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本編

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あれから調査が進められ、小瓶の中身は毒薬だとわかった。
それも一口飲めば一瞬にして儚くなってしまうような猛毒。
全ての菓子と茶を調べたが、その毒は蒲公英茶からしか検出されなかったこと、小瓶の残りはほぼなく、狙いはリリアンヌのみだったことがわかった。

毒を仕込んだ侍女の自供によると一番若い側室、ロバーツ伯爵令嬢からの指示だという。
そのロバーツ伯爵令嬢は捕まり、話を聞いている最中だ。

リリアンヌは無意識に手をお腹に当てていた。
懐妊の発表と共に仕込まれた毒。
リリアンヌだけじゃなく、この子の命も狙っていたと思うと身体の震えが止まらなかった。




夕飯を終え、ヴァーデンがやってきた。

「リリィ、不調はないか?」
「はい、身体の方は大丈夫です」
「そうか・・・ロバーツ伯爵令嬢の話なんだが、どうも少しおかしいんだ」
「どういうことでしょうか?」

ヴァーデンはリリアンヌの両手を握り、もう片方の手で慰めるかのように撫でながら話す。

「本人が言うには死ぬような毒は入れていないと言うんだ。舌が痺れる程度でリリィの身体にも胎児にも問題が起きるようなものではないと」
「・・・・・・すり替えられた・・・?」
「ロバーツ伯爵令嬢の話をどこまで信じるか、だがな。初夜にも訪れない私に苛立ち、寵愛を受けているリリィに少し意地悪をしてやろうと思っただけだと言っていた。私はあの女が嘘を言っているようには見えなかった」

ロバーツ伯爵令嬢は宮入しヴァーデンの寵愛を得る自信があったのだ。
なんせ一番若く、美貌も兼ね備えているのだから。

しかしリリアンヌへの寵愛は奪えなかった。
歳もヴァーデンと近く、出産によって崩れた体型のリリアンヌに。ロバーツ伯爵令嬢のプライドはボロボロだったのだろう。

「黒幕がいるなら・・・まだ安心できませんね」
「あぁ。しかし警衛の配置を見直した。リリィと子たちに関わる者は私が直接選んだ者たちだけにしたから以前よりは安全になったはずだ」
「お忙しいのに・・・ありがとうございます」
「当たり前だ、気にするな。リリィも少しでも気になったり気付いたことがあったら言ってくれ」

リリアンヌはこくりと頷いた。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


数日後、ロバーツ伯爵令嬢と侍女の処罰が決まった。

子爵令嬢であった侍女は鞭打ちを行った後、斬首刑。侍女の三親等親族も罪人の焼印を押され身分剥奪。
ロバーツ伯爵も三親等親族は毒杯による薬殺刑。
これによりロバーツ伯爵領は遠縁の者が引き継ぐことになった。

ロバーツ伯爵令嬢は最後まで猛毒を仕込んだことを否定していた。しかしそれは証明されず、王家に害なす者とされ厳しい処罰となった。

ヴァーデンは黒幕がいると睨んでいるが、リリアンヌも同感だった。
宮入してまだ一年も経っていない。数ヶ月経てば状況が変わる可能性がないわけではないのだ。
例えもしリリアンヌが儚くなったとしても自分に寵愛が向けられるとも限らない。危険な橋を渡るわりには利点が少なすぎる。
おそらくロバーツ伯爵令嬢の気持ちを利用した何者かが毒薬にすり替えたのだろうとリリアンヌは思っていた。




あの日から子たちはリリアンヌにベッタリになってしまった。
最近のクラヴィスの口癖は「ぼく、かーたま、まもりゅ!」だ。どうやらヴァーデンと子たち三人で話をしたらしいが“男の約束”らしく詳しいことはリリアンヌには教えてくれないのだ。

いつ別れるかもわからない我が子の成長にリリアンヌは胸を熱くした。
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