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第三章 少年冒険者の戦闘、告白、そして、これから
第23話
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その日一日は、僕たちは色々なことを話した。戦闘時の連係のこと、これから二人でどういうクエストを受けていこうかということ、技能に磨きをかけ、レベルを上げていくこと、だけど、どんな大人になりたいかまでは二人とも考えていなかった。まだ、自分たちを強くすることで頭がいっぱいだったのだと思う。
一日休養をとった僕たちは、その次の朝、ロスハイムへの帰途についた。帰途では二回スライムと遭遇した。落ち着いて対処すれば負ける相手ではない。僕たちからすると今回のクエストの最大の成果は勝った後の確認を怠らなくなったことだろう。
◇◇◇
それからのロスハイムのギルドは大きく変わりだした。
オーベルタールに移った前ギルド受付嬢のシモーネさんが「武者修行」と称して、若い人をたくさん送り込んできたのだ。
特に少女たちは、強要された花嫁修業に反発して家を飛び出したデリアや女だてらに将来の村長になるために勉強中のカトリナに憧れて来ていた。
シモーネさんに話を聞いて、自分たちもただ花嫁修業をするのではなく、勉強もしたい……少女たちはそう思ったそうだ。
少女たちはデリアとカトリナが受付業務とクエストを行いながら、色々教え、出来るようになったことからやらせることとした。徐々に受付業務が出来る人間が増え、ギルドの運営は余裕が出て来た。
クエストの方は、デリアは僕専従で、僕としかパーティーを組まないことがギルド内で暗黙の了解となった。デリアはまだレベル3だから、公式な二つ名は名乗れないが、非公式な二つ名は「クルトの彼女」になった。
それをベテランや中堅のギルドメンバーどころか、若い奴まで言うのだ。やっぱり、ロスハイムのギルドには個人秘密はないらしい。
カトリナは気を遣ってくれて、僕とパーティーを組む時は、二人だけでなく、他の若いギルドメンバーも加えることになった。
若いギルドメンバーがクエストの際、僕とカトリナに依存することが懸念されたが、そこはカトリナが厳しい指導を施し、そうならないよう努めた。
カトリナもレベル4だから、、公式な二つ名は名乗れないが、非公式な二つ名は「クルトパーティーの鬼副官」になった。
僕はデリアの方の二つ名「クルトの彼女」は事実だから仕方ないにしても、カトリナの二つ名「クルトパーティーの鬼副官」は酷いんじゃないかと思った。
ところが、カトリナ本人に言わせるとそうでもないらしい。
「何が嫌かと言いますとね。『チビ先輩』とか『子ども先輩』とか言われることですっ! それに比べれば、『鬼』と言われた方がまだマシです」
熱く力説するカトリナの陰で、デリアは笑いを噛み殺していた。
◇◇◇
ロスハイムのギルドは明らかに活性化しだした。
ただ、僕は一つだけ心配だった。今までのやり方とどんどん変わっていくことを、ゼップさんやクラーラさんはどう思っているんだろう。
僕の懸念をクラーラさんは笑い飛ばした。
「何言ってんの。私だって、シモーネだって、外で暴れられるもんなら、暴れたかったさ。だけど、女は外に出るもんじゃないって言われて、出られなかったんだよ。若い女の子が外で暴れてくれるのは、私にとって痛快ではあっても、嫌なことじゃないさ」
「で、でも、ゼップさんはどう思ってるんですか?」
「はっはっは、クルト君。いま、ロスハイムのギルドが、他のギルドから何て言われてるか、知ってんのかい。『ギルドの新しい波』だよ」
「『ギルドの新しい波』!?」
「ゼップなんかもう鼻高々さあ。何の心配もいらないよ」
そうか。良かった。
これから後の日々は楽しかった。やり甲斐はあり、成果もどんどん出た。
だけど、いいことばかりは続かない。
17歳になった春、僕はデリアに言われた。
「クルト君。すみませんが、私と一緒に来てもらいたいところがあります」
◇◇◇
デリアから見せられたのは、ノルデイッヒに住んでいる彼女の祖母が病で明日をも知れぬ状態にあるという手紙だった。
以前もこういうことがあり、その時は幸い大したことはなかったのだが、今度は……
「実はハンスさんとナターリエさんのパーティーがノルデイッヒに行く商隊を護衛するクエストがあったから、情報収集をお願いしたんです。そしたら……」
「そしたら?」
「今度は本当に…… 病が重い…… らしいです」
「……」
「私が…… 今の私がこうしていられるのもおばあちゃんのおかげです。その恩は全くと言っていいほど返せてはいません」
「……」
「だけど、せめて、おばあちゃんが亡くなる前に、クルト君と一緒にいるところを見せて、安心させたいんです」
「…… 分かった。僕も一緒にノルデイッヒに行くよ」
「…… 良かった。ありがとうございます」
見るからに打ち沈んでいたデリアはようやく笑顔を見せた。
デリアのおばあさんにお世話になったのではデリアだけじゃない。僕もそうだ。
最初にデリアと知り合ったノルデイッヒに行く「護衛クエスト」。最後の最後で瀕死の状態になった僕が療養させてもらったのはデリアのおばあさんの家だ。
それに花嫁修業を強要した両親の下から逃げ出したデリアをおばあさんが受け入れてくれなかったら、僕がデリアと付き合えることもなかった。
僕がノルデイッヒに行くことで、おばあさんのこころが少しでも安らかになるなら、これは行くべきだろう。
一日休養をとった僕たちは、その次の朝、ロスハイムへの帰途についた。帰途では二回スライムと遭遇した。落ち着いて対処すれば負ける相手ではない。僕たちからすると今回のクエストの最大の成果は勝った後の確認を怠らなくなったことだろう。
◇◇◇
それからのロスハイムのギルドは大きく変わりだした。
オーベルタールに移った前ギルド受付嬢のシモーネさんが「武者修行」と称して、若い人をたくさん送り込んできたのだ。
特に少女たちは、強要された花嫁修業に反発して家を飛び出したデリアや女だてらに将来の村長になるために勉強中のカトリナに憧れて来ていた。
シモーネさんに話を聞いて、自分たちもただ花嫁修業をするのではなく、勉強もしたい……少女たちはそう思ったそうだ。
少女たちはデリアとカトリナが受付業務とクエストを行いながら、色々教え、出来るようになったことからやらせることとした。徐々に受付業務が出来る人間が増え、ギルドの運営は余裕が出て来た。
クエストの方は、デリアは僕専従で、僕としかパーティーを組まないことがギルド内で暗黙の了解となった。デリアはまだレベル3だから、公式な二つ名は名乗れないが、非公式な二つ名は「クルトの彼女」になった。
それをベテランや中堅のギルドメンバーどころか、若い奴まで言うのだ。やっぱり、ロスハイムのギルドには個人秘密はないらしい。
カトリナは気を遣ってくれて、僕とパーティーを組む時は、二人だけでなく、他の若いギルドメンバーも加えることになった。
若いギルドメンバーがクエストの際、僕とカトリナに依存することが懸念されたが、そこはカトリナが厳しい指導を施し、そうならないよう努めた。
カトリナもレベル4だから、、公式な二つ名は名乗れないが、非公式な二つ名は「クルトパーティーの鬼副官」になった。
僕はデリアの方の二つ名「クルトの彼女」は事実だから仕方ないにしても、カトリナの二つ名「クルトパーティーの鬼副官」は酷いんじゃないかと思った。
ところが、カトリナ本人に言わせるとそうでもないらしい。
「何が嫌かと言いますとね。『チビ先輩』とか『子ども先輩』とか言われることですっ! それに比べれば、『鬼』と言われた方がまだマシです」
熱く力説するカトリナの陰で、デリアは笑いを噛み殺していた。
◇◇◇
ロスハイムのギルドは明らかに活性化しだした。
ただ、僕は一つだけ心配だった。今までのやり方とどんどん変わっていくことを、ゼップさんやクラーラさんはどう思っているんだろう。
僕の懸念をクラーラさんは笑い飛ばした。
「何言ってんの。私だって、シモーネだって、外で暴れられるもんなら、暴れたかったさ。だけど、女は外に出るもんじゃないって言われて、出られなかったんだよ。若い女の子が外で暴れてくれるのは、私にとって痛快ではあっても、嫌なことじゃないさ」
「で、でも、ゼップさんはどう思ってるんですか?」
「はっはっは、クルト君。いま、ロスハイムのギルドが、他のギルドから何て言われてるか、知ってんのかい。『ギルドの新しい波』だよ」
「『ギルドの新しい波』!?」
「ゼップなんかもう鼻高々さあ。何の心配もいらないよ」
そうか。良かった。
これから後の日々は楽しかった。やり甲斐はあり、成果もどんどん出た。
だけど、いいことばかりは続かない。
17歳になった春、僕はデリアに言われた。
「クルト君。すみませんが、私と一緒に来てもらいたいところがあります」
◇◇◇
デリアから見せられたのは、ノルデイッヒに住んでいる彼女の祖母が病で明日をも知れぬ状態にあるという手紙だった。
以前もこういうことがあり、その時は幸い大したことはなかったのだが、今度は……
「実はハンスさんとナターリエさんのパーティーがノルデイッヒに行く商隊を護衛するクエストがあったから、情報収集をお願いしたんです。そしたら……」
「そしたら?」
「今度は本当に…… 病が重い…… らしいです」
「……」
「私が…… 今の私がこうしていられるのもおばあちゃんのおかげです。その恩は全くと言っていいほど返せてはいません」
「……」
「だけど、せめて、おばあちゃんが亡くなる前に、クルト君と一緒にいるところを見せて、安心させたいんです」
「…… 分かった。僕も一緒にノルデイッヒに行くよ」
「…… 良かった。ありがとうございます」
見るからに打ち沈んでいたデリアはようやく笑顔を見せた。
デリアのおばあさんにお世話になったのではデリアだけじゃない。僕もそうだ。
最初にデリアと知り合ったノルデイッヒに行く「護衛クエスト」。最後の最後で瀕死の状態になった僕が療養させてもらったのはデリアのおばあさんの家だ。
それに花嫁修業を強要した両親の下から逃げ出したデリアをおばあさんが受け入れてくれなかったら、僕がデリアと付き合えることもなかった。
僕がノルデイッヒに行くことで、おばあさんのこころが少しでも安らかになるなら、これは行くべきだろう。
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