には困らないけど、他の人には見えないというそれをどこに展開したらいいのか、そういう土地勘もない。
となると、宿屋の部屋に「扉」を設置するのが妥当だろう。
せっかくの贈り物を使わないのは勿体ない気がするし、設置する扉も他者には見えないし、……部屋にいるはずなのにいない、という事になると面倒だが、部屋に鍵が掛かるなら問題は起き難いはずだ。
(うん、宿を探そう)
それが無難と結論付け、用が済んだら早めに宿を探してみようと決めた。
「よし、次」
力強い声がして、幌馬車が進む。
「名は?」
「エンリケ・マクガーデン。マクガーデン商会の次男です。彼らはここまで護衛してくれた冒険者達です」
「身分証紋をこれに。君達も」
「はい」
「うっす」
「――よし、通って良いぞ」
「ありがとうございます。お役目お疲れ様です」
ガラガラと音を立てながら幌馬車が門をくぐって街の中へ。馬車を囲むように立っていたあの人たちが冒険者だったのだと知って、少しテンションが上がる。
芸能人を街で見かけるのと似たような感じかもしれない。
(本当にいるんだ、冒険者が……!)
感動している間にも列は進み、今度は前に居た親子が呼ばれた。
門の側には、同じ皮だろうに自分のとは比べ物にならないくらい頑丈そうな鎧を身に付け、槍を持った二人の男と、女性が一人。
門番とか、門兵とか、そういう職業の人たちだと思う。
「名は?」
「デイビッド・オーブと、息子のアーロです」
「身分証紋をこれに」
「はい」
「君も」
「はいっ」
門兵は長さ十五センチくらいの石板を持っていて、親子はそこにカードみたいなものを押し当てている。あれも身分証紋なら、僧侶のグローブ、ネームタグ、カード……紋を刻むのは何でも良いのかもしれない。
「――よし、通って良いぞ」
「ありがとうございます」
「次」
「は、はい!」
いよいよ自分の番が来て、返事をするも声が上擦ってしまった。
恥ずかしい……。
「名は?」
「木ノ下蓮です」
「キノ……、すまない、もう一度頼む」
和名だと聞き取り難いのか。
しかも名前が先だった。
「すみません。レンです。レン・キノシタ」
「レン・キノ、キノッシ、タ……? 変わった響きだな」
「よく言われます」
初めてだけど、そう言っておく。
「身分証紋をこれに」
「はい」
「ああ、正教会の子なのか」
指示されるまま石板に身分証紋を押し当てると、門兵の態度が急に軟化した。
「まだ小さいのに修行の旅とは大したものだ。無理せずにな」
「はい」
「よし、通って良いぞ」
「ありがとうございます」
内心の緊張を何とか押し隠し、笑顔を浮かべて門をくぐる。
……未知との遭遇、無事に完了……?
正教会の関係者だと判った途端に優しくなったのが気になるが、城壁が厚く、見かけより長いトンネルみたいな門を通り抜けた、その瞬間。
「……!」
視界に飛び込んで来た光景に眩暈がして、些細な疑問などどうでもよくなってしまった。
行き交う馬車。
大勢の人々。
飛び交う喧噪。
街は、熱気と活気に溢れていた。
「ふあぁ……!」
驚き過ぎて周囲に気を配ることも忘れ、口を開けたまま呆けてしまう。
「君、大丈夫かい?」
「っ?」
だから急に声を掛けられて慌てた。
目線を上げると、さっきまで前に並んでいた親子に心配そうに見下ろされていた。
「一人でどうした。もしかして迷子になったのかい?」
「えっ、いえっ、俺は旅の僧侶でっ。正教会の所属でっ」
突然の質問に焦ってしまい巧く答えられない。
それでも正教会所属の旅の僧侶と聞いた親子は途端に納得した顔になる。さっきの門兵と一緒だ。
「正教会の子か! そりゃあ小さいのに大したもんだ。この街は初めてかい?」
「は、はいっ。旅を始めたのもつい最近のことで……」
「そうかそうか。宿の取り方は大丈夫かな?」
「あ……初めてですが、頑張ります」
「うん」
男の人は、子どもを見るような優しい顔で微笑うと、道のずっと奥を指差す。
「この先に冒険者ギルドがある。この街の安全の要でもあるし、受付の人たちも優しいから、困ったことがあったら頼るといいよ」
「! ありがとうございます!」
思いがけず欲しい情報を得られて顔が緩んだ。
と、父親の方はにこりと笑って頷いてくれたが、少年の方が動揺したみたいに後退った。俺の態度に問題があったのかと気になったけど、それを言葉にするより早く親子は「じゃあね」と言って去ってしまった。
恐らく宿を取りに行ったんだろう。
「俺も行こう」
もちろん行先は冒険者ギルド。
落とし物もそうだけど、宿を取るにしろご飯を食べるにしろ、現金を手に入れなければならないのだ。
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