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本編

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あれから半年ほど過ぎた頃、お腹も順調に大きくなっており、これ以上伏せておけないとヴァーデンはリリアンヌの懐妊を王宮で発表した。

王宮は魑魅魍魎が住まう場所と言われる通り、何が起こるかわからない。身重なリリアンヌのためギリギリまで発表をしなかった。


新たな命に喜ぶ者、将来の王からの寵愛が深い妃に媚びを売る者、嫉妬や妬みを隠し表面上だけ祝う者。
様々な者から祝いの言葉と品物が送られてきた。

その全てに目を通し、祝いの言葉には礼状を。品物は送り返し、気持ちだけ受け取るとの文を自ら認めた。
長男と次男の時は何品か危険な物が紛れ込んでいたりしたが、今回はないようでほっと胸を撫で下ろす。

そろそろその長男と次男が部屋を訪れる時間だろうからと、侍女に菓子とお茶の準備をさせ訪れを待った。


やがてそれぞれの乳母に連れられてきた子たちを満面の笑みで迎えいれた。
一歳半になったヴィゼルは「あーた!あーた!」と擦り寄ってくる。もうすぐ三歳のクラヴィスも三語文が話せるようになり、懐妊もあってか兄としての自覚が出てきたようだった。

「今日のお菓子はチョコレートよ」
「ちょこれーと?」
「ちょ?」

喋りだしたヴィゼルはよく長男の真似をするのだ。

「甘くてとっても美味しいのよ。さぁ座って食べましょう」
「はぁ~い」
「あ~い」

子たちにはチョコレートとアールグレイを用意させ、リリアンヌは妊娠中なので蒲公英茶のみにした。
ソファに座って待つ子たちは今か今かとソワソワしている。


しかし侍女がお茶の準備を進めている時、突然大声が部屋に響き渡った。
驚き声の方へ顔を向けると、一人の侍女がお茶の準備をしていた侍女の腕を掴み叫んでいる。

「貴女!一体何を入れたの!?」
「えっ私は何も・・・」
「嘘よ!この目で見たんだから!衛兵!この女を取り押さえて!」

怯える侍女を衛兵が直ぐに取り押さえ、スカートの隠しに入っていた小瓶を確認した。
すぐ様一人の兵がヴァーデンへと報告に向かう。

子たちは何が起こったのかわからずオロオロし、リリアンヌに抱きついていた。

「かーたま、ぼく、こわい」
「あーたぁ」

ヴィゼルの瞳には涙が浮かんでいる。

「大丈夫ですよ。今お父様が来てくれますからね」

リリアンヌは二人を抱きしめながら、取り押さえられた侍女が準備していたお茶に目を向ける。
そのお茶は蒲公英茶が入ったポットで、狙いは子たちではなくリリアンヌだったのだろうと推測した。


バタバタと数人が走る足音が聞こえ勢いよく扉が開かれると同時に、ヴァーデンが息を切らせて飛び込んできた。

「クロエ!無事か!?」

ヴァーデンの後に数人の兵も到着する。どうやら兵を振り切って走ってきたようだ。

「殿下!えぇ私もこの子たちも無事です」
「はぁ・・・良かった」

ヴァーデンは一息つき、拘束し終わった侍女に歩み寄った。

「貴様!クロエに何をしようとした!」

リリアンヌからヴァーデンの顔は見えないが、恐ろしい顔をしているのか侍女の顔色は真っ青だ。

「私はただ・・・!」
「殿下、こちらが茶に入れたものの容器だと思われます」

一人の兵が押収した小瓶をヴァーデンに差し出す。

「殿下、私はその者が容器の中身をお茶に入れるところを見ました」

止めに入った侍女が進言し、ヴァーデンは頷いた。

「ポットの中身とその容器に残っているものが一致するか直ぐに調べろ。その女には聞きたいことがある。牢へ入れておけ!」

兵は拘束した侍女を連れ、侍女たちも一時部屋を後にする。
ヴァーデンはそれを見送ると振り向き、リリアンヌたちを抱きしめた。抱きしめられながらリリアンヌはおずおずと顔を上げた。

「殿下・・・お手数おかけしました・・・」
「何を言っている!当たり前だろう!・・・はぁお前たちが無事で良かった」
「とーたま、ぼく、ないてない」
「とーたぁ!」

子たちはヴァーデンの広い胸に顔を寄せスリスリと甘える。二人の頭をヴァーデンは撫でながら安心した表情を浮かべていた。

「泣かなかったのか。偉かったな。ヴィゼルは泣いているがな」
「ない!」
「そうか?ははっそれは悪かった」

二人を抱き上げ、ヴァーデンはリリアンヌへ向き直った。

「これから少し忙しくなる。今は部屋から出るな」
「わかりました。殿下も無理なされないようにして下さい」
「あぁ。この子たちを部屋に送ったら執務室へ戻る。今夜は先に休んでいなさい」

ヴァーデンは侍女を呼び、厳重に言い聞かせ部屋を後にした。

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