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第9話 元気が出るおまじない

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俺は朝が弱い。

しかし人間死ぬ気になればなんだってできるものだ。

さっき寝たばかりだったが、カレンより早起きをしないと人生が詰むという生存本能から、早朝に飛び起きた。

カレンはまだ寝ている。
校長からのメールもあれから来ていない。

よかった、どうやら借金は増えていないようだ。

ふぁー眠い。
でも寝たら死ぬと言い聞かせて顔を洗った。


「おはよう、快斗」

「うわっ、起きてたのか。おはようカレン。」

洗面所で顔を上げた瞬間に鏡越しにカレンがおはようを言ってきた。

「どうしたの快斗、早起きなんて珍しいね。いいことでもあったの?」

「いいえ…むしろ悪いことだらけです…」

怒涛の新学期数日間を振り返ってみる。

いきなり校長に呼び出されて、訳の分からない課題出されて、ボロボロの寮に入れられて、カレンの処女守れないと退学と後出しされて、変な奴に襲われて、体育祭では気絶して…

それになんでか今は3000万円の借金まで抱えている。
更に俺は童貞のままだ。

どうしてこうなったんだ!?

振り返るんじゃなかったと勝手にヘコんでいると、カレンが近づいてきた。

「ねぇ快斗、大丈夫?」

「カレン…心配してくれてるのか?」 

「うん、快斗が辛そうだと私も辛いもん。」

うう、なんていい子なのこの子…

こういうところがあるから憎みきれないんだよなぁ。

「大丈夫大丈夫、朝ごはん食べたら元気になるって。美味い飯、頼むわ。」

「うん、わかった。私頑張る。」

何かを携帯で調べながらカレンは朝食を作り始めた。
ネットで新メニューでも見てるのかな?

俺はその間に壊れた窓の修理をしていた。
夜這い班ってあんなバカばかりなのだろうか…

少し汗をかいていると次第に身体も起きてきた。

「快斗、できたよ。」

食卓には昨日と同じような豪華な朝食が並んでいたが、特に新しいものはなさそうだった。

「いただきます。なぁさっき何を調べてたんだ?」

「…秘密」

カレンが秘密?え、めっちゃ気になるんですけど!

「なんだよ教えろよ。」
「秘密だもん」

そう言って答えてくれないので、俺は更に気になってしまう。

「なんかモヤモヤするなぁ。どうしたら教えてくれる?」
「セックスしたらいいよ。」

「…はい、諦めます。」

気にはなるがこれ以上聞いても無駄そうなので、美味しく朝食をいただくことにした。

「ご馳走様。なぁカレン、明日学校休みだけど家に帰ったりするのか?」
実はこの寮に来て明日が初めての週末なのだ。

「家?私の家はここだよ?」
「そうじゃなくて実家!校長先生のところに帰ったりしないの?」

なんでこんなにしつこく聞くのかと言うと、実家に帰ってくれたら週末だけでもこの寮は聖域と化すからだ。

「パパに聞いてみる。」
そう言って校長へメールを打っていた。
すぐに返事がきたようで、それを見たカレンは少し笑っていた。

「パパはしばらくここにいろって。だからずっと快斗と一緒。よかったね。」

「そうですね…嬉しいです…」

嬉しそうなカレンを見ると帰れとは言えないなぁ…
しかし土日は一日中この状況が続くのか。
俺借金まみれにされそう…

というか校長はこの状況をどう思ってるんだ?
昨日のメールといいなんか楽しんでないか…
娘の貞操は守られてるけど唇はやりたい放題でいいのか…

「とりあえず学校行くぞ。」

「あ、待って。」

俺が玄関で靴を履いているとカレンが俺の胸ぐらをグッと掴んで価格にして4000万円となるチューをかまされた。

「ん、んー、ぶはっ。ちょっ、何してんの!?」

「いってらっしゃいのチュー。男の人の元気が出るおまじないって書いてたから…」

そんなこと調べてたのか?
あ、俺が元気なさそうにしてたから…

こいつなりに元気付けようとしてくれてたんだと思うと、叱りつけることはできなかった。

「どお?元気…出た?」
上目遣いのカレンは弾けるほどの可愛さだったが、俺の理性まで弾けるわけにはいかない…

「あ、ああ…でもチューはどんなチューもダメ!」
俺の下半身の方が元気になってしまっていた…

「と、とにかく行くぞ」
「うん、いってらっしゃい。」
「お前も行くの!」

カレンの手を引っ張り学校へ向かう。

クソッ朝から借金が増えた…
でもなんか俺もクセになりそうだよ…

俺は唇を触りながらさっきの感触を思い出していた。

「快斗、電話鳴ってる。」

俺はカレンに言われて着信に気づき電話をとった。
もちろん校長からだ…

「へいへいボーイ。浪費家は結婚できないって言うじゃないか。10回までなら大丈夫とか考えてなーい?とにかく昼休みに校長室に来るように。じゃね。」

キスをされて直後にメールが来なかったので、今回はバレてないのかとちょっとでも期待した俺がバカだった…

こいつカレンを使って遊んでないか?
でもなんの呼び出しだろう?もしかして借金先に払えとか…

う、急に胃が痛くなってきた…

「快斗どうしたの?顔色悪い…元気の出るチューする?」

「しません!それしちゃったら多分本当に胃に穴が空いちゃいます!」

俺はカレンの手を引いて早足で学校に向かった。

体育祭の翌日は皆元気がなかった。

精魂尽き果てたとはこのことで、キャッチフレーズ通り皆全てを注ぎきっていた。
しかし俺だけは別の意味で元気がなかった…

「おう、快斗。お疲れの様子だな。その調子だと昨日は盛り上がってたのか?」
いつものように純也が声をかけてきた。

「い、いや、ちょっと寝不足ではあるんだが…」

俺だって夜中じゅうずっとよろしくやってての疲れなら喜んで受け入れるさ。
だけど昨日といったら本当に最悪な一日だった…

今日は校内放送もなかった。
やはり皆昨日の疲れで大人しいのだろうか。

あっという間に昼休みになり、校長室へ向かう途中東先生とすれ違った。

「あ、チェリーくん。昨日は気絶した甲斐があったね。」

「甲斐があったね、じゃねぇわ!あんたのせいでどれだけ大変なことになってるか知ってんの!?」

この何も気にしてない感じが無性に腹が立つ。

「まぁまぁ、いいじゃない。それより校長先生、機嫌悪そうだったわよ。なんかしたの?」

え、まじか…
やっぱりカレンとキスを四回もしたせいだろうか…

俺はいつもより更に重く感じる校長室の扉を開けた。

「し、失礼します。」

「ほう、ロリコン変態紳士キス魔人の快斗くんか。まぁ座りたまえ。」

なんか変なあだ名がついた…

「あ、あのー…」

「うむ、私は怒っておる。」

やっぱり校長は怒っていた。

「やっぱりキスの件でしょうか…」

俺は恐る恐る聞いた。
やっぱり怒って借金払えとか言われるのかな…

「キス?カレンとのキスか?もちろんそれについては君の爪を一枚ずつ剥がして拷問にかけてやりたいくらいには怒っておる。」

「いや、普通に殺してやりたいとかでよくない!?いちいち怖いんだよあんたの例え!」

「いちいち反応が飽きんやつじゃの。しかしそれについては借金という形で精算しておるからの。私も大人じゃ、約束したことは守るつもりじゃから心して借金するがよい。」

校長の意外な反応に俺は桁違いの借金のことなど頭から飛んでいた。

「え、それじゃあなんで怒ってるんですか?」

「うむ、誰かがカレンの裸の写真を盗撮したようでの、それが校内にばら撒かれようとしておるのじゃ。」

カレンの?

「そんなの誰が?いつ撮られたんですか?」

「入浴中の写真を撮られたと、さる筋からの情報じゃ」

入浴中…あ、初日に窓全開でシャワーしてた時だ…

「どうやら心当たりがあるようじゃな。そこでじゃ、臨時の課題を君に出す。その写真のデータを奪い出し消去するのじゃ」

「え、俺が?ていうか誰が撮ったとかわかってるんですか?」

「うむ、どうやら生徒会がそのデータを持っているようじゃ」

ラブ高生徒会

生徒の中でもクラスで有力なメンバーが集い、その中で勝手に選挙をして勝手に作り上げた何をしているのかも不明な秘密組織だと言う。

「で、生徒会室はどこですか?」

「それがの…わからんのじゃ」

「はぁ!?だってあんたが作った学校でしょ?どこに何の部屋があるかくらい…」

「私の知らんところでみんなが勝手にヤリ部屋を増築したり勝手にセキュリティをかけたりするから私もわからんのじゃ!どこかに隠し通路があるとの噂じゃが…」

なんだよこのふざけた学校は…
生徒が勝手に改築する学校なんて聞いたことないぞ。

「無理ですよ!校長でもわからないものを俺がどうやって探せっていうんですか!」

「課題をクリアしたら借金棒引きにしてやろうと思ってたんじゃがのお」

「やります」

俺は借金棒引きというフレーズに速攻で課題を受けることにしてしまった。
またお金に釣られてしまった…

「そうかそうか、やってくれるか。情報によるとタイムリミットは来週末の金曜日、ちょうど一週間じゃ。よろしく頼んだぞ。」

はぁ…また訳の分からない課題が追加されてしまった


しかし借金棒引きということはキスしたことも許してくれるってことか。

「校長、カレンとのキスのことは許してくれるんですね?」

「許すわけあるかい!なんじゃ、いってらっしゃいのチューって!?私だって妻にそんなことしてもらったことないのに!今日だって朝起きたら妻は知らん男とよろしくやっておったわ!あーお前さんが羨ましいわい!」

「だから奥さんのビッチエピソード聞かさないでくれよ!」

俺は校長室の扉を思いっきり閉めて外に出た。

校長の奥さんってどんな人なんだよ…
でもカレンにもその血が半分入って…なんかそこは納得だな。

俺は全く当てのない中で、まず生徒会室を見つけるというよくわからないミッションをスタートさせた…




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