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第1章 異世界に転移しました
19.対獄鬼戦(2) side レイナルド※戦闘有り
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死。
それが脳裏を過った瞬間だった。
「!」
背後に隠れるようにして接近してくる癒しの波動。
そして頭上に響く拡声魔法。
『トゥルヌソルの東に獄鬼が出現。銀級以上の冒険者及び僧侶は至急現場に集合、獄鬼と討滅に助力を求む! 冒険者の子は『猿の縄張り』へ! 一般市民は職員の誘導に従って避難を!! 繰り返す、トゥルヌソルの東に獄鬼が出現、一般民は職員の指示に従って避難、銀級以上の冒険者及び僧侶は救援を!』
街に冒険者ギルドからの緊急要請が響き渡る。
これには、クルトらを嬲っていた獄鬼の靄手もビクリと動きを止めた。
「余計なことを……」
忌々しそうな舌打ち。
獲物を守る金級4人なら嬲って遊べても、これから続々と銀級以上の冒険者が、僧侶が、集まると聞いては警戒しないわけにはいかないだろう。
「……まぁいいか。しばらく潜伏して楽しむつもりだったけど、このトゥルヌソルに打撃を与えただけでも自慢出来るし」
「いっ、だああああ!」
「⁈」
言い終えるが早いか、地面から現れた靄手に身体のあちこちを持っていかれる。
レイナルドの右足と同じだ。
「クルト……!」
「あははっ! 今回はジェイの身体だけで満足するとしようかな。そこの可哀想なリスはもう死ぬだろうし。ふふっ……ふふふっ……あぁ楽しかった。また会おうね、わんちゃん達」
「くっ……」
右膝から下を失ったレイナルド。
疲弊しきっているミッチェル。
守るのに精いっぱいで力尽きる寸前のゲンジャル。
四肢を破壊され、体を抉られた痛みに意識を飛ばしたクルトと、腕に痺れを残しつつも彼を抱えたウォーカー。
満身創痍の5人を嘲笑し、ジェイの顔をした獄鬼は街を出ようと踵を返す、――が。
「「「「拘禁!!」」」」
「なっ……⁈」
四方から放たれ纏わりついた魔法の鎖にはっきりとジェイの顔色が変わる。
焦り。
「僧侶どもか……!」
「どんなに強くなろうが僧侶はイヤだよな? これ流す前にそりゃあ必要な人数は先に揃えるだろう」
頭上で繰り返される拡声魔法を指して言ってやれば悔しそうにその顔が歪む。
それを見て少しだけ留飲が下がった。
僧侶が出入りしているから獄鬼は近付けないなんて思い込みで油断していたことは否めない。しかし運良く炙り出せたいま、これは決して逃してはならない好機だ。
「トゥルヌソルはデカいんだ。デカいなりに色々と考えてるんだぜ、初侵入に成功した獄鬼ちゃんはご存知なかっただろうがな!」
「ふっざけやがって……!!」
髑髏の形相が変わり、周囲をくねくねと蠢く靄手がその濃さを更に増していく。
「くっ……」
その数に比例するように呻き声を漏らす冒険者が増えていく。
僧侶に囚われて尚、抵抗が出来るくらいに獄鬼の力は強く、強い力でされる抵抗は僧侶たちにとっても油断ならない。
「がはっ」
強引に力を引き出さんとする抵抗が僧侶たちに与えるのは臓器を握り潰されるような苦痛だ。
胃からせり上がって来るものが喉を焼く。
「っく、ぇ、天におわします我らが父よ、願わくは御名が尊ばれるこの地に永き平穏と幸福が齎されんことを……っ」
僧侶の一人が杖を地に立てて祝詞を紡ぐ。
すると別の僧侶が同じ言葉で追い掛けた。
天におわします我らが父よ。
願わくは御名が尊ばれるこの地に永き平穏と幸福が齎されんことを。
我らは父の子。
父の代理人。
この地を永きに渡り守るため。
傷つきし命の安らかなるを祈るため。
「「「「「「主よ、降り立ち給え!!」」」」」」
集まっていた六人の僧侶の声が揃った瞬間だった。
獄鬼を中心とした円環が僧侶たちを繋ぎ、白く巨大な円筒が完成した。
「! 結界を張ったのか……っ」
「この地に僧侶が集まると、そう知っていて侵入して来たのでしょう?」
「見つけたからには逃がすものか!!」
「貴様ら……っ」
獄鬼の顔が歪む。
何とか逃げようと力を放出する獄鬼と、それを絶対に逃すまいと結界の維持に全神経を傾け、歪む表情に汗を垂らす僧侶達。
その中で、ヒユナと名乗った若い僧侶がレイナルドの足に触れて解呪を試み、一人はウォーカーからクルトを預かって獄鬼から距離を取る。
集まる冒険者達。
結界はあくまで獄鬼の動きを抑えるものであり、それを倒そうとする冒険者の攻撃を妨げる事は無い。
「絶対に潰す!!」
拡声魔法による要請を受けた冒険者達が次々と集まり、獄鬼を攻撃していく。
中には同じ金級の仲間もいた。
「くそっ」
「レイナルドさんは動いちゃダメです!」
心は前に進んでも体が付いて行かない。
目の前で繰り広げられる戦いを見ている事しか出来ない歯痒さが、手のひらに爪を食い込ませた。
「あああっ、レイナルドさんお願いですから怪我を増やさないでくださいっ。私の能力不足ですけど解呪に集中出来なくなります!」
「すまん……」
必死な様子のヒユナに謝ると、傍で力尽きて座り込んでいたゲンジャルとミッシェルが笑った。
クルトを僧侶に預けたウォーカーが戻って来る。
「かなりの人数が集まったみたいだ。僧侶も現時点で13人、金級が21人。もう大丈夫だろう」
ウォーカーからの情報に、気が抜けた。
「良かったぁ……」
「ジェイに憑いた獄鬼が滅せられれば呪いは解ける。レイナルドの足も、クルトの四肢も回復するだろう」
「それなんだが……」
ふとウォーカーの声が沈む。
「クルトは危ないかもしれん」
「は?」
「何でよ!」
「クルトを任せた僧侶が、獄鬼の呪いを心臓部からも感じると言っていた。ジェイの執着がそれだけ酷かったって事だ。呪いを解く前に獄鬼が死んだら、もしかしたらクルトも……」
「……なんてこった」
頭を抱える。
ジェイがいつから憑かれていたのか正確に知る者など本人くらいだろうが、それとクルトは他の連中に比べて一緒に過ごす時間が多かったはずだ。
それでなくてもクルトのパーティメンバーは、恋人同士二組を含んだ6人。
ジェイに憑いた獄鬼は既に7人を食らった強者。
ジェイが感情に任せて命を共有する呪いを掛けていたって不思議はない。
「だからって……攻撃を緩めろなんて言えねぇぞ」
「当然だ」
相手は獄鬼。
個人の感情で斃すななんて指示が出せる相手ではない。
「くそ……っ」
脳裏に浮かぶ、クルトを守って欲しいと願った幼い少年の顔。
黒髪に黒い瞳なんて珍しい組み合わせで、人族が華奢なのは知っているが、それにしても華奢過ぎる幼い体躯と獣の庇護欲を誘う愛らしい顔立ち。
さすがに年齢が離れ過ぎていてそういう感情は湧かなかったが、クルトが無事に戻らなければ泣くだろうと思うと、胸が軋んだ。
「攻撃が……」
獄鬼の、最後のあがきとばかりに増殖する靄手。
冒険者達が一斉に退く。
距離を取る。
「呪いの撒き散らしだ……!」
何が何でも生き延びてやるという獄鬼の叫び。
僧侶たちの結界は、獄鬼の凶暴さに比例して力を奪い取る勢いで強化される。
「このままじゃ先に僧侶たちが……!」
ミッシェルが叫んだ、その時だった。
「え……?」
ふと風が変わった気がして上空を見上げると、視界一杯に小さな光の粒が舞っているように見えた。
「⁈」
なんだ、と。
目を擦ったら何もない。
しかし見間違いや気のせいと思うにはあまりにも鮮明だったその光に呆然としていると、それを別の形で感じ取ったらしいヒユナが急に大きな声を上げた。
「これ……っ、レイナルドさんすみません!」
「あ? なっ、おい⁈」
ヒユナは言うが早いか俺の右太ももを持ち上げて手を翳す。途端、ひざから下の、失くなってしまった部分に光りが集まって足を象っていく。
「――……⁈」
「呪いが解けて治癒の効果が……」
ヒユナが呆然と呟くが、驚いたのはレイナルドも同じだ。
獄鬼の呪いを受けて消された箇所が元に戻るなんて、ヒユナには悪いが、彼女は解呪と浄化、回復魔法を同時に使えるような実力は持ち合わせてはいなかったはずだ。
なのに、戻った。
「……戻ってる……」
「レイナルド!」
ウォーカーとゲンジャルが満面の笑顔で喜んでくれるし、レイナルドも嬉しいのは間違いないのだが、何故――。
『全員聞いて!』
困惑しているところに、いまトゥルヌソルにいる僧侶の中でも最高齢だろうセルリーの声が拡声魔法で周囲一帯に響き渡る。
『応援領域持ちが来たわ』
「えっ」
「は⁈」
一瞬にして騒然となる現場にセルリーの声は更に語る。
『ただし新人の僧侶で力の制御が出来てない! 保って10分!』
保って10分は良いとして、新人だと……?
『だけどクルトの知り合いよ、ジェイにも怒ってる!』
「レンか……!」
思わず名前を口にすれば、クルトの護衛を頼まれたという話を既にしてあったパーティの仲間達は「あの子か!」と納得の顔。
「知り合いですか?」
「ちょっとな」
ヒユナに聞かれたので頷くと、彼女も納得した顔になる。
「だからレイナルドさんへの治癒の効果が増加したんですね」
「……あぁ、そういうことか……」
僧侶には鼓舞と言って、パーティメンバーの攻守能力を制限付きで底上げする魔法を使える者がいる。支援や援護を得意とする者が使える傾向にあり、そういうタイプの中に、稀に存在するのが、個人ではなく、範囲内にいる味方の味方にまで効果を齎す応援領域持ちだ。
(レンが俺も味方だと思ってくれているって事だ)
会ったばかりの相手を信用するなど警戒心が足りないと普段なら怒るところだが、こんな範囲型の魔法で、疑いようのない信頼を証明されてしまってはこそばゆい気持ちの方が強くなってしまっても仕方がない。
あの子の信頼に全力で応えなければ恰好が付かないだろう。
『10分間全力で総攻撃! 絶対にここで潰しましょう!!』
セルリーがそう言い放った直後、辺り一帯から集まっていた冒険者達の、空気を震わすほど強く、迷いのない応答が響き渡る。
僧侶の鼓舞は、相手が獄鬼の場合に限って敵の戦力ダウンまでも可能にする。これが応援領域持ちによるものならば、獄鬼に敵対する全員が味方だ。
前方、早速とばかりに獄鬼に攻撃を開始したのは金級のグランツェ達。
レンが応援領域持ちだとは思わなかったが、自分の呪いが解かれて足が戻ったのだ。クルトもきっと大丈夫だろう。
「俺達もいくぞ!!」
「応!!」
それが脳裏を過った瞬間だった。
「!」
背後に隠れるようにして接近してくる癒しの波動。
そして頭上に響く拡声魔法。
『トゥルヌソルの東に獄鬼が出現。銀級以上の冒険者及び僧侶は至急現場に集合、獄鬼と討滅に助力を求む! 冒険者の子は『猿の縄張り』へ! 一般市民は職員の誘導に従って避難を!! 繰り返す、トゥルヌソルの東に獄鬼が出現、一般民は職員の指示に従って避難、銀級以上の冒険者及び僧侶は救援を!』
街に冒険者ギルドからの緊急要請が響き渡る。
これには、クルトらを嬲っていた獄鬼の靄手もビクリと動きを止めた。
「余計なことを……」
忌々しそうな舌打ち。
獲物を守る金級4人なら嬲って遊べても、これから続々と銀級以上の冒険者が、僧侶が、集まると聞いては警戒しないわけにはいかないだろう。
「……まぁいいか。しばらく潜伏して楽しむつもりだったけど、このトゥルヌソルに打撃を与えただけでも自慢出来るし」
「いっ、だああああ!」
「⁈」
言い終えるが早いか、地面から現れた靄手に身体のあちこちを持っていかれる。
レイナルドの右足と同じだ。
「クルト……!」
「あははっ! 今回はジェイの身体だけで満足するとしようかな。そこの可哀想なリスはもう死ぬだろうし。ふふっ……ふふふっ……あぁ楽しかった。また会おうね、わんちゃん達」
「くっ……」
右膝から下を失ったレイナルド。
疲弊しきっているミッチェル。
守るのに精いっぱいで力尽きる寸前のゲンジャル。
四肢を破壊され、体を抉られた痛みに意識を飛ばしたクルトと、腕に痺れを残しつつも彼を抱えたウォーカー。
満身創痍の5人を嘲笑し、ジェイの顔をした獄鬼は街を出ようと踵を返す、――が。
「「「「拘禁!!」」」」
「なっ……⁈」
四方から放たれ纏わりついた魔法の鎖にはっきりとジェイの顔色が変わる。
焦り。
「僧侶どもか……!」
「どんなに強くなろうが僧侶はイヤだよな? これ流す前にそりゃあ必要な人数は先に揃えるだろう」
頭上で繰り返される拡声魔法を指して言ってやれば悔しそうにその顔が歪む。
それを見て少しだけ留飲が下がった。
僧侶が出入りしているから獄鬼は近付けないなんて思い込みで油断していたことは否めない。しかし運良く炙り出せたいま、これは決して逃してはならない好機だ。
「トゥルヌソルはデカいんだ。デカいなりに色々と考えてるんだぜ、初侵入に成功した獄鬼ちゃんはご存知なかっただろうがな!」
「ふっざけやがって……!!」
髑髏の形相が変わり、周囲をくねくねと蠢く靄手がその濃さを更に増していく。
「くっ……」
その数に比例するように呻き声を漏らす冒険者が増えていく。
僧侶に囚われて尚、抵抗が出来るくらいに獄鬼の力は強く、強い力でされる抵抗は僧侶たちにとっても油断ならない。
「がはっ」
強引に力を引き出さんとする抵抗が僧侶たちに与えるのは臓器を握り潰されるような苦痛だ。
胃からせり上がって来るものが喉を焼く。
「っく、ぇ、天におわします我らが父よ、願わくは御名が尊ばれるこの地に永き平穏と幸福が齎されんことを……っ」
僧侶の一人が杖を地に立てて祝詞を紡ぐ。
すると別の僧侶が同じ言葉で追い掛けた。
天におわします我らが父よ。
願わくは御名が尊ばれるこの地に永き平穏と幸福が齎されんことを。
我らは父の子。
父の代理人。
この地を永きに渡り守るため。
傷つきし命の安らかなるを祈るため。
「「「「「「主よ、降り立ち給え!!」」」」」」
集まっていた六人の僧侶の声が揃った瞬間だった。
獄鬼を中心とした円環が僧侶たちを繋ぎ、白く巨大な円筒が完成した。
「! 結界を張ったのか……っ」
「この地に僧侶が集まると、そう知っていて侵入して来たのでしょう?」
「見つけたからには逃がすものか!!」
「貴様ら……っ」
獄鬼の顔が歪む。
何とか逃げようと力を放出する獄鬼と、それを絶対に逃すまいと結界の維持に全神経を傾け、歪む表情に汗を垂らす僧侶達。
その中で、ヒユナと名乗った若い僧侶がレイナルドの足に触れて解呪を試み、一人はウォーカーからクルトを預かって獄鬼から距離を取る。
集まる冒険者達。
結界はあくまで獄鬼の動きを抑えるものであり、それを倒そうとする冒険者の攻撃を妨げる事は無い。
「絶対に潰す!!」
拡声魔法による要請を受けた冒険者達が次々と集まり、獄鬼を攻撃していく。
中には同じ金級の仲間もいた。
「くそっ」
「レイナルドさんは動いちゃダメです!」
心は前に進んでも体が付いて行かない。
目の前で繰り広げられる戦いを見ている事しか出来ない歯痒さが、手のひらに爪を食い込ませた。
「あああっ、レイナルドさんお願いですから怪我を増やさないでくださいっ。私の能力不足ですけど解呪に集中出来なくなります!」
「すまん……」
必死な様子のヒユナに謝ると、傍で力尽きて座り込んでいたゲンジャルとミッシェルが笑った。
クルトを僧侶に預けたウォーカーが戻って来る。
「かなりの人数が集まったみたいだ。僧侶も現時点で13人、金級が21人。もう大丈夫だろう」
ウォーカーからの情報に、気が抜けた。
「良かったぁ……」
「ジェイに憑いた獄鬼が滅せられれば呪いは解ける。レイナルドの足も、クルトの四肢も回復するだろう」
「それなんだが……」
ふとウォーカーの声が沈む。
「クルトは危ないかもしれん」
「は?」
「何でよ!」
「クルトを任せた僧侶が、獄鬼の呪いを心臓部からも感じると言っていた。ジェイの執着がそれだけ酷かったって事だ。呪いを解く前に獄鬼が死んだら、もしかしたらクルトも……」
「……なんてこった」
頭を抱える。
ジェイがいつから憑かれていたのか正確に知る者など本人くらいだろうが、それとクルトは他の連中に比べて一緒に過ごす時間が多かったはずだ。
それでなくてもクルトのパーティメンバーは、恋人同士二組を含んだ6人。
ジェイに憑いた獄鬼は既に7人を食らった強者。
ジェイが感情に任せて命を共有する呪いを掛けていたって不思議はない。
「だからって……攻撃を緩めろなんて言えねぇぞ」
「当然だ」
相手は獄鬼。
個人の感情で斃すななんて指示が出せる相手ではない。
「くそ……っ」
脳裏に浮かぶ、クルトを守って欲しいと願った幼い少年の顔。
黒髪に黒い瞳なんて珍しい組み合わせで、人族が華奢なのは知っているが、それにしても華奢過ぎる幼い体躯と獣の庇護欲を誘う愛らしい顔立ち。
さすがに年齢が離れ過ぎていてそういう感情は湧かなかったが、クルトが無事に戻らなければ泣くだろうと思うと、胸が軋んだ。
「攻撃が……」
獄鬼の、最後のあがきとばかりに増殖する靄手。
冒険者達が一斉に退く。
距離を取る。
「呪いの撒き散らしだ……!」
何が何でも生き延びてやるという獄鬼の叫び。
僧侶たちの結界は、獄鬼の凶暴さに比例して力を奪い取る勢いで強化される。
「このままじゃ先に僧侶たちが……!」
ミッシェルが叫んだ、その時だった。
「え……?」
ふと風が変わった気がして上空を見上げると、視界一杯に小さな光の粒が舞っているように見えた。
「⁈」
なんだ、と。
目を擦ったら何もない。
しかし見間違いや気のせいと思うにはあまりにも鮮明だったその光に呆然としていると、それを別の形で感じ取ったらしいヒユナが急に大きな声を上げた。
「これ……っ、レイナルドさんすみません!」
「あ? なっ、おい⁈」
ヒユナは言うが早いか俺の右太ももを持ち上げて手を翳す。途端、ひざから下の、失くなってしまった部分に光りが集まって足を象っていく。
「――……⁈」
「呪いが解けて治癒の効果が……」
ヒユナが呆然と呟くが、驚いたのはレイナルドも同じだ。
獄鬼の呪いを受けて消された箇所が元に戻るなんて、ヒユナには悪いが、彼女は解呪と浄化、回復魔法を同時に使えるような実力は持ち合わせてはいなかったはずだ。
なのに、戻った。
「……戻ってる……」
「レイナルド!」
ウォーカーとゲンジャルが満面の笑顔で喜んでくれるし、レイナルドも嬉しいのは間違いないのだが、何故――。
『全員聞いて!』
困惑しているところに、いまトゥルヌソルにいる僧侶の中でも最高齢だろうセルリーの声が拡声魔法で周囲一帯に響き渡る。
『応援領域持ちが来たわ』
「えっ」
「は⁈」
一瞬にして騒然となる現場にセルリーの声は更に語る。
『ただし新人の僧侶で力の制御が出来てない! 保って10分!』
保って10分は良いとして、新人だと……?
『だけどクルトの知り合いよ、ジェイにも怒ってる!』
「レンか……!」
思わず名前を口にすれば、クルトの護衛を頼まれたという話を既にしてあったパーティの仲間達は「あの子か!」と納得の顔。
「知り合いですか?」
「ちょっとな」
ヒユナに聞かれたので頷くと、彼女も納得した顔になる。
「だからレイナルドさんへの治癒の効果が増加したんですね」
「……あぁ、そういうことか……」
僧侶には鼓舞と言って、パーティメンバーの攻守能力を制限付きで底上げする魔法を使える者がいる。支援や援護を得意とする者が使える傾向にあり、そういうタイプの中に、稀に存在するのが、個人ではなく、範囲内にいる味方の味方にまで効果を齎す応援領域持ちだ。
(レンが俺も味方だと思ってくれているって事だ)
会ったばかりの相手を信用するなど警戒心が足りないと普段なら怒るところだが、こんな範囲型の魔法で、疑いようのない信頼を証明されてしまってはこそばゆい気持ちの方が強くなってしまっても仕方がない。
あの子の信頼に全力で応えなければ恰好が付かないだろう。
『10分間全力で総攻撃! 絶対にここで潰しましょう!!』
セルリーがそう言い放った直後、辺り一帯から集まっていた冒険者達の、空気を震わすほど強く、迷いのない応答が響き渡る。
僧侶の鼓舞は、相手が獄鬼の場合に限って敵の戦力ダウンまでも可能にする。これが応援領域持ちによるものならば、獄鬼に敵対する全員が味方だ。
前方、早速とばかりに獄鬼に攻撃を開始したのは金級のグランツェ達。
レンが応援領域持ちだとは思わなかったが、自分の呪いが解かれて足が戻ったのだ。クルトもきっと大丈夫だろう。
「俺達もいくぞ!!」
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