人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻

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番外編

人生の全てを捧げた王太子

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「ヴァーデン、そろそろ婚約者を決めなさい」

父上である国王陛下にそう告げられたのは私が十歳の時。
人生の伴侶を齢十歳で決めさせるなんて馬鹿げていると思った。
しかしこの国では王家のみ、側室を持つようになっている。ならばそこまで吟味しなくてもいいだろうと私は考えていた。

候補者の何人かと顔合わせをし、最終的に残ったのはガードン公爵家とマピトン侯爵家の令嬢たちだった。

ガードン公爵令嬢は見た目は秀、知性は良、性格は可といったところだろうか。
マピトン侯爵令嬢は見た目が秀、知性は可、性格は・・・・・・

まぁ私からしたら似たようなものだ。
しかし私は必要だと思うことがあった。

“絶対に王となる私を裏切らないこと”

世の中に絶対はない。しかし限りなく近くすることはできる。私にはその力があった。

令嬢二人にそれが当て嵌るかというと・・・否だった。
しかしこの二人のどちらかを選ばねばならないのだ。
選ばれなかった方は側室となることが決まっているが、正室と側室の違いは大きい。どちらも妻だが、私が妻と認めるのは正室だけだ。
故に正室となる者は裏切らない令嬢を選びたい。


そこで私はそれぞれに王太子妃になったら何をしたいか聞いてみた。

「慈善事業に力を入れたい」と答えたマピトン侯爵令嬢。
ふむ、及第点・・・というか在り来りな答えだな。
ガードン公爵令嬢も似たような回答だったらどうするかと考えていたが、彼女からは思いもよらない答えが返ってきた。

「わたくしは・・・王太子殿下と一緒にいられれば何でも構いませんわ」

質問に対しての答えにはなっていないが、これは嬉しい誤算だった。どうやら彼女は地位目当てではなく、私に惚れているらしい。それも心底。

惚れている相手になら言うことを聞くだろうと、私は婚約者にガードン公爵令嬢を指名した。
正直ガードン公爵は好かない。しかし追追処理すればいいだけだ。

こうして正室となる王太子妃にはガードン公爵家のクロエに決まった。
マピトン侯爵令嬢はクロエとの婚姻が済んだ一年後に側室として輿入れする。面倒臭いが王家の義務だと受け入れた。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


それから数年経ち私は十六歳になった。
この頃には多くの公務を抱えており、この日も視察へと出掛けていた。隣国と繋がる新たな橋を建設している業者と話をし、その領地を見回る。
この国では神信仰が根強いため、それぞれの領地に赴いた時は必ず教会へも顔を出した。

そこで出会ったのがリリアンヌだった。

いや、リリアンヌは認識していなかったから私が一方的にリリアンヌを見かけただけなのだが。

リリアンヌはその教会で熱心に祈りを捧げていた。
閉じていた目をスッと開き、握ってる両手と共に顔を上へ上げた。
教会の二階から見ていた私にはリリアンヌの顔がしっかり確認できた。

ーークロエ?・・・いや違う。彼女は一体誰だ?

婚約者にそっくりな彼女。しかしそっくりだが瞳が全然違う。色や形などではない。輝きが。
その瞳にとらわれた私はすぐ様人を使って彼女を調べさせた。


ガードン公爵家本来の長女、リリアンヌ。
クロエと双子だが遠縁の親戚家族に育てられ、貴族令嬢というより平民に近い性格をしている。

と、報告を受けた。
どうやら本人は自分がガードン公爵家産まれで、双子の妹がいることは知らないらしい。
おそらくそれはクロエも同様だろう。



どうしてもあの瞳の彼女が欲しい。

この時の私はそれしか頭になかった。
しかし方法が思いつかない。リリアンヌはガードン公爵家として育てられていないため、私へ嫁ぐ資格すらないのだ。
そしてクロエは私自らが指名している。
婚約を解消するのは色々と面倒だった。

そこで私は思いついた。
婚約を解消しなければいいと。


それから私はリリアンヌを手に入れるため様々な準備を行った。
まずはクロエとの婚姻式を予定より一年早めた。
当初の予定で婚姻しても良かったのだが、私がそこまで待てなかった。

そして私の息がかかった使用人の育成。
これは策を円滑に遂行するためには絶対的に必要だった。

最後に最北の地、彼国との国交。
元々進められていた話だったがそれを急速に進めた。期限は私たちの婚姻式まで。
どうしても必要な物が彼国でしか手に入らなかったからだ。


何とか全てを婚姻式までに終え、私たちは無事夫婦となった。
私はクロエへ最大限の配慮を行い、大切に扱った。いや、周りにそう見せつけた。
初夜も優しくし、初夜以降の閨も頻繁に通った。
時間ができたら部屋へ訪問しつつ、社交では常に寄り添った。

おかげでクロエも周りも私がクロエを愛していると認識しだした。マピトン侯爵令嬢が側室として輿入れしてきてからは不安がるクロエを宥め、義務として初夜だけ訪れた。



婚姻から一年半ほど経ち、これだけ頻繁に通っているのに懐妊の兆しが見えないと一部の貴族が噂し出したところでやっと全ての土台が整った。

私は密かにガードン公爵と連絡を取り、クロエは子を成せない身体のようだと伝えた。勿論侍医の証明付きで。まぁ私の息がかかった侍医だが。
まだ陛下たちには伏せているが半年もしたら公になるだろうと。

すると公爵は考えがあると言ってきた。
実はクロエは双子だと。
その双子の片割れを私に献上したいと言ってきた。

強欲なガードン公爵のことだ。このまま離縁されたり、お飾りの王太子妃では満足できないとはわかっていたが・・・ここまで思い通りにことが運び私はほくそ笑むのを止められなかった。

公爵の策に乗ったフリをし逃げられないよう育ての親を使えと、さり気なく助言しておいた。
頭の弱い公爵はすぐ実行に移した。


そこからはとんとん拍子で話は進んだ。
クロエへの説得は骨が折れるだろうと思っていたが、意外にすんなりと納得してもらえた。
今までの私の態度と「必ず迎えに行くから」と言ったのが功を奏したのかもしれない。

あぁ因みにクロエが子を成せない身体だというのは半分嘘で半分本当だ。
正確には子を成せない身体にした・・、というのが正しい。

最北の彼国で手に入れた避妊薬をクロエに飲ませ続けたのだ。この避妊薬は彼国の王家のみ手に入れられるもの。元は植物で、それを茶葉にし妃たちの懐妊を制限していたらしい。
それを毎日クロエに飲ませていたのだ。おかげで頻繁に閨を共にしても懐妊することはなく、また飲み続けることによって少しずつ子が出来にくい身体になっていくという優れもの。
一年以上も毎日飲み続けていたのだから、子を成せなくなるのは当たり前のことだった。

いくらリリアンヌと同じ顔をしていても私が欲しいのはリリアンヌであり、子も同じ。閨を我慢して頻繁にしていたのだから褒めて欲しいくらいだ。



様々な努力でやっとリリアンヌを手に入れることができたのは、あの教会から出会って約五年経ってからだった。実に長かった。

突然のことで不安がるリリアンヌに歩み寄り、少しずつ笑顔を引き出していった。初夜はこれ以上ないだろうというほど丁寧にし、今までは終われば自室に戻っていたが朝までリリアンヌと過ごした。

リリアンヌと過ごす閨は今までのは何だったのだろうと思うくらい幸せだった。天国にも昇るようなとはよく言ったものだ。

抱き潰したいのを必死に抑え、負担にならない程度にリリアンヌの身体を貪る。まぁあまりにもリリアンヌが可愛すぎて偶に抱き潰してしまうこともあったが、次の日の公務は予定をずらさせたり私が出来ることなら代わってやったのだから問題ないだろう。

そしてリリアンヌにも最北の彼国で手に入れた茶葉を飲ませた。避妊薬ではない。懐妊しやすくなる、身体に良い茶葉だ。勿論リリアンヌに使う前に他人で試したが。

何やら女性の身体に良いとされる成分が入っているようで、茶葉のおかげかリリアンヌはすぐに懐妊した。
本当は二人での時間も欲しかったが、子を成すために嫁いできたと信じて疑わないリリアンヌの心労を減らすためには仕方がなかった。

なにより妊娠し続けていればリリアンヌは王宮に居ざるおえない。そして人数が増えれば増えるほど優しいリリアンヌの足枷になる。
王家の子は人数が多い方が良いとされているのだから一石二鳥・・・いや三鳥になるだろう。

やはり優しいリリアンヌは子たちを大層可愛がった。少し甘やかし過ぎではないかと心配になるほどに。
その優しい瞳をいつ私にも向けてくれるのか。いや本当は私しか見えないようにしてしまいたいのだが。

すっかり存在を忘れていたが、偽物クロエの処分もそろそろ考えねばいけないな。
最近は壊れかけているらしい。
既にいてもいなくても変わらない存在なのに全く、迷惑な話だ。





愛していると囁いても全く信じようとしないリリアンヌ。
思い通りに動かないそなたが可愛くて仕方がない。
いつか解放されるかもという希望に満ちた瞳も、日に日に陰りを帯びている。
そなたの想い人が先日婚姻したと知ったらどんな顔をするだろか。


あともう少し。
可愛い可愛い私のリリィ。
そなたはずっと、永遠に私のものだ。













【後書き】
本編より番外編の方が長くなる摩訶不思議が起きました。

ヴァーデンは努力型ヤンデレです∠( ˙-˙ )/
いや、これヤンデレ?執着?・・・クズ?
果たしてリリィの心は手に入るのか、それはまた別の機会で!
これにて番外編終了です。読了ありがとうございました♡
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